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ジャンク作品INDEX

▼ ゼロの使い魔で憑依ものやってみた(仮)
   ──アルビオン王国興亡記───


基本的な前書き
 ハードディスクの肥やしにするのもいいけれど、書いた以上は公開しないと勿体ない。
 そんな貧乏くさい作者の考えから公開された、更新頻度の波激しい不定期連載品。
 登場勢力の簡単な解説→[各国のステータス]

 第一部
 「ともかく『基盤』を築けの、ひらすら地味な政治暗躍編」

   /  /  /  / 

 第二部
 「ようやく『敵』の見え出す、これぞ仁義なき領地抗争編」

   /  /  /  / 

 第三部
 「とうとう『火蓋』が切られる、やはり避け得ぬ内乱勃発編」

   /  /  /  / 

 第四部
 「なんとも『油断』しきりの、危機感欠けてる交易拡大編」

   /  /  /  / 5(欠番)

 第五部
 「すっかり『後手』に回った、先行き見えない代理戦争編」(仮)

   /  /  / 4 / 5

 

 番外
 「ひたすら『勢い』だけで突き進む、本筋外れた小ネタ編」

   /  /  /  / …………


(なお拍手、感想等を下さると作者が悶え、テンションあがります)

[ブログ拍手返信]

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  1. 2020/07/27(月) 15:03:17|
  2. ジャンク作品

第一話 「目覚めた先は」



 車に跳ねられた。

(痛い。痛い痛い痛い全身マジ痛い有り得ないくらい痛い)

 衝撃、混乱、暗転。

(痛い! 死ぬ! 死んでしまう!)

 急激に薄れ行く意識の中、激痛に苛まれる。何かを掴もうと反射的に伸ばされた手の先に、触れる物があった。

 指先に触れた感触に、掠れた目を開く。

 そこには買ったばかりの新刊。ズタボロになった紙袋から除く、ラノベの表紙があった。

 ラノベを手に取った状態で息絶える男。

(うっわぁ……なんか、とてつもなく恥ずかしい死に方だ、よ、なぁ…………)

 それが、彼の現実で抱いた、最期の記憶になった。


               * * *


「……って、生きてる?」

 気付けば、知らない天井が視界に飛び込んできた。

 病院にでも担ぎ込まれたのか? 入院とかこのクソ忙しい時期にヤダなぁと思いながら、ゆっくりと身体を起こす。

 何故か痛みを感じなかった。感覚が麻痺してる訳でもない。拳を握る感覚もあれば、身体起こす際も、何の支障もなかった。

 しかし、何かが変だ。全身が違和感を訴えていた。

 違和感の正体がわからず、首を傾げた所で、部屋の内装が視界に入る。

「って、なにこの豪華な部屋は!?」

 豪華、と評するのも何か間違っていそうなぐらいに、えらく高級そうな調度品で溢れ返った部屋が、目の前に広がっていた。どこか中世的な印象を受ける調度品が、そこかしこに置かれている。

「どういうこった……?」

 車に引かれた先で、目覚めるような場所だろうか? ますます首を捻った所で、部屋の扉が音を立て開かれる。

「ん……?」
「あ、どうも」

 入室してきた相手と視線があったので、反射的に会釈を返す。こういう反射的な動作って、どうしても国民性が現れるよなぁとかどうでもいいことが頭に浮かぶ。

 ぼけーっと間抜け面をさらしながら相手の顔を見据える。相手も目を見開いて、こちらを見返していた。何故かぷるぷると身体を震わせながら、動きを止めている。年齢的には初老に達したぐらいだろうか? 彼の格好は思わずセバスチャン! とか呼び掛けたくなるような見事な執事ルックだ。

 これはアレか? 新設の執事喫茶のモデルケースに客として選ばれたとかいう落ちだろうか? そんな埒もない考えを抱いたところで、セバスチャン(仮称)がようやく動き出す。

「で、殿下!! お目覚めになったのですね!!」
「うおっ!?」
「ジイは、ジイは本当に心配したのですよ!!」
「って、抱きつくなぁーーーーっ!?」

 涙目になったセバスチャン(仮)に抱きつかれる。じいさんに抱きつかれて喜ぶ趣味はない。全力で拒否させて欲しかった。

「って、キタナっ! 鼻水がつく!!」
「うううっ、殿下、殿下! ご無事でなによりです。ズビーっ!」
「ってウギャーっ!? じいさんあんた今、鼻かみやがったろ!」
「聞こえませんぞ! 何も聞こえませんぞ! ズビーっ! ズビーっ!」
「うげげっ! 止ーめーてーくーれーっ!?」

 怪奇、子泣きじじいの鼻水攻めから逃れようと全力でもがく。しかし、事故の影響で全身の筋肉が衰えているのか、まるで押し返せない。老人相手に抵抗もできないって成人男性としてどうよと思った所で、ずっと感じていた違和感の正体に気付く。

「じいさん……なんで、あんたそんなデカイんだ?」
「はい……? いったい、どういった意味でしょうか、殿下?」

 こちらの様子から、ただならぬ気配を感じ取ってか、じいさんがようやく身体を離す。

 こうして見ると、やはりデカイ。自分の身長は180越えていたはずだから……このじいさん、どんだけデカイんだ? 戦慄を覚え、思わず両手を揃えてありがたやーと拝んでしまう。そんなこちらの挙動に、何か不穏なものを感じ取ってか、じいさんが頭を抱えて叫ぶ。

「で、殿下ー!? やはり落馬の衝撃で、意識が混濁しておるのですかー!?」 
「は? 落馬?」

 落馬ってどういうことだ? 交通事故って意味では広義の意味じゃ間違っていないのだろうが、幾ら何でも落馬はないだろ。いったいここはどこのロマンチック街道だよ。

 じいさんの妄言にはつきあってられないなぁと肩を竦めた後で、医者はいないのか? と改めて室内に視線を転じてみる。

 無駄に豪華な調度品の数々。小市民として超えられない壁を感じながら、屈してなるものかとぐっと視線に力を込めて、部屋を見渡す。

 ふと気付く。

 一人の子供がベッドの上から、身体を半ばまで起こした状態で、こちらを見据えていた。

 誰だ? 怪訝に思いながら視線を送ると、相手もこっちを遠慮なくジロジロと見据えてきた。どうやら、相手もこの状況を不審に思ってか、こっちを観察してきたようだ。

 お前さんも訳もわからぬまま担ぎ込まれた口かい? そう思いながら、やれやれと肩を竦めた所で、更なる違和感に気付く。

 ……気のせいだろうか? 相手の動作が、こっちに寸分違うことなく、追随しているように見える。

 手を伸ばす。首を傾げる。何度か動作を繰り返した所で、存在を忘れ掛けていたじいさんが、怪訝そうに尋ねる。

「鏡を見つめて、いったい何をしておるのですか、殿下」
「鏡……」

 視線の先、これまで一度も見た覚えのない容姿をした少年が、こちらをじっと見返している。

「……そうか。あれは、鏡なのか」
「え、ええ」

 鏡の中に、金髪碧眼の子供が居る。彼は蒼い顔して、こちらを見返していた。

 背格好からして、五才くらいだろうか? 外人の子供の年齢ってよくわからんが、少なくとも十歳には達していないはずだと当たりをつけながら、自然と口が動く。

「……じいさん。さっきから、殿下殿下言ってるけど、それって誰のこと?」
「殿下は殿下以外におりませんぞ」

 怪訝そうに、じいさんはこちらに呼びかけてくる。

「……殿下」

 良し。落ち着け。これは夢だと叫び出したくなるのを必死に堪えて、質問を続ける。

「……ここで寝てたのは、落馬したから?」
「そうです。お忍びで出かけた先で、殿下が落馬したと報告を受けたのです。あのときは、じいも生きた心地がしませんでしたぞ」

 再び感極まった様子で、涙をぐむじいさん。

 しかし、いよいよ混乱を始めた意識は、涙目のじいさんにかまってられるような余裕など一切存在しなかった。

 殿下……王族ってことか? 貴族制度はまだ外国にも存続していたはずだ。でも、事故にあって気付いたら別人、それも外国の子供(王族)になっていたって、いったいどんな状況よ?

 というか、ここまで不可思議現象が続くと、ここが現代かどうかも怪しい所だな。ひょっとして生まれ変わりってやつか? ……いや、だがそうすると、身体が5歳くらいから始まる説明がつかない。憑依、という言葉が頭に浮かんだ。

 混乱した思考は暴走するばかりで、次々と益体もない考えが浮かび、現状に対する結論は一向に出そうにない。

「わ、訳がわからん……」
「お労しや。やはりまだお疲れのようですね、ウェールズ殿下」
「ウェールズ……?」

 くぅっとじいさんが目元を拭いながらつぶやいた名前は、どっかで聞いたことがあるような名前だった。

 嫌な予感がする。具体的に言えば、家を出た瞬間にガスの元栓を締め忘れたかどうか不安になったときに味わうような何とも嫌な感覚だ。

「……一つ聞きたいんだが、この国の名前は?」
「? アルビオン王国に決まっております」

 この質問は予想外だったのか、きょっとんした様子で、じいさんのつぶらな瞳がこちらを不思議そうに見据えていた。

「……この大陸の名前は?」
「ハルケギニアですよ、殿下」

「もしかして隣国に、トリステインとかゲルマニア、ガリアとかあって、おまけに魔法とか存在しちゃったりするのか?」
「もちろん、存在しちゃったりしますぞ」

 一瞬の間。

「冗談じゃねぇーーーーぞぉっっっ!!!」
 
「でっ、殿下が御乱心じゃぁ!?」

 爆発した感情の波に任せるまま、絶叫していた。

(マジで冗談じゃねぇぞ!? アルビオン、トリステイン、ハルケギニア、とどめに魔法が存在するだって? ここがゼロの使い魔の世界だとでも言うのか? その上、アルビオンの王族でウェールズ殿下? そりゃレコンキスタの反乱で滅亡する国で、おまけにワルドにぶっ殺された王族じゃねぇかっ!?)

 混乱の極みの中で、はっとまず最初に何よりも優先して確認するべき事柄を思い出す。

「じいさん!! ちなみに今、反乱とか起こってるかっ!?」
「は、はい?」
「どうなんだっ! 答えくれっ!!」
「い、いえ。建国以来、アルビオンにおいて、国体を損なうような逆賊の輩は出ておりませんが……」
「……そっか」

 思わず安堵の息が漏れた。

 考えてみれば、ワルドにぶっ殺されたとき、既にウェールズは成人していたはずだ。そのウェールズが自分なら(認めたくない!)、仮にここがゼロの使い魔の世界で(認めたくないが!)、ここがアルビオンだとしても(断固認めたくないが!)、まだ反乱は起こっていないということだろう。

 もうなんというか全て事故の衝撃で混濁した意識の作り出した幻覚か、妄想であってくれと思いたいのだが、哀しいかな。身体の感じる世界の感覚は、あまりに真に迫っていた。

 二次創作に良くある、異世界憑依ものってやつなのだろうか? そんな可能性をチラりとでも本気で検討してしまう辺り、もはや気が狂ってきているのかもしれない。

 しかし、身体の訴える感覚は、これがお前の現実だと、しきりに訴え続けている。

(悪夢だなぁ……)

 おまけに、この憑依相手はあんまりだと言えた。

 亡国の王子なんて面白い存在も、創作物では良く見る設定だったが、張本人になったらそうも言ってられない。

 再び叫び出したくなるのを、必死に堪える。

(落ち着け。反乱まで、まだまだ時間がある。そして、いずれ反乱が起こる事がわかっているなら、対策も打てる可能性は残っている)

 自分の身体を見る限り、成人するまでまだまだ十数年余りの猶予があるはずだ。その間に、どうにか反乱が起こらないような状況を構築するしかない。幸い、自分はこの国でもトップに近い位置にいる。まだ子供であるが、これからの動き次第では、それなりの立場に立つことも可能だろう。というか可能であってくれないと死ぬ。


「くっ、絶対に! 絶対に生き残ってやるぞ───っ!!」

「あわわわ、やはり殿下が御乱心じゃぁーーーーーーーーー!!!」


 この日、アルビオンの第一王子は落馬による衝撃で昏倒。

 一度意識を取り戻すも、いまだ本調子ではないとして、数日の間、面会謝絶の状態で、絶対安静を言い渡されるのだった。


  1. 2007/07/22(日) 21:33:01|
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第二話 「現状把握」


(やれやれ……この時点でも、それなりに派閥対立が起こってるのかよ)

 やってられないなと内心で愚痴を呟きながら、外面はニコニコと柔和な笑みを維持する。

 目の前では、寝込んでいた王子の快方を聞きつけた貴族達が挨拶に馳せ参じていた。

(おーおー良く言うもんだ。まあ、内心で何を思っているのかわかったものじゃないがな)

 挨拶を聞き流しながら、これまで何度となく考えた、今後の行動方針を頭に展開する。

 原作において、聖地奪還を掲げたレコン・キスタに王党派は破れた。
 敗因としては、軍部がレコン・キスタ側についたことが上げられるだろう。

(最終的にガリアの傀儡だったとわかった変な坊さんが、死体を蘇らせる指輪を使って人心鼓舞してたけど、あいつは所詮小者だ。さして重要な要素じゃないよな)

 軍部の掌握に失敗した時点で、アルビオン王家の負けは決まったようなものだろう。

 民草の平穏のためと出兵を撥ねつけた王家の志は立派だと思うが、人間は哀しいかな、権益に敏感なものだ。聖地奪還という軍部の発言力が増すような目標を掲げたレコン・キスタ側に、彼等が加わるのも道理というものだろう。

 それでも現代ならば、国家に対する反逆行為に当たるとして、軍の自制が働いた可能性もあった。しかし、無数に存在する諸侯の盟主として、王家が存在するのがアルビオンだ。軍に参加する者たちも、諸侯出身の貴族が大部分を占めるため、軍人たちのアルビオンという国家に帰属しているという意識は思いの他、現代よりも薄いものなんだろう。

 軍部の大半が反乱に加わった時点で、もはや王党派は単独で彼等に対抗できなくなっていたのだ。こうなってしまっては、仮に平民が王家を支持していたとしても、どうにもならない。ハルケギニアにおいて、戦争とは貴族のものだからだ。

(あぁー鬱だ。こりゃ相当厄介な問題だよな)

 軍を改革する必要性を改めて感じた。

(というか、レコン・キスタ側の主張を認めるってのはどうだ? ……いや、やっぱダメだな)

 一瞬頭に過った悪魔の囁きを即座に否定する。

 レコン・キスタの裏には大国ガリアがついている。仮に彼らの主張を認めた所で、アルビオンを良いように使い潰されるのが落ちだろう。魔道具を自在に操るミョズニトニルンがあちらに居ることも考えれば、最悪傀儡として意識を奪われる可能性すらあった。

(ともかく、軍を王家が掌握する必要があるのか。そんな事ができるのか?)

 長々と挨拶を続ける貴族たちが代わる代わるやってくる。だが、どいつも信用できそうになかった。

(くそっ! ともかく死にたくない以上、やるしかないのか)

 道は一つしかないとわかっていても、やはり気分が沈むのを止められそうになかった。


              * * *


 まず考えたのは、平民を軍で活用することだった。

 教育制度が充実していない以上、それなりの判断が要求される高級士官に貴族がつく必要性は認めよう。しかし、戦艦の運用要員に至るまで、一々貴族を用いる必要は感じられなかった。

「……というか、いずれ反乱を起こすとわかってる貴族の連中に高級士官を独占され続けてたまるかってんだよなぁ」

 アルビオン軍組織の編成表を眺めながら、溜め息をつく。

 やはりというか、案の定、高級士官はどこもかしこも貴族の名で埋めつくされている。

 当然だが、王政府直属の将軍や士官は誰もが貴族だ。彼等は平時も首都に屋敷を構え、有事の際は傭兵を指揮する立場に立つ。基本的に、彼等に近衛を加えた軍団が、王族を最高司令官に仰ぐ『王軍』と呼ばれる軍組織だ。

 他にも各地に大貴族が組織する『諸侯軍』と呼ばれる軍組織も存在する。彼等は有事の際にのみ、領民を徴兵し部隊を組織、土地を授けた王家との盟約に従い兵を出す義務を負っている。

 つまり、『王軍』で指揮される兵が戦いなれた傭兵であるのに対して、『諸侯軍』は普段鍬を握ってる戦のイの字も知らないような素人の農民兵ということになる。

 戦に長けた傭兵と、普段鍬を握ってるような農民では、錬度において比較にもならない。なら反乱起こっても大丈夫じゃねーか? とも考えられそうだが、ちょっと待って欲しい。

 逆を言えば、『王軍』には貴族士官しか存在しない訳で、敗局が一度濃厚になれば、指揮される傭兵は雪崩を打って逃げ出し、戦いたくても指揮する兵が存在しない、なんて言うお寒い状況が成立し得るのだ。

 さらに言えば、『王軍』に参加してる高級士官の大部分も、もとを正せば地方に領地を構える大貴族な訳で、『貴族による共和制』なんてエサで釣られた造反組がかなりの数出ることが予測される。

 それに対して、『諸侯軍』は領民ということもあって脱走は許されない。おまけに勢いづけば、破った王軍の指揮してた傭兵もどんどん吸収してデカクなる。勝てば勝つほどデカクなる。そうすると金払いもよくなって、商人も勝ち馬に乗る。軍需物資が放っておいても入ってくる。こうなるともーどうにもならない。

 そりゃ最終的に三百VS五万の負け戦にもなるってものだ。

「……まあ、これも一種のカケになりそうだけどな」

 平民を軍で活用するために、軍事教練を施す平民向け下士官育成学校を設立。

 各種関係施設の設立に必要な書類にサインをつけながら、ウェールズは苦い思いを飲み込んだ。

 軍において平民の存在感が増すことは、翻れば貴族の権威が揺らぐことに繋がる。最初のうちは平民に対する軽視もあって、あんなやつらに何も出来るものかと見なされ、さほど問題にはならないだろう。だが、徐々に軍務に就く平民の数が増していくことで、現状のポストを奪われる形になる貴族から相当の反発が発生する事が予想された。

 が、ウェールズはこの案を実行することを心に決めていた。

 どちらにしろ、このままの状態で原作の時系列に突入すれば、貴族達は反乱を起こすのだ。このまま何の行動も起こさないまま反乱を起こされることを考えれば、実力主義で登用していった平民の存在する常備軍を王党派の味方に引き入れた方が、まだマシというものだろう。

 上手く行けば、王家に対する不満を、平民と貴族の対立にすり替えることで、反乱の発生そのものをなくすことも可能かもしれない。

「……最悪の考えだけどな」

 自らの考えに吐き気がする。

 だが、生き残るためには仕方ない。

 それにレコン・キスタの主張だけは受け入れることができなかった。エルフから聖地奪還。個人で主張する分には結構なことだろう。対して原作でウェールズが言っていたような、戦果の拡大に伴い国土が荒廃し、平民が犠牲になることを憂いるという言葉。あれも尤もだと思う。

 しかし、レコン・キスタの背後には大国ガリアの影が存在する。聖地奪還もどこまで本気かわかったものではない。他国の干渉を許した時点で、見解の相違から発生した国内の政治闘争の枠を飛び出しているのだ。

「……縛り首は御免だよ」

 ぶるっと身体を震わせる。

 このまま王族としての権威を打ち出して、平民を早期の内から軍隊組織に取り入れ、アルビオン王軍の掌握と強化に務めるしかないだろう。

「……そう言えば、アンリエッタ王女とウェールズは原作だと恋仲だったか? 記憶にあんま彼女の姿が残ってないから、まだそこまで親しくなってる訳じゃないんだろうけど……彼女には、どう対応したもんかね」

 トリステインとアルビオンは王族同志が血縁関係にあるため、それなりに良好な関係を築けている。しかし、ゲルマニアとガリアに挟まれた位置に存在する彼の国の立地を思えば、内乱が起こった場合も、やはり原作通り援軍は期待できないだろう。

 そうした生臭い話を抜きにしても、なまじ原作での関係を知ってるため、どう対応したものか悩み所だった。

「……まあ、とりあえず保留だな」

 そもそも王女なんて接し方がわからんからなぁとヘタレたことを考えながら、ウェールズは思考を切り換える。

 それよりも、やはりガリアの存在が問題だった。

(内乱の体裁を繕ってるうちはまだいいが、ガリアが本気になって参戦してきたら、今のアルビオンの国力じゃ太刀打ちできない。どうしたもんかね)

 貿易立国として、飛行船を多数保有するアルビオンだったが、この時代、国土の差は厳然たる兵力差として存在する。

(……まあ、それでも平民が軽視されてるせいで、あくまで国の上位層、メイジの絶対数の違いでしかないのは僥倖だけどな)

 仮にガリアがゲルマニアのような政策を取り始めたら、もはや手に終えなくなるだろうが、これも考えても仕方のないことだ。

 ジョゼフが弟のオルレアン公を謀殺したのが、確か原作の三年~五年前のどっかだったはずだ。まだ時間はあると思っていいだろう。そもそもジョゼフの即位を阻めれば一番いいのだろうが、自国ですら碌に統制できてないような現状で、他国に手を出すような余裕はない。

「となると、やっぱり当面は軍の掌握と、社会基盤の整備を押し進めるしかない訳だ」

 新たな書類を手にとって、視線を落とす。

 書類の表紙には、デカデカとした文字で、官営企業の設立案、とだけ記されていた。


  1. 2007/07/22(日) 21:31:45|
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第三話 「今後の方針」


 公共事業の設立によって大規模な雇用を行い国内の資本投下を押し進めることで、国内経済の活性化と流通の発展を国家主導で押し進める。確か、地球でそんなことを提案した経済学者がいた筈だが……

「なんて名前だったかね……?」

「殿下、こちらの書類にもサインをお願いします」
「ん、わかった」

 机の上に山と積まれた書類。部屋を出入りする秘書官が途切れることはなく、見る見るうちに書類の山はより巨大なものへと変わっていく。

 見上げるだけで、げんなりしてしまう。なので、とりあえず手にした書類に意識を集中する。

(しかし、空中戦艦の存在も普通の船と同じものって考えれば、アルビオンって典型的な海洋シーレーン国家だよな)

 アルビオンの産業は飛行船による各国との貿易や輸送業務に依存している。というよりも、貿易に依存せざるを得なかった、というべきだろうか?

 浮遊大陸などというファンタジーな大陸が唯一の国土というだけあって、アルビオンの保有する地下資源は皆無に等しい。

 土の系統魔法による錬金が存在するため、平時の必要数には辛うじて届いていたが、戦争などが起これば、即座に足らなくなるだろう。

 資源を大量に抱え込んだ広大な領土を有する国々とアルビオンの間には、根本的な部分で覆しようのない国力差が存在することは否めなかった。

(まあ、要塞として見た場合、他国から攻め込むのは相当難しいだろうけど……内乱起こしてたら、世話ないよな)

 原作の展開が思い出されて、溜め息が口をつく。

 さらに言えばアルビオンは目立った産業が存在する訳でもない。前述した通り、錬金で足らない分の資源は、ひたすら他国からの輸入に頼っている。原作でヴァリエール公爵が言ってた通り、攻め込まれずとも、空路を封鎖されれば、いずれ干上がって何もできなくなるだろう。

 だが、ウェールズはなによりも、自国に目立った産業が存在しないことこそが問題と考えていた。いまだ近代的な産業が芽生えず、どの国家の産業も、中世の家内制手工業レベルに止まっているうちは、それでも良いだろう。

 しかし、既にゲルマニアなどといった、貴族平民問わず実力主義で登用する政策を押し進める国々が台頭してきているのが現状だ。このハルケギニアで、産業革命が起きるのも、そう遠い未来の話ではないだろう。

 いずれ必ず来るその日までに、何らかの基幹産業をアルビオンは独自に有している必要があるとウェールズは考えていた。

「……それにレコン・キスタの反乱が起こらなかったとしても、メイジを後方要員に転換していくのは必要だよな」

 産業革命に続くものは、貴族の枠に止まらない富裕層の誕生、爆発的な生産力の拡大、市場を求める経済戦争、平民でも扱える兵器の増産、そして、それらの果てに待つものは───平民による革命に他ならない。

 科学技術の発展が未熟なこの世界では、メイジの魔法が唯一の生活に利便性をもたらす技術である。革命が起こったとしても、社会整備や産業基盤に関わるメイジの魔法は必要不可欠なものとして残るだろう。

 現在から国家が主導して、メイジを研究員的な立場に組み込んで行けば、いずれ革命が起きたとしても、貴族は誰も縛り首だぁーなんてヒドイことにはならないはずだ。

「というか、メイジ使うなら後方だよな。戦場で使うなんて勿体ない」

 現在も戦場においては、空中戦艦による制空圏が確保できていなければ、いくら地上にメイジの大軍が展開していた所で、砲撃で一方的な殲滅が可能になっている。

 戦艦の運用そのものも、すべてをメイジに頼っている訳ではないため、平民で代替は可能だ。

 実際、空軍などは現時点においても、唯一平民が士官として身を立てることが可能な軍組織となっている。無論、艦長クラスは誰もが貴族に占められているが、一部の航海士や下士官には平民が既に存在するのだ。

 既に前例ができている以上、正式に士官としての教育を与えられた士官学校出の平民達の任官先としては、空軍が最有力候補になるだろうと、ウェールズは考えている。

 陸軍は貴族士官の塊なので、士官を配属するのは難しいだろうが、少し我慢するだけで、わざわざ金を払って集めなければ存在しない傭兵と違って、政府が雇った兵隊が常に配属されるようになるのだ。下士官程度なら、今後の交渉次第で幾らか譲歩してくるに違いない。

 また、生物である陸ガメを利用した『砲亀兵』などを用いずとも、陸上でも牽引可能な車輪付きの大砲を用意してやるか、固定砲台として活用するだけならば、砲手は平民で事足りる。

 平民がきちんと戦力になると証明してやれば、王軍において平民の定数は確実に増大していくことになるだろう。

「余ったメイジを後方に回して社会基盤を育成、軍で平民を活用することで諸侯や傭兵に頼らない常備軍を創設して内乱を牽制。でもガリアと戦争になっても現状の国力差から負けるのは確実、やるだけ無駄無駄。
 となると、やっぱり目指すべきは経済的な勝利、戦わずして勝つ、なんだろかねぇ」

 どっかの紅茶にこだわる紳士の国のごとく、世界の工場を目指すべきだろうか?

 少なくとも、いくつかの分野に跨がって、工業製品における世界的な規格品の地位を、早期のうちに国内企業が確立できれば、実質世界支配を達成したのと同じような状態だろう。

 統一規格、品質管理の概念を完全に導入するには、この中世世界ではかなりの苦労があるだろうが、今はまだそれなりの段階でいい。最低レベルのドットメイジであっても、容易に達成可能なレベルでいいので、統一規格を制定、大量の部品を精製させる。その後の検品や組み立てを行う者に平民を登用するだけでも、最低限のレベルだが、大量生産の概念をそれなりの規模で達成できるだろう。

「問題は何を作るかだが……やっぱり、船かね」

 平民士官のほとんどが空軍に配属されることを思えば、すぐに操舵する船が足らなくなるだろう。そこにメイジと平民を併用して、簡易的ながらも大量生産の概念を導入した、大量の船を製造することができる官営工場を当てれば、かなり大規模な需要が見込める。

 仮に船があまるようでも問題ない。艦砲を乗せない商船として民間に売り出せばいい。操舵手として平民士官を一時的に付けてやれば、平時で訓練を積むことも可能になると一石二鳥だ。

 更に言えば、船自体が官営工場で製造された製品なのだ。純粋に王家が稼ぎ出した税収に頼らない収益として、自由に使える予算を確保できる。そうして得た資金をもって、王族の権威を背景にした平民を組み入れた常備軍制度を更に充実させて行けば、国軍の軍事力を背景に、諸侯軍の規模を縮小して行くことも可能だろう。

 そこに、ウェールズがない頭使って捻り出した『構想』の下、密かに進行中である公共事業の成果が加われば……最終的に現状からすると、ある種革命的とも言える規模で、国内の経済活動を一気に拡大することも夢ではないはずだ。

「……まあ、どれもまだまだ先の話しだけどな」

 今はまだ、どれも実現するかどうかも定まらない、夢物語に過ぎなかった。

「とりあえず、小さいことから実績を積み重ねて、発言力を増して行くしかないか」

 実際、自分はまだまだ肉体的にも脆弱な子供に過ぎない。

 原作の開始時期まで、あと10年ぐらいだろうか?

 王族としての権威をフル活用しても、いったいどこまで行けることやら。

 はたして、原作の時点で、自分は生き残ることができるだろうか?

 ウェールズは今後の見通しを思うと、やはり溜め息が漏れてしまうのを、どうしても止められそうになかった。

  1. 2007/07/22(日) 21:31:14|
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第四話 「お金がない」


 最近、第一王子に関する噂をよく耳にする。

 王族に関する噂が社交界で囁かれるのは、別段珍しいことではない。

 諸侯の盟主として存在する王族の動向はアルビオン中の貴族が注目している。ちょっとした行動様式の変化でさえ、直ぐさま側仕えの貴族達によって、地方にまで伝播する。

 しかし、今回の噂に関して言えば、どこかいつもと異なる感触を覚えていた。

 その噂とは、なんでも遠乗りに出かけた王子が、落馬の渾沌から意識を取り戻して以来、各方面に対して活発に働きかけているらしい、というかなり具体的なものだったからだ。

「おー、これは壮観だね」
「はい、ウェールズ殿下。ここはアルビオン空軍が誇る工廠ですから」

 そんな隣に立つ件の王子に、これといって面白みもない言葉を返しながら、ヘンリ・ボーウッドは噂もなかなか侮れないものがあると、密かに感心していた。

 鉄塔のような桟橋に、全長百メイル程の『イーグル号』、全長二百メイルに達する巨大帆走戦艦『ロイヤル・ソブリン号』に至るまで、艦首もさまざまな戦艦が其の威容を誇りながら、悠然と停泊している。

 ここは首都ロンディニウムの郊外に位置する街、ロサイスに存在するアルビオン空軍の工廠だ。数ある工廠の中でも、広大な森林地帯を利用することで、屈指の造船能力を誇っている。

 首都の近隣でありながら、それだけの森林地帯が残っているのは、過去に首都において発生した火災によって、それ以降、木造建築の家屋を首都において建造することが王命で禁止されたためだ。

 ウェールズ王子がここを訪れた理由は、工廠の視察と聞かされている。

 ボーウッドは自分がアルビオン国軍において、典型的な軍人であると考えている。貴族としてはそれなりの位置にいたが、あくまでそれなりでしかなく、決して有力な家柄ではない。そうした中流貴族の大半は有事の際に家名を高めるべく国軍に入隊するのだが、ボーウッド自身もその例に洩れず軍人となった。

 そんな特に面白みもない経歴の自分が、今回の視察でウェールズ王子の対応を任されたのは意外な展開だった。なにせ滅多にない王族と顔を繋ぐ機会だ。それこそ希望者を募れば、諸手を上げて立候補が殺到するだろう。

 しかし現実には、基本的に上に対して必要以上の接触を図ろうとしない自分が、これといって求めた訳でもないのに、気付けば上から案内役を任されていた。

 どうにも釈然としない思いが沸き上がらないでもなかったが、もはや案内を任された事実が変わることはない。まあ断るという選択肢がない以上、せいぜい全力で役割を果たすまでか。ボーウッドは直ぐに気持ちを切り換えた。

 それに、思うことがないわけでもない。

 いずれこの国の頂点に立つ人物が、どのような相手なのか、直接相対することでわかることもあるだろう。それが良きにつけ、悪しきにつけ。

 内心、そんな不穏なことを考えながら、王子の案内に臨むボーウッドだったが、実際に相対した王子の聡明さは、想像以上のものがあった。

 こちらの端的な説明に対しても、要所要所で的確な質問や指摘が返される。案内の合間合間で交わした少ない会話からも、既に王子が少なくとも成人並の判断力を備えていることが理解できた。

 まさに、ウェールズ王子は既に王者としての資質の片鱗を覗かせつつあると言えるだろう。

 そう、ボーウッドは感心していた。いまだ十代前半でありながら、貪欲に自らの治めることになる国について知ろうとする姿勢は、普段堅物が過ぎると評されることの多いボーウッドにも、静かな感銘を与えていたからだ。

 それ故に、説明にも思わず力が入ってしまう。

「───このように、風石から発する力を受けることによって、帆船は浮力を得ているわけです」
「はぁー……なるほど、風石から浮力をねぇ」
「はい。そのため航続距離が伸びるほど、必要となる風石の数も増します。故に、ロイヤル・ソブリン級の戦艦を運用できるのは、ハルケギニア広しと言えども、風石の利用技術に優れた我が国か、大量の風石が眠る砂漠サハラと隣接したガリアぐらいのものでしょう」
「なるほどなるほど。いやぁ、話には聞いていたけど、実際目にしてみると、やっぱり大したものだね」
「畏れ入ります」

 それに、自らのした説明に対して、目に見えた反応を返されれば、ボーウッドとしても悪い気はしない。

 こうして、ボーウッドにもそれなりの収穫を与えながら、視察はスムーズに進んだ。

 このまま行けば、何事もなく勤めを果たせるだろう。そんなことを考えながら、次の地点へ向かおうと一歩踏み出した所で、不意にボーウッドは違和感に気付く。

(なんだ? これは……視線か?)

 自らに向けられる、絡みつくような視線の気配があった。

 最初は王子の護衛か何かが、こちらを監視しているのかとも思った。だが、直ぐにそれは間違いだと理解する。
 
 視線の正体は、改めて探るまでもなく、ボーウッドの直ぐ脇に存在したからだ。

(……よりにもよって、殿下が視線の正体か)

 案内の合間合間で、時折、こちらをじっと見据えたまま動かなくなる王子の視線があった。それは移動の最中も止むことなく、絶えず観察の色を含んだ視線が、こちらを見据えている。

 相手は王族だ。人を見る目を鍛える意味も込めて、今回の視察は計画されたのかもしれない。そう考え、最初の内は王子の視線にも気付かぬふりを続けていたボーウッドだが、視線は一向に止む気配をみせない。

 いや、むしろ時が経つにつれ、より露骨になっていると言ってもいい。

(どうしたものか……特に弊害があるわけでもないが……)

 このまま気付かぬふりを続けるには、向けられる視線の圧力は強すぎた。

「──殿下」
「ん、何かな?」

 だから、ボーウッドは真っ向から切り込むことにした。

「何か、気になる点でも? 先程から、小官の様子を頻りに伺っているように思われますが」

 あまりに率直なボーウッドの言葉に、ウェールズ王子は一瞬ポカンと口を開けたまま、表情の動きを止めた。そして次の瞬間、声を上げて笑い出した。

「ははは、くくっ……いや、すまない。少し露骨過ぎたかな」
「殿下?」
「うん、いや、マジで──じゃなくて、本当にすまない。視察の内容とは直接関係ないから、まだ早いと我慢してたんだけどね。まあ、いい機会か」

 憮然と言葉を重ねるボーウッドに、王子はなおも口元を緩ませたまま、意外なほどあっさりと答えを告げる。

「実はボーウッド卿には、個人的に尋ねたいことがあってね」

 つい案内の間も視線が行ってしまったという訳だよ。そう言って、王子は事も無げに肩を竦めてみせた。

「? 小官に尋ねたいこと……ですか?」

 予想外の答えに、相手の意図がわからずボーウッドは首を捻る。自分ごとき下級貴族に、王族がわざわざ意識を割くような要素があっただろうか?

「そうだ、ボーウッド卿」

 考え込むこちらの反応など意に介した様子も見せず、ウェールズ王子はずいっとこちらに身を乗り出す。急激に近づいた相手の顔に、多少気押されるものを感じながら、ゴクリとつばを飲み込む。

「な、何でしょう?」
「実は以前から、私はあなたのことを知っていてね。直接話をしてみたいと思っていたんだよ」
「小官と……ですか?」
「うん。私は最近、ある部隊を新設してね。そこの教育を任せられる者を探している。そして優秀な人材として、一度あなたのことを耳にしたことがあった」

 だから、実際に会って、人柄を確認してみたかったんだよ。続けられたウェールズ王子の言葉に、ボーウッドは戸惑いから眉を寄せる。能力を評価されたのは嬉しいが、自分でも知らぬ所で、王族の耳に自分の評価が入っていたのは、いささか面白くない事実だった。

 それに、今目の前で王子が告げた言葉も、少し頂けない。

「新設部隊の教育……?」
「そう、現在私が進めている計画の一つでね。傭兵に頼らない、王軍固有の下士官を育成して、常備兵として配属しようという計画だ」

 そう前置きすると、ウェールズは自身の考えを語り始めた。

 曰く、通常の貴族の子弟に施される士官教育とは別に、平民に対して基礎的な軍事教訓を施す、下士官育成学校の設立を考えている。あなたには彼らの教導官を引き受けて欲しいと。

「メイジ以外の通常戦力を傭兵に頼った現在の状態は、あまり好ましいものとは言えないからね」
「……確かに、それには同意します」

 実際、傭兵達には雇われた国に対する思い入れなど存在しない。肝心な部分で、どこか信頼性の乏しい部隊が、傭兵と呼ばれる戦力だった。おまけに戦争が終われば、そのまま野盗と化す者たちも少なくない。現実問題、強力な武装盗賊と化した彼等を討伐するために、軍の部隊が投入されることも少なくなかった。

「しかし、平民を正式に軍へ登用するのですか?」

 貴族こそが前線に立つべきである。それは古き良き時代にのみ成立していた貴族の義務だ。現状でも、空軍士官には平民がそれなりに存在している。ウェールズ殿下の話は、そこに正式な育成という手順を挟んだに過ぎない。

 ノブレス・オブリージュ。それは既に時代後れの観も漂い始めた古くさい考えだったが、ボーウッドはこの古くさい貴族の義務をそれなりに信望していた。

 戦争の惨禍に民草を巻き込みかねない計画に、王子に返した声にも、苦いものが混ざってしまう。

 そんなこちらの懸念を理解してか、ウェールズ王子もまた、どこか苦しげな表情になって、説明を続ける。

「ボーウッド卿。これは必要な措置なんだ。アルビオンは、他国よりもメイジの人口比が少ない。戦艦の運用全てにメイジが必要となる訳ではない以上、空軍力において一定の優位性を築き続けるためにも、大規模な平民の登用を進め、兵科そのもののを改革する必要があると、私は考えている」
「兵科そのものの改革……!」

 放たれた言葉に、驚きが声に出る。自分が当初思ったよりも、かなり大規模な計画のようだ。そこまで考えた所で、ボーウッドはふと疑問を覚える。

「しかし、殿下の計画が実行されれば、最終的にかなり大規模な影響が各方面に出るでしょう。実際にそこまでの改革を行うに思い至ったと言うことは、何か具体的な懸念事項が御有りになるのでは……?」

 なんとなしに尋ねた疑問だったが、目に見えて相手の表情が変化する。

 何かまずいことを尋ねたか。内心で焦るボーウッドを余所に、しばしの沈黙を挟んだ後で、ウェールズ王子は重々しく口を開く。

「これは私が独自に掴んだ情報なのだが……あなたになら、構わないか」

 前置きされた言葉に、自分が藪をつついて蛇を出したことを自覚した。しかし、もはや相手の言葉を止めるには遅すぎた。こちらが覚悟を決める前に、王子は衝撃の事実を告げる。

「ガリアの皇太子派が、アルビオン国内の反王国派の貴族達と、頻りに接触を図っていることがわかっている。それが、私が軍の改革を思い至った理由だよ」
「なんと!? あの大国ガリアが……!?」

 驚きに声をあげた後で、慌てて周囲を見回す。国内の不穏分子の存在に止まらず、それが他国と結びついているかもしれないという話しだ。下手な者に聞かれては、王子の身に危険が降りかかりかねない。

 ガリアは現在、次代の王位継承者の選定に揺れている。文武両面において非常に優れた使い手である弟のオルレアン公派と、魔法が不得手なことから暗愚の誹りを受ける兄のジョゼフ皇太子派の二つに別れ、宮廷勢力が激闘を繰り広げているという話だ。内乱にこそ至っていないようだが、予断を許さぬ状況が続いていると言っていいだろう。

 伝え聞く話しでは、弟であるオルレアン公の優秀さは誰の目から見ても明白であり、支持層にも有力貴族が多いという。だが、ボーウッドは、むしろそんな状況下にあっても尚、自らの派閥を維持しているジョゼフ皇太子の方が、不気味な存在に映っていた。

 そんな皇太子派から、国内の反攻勢力に接触があると言う話だ。驚愕の程が理解できるだろう。

 そもそもガリア自体、ハルケギニア随一の魔法先進国である。下手を打てば、アルビオンは一部の暴走した貴族の浅慮を突かれ、気付けば骨の髄まで食い潰されていた、というまったくもって笑えない状況に陥っていても奇怪しくない。

 しかし、そんな慌てる自分とは対照的に、当の王子は平然としたものだ。どうにも釈然としないものを感じながら、ボーウッドは相手の真意を尋ねる。

「……小官などに、そこまでの話を打ち明けても宜しいのでしょうか?」
「あなたは信頼できる。そう私が判断した上で明かした以上、この先何が起きようと、私の責任だからね」
「しかし、他の者に聞かれる可能性も考えれば……」
「大丈夫。所詮、ようやく十代に手が届いたばかりの分別も碌にない、子供の戯言に過ぎない。今はまだ、誰に聞かれても、さして問題にはならないだろうさ」

 そう言って、ニヤリと笑ってみせた。これまでの貴族然とした、上品な仕種とは対照的な、年齢にそぐわない、ドロ臭い笑みだった。しかしそんな王子の表情に、ボーウッドは気押されたように、自らの視線を伏せていた。

 なるほど、これが王族か。ボーウッドは目の前に立つ、未だ年若い君主に対して、感嘆と驚愕の入り交じった、ある一つの感情──畏怖の念が、急激に沸き上がることを自覚した。

「では、改めて尋ねたい」

 真剣な瞳が、こちらを見据える。

「ボーウッド卿。私に協力してくれないか?」
「……殿下の仰せのままに」


 この日、ヘンリ・ボーウッドは次代の君主に対して、杖の忠誠を誓った。



              * * *



「ふぅ……これで、ようやく王軍で平民が活用される目処が立った訳か」

 執務室で書類の決済を進めながら、先日の交渉に思いを馳せる。

 アルビオンの大陸は空中を浮遊しているため、他国への移動にも飛行船が必要になる。国内に存在する軍の工廠もそれなりの数が揃っており、規模もなかなかのものだ。そのため、造船能力そのものも、他国よりも頭一つ抜きんでた力を誇っていた。

 つまり空軍の能力だけを見れば、アルビオンは他国に警戒されるだけの力を保持していると言えた。当初、アルビオンは軍事的に脆弱な立場にあると考えていたウェールズにとって、これは嬉しい誤算だった。

 が、いずれ反乱が発生する事を思えば、この『なかなか侮れない航空戦力』がそのまま敵対勢力のものとなるのだ。この事実に思い至り、ウェールズはますます自分の気分が沈むのを感じるのだった。

 かくして、公共事業や官営工場の設立と平行して、平民向け下士官育成学校設立に向け、より一層の尽力に励むウェールズだったが、そこで一つの問題が発生する。

 平民に軍事技術を教授するなど冗談ではないと憤ってか、肝心要の教官に、引き受け手がなかなか集まらなかったのだ。

 基本的に平民士官のほとんどが、卒業後は空軍に水兵として配属されることを思えば、操舵に関する専門知識を持った軍人の存在は必須だった。そんな所に起こった圧倒的教官不足なんていう大問題の発生に、ウェールズは本気で慌てた。

 ウェールズ自身が方々の軍施設を視察と称して引きずり回り、若手を中心に懇々と自らの展望を訴え掛けることで、ようやく定数を確保できたのが、つい先日のことだ。

 無駄に疲労を重ねることになった訳だが、それに見合った収穫が無かった訳ではない。数人の貴族士官をこちらの陣営に引き入れ、少なくない数の教導官を揃えることができた。

 中でもロサイスの工廠では、軍人としての分をわきまえた人物として、原作で描写されていたボーウッド卿を引き抜けたのは僥倖だったと思っている。

 原作ではレコン・キスタに属していたボーウッドだが、もともとは艦隊司令の上官が反乱軍についたため、仕方なくレコン・キスタに参加した人物だ。

 共和制を敷かれた後のアルビオンにおいても、心情的には王党派でありながら、軍人は政治に関わるべきはないと考え、そのまま国家の剣たらんとした無骨な姿勢も、ウェールズは気に入っていた。

 そうした心情的な面を抜きにしても、巡洋艦の艦長だった当時に王党派の戦艦を一会戦で二隻も撃破してみせた手腕や、トリステインへの侵攻では実質的な司令官役を任されていた経緯からも、彼が軍人として優秀な人物であることがわかっている。

(将来的には王党派で、中核的な指揮官になって欲しいもんだな……)
 
 さすがに一筋縄では行かない相手で、少ない情報でこちらの真意を正確に見抜いてきたが、それだけ優秀ということだ。何の問題もないだろう。

 協力を取り付けた後で交わした雑談でも、貴族の子弟に関しては、取り込める者は可能な限り取り込んでおいた方がいいと、控えめな言葉で忠告を受けた。

 これはウェールズにとっても盲点だった。

 確かに、このままの方針で進むと、真っ向から貴族勢力の反発を受ける形になる。原作では王党派であった貴族たちまで、レコン・キスタに合流しかねない。味方はできる限り多い方がいいと言うのに、それでは本末転倒だろう。

 つまり、貴族に対する取り込み工作が、新たに必要となった訳だ。

「それに、こっち側の魔法技術も侮れないもんがあるからな。やっぱメイジの取り込みは必須か……」

 王立魔法研究所の研究レポートを掴み、パラパラと斜め読みする。

 基本的にメイジの使う魔法は自然現象を再現したものが多い為、自然科学の研究はそれなりの発展を見せていた。どれも魔法技術に還元する為の研究だったが、再現するにも杖を一振りすればいいのだ。この世界の実験器具の精度を考えれば、デタラメな成果を叩き出していると言えた。

 《火》の系統魔法に関連した成果だけを言っても、《熱》というものが運動エネルギーであることが、おおまかにだが認識されている。また《固定化》などは其の最たるものだろう。物質の酸化、腐敗を防ぎ、対象をあらゆる化学反応から保護するなど、尋常ではない。

 そうした魔法があまりに便利すぎるため、魔法技術における発見が、一般人にも利用可能な技術として応用されることは稀だった。

 しかし、原作でコルベールが蒸気機関の発明に成功したのも、そうした基礎的な部分の研究が、ある程度の発展を見せていたことが大きかっただろう。

 そもそもハルケギニアの国々はそれぞれ、自国の得意とする系統を保有している。
 トリステインの水、ゲルマニアの火、アルビオンの風……それぞれの国が得意とする系統魔法に準じて、各国の得意とする技術も発展を見せている。

 トリステインならば医療技術、ゲルマニアならば冶金技術……一部では現実世界よりも驚異的な発展を見せている分野もあるから驚きだ。

 我が国アルビオンは《風》の系統魔法を得意としている。そのため、飛行船の建造に必要となる風の魔力を秘めた《風石》の利用技術や、それに関連した造船技術が発展を見せていた。

 しかし、どの分野も、現実世界における科学ではなく、魔法の検証から発展した技術であるため、普遍的に応用可能な数学的法則の発見や、実験による検証の概念は、あまり発達してないのが残念な所だ。

「まあ、科学技術の成果が国力に直結する訳でもないから、今は大した問題でもないか」

 ウェールズは現実世界の近世において、西欧諸国の躍進を支えたのは、科学技術の存在ではなく、産業革命により爆発的に増大した、その圧倒的な生産力にあると考えていた。

 産業の発展に貢献した幾多の発明に関しても、科学の発見から技術的なアイディアを着想したものもあるが、大半は現場の人間が創意工夫の末に生み出したものに過ぎなかったからだ。

 もちろん、そうした創意工夫によって生み出された発明品を改良する為には、科学的な思考に基づいた『普遍的に利用可能な法則』の発見が必要になるのだが……初期の発明においては、さして問題にならないと考えていた。

「しかし、産業の発展に貢献しそうな要素揃えるだけなら……アイディアのもとだけ提示できれば、魔法技術でも、必要な研究開発は可能だってことかな?」

 アルビオンにも王立魔法研究所は存在する。

 やるなら近代国家の基礎となる冶金技術の発展を第一に支援したい所だが、火の系統を得意とするゲルマニアに追い付くのは数年では足らないだろう。故に、少なくない予算を割くなら、アルビオンが得意とする風の系統に関連した、現代で既に成果の実証済みの分野に関して、何らかの開発支持を提示したい所だ。

「風、風ね……電気も風に含まれたか。そうすると、電信の概念が、一番導入するのが容易か……?」

 電気が流れるものであるという認識は既に存在する。必要な導線を錬金で生み出せば、通信施設の充実もそれなりの規模で果たせるだろう。それは情報伝達速度の発達に繋がり、地方における国家的な判断を容易にさせる。上手く行けば、旗流信号が主流の艦隊群に、原始的な無線による通信設備を配備するまで行けるかもしれない。

「情報を制するものは全てを制すってやつか。あー……貴族派の動向を見張る諜報組織の設立とかも進言しないとなぁ。でも……そうなると……」

 これまでに立案された計画に予算を割り振ってみる。ちゅうちゅうたこかいな……

「って、がぁー! 全然、ダメだ!!」

 執務室の机に突っ伏して、ウェールズは頭を抱えた。

「予算が、まるで、足りん!!」

 こちら側に来てから、それなりに精力的に動いているウェールズだったが、その全てが成功した訳ではない。

 父王ジェームズ一世は、幼い王子が積極的に政治を学ぼうとする姿勢を評価してか、一定の権限を与えてくれた。少なくない予算も付き、それなりの行動が可能になった訳だが、それもあくまで限定的なものだ。

 色々な施策に関しても、実験的な導入なら可能だったが、国家規模の事業として継続的に押し進めようとすると、どう見積もっても予算の規模が足らなかった。

 現在進めている構想が軌道に乗れば、最終的にかなりの収益が見込めるだろうが、軌道に乗せる段階でつまずいているようでは、正直お話にならない。

「あーうーあー」

 渡る世間は鬼ばかり。ゼニの花は白い。されど蕾は血のように紅いのだ。

「……やっぱ一人で出来ることは限界があるね。資金的な面からも、そろそろ他の貴族を抱き込まないとダメな段階ってことか……」

 だが貴族と言うと、どうしても原作において反乱を起こしたレコン・キスタの連中が頭に浮かぶ。

 いや、自分でもわかっているのだ。

 王党派と呼ばれるものが存在した以上、すべての貴族がレコン・キスタに参加した訳ではないと。しかし頭では理解できるのだが、どうしても積極的に彼等に協力を求める気になれなかった。

「信用できそうな貴族、それもある程度の財力を持った、予算的な援助もしてくれそうな貴族……そんな都合のいい貴族、原作にいたかなぁ……」

 原作に出てきた、数少ないアルビオンに関連したイベントを頭に描く。

 ふっと無数の断片的な単語が蘇る。

 金髪。長耳。ハーフ・エルフ。バスト・レヴォリューション。胸革命───

「───あ、ティファニア!? そういえば、ティファニアってアルビオン大公家の娘だったよな」

 虚無の系統で、エルフとのハーフ。土くれのフーケ、マチルダ・サウスゴータの実家が仕えていた王弟の娘。広大な南部地域を治める領主であり、王の命令で取り潰された大公家の末姫。

「って、やばい! 親父さんは財務監査官してたとか言ったよな……えーと、取り潰されたのが、原作の四年前とか言ってたけど……あ、良かった。まだ存続してるな」

 各地の貴族が治める領地と使用する紋章が記された書類に、きちんと大公家の名前は残っていた。安堵に胸を抑えながら書類を見据え、ふと思い付く。

(……家が存続してるってことは、エルフの愛妾が居るって事実も、まだ父王に知られてないってことだよな? なら、彼女らを匿う代わりに資金援助とかも期待できるか?)

 ちょっとした思いつきに過ぎなかったが、案外悪くない一手かもしれない。

(大公も絶対に公にできない事実を、次代の君主が秘密裏に容認してくれる形になる訳だ。絶対の忠誠を期待できる……しかも、東西南北四方を治める大貴族の一画を、確実に取り込める……)

 さらに言えば、大公が『南部』地方を押さえていることも無視できない要素だ。

(そもそも空軍の工廠ロサイスが南部にある訳だしな。ロサイスと首都ロンディニウムの間には、南部街道の集結点になるサウスゴータも存在する。大公の一門から全面的な協力を取り付けられれば、資金面の援助だけでなく、公共事業に絡んだ今後の構想そのものに追い風が期待できるし……)

「うん、やっぱ悪くないな」

 そうと決まれば話は早い。ウェールズは大公と会談の場を設けるべく、動き出すことを決めた。

 大公家に関する書類を改めて見据えながら、少しの間手を止める。

「……まあ、それに予め殺されるってわかってる相手に、何も手を打たないのは、さすがにな」

 ポリポリと頭を掻く。これも無駄な感傷に過ぎないかもしれない。自身に危険が迫れば、自分は即座に手を引くだろう。

 だが、それでも自分の手に届く範囲で、できることがあるなら、やってみるのも悪くないだろう。

「というか、金がないと何もできんってのが本音かね」

 出資者候補~出資者候補~

 大公との会談に望むべく、ウェールズは怪しい鼻唄を口ずさみながら、細々とした準備に入るのだった。


  1. 2007/07/22(日) 21:30:42|
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