全手動軽文量産機

──A.L.M──

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威海に関するアレやコレ 其の壱





威海発見

──とある村落で起きたこと──



 この世界において、大規模な国家間の戦争が起こらなくなって久しいのは誰もが知る所だろう。その理由は諸説論じられているが、誰もが同意する最大要員として一つの発見が上げられる。

 かつては神隠しと呼ばれた現象の行き着く先、此の世と異なる彼方の世界───後に【威海】と称されることになる、特異空間の発見である。

 20世紀初頭、この新たな世界は、極東のとある島国において発見された。

 19世紀に西方から始まった帝国主義が世界中を席巻していく中、この波に飲み込まれない為に、この極東で何世紀もの間引きこもっていた島国も、やむを得ぬ選択として近代化を選んだ。これまで正当と評されてきたあらゆる価値観が急速に一新され、近代化を求める為にあらゆるものが是とされた。

 そして、かつては神聖不可侵とされていたものたちが緩やかに姿を消して行こうとした矢先、この異質な世界は発見された。


「駐在サーン。駐在サーン」
「なんだ坊主ら、そんな慌てて」

「なんか山の麓でさ、変な場所見つけたんだぜ」
「すんげぇーの! なんか、地平線っての? そんなのが見えるんだぜ」
「はぁ……そりゃ良かったな。おいちゃん忙しいから、また今度な」

「だぁかぁらぁ! 本当だって! 嘘じゃねぇよ」
「信じてくれよ、駐在サーン」
「なんかの見間違いか、寝ぼけてたんと違うか?」

「絶対ちげぇーって! ともかく、ついてきてよ!!」
「駐在サンも絶対みたらぶったまげるから!!」
「……はぁ。わかったよ。案内してくれ」

 とある山間の村落で、子供たちに連れられた駐在員が目にしたものは、あまりに異質なものだった。

「な、スゲェだろ?」
「地平線が見えるもんなぁ……」
「こ……こいつは、えらい発見だぞ。俺の手には、負えんな……」

 数日の内に、本庁に正式な応援要請が寄せられ、正式な調査隊が派遣された。派遣された者たちの中には地質調査の専門家や、大学の教授を務める者たちの姿もあった。

「な、何なんだ……この空間は……?」
「物理的にありえん! な、なぜだ!? どうやってこれだけの規模の空間が、あんな鳥居の先に存在するんだっ!?」
「信じられん……」
「だが、存在するのもまた事実か」

 集められた者たちは誰一人として、そこが如何なる場所なのか理解できなかった。

 この新たな領土、【威海】はとかく謎の多い空間だった。

 あらゆる法則が此の世と異なる様相を見せ、どこか深海の底にも似た、威圧的な空気を放つ膨大な空間が広がっていた。

 そして何よりも恐ろしいことに、この場所は長時間滞在するだけで、人心に歪みを発生させて行くというあまりに奇怪な側面も備えていた。

 国内に発見された最初の威海調査に立ち会い、後に名付け親ともなった謀国立大学教授は後年、其の精神を病み、最期は自室にて首を吊った状態で死んでいるのを発見された。


『我々は……触れてはならない領域に、手を出してしまったのかもしれない』


 彼の残した遺書には、そんな言葉が走り書きとして、残されていたという話だ。



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  1. 2007/05/05(土) 00:50:25|
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威海に関するアレやコレ 其の弐





威海探索

──派遣人員達の憂鬱──



 初期の探索と簡単な開発が行われた一年後には、威海に派遣された人員の半数以上が精神的に錯乱、この特異空間において散ったと言われている(初期の探索は最重要機密として秘匿されていたため、正式な報告文書などは一切残されていない)


「しかし、何なんだろうな、この場所はよ」
「うむ。確かに不可解な場所だね。しかし……ここはそもそも、本当に日本なんだろうか?」
「あーあー、俺たち故郷に帰れるのかね」

「お前たち、無駄口叩いてないでとっとと仕事に戻れ!!」

『ぅいぃーっす』

「ったく、お前らは……」

「隊長、しかしアレですね。昨日もまた、錯乱したやつが出たんですよね」
「ああ、僕も聞いた覚えがあるね。確か、隣の隊の者だったかな」
「可哀相になぁ……思い詰める奴だったんだろうなぁ」

「ん……まあ、否定しても仕方ないか。あんまり触れ回るなよ」


 威海において発生する問題は、送り込まれる人々に二の足を踏ませるには十分な要素だったが、それでも政府は次々と派遣人員を送り出して行った。この特異空間には、全ての問題を取るに足らぬ要素におとしめる、この島国にとっては危険すぎる魅力を放つ、求めて止まぬものが存在していたからだ。


「あ、隊長、なんかまた向こうで鉱物資源発見したって報告がありましたよ」
「なに、またか?」

「今度は何の鉱脈だろうな」
「うむ、一昨日は油田が見つかったはずだね」
「タングステン鉱脈が欲しいなぁ。国産の戦車とか持ちたくね?」

「無駄口!!」

『ぅいぃーっす』


 初期の簡単な探索だけでも、この新たな世界には、近代化を進めるために必要十分な量を遥かに越えた資源が、果てることなく貯め込まれていることがわかっていた。

 当時の議員たちは、この発見報告を聞いた瞬間、馬鹿を言うなと怒鳴り返し、それが真実だと理解するや笑いが停まらなくなったという。それほどまでに、信じられない量の資源が多種多様に、取りつくせない程の規模で、この威海で確認されたのだ。

 様々な問題をはらみながらも、探索隊は次々と組織され、開発のために送り込まれて行った。


「はぁ……しかし、俺たちも大丈夫かね。最近俺、どうも変な声とか聞こえるんだよ」
「うむ、奇遇だなぁ。僕もなんか妙に変なものが見えるときがあるのだよ」
「俺も俺も。なんか、たまにちょっとしか力入れてないのに、飯盒がぐしゃって潰れたりすんだよ」

『いや、それはないだろ』
「いや、本当だって……」

「だぁかぁらぁ! お前ら、無駄口叩くなっ!!」

『ぅいぃーっす』

「ったく、まあ、お前らが此処を気味悪がる気持ちもわかるが、交代要員が来るまでの辛抱だ」

(……もっとも、交代要員が本当に送られてくるかも、怪しいところだがな)


 初期の探索における事態を重く見た政府は、人員の交代を一週間というかなり短い期間に区切っていたが、それも現場においては半ば以上無視され、数年単位で滞在する者たちがいくらでも存在するという、名目上だけの公約といった状態が長く続いたという。

 この劣悪な環境が改善されるまでには、まだまだ長い年月が、必要とされるのだった。



  1. 2007/05/05(土) 00:40:49|
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威海に関するアレやコレ 其の参





威海解析

──旧世界概念の復活──



 威海の開発が進むにつれ、どれだけ長い間威海に滞在しようと、何の変調も来さない者たちが存在することがわかってきた。更に言えば、彼らは異質な世界にあっても、こちらの世界と変わらぬ認識を保ち続け、さらにはより鋭敏な知覚能力、身体能力を獲得するものまで現れ始めた。


 政府は直ちにこうした人員達に対して調査を行ったが、結果として判明したのはにわかには信じがたい事実だった。


 彼らは総じて神社や寺の子息、祖父に拝み屋を持つ者、京における陰陽寮の没落貴族の子孫などといった、大半が近代化の過程で否定されてきた、非科学的な概念を司る者たちの末裔だったのだ。

 この近代科学の流れとあまりに逆行した要素の発見に、当初政府は頭を抱えたという。


「……どうしたもんかねぇ」
「くそっ! ありえんぞ? ただでさえ、あの場所は神隠しの行き着く先だなんて言われてんだっ!?」

「……あんまりにも超常的な存在すぎて、予算出すやつらも担当官を実地に運ばないと、場所の存在すら信じないぐらいだからなぁ」
「ようやく発見した、長く向こうに送っていても錯乱せんやつらも、神社や拝み屋だのの怪しい連中の末裔ばっかりだぁっ!? それどころか最近は変な力まで身につけ始めただなんて与太話、どうやって連中に信じさせろってんだぁぁ!!」

「……もう、あれだね。宮内省経由で、陛下の御英断におすがりするしかないかもね」
「うっ……や、やっぱりか。恐れ多いことだが、仕方ないか」


 威海は神隠しの行き着く先。既存の常識外の空間である。むしろ、そうしたオカルト的な要素で対処できるのが道理というものだろうと、色々と一騒動あった後で、最終的には納得した。

 もとよりオカルト的な事柄に対して、寛容なお国柄もあっただろう。政府はこの事実を考慮に入れた上で、今後の威海に対する政府方針を計画していくことを決定したのだ。

 こうして、これまで発展して来た近代科学とは決して相容れぬ概念によって、この威海の法則は解析されて行った。

 しかし、近代化の過程で、オカルト的な知識は総じて衰退の傾向があった。また、それぞれが個人技能者によって長く秘匿されてきた技能だけあって、無数の異なる術式が乱立していたのが当時の現状だった。

 直ちにオカルト的な理論を体系的にまとめる必要があると理解した政府は決断した。国内のあらゆるオカルト的な技能者を中央に招聘し、一つの統合学府を設立したのだ。近代科学的な知識と区別する意味を込め、彼らの操る理法は【架学】と称される一つの体系的な学術知識として、まとめあげられていった。

 招聘された技能者は統一的な呼び名として、甲種・特殊技能執行者という呼称を与えられた。今で言う特殊技能執行者が、歴史の表舞台に初めて立った瞬間だった。




  1. 2007/05/05(土) 00:30:30|
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威海に関するアレやコレ 其の四





威海開発

──門の安定化技術の開発──



 政府主導で組織された統合学府によって、構築された【架学理法】に基づき、【威海】の開発は公的な支援の下、急激に押し進められて行った。

 大量の資源が次々と産出され、国内に建造された工場に流れ込む。製造された製品は内外問わず売り出され、獲得された外貨によって最新式の工作機械の設計図を購入、マザーマシンの研究開発にも資金が投じられ、国内の設備投資は加速度的な勢いで押し進められて行った。

 極東の島国は、未曽有の好景気に遭遇していた。

 数年後には、【威海】とこちらの世界を繋ぐ門を安定させる技術と、新たに門を発生させる技術が確立していた。


「ようやくここまで来たねー」
「うむ。ついに安定期に門を維持することができるようになった訳だね」
「もうホント長かったよなぁー」

「というか、交代要員来ても、結局うちの隊だけ、一度も内地に帰れてなくないか?」
「……言うな。どうにも、哀しくなって来る」
「だよなぁ……ああ、故郷が恋しい」

「ったく、お前らはまた無駄口を叩きおって」

「あ、隊長。すんまんせーん」
「以後、無駄口は慎みむ方向で善処しよう」
「しっかし、隊長、なんで俺らだけ内地に帰れなかったんですか?」

「一応、俺たちはこっちがわの精鋭部隊ということになっている」

『…………嘘くさ』

「ええぃ! 俺が言った訳じゃないぞ!! 本部のやつらが勝手に宣伝しやがったんだ!!」

「はぁ……やっぱそれって、うちの隊からばっか、変な能力持ちがでたからですかね?」
「むむ、確か正式な呼称がつけられていたはずだが……なんと言ったか?」
「なんたら特殊技能執行者とか言うんじゃねぇの?」

「それくらい覚えておけ! 甲種・特殊技能執行者だろうがっ!!」

「ああ、それですそれです」
「おお、言われてみればそうだったね」
「さすが隊長。神経質に無駄なことまで覚えてますね」

「くぅぅ……な、なんだってうちの隊はこんな規律が緩いんだぁっ!?」

「隊長の人柄でしょう」
「うむうむ。上を見て下は育つというやつだろうね」
「錯乱して人がどんどんいなくなるより、多少緩くても壊れない方がマシですよ」

「……まあ、それもそうだな」

 この頃になると、威海における長期滞在を可能にする結界技法もある程度の発展を見せていた。この成果が過大に宣伝された結果、派遣人員の威海における滞在期間は延長され、当初の交代期間であれば、何の問題もなく内地に帰れたであろう人員たちにまで、深酷な問題を発生させていた。こうした問題が解決するまでには、いましばらくの時を待たなければならなかった。

「しかし、こんなに資源運び出して大丈夫なんかね?」
「うむ、確かに心配になるね。ここからこれでもかというぐらいに大量の資源を運び出して、次々と外貨に変えている訳だ」
「絶対怪しまれてるよな。本来出るはずのない鉱物資源とかじゃんじゃん輸出してるしさ」

「……確かに、そろそろ隠し通すのも限界だろうな」

「でも、正直言って、ここの存在バレたらまずくないですか?」
「これだけの量の資源を産出することがわかったら、攻め込まれる可能性は否定できんだろうね」
「げぇ、戦争とかもう二度とゴメンだよ。俺、要塞攻めが今でもトラウマなってんだぜ?」

「まあ、あまり心配するな。新しく門を開く方法を研究してる連中の話だと、一つ一つの門が繋がる先はそれぞれ別の場所らしいが、どこもここと似たようなもんで、資源がゴロゴロしてるって話だ」

「はぁ……つまり、時期を見て門の発生方法を公開して、一人勝ちを止めると」
「ふむ……確かに、変に恨み買いすぎても怖いという考えか」
「そんで俺たちは門の安定化技術を発展させて、門を持った国からパテント料を搾り取ると」

「そういうことだろうな。まあ、詳しい部分は上の連中が判断することだ」

「俺たちは穴掘るだけってことですね」
「いったい、いつまでこちら側に居ればいいのだろうね?」
「はぁ……故郷が恋しい」


 新たに発生された門は、それぞれが独立した空間と繋がっていることも確認されたことで、もはや門を安定化させる技術を除けば、【威海】の存在するという情報を独占する意味も薄れていた。(門の発生技術が洩れたところで、繋がる先が別の空間であれば、他の列強との間に対立が発生する可能性も薄いという判断の下だった)

 その頃には、列強の末席につらなるとは言えども、本来なら無資源国でしかなかった島国のあまりに突然の好景気に、世界中の国々が多大な不審感と興味を抱いていた。

 政府としても、【威海】の存在をいつまでも隠し通せるはずがないと理解していたのか、同盟国経由で、【威海】の発見と【架学】という新たな学問体系の存在を、虚偽を交えつつ、徐々に流して行った。

 そして高まる他の列強の不審感と要求を前に、ついに威海門を開く過程を示す公開実験が、世界的な場で行われることが決定されるのだった。




  1. 2007/05/05(土) 00:21:05|
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威海に関するアレやコレ 其の五





威海公開

──列強の参入と帝国主義の終焉──



 高まる他の列強の不審感と要求を前に、ついに威海門を開く過程を示す公開実験が、世界的な場で行われることが決定した。

 どの国も当初伝えられた実験内容のあまりの荒唐無稽さに、失笑を漏らしたという。

 だが、単なる妄言と取るには、あまりに極東の島国の発展は急激なものだった。半ば以上興味本位で、列強の主賓は実験会場に足を運んだという。

「空理架学法による異次元空間へのゲート構築実験……? これは我々を馬鹿にしているのか?」
「空理架学……この国の言葉で言えば、現実では役に経たない理論で作られた、空想じみた学問体系。皮肉が効いてていいと思うけどね」

「…………やれやれ、この国のやつらは、なんとも理解し難い事をするものだ」
「東方の神秘、ヤオロズのゴッドというやつだろうか? トウゴウも軍神に数えられていたかな?」

「ふんっ……神が無限に存在し得るなどと信じる者たちが生み出した学問など、到底信用できたものではないな」
「だが、この国が出所不明の資源を大量に抱えていることは事実だぜ?」

「むっ……まあ、少なくとも何がしかの情報を本国に持ち帰る必要はあるか」
「最悪の場合は開戦も止むなし、だったかな」

「……欧州で大戦がようやく終わったばかりだ。少なくとも、もうしばらくの間、戦争は止めておきたいものだな」
「ああ、それに関しては同意するよ」


 実験会場には、各国の研究者も多数招聘され、実験が行われた。

 結論だけ言えば、実験は成功した。

 そして、この実験結果に、世界中が仰天した。まさしく、ひっくり返った。

 【威海】の存在は、既存の世界の枠組みを破綻させるに、十分過ぎる要素を備えていたからだ。

 わざわざ遠方に領土を求めずとも、門の発生技術までこぎつければ、【威海】という安定した資源地帯を自国の足元に確保することが可能だった。しかも、門の先に広がる世界は、手つかずの未踏の地であるのだ。

 驚愕の程が理解できるだろう。

 これまでのインフラ整備にやたらと資金がかかる上に、通商経路の維持に膨大な軍事費を必要とする植民地政策。安定した国内に、幾らでも管理可能な手つかずの領土を入手可能な【威海】。両者を比較すれば、どちらが好ましいものかなど言うまでもあるまい。

 結局、問題になるのは、金であるとも言える。

 列強はこぞって、この新規世界に関する情報を提出することを極東の島国に求めた。

 島国も他の列強との全面的な対立を嫌ってか、交渉に長けた同盟国経由で、威海の発生技術を段階的に公開していった。これはいまだ社会資本の面において、他の列強諸国との総力戦には耐えられない状態にあった島国の止む終えない判断だったと言われている。(一方で、このまま帝国主義が進んだ先で、他の列強との間に全面戦争が発生する可能性の芽を潰そうとしたという説もある)

 あまりにも呆気なく、威海に関する情報は世界中に広まって行った。その理由としては未だ諸説あるが、こうした威海関連の情報公開が、どこまでが政府主導の下、計画的に行われたものであったかは、疑問の余地が残る所だ。

 門の安定化技術に関しても、当初の政府方針としては、当面の間は情報公開の見送りが決定されていた。しかし、お人好しな国民柄とでも言うべきか、個人的に各国へ指導に訪れた研究者の手によって、気付けば世界中に広まっていた。

 ともあれ、こうして広まった威海の存在によって、ほとんどの列強は必要最低限の領土───安全保障上問題あると認められる場所───を確保すると、その他の重要度の低い領土に対して、次々と独立を認めていった(独立を認めると言えば聞こえはいいが、実質放り出したに等しい)

 こうして帝国主義は呆気ない終焉を迎え、世界中の国々は一斉に自国の勢力圏内に引き籠り、それぞれの国々が保有する【威海】の開発に明け暮れていった。(この開発過程において、かつての植民地から大量の人員が秘密裏に投入され、酷使されていたなど様々な黒い噂が囁かれているが、情報の真偽は定かではない)

 もちろん国家間の交流がなくなったことは意味しなかった。かつての宗主国と新興の独立国との間には経済的な支配関係が確立されていた地域も少なくなかったし、工業力における技術的な格差や、外部に市場を求める必要性も存在していた。

 しかし、それでももはや無理をしてまで外界に新たな領土を求めずとも、ある程度の【威海】を確保していれば、それぞれの国々が独自にやっていくことも、さして難しくはない程度の資源を確保することが可能となっていた。

 市場の拡大に伴う経済的な問題から生じた小規模の経済戦争ならば、それなりの頻度で発生したが、もはや総力戦と呼ばれるような、どちらの国にとっても疲弊しかもたらさない大規模な世界大戦は起こらなくなっていた。

 こうして、国家の予算の中でも最大の金食い虫たる軍事費は徐々に削減され行き、世界中の大味な軍事力が緩やかに衰退して行った中で、それは起きた。

 ───威海からの侵攻である。




  1. 2007/05/05(土) 00:10:37|
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威海に関するアレやコレ 其の六





威海侵攻

──威海侵攻、大戦の勃発──




 ───威海からの侵攻。それはあまりにも突然、発生した。

 既に世界中に威海の存在が知れ渡り、浸透していた時期だ。この突然の侵攻は、世界中を混乱の渦に叩き込んだ。

 しかも、侵攻してきた相手とは人類ですらなかった。
 悪魔、妖物、精霊、悪霊───あらゆる国の伝承に残された、近代化の過程で否定されてきた概念存在、人類以外の存在より発生した異相具象体の現実世界への顕現だった。


「ちっ……何だってんだ、やつら? 機銃がまるで効いてないぞ?」
「蟹とか虫? ふむ、角がいっぱいあるな。甲殻類というのだろうか、ああいう生き物とは?」
「でもさ、生き物なら、鉛玉にぶち当れば普通に死ぬぞ?」

「……お前ら、この後に及んで緊張感のカケラもないな」

「あ、隊長。ごくろーさんです」
「うむ。僕らが緊張感ないのは、今更の話だからね」
「そうそう。もうこんだけ長くこっちで過ごせば、ああいうやつらが攻めてくるのも、さして意外性のカケラもない展開ですしね」

「まぁな……俺も上に再三警告してたんだがなぁ。こんな薄気味悪い空間だ。絶対に何かがいるはずだとな。まあ、結局こうなるまでわからんかった訳だが」

「まあ、こっちに来たことのないお偉いさんじゃぁ、理解できない認識でしょうねぇ」
「であろうね。僕らみたいに長くこっちいると、かなり高い確率で、異常な声や存在を感じ始めるもんだけどね」
「隊長がお仲間なおかげで、うちの隊はけっこう装備を整えられたから、マシな方なんだろね」

「できる限りのコネを使って、かき集めたからな。しかし、それもこのままだと焼け石に水だな」

「ですね。正直言って、碌に装備もない他の部隊はどんどん喰われてますよ」
「スコップだけしか配られてない隊は悲惨だろうな。うわぁ……果敢精神で突撃命令を出している場所まであるしね。この陣地ももって、あと数時間といったところか」
「げっ、もしかして、接近戦とかやらにゃらんの? 絶対やだぞ、俺。どんだけ豆鉄砲でもいいから、せめて相手にきちんと通用する装備を用意してくれないと、無駄に死ぬだけだって」

「まあ……な。砲撃も一応損傷を与えているようだが、あまり効果的には見えん。こりゃ、かなり手痛い戦訓になったな。やはり、架学理法とかいうやつを本格的に軍事技術に導入する必要があるだろう」

「架学ですかぁ……正直、使えてるらしい俺らにも、よくわかってないのに大丈夫ですかね。こんなことなら、もうちっと真面目に剣術勉強しとけばよかったなぁ」
「力が少し強くなる、変なものが見える、耳が良くなる……僕らを見る限りでも、効果的に使えそうとはとてもとても言い難い能力が多い所だしねぇ」
「国に帰れたら、じいちゃんに退魔法とかきちんと習うかね。はぁーやだやだ」

「ったく、お前らは……ん? あれは……撤退信号か! 喜べ、ようやく国に帰れるぞ。戦略的撤退、開始!!」

『ぅいぃーっす!!』


 大戦の経過に関しては、ここで詳しく述べることは止めておく。

 ただし、この第一次威海侵攻によって、科学とは相容れぬ技術と見なされていた架学が、本格的に軍事技術として導入され始め、現在における物理科学とオカルト技術の融合した学問体系の基礎が築かれたということは覚えておいて損はないだろう。

 この大戦を通して、架学は急激な発展を遂げた。架学理法を駆使する甲種・特殊技能執行者達もまた常に前線に立ち、目覚ましい戦果を上げたという。

 特に名を知られている者たちを上げるならば、最初期の探索から常に威海に詰めていた精鋭部隊が有名だろう。この部隊には、後に決定的な勝利を人類にもたらすことになる希代の天才退魔術師、東堂勘九郎の名や、後に歴史の流れの中に消え去った、非業の最期を遂げたと言われる空理干渉技能発案者、春日井怪奇の名も確認できる。

 しかし、そうした例外達を除けば、特殊技能執行者達の損耗は激しいものだった。すべてが終わった後には、大戦に参戦した特殊技能執行者達は、膨大な数の戦死者を計上していた。

 そして戦後、こうして著しく減少した特殊技能執行者を保護するという名目の下、議会に掛けられた法案こそが───代行職制度に他ならない。

 今では大規模な威海からの侵攻は止んでいるが、それも人類の保有する結界技法の技術が、威海に存在する異相具象体の力を辛うじて押さえ込んでいるに過ぎない。

 我々の暮らす世界とは、意外に脆い前提の基に、成り立っているのである。


  1. 2007/05/05(土) 00:00:32|
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威海に関するアレやコレ あとがき



うん、まあ、そんな感じの歴史が代行職世界ではあったのさーという話しでした。
……かなり火葬っぽい内容だけど、まあ、書いたことに後悔はしない。

しかし、何だか書いてるうちにテンション上がって、楽しくなってきましたよ。
大まかな歴史的な事件だけ追っていく書き方も、馴れれば異様に楽しいもんですね。

本編の構成に少しだけ触れると、基本的に威海で会話してた人たちは、どの回も同じ登場人物達です。隊長と部下三人。そのうち彼らの大戦時の活躍に焦点当てて、銃弾と術式と人型決戦兵器の入り乱れる戦場を書いてみたいところですな。一部かなり難しい妄想入った発言ですが。
実現するかは未定。

いろいろとグダダウなまま、また次回ー


追記

また、今回の話しは前に書いた小ネタに会話文を加え改良したもんです。
折角なので、軽くする前の文章も以下にさらしと来ますな。

【追記を読む】
  1. 2007/05/05(土) 00:00:07|
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