全手動軽文量産機

──A.L.M──

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8/29 まだまだ行けたぜメルツェェェル!


 ってことで、焦りまくってるけど大丈夫かなウェールズ憑依5-2をUP。
 さすがに連日更新とかは無理なんで、今回はこれで締めとなりますがw

 なにはともあれ、とうとう原作時間軸に突入!
 しかし既に7巻相当のイベントが起こってる3巻+微16巻なカオス溢れる情勢に。
 いまの感じだと五部の3、4、5話が前中後編みたいな連続した話の構成になりそうですな。
 それではまた

9/05追記
 最新話の誤字を修正しました。ご報告ありがとうございます。

以下、いつもの(ry
 お勧めにあるの以外で、連載追ってるリスト→読んでるリスト(作品傾向のみ付加)
 ほぼメモ帳の単なる既読一覧に過ぎないので、いずれ機を見て消す予定が、気付けば(ry

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  1. 2009/09/30(水) 21:08:00|
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8/27 ようやく復活したぜメルツェェェル!


 管理ページ開いたの三ヶ月ぶりだぜメルツェェェル!
 放置のし過ぎで感想開くの怖いぜメルツェェェル!!!
 新刊のデルフにタバサ姉妹と次々判明する新事実に筆が停まること甚だしいぜメルツェェェル!!!
 だから四部最後は後で補完が効くよう欠番させてやったぜメルツェェェル!!!
 そんな訳で今日は第五部掲載一発目だよメルツェェ(ry

 なんかホント、放置して申し訳ありませんでした!!


以下、いつもの(ry
 お勧めにあるの以外で、連載追ってるリスト→読んでるリスト(作品傾向のみ付加)
 ほぼメモ帳の単なる既読一覧に過ぎないので、いずれ機を見て消す予定が、気付けば(ry

  1. 2009/09/28(月) 01:22:53|
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人類は接触しました その一


              【1】



 コンクリートジャングルです。

 グルグルなのです。

「ケホケホ……」

 夜のひんやりした風が肌を撫で上げ、思わず咳き込んでしまいました。

 夜半の山間部はひたすら冷えます。周囲に立ち込める靄が視界を覆い隠して、まさに一寸先は闇の状態。

 霞の向こうから仄かに見える月明かりも、周囲に点在するコンクリート造りの廃墟群を虚しく照らすのみ。まったく現在位置がわかりません。

「だいじょぶですか?」
「ええ、大丈夫。少しむせただけですから」
「それはよかた」「よかよかです」「さんそのおせんはしんこくだな」「きょうもかいがんせんはじょうしょうちゅうよ」

 すぐ足元からこちらを心配そうに見上げる、10センチサイズの知性体──妖精さん達の姿がありました。わたしは彼らに心配ないと微笑みます。

 そう、妖精さん。

 極端に短い頭身にボタン一つつけただけの厚手の外套。三角帽子を載せた頭に、ちんまい手袋とブーツ。
 誰もが似たような姿をしていますが、まとう衣装は色とりどり。アクセントとしてアクセサリのようなものを、一人一人が身につけています。

 わたしたち人類が初めて接触した、ヒト以外の知性体。それが妖精さんです。

 かく言うわたしは、そんな妖精さんと人間の間を取り持つ専門家、国連が満を持して新たに設立した調停官だったりします。
 いまだ新設されたばかりの役職ですが、人類の中でも上から数えた方が早い重職となることは確実。
 所謂、超エリート候補なのです。

 ……実際に行った仕事は、妖精さんたちにお菓子を振る舞ったことぐらいなのですけど。

「どしました?」「さむいですか?」「さむさむ?」「あたためますか?」
「是非お願いします」

 最後の発言者に縋り付き、震える手足を擦りながら待つこと数秒。

「できました」
「さすがです、妖精さん!」

 目の前で盛大にたき火が焚かれていました。あまりの早業にグッと拳を握り称賛します。

「いやーてれますな」

 てれてれと恥ずかしそうに頭を掻く妖精さん。彼らは総じて照れ屋さんです。

 わたしは冷えた身体を温めるべく、たき火のすぐ側に腰を下ろすと、そのまま両手をかざします。

 パチパチと燃え上がる炎に、モクモクと吹き上がる煙。

 ふとした拍子に、意図せず煙を大量に吸い込んでしまいました。
 激しくむせ返る自分の姿を予期して、胸元をぎゅっと抑えるわたしでしたが。

「……あら、苦しくない?」

 むしろ、何故か口の中に広がるデリシャスな味わい。

「けむりのにさんかたんそ、けっこうあぶないので、かわりにあじをつけてみました」
「それはもう煙ですらないのでは……」

 よくよく見てみると、たき火の炎はまったく揺らぐことなく一定の温度と明るさを保っています。
 厳密な意味では、たき火ですらないのかもしれません。

「ちなみに、さばあじです」

 どおりでちょっと生臭い風味があるわけです。

 どのような原理でそんなこと可能にしたのか、なんてことを考えてはいけません。
 妖精さんはとかく不条理な存在なのです。

 きゃいきゃいと妖精さん達はたき火を囲み、わたしの持参したお菓子を食べながら、それはそれは楽しそうに盛り上がっています。

 盛り上がる彼らを横目に、わたしは空を見上げます。真っ暗な空に、星は見えません。

 現在、何度目かの大規模な文明の再編期を迎えた人類は、これまでのヤンチャを反省して、自然の復興を当面の目標に据えていたりします。
 結果として、文明の力は一部地域に集中。都市部から一歩離れると、そこでは野生の王国が着々と領土を広げる光景を目の当たりにすることができます。

 そして、ここはそんな野生の王国。都市部から僅かに距離を離した山間部。
 生還する為の道標が、そう簡単に見つかるはずもありません。

「はぁ……どうやって帰りましょう」

 はたして、わたしはお家に帰れるのでしょうか?

 話の発端は、数日前にさかのぼります。


  1. 2009/09/20(日) 00:50:14|
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人類は接触しました その二


              【2】



「ふむ。これでお前も調停官か」
「はい」

 ええ。もはや引き籠もりなどとは言わせません。
 国連職員であることを示す蒼の制服に身を包み、誇らしげに胸を張るわたしに、何故か所長は胡乱な視線を向けます。

「返事だけは良いな。まったく、お前は昔からまるで背が伸びないくせに、胸ばかり大きくしおって」
「セクハラは親族でも重罪です、所長」

 人の身体的特徴をあげつらうなど、鬼畜の所業と言わざるを得ません。

「あーわかったわかった。そう睨むな。わたしも今後気をつけるから、お前もその無駄に作った話し言葉を止めろ。どうせ身内しかおらんのだ」
「ですが、おじいさん。折角の初出勤。御同僚となる方々にはきちんとした挨拶をしないと……」

 少しでも心象を良くしようと、にこにこ笑顔のまま室内を見渡します。
 何故か昼間から薄暗い室内に、適当に配置された事務机が三つ。よく使い込まれた机は、おじいさんのものでしょう。
 そこから僅かに離れた位置に、新品のものと僅かに私物の置かれた机が二つ並んでいます。
 パーテーションで区切られたスペースには、応接用のソファセットが一式見えるものの、あとは何もない空間が、ガランと広がるのみ。

 すごく、閑散としています。

 疑問符を浮かべるわたしに、おじいさんはこともなげに付け足します。

「ああ、職員はここに居るものがすべてだ」
「え?」
「だから、現職の調停官は、わたしたちですべてだと言ったんだ」

 またまた、ご冗談を。

 調停官は人類が新たに接触した知性体との間に穏便な関係を形成すべく、《学舎》の中からも選りすぐりの人材が揃えられている訳で、そんな場末の閑職のごとく引退間際の老人といまだ使えもしない新任者のみで職員が構成されるはずが。

「現実を見なさい」
「一から説明を求めます」

 もっともだと、おじいさんは頷きました。

「どう説明したものか……お前は《学舎》の五期生だったか?」
「はい。栄えある選抜コースの一人です」
「ふむ……もう情報すら回していないということか」
「ど、どういう意味でしょうか?」
「なに、一言で足りる」

 おじいさんは大げさに肩を竦めてみせます。

「つまり、お手上げになった訳だ」
「はい?」

 目が点になりました。まったく理解できません。

「まあ、面食らうのも当然か。一から説明するぞ?」

 コクコクを首を頷かせて、わたしは混乱する思考を無理やりおじいさんの話に傾けます。

「確かに彼ら──妖精と呼ばれる知性体の発見は人類にとっても福音となった。当然だな。この広大な宇宙に芽生えた知性の持ち主は人類以外も存在した。そう、我々は孤独ではなかったのだと……」
「ロマンに関連した事柄は省略する方向でお願いします」

 手を上げて先を促すわたしに、おじいさんはあからさまに不服そうに眉をしかめました。

「……ロマンのわからん奴め。つまらん」

 しかし、夢でご飯は喰えないのですよ。

「あーわかったわかった。そう睨むな。ともかく、そうして我々は妖精を隣人とするに到った訳だが」

 曰く、彼らは総じて人類の常識からぶっとんだ存在であったと。

 人類の蓄積した科学技術などなんのその。一夜で機械文明を築き上げたかと思えば、翌日にはブリキおもちゃで遊んでる。単純にいまだ未熟な知性体なのかと思えば、人類側がいまだ読み解けていない高度な数式をあっさりと読み解くなど神掛かった能力を示したりもする。まさしく不条理存在。

「結局、五年でも長く持った方だったな」

 時の流れとは残酷なものです。
 調停官制度が開始されてから、今年で僅か五年目。
 おじいさんは調停官の立ち上げから業務に関わり続けた最古参の一人でした。

 しかし、あらゆる分野のエキスパートが集められて始まった妖精に対する調査は、逆にあらゆる分野の専門家が集められたことが災いして、妖精さん達の不条理な技術力が、彼らの専門分野に対する矜持を、ペンペン草の一本も生えなくなるほどまでに蹂躙する結果を招き──

「先月、ケリーのやつがナヴィエ・ストークス方程式を一般解で示されて吐血しながら入院。そのままリタイアしたのを最後に、調停官は全滅した」

 チームそのものの崩壊をもたらしたのでした。

「補充もしばらく来ないだろうな。まがりなりにも、お前という人材は寄越したわけだから」

 わたしはしばらくの間、呆然と言葉をなくします。

「そ、それほどまでに妖精さん達と付き合うのは、過酷な行為なのでしょうか?」
「……」

 調停官達が全滅するまでの壮絶な経緯を耳にして、少し気押されながら尋ねたわたしに、おじいさんは無言のままデスクに手を差し込むと、なにやら一冊のファイルを差し出しました。

「これは?」
「お前の前任者達が記した業務日誌の中でも、比較的まともな方のものだ。とりあえず、参考にしなさい」

 おじいさんはデスクに腰掛けると、そのまま何処からか取り出した刀剣の手入れを始めてしまいました。

 文明の再編期を迎えた人類は、自給自足体制を新たに再構築する一環として、かつて磨き上げた狩猟技術の再興を目指していたりします。結果として、血気流行った若者たちから隠居を考え始めた老人に至るまで、男性の方々は狩りに使う道具に対して、偏執的なまでの情熱を傾けるようになりました。

 それはおじいさんも例外ではなく、狩りに使う道具の手入れに入った彼を動かす言葉はありません。

 わたしは渡されたファイルを胸に抱え、一人どうしたものかと立ち尽くします。


「おじいさん、最後に一つだけ」
「なんだ?」
「ファイル作成者のご年齢は?」
「ふむ、わたしの五つほど上だったかな」
「……そうですか」


 ちなみに、日誌に記されたタイトルは、次のようなものでした。


 『形而上学的存在に関する業務定例報告』
     ~ようせいさんとぼく~


 すごく、怪しいです。



  1. 2009/09/20(日) 00:45:27|
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人類は接触しました その三


              【3】



『×月○日

 ついに人類は自らと同等あるいはそれ以上の知性を持った存在と接触を持った。
 はたして、彼らはいかなる存在なのか? 明日に調整を控えたいま、興奮をおさえきれない。
 一学者に過ぎない私だが、彼らと良好な関係を築いて行きたいものだ。


 ×月○日

 数人の妖精と親交を持つことに成功した。
 どうやら彼らは高度な科学技術を持ちながら、ひどく純朴な性格の持ち主のようだ。
 だがそれ故に、私たちは彼らに与える影響を慎重に検討した上で、行動しなければならない。
 彼らの先を歩むものとして、人類は模範を示さねばならないのだから。


 ×月○日

 プロジェクトの開始から一月あまりが経った。
 当初は見守るべき存在と彼らを見なしていた自分が、今は恥ずかしい。
 彼らは我等人類の遥か先を行く存在だ。人類は彼らに学ばねばなるまい。



 ×月○日

 彼らと議論を交わす過程で、興味深い話を耳にした。
 南太平洋に沈む巨大な都市の存在。何百年かに一度、海面に浮上することもあるそうだ。
 しかし、旧き神々とは何のことだろう? 何処かで聞いたことがあるような気もするのだが……?
 ともかく、彼らにも宗教的な概念が存在するとは驚きだ。


 ×月○日

 先日の話から、ふとした拍子で思いついた物語を、彼らと語り合った。
 それは子供時代に私がはまったコズミックホラーをもとにした話である。
 思いのまま語る私の話を聞いた彼らは、何やら考え込んでいる様子だった。
 なにか琴線に触れる部分があったのだろうか? 何にしろ、一時の退屈しのぎになれたなら幸いだ。



 ×月○日

 ……最近みょうな夢を見る。冒涜的な幾何学模様をもった存在が病的なまでに執拗な視線をこちらに向ける夢だ。
 相手の輪郭はぼやけて明確な形を理解することはできないのだが、沸き立つ宇宙的な恐怖を抑えられない。
 いったい、あの忌まわしき囁きはどんな意味をもっているのだろうか……?



 ×月○日

 まさか……彼らは実在した……? いや……そんなばかな……だが……。
 ああ、今日もまた夜が来る。



 ×月○日

 いあ いあ くとぅるふ ふんぐるい むぐるい くとぅるふ るる───』


 バタン。


 気付けば、わたしは勢い良くファイルを閉じていました。

「うわー……」

 もう、それしか感想が浮かびません。



 翌日、読み終えたファイルを片手に所長室を訪れたわたしを出迎え、おじいさんは感想を尋ねます。

「どうだった?」
「外宇宙の驚異を感じました」
「……まあ、何事も生真面に考えすぎるなということだろうな」

 それで済ませますか。

「ちなみに、著者の方はどうなりました?」
「ピンピンしてるぞ。なんかインスピレーションを受けたとかで、ホラー作家に転向してるが」

 調停官からホラー作家に転職。すごい方針転換もあったものです。

「最近わかってきたことだが、わたしたちが彼らに与える影響は思いのほか大きい。それは同時に、わたしたちも彼らから大きな影響を受けるということでもある。命の危機に繋がるような事態だけは何故か起こらんが、それ以外はなんでも有りと思っておいた方がいいだろうな」
「それにしても、限度はあるような気もしますが……」
「まあな。だが結局、彼らのことは彼らに任せるのが一番だ。わたし達にできることは、彼らの状況を把握して記録する。その程度に過ぎん」
「それでは調停官が存在する意味がないのでは?」
「もとから過度な干渉は禁じられている。確かに、彼らの技術力は素晴らしいものがあるが……」

 わずかに遠い目をすると、おじいさんはぶっちゃけました。

「まあ、アレだからな……」
「アレですか……」

 まあ、言いたいことはわかりますが。

「とりあえず、彼らを単なる学術的な観察対象と見るのではなく、身近な隣人として、自分なりに彼らとの付き合い方を見つけることから始めなさい」

 そう言われましても、困ったものです。
 学舎で受けた研修はまるで役に立ちそうにありません。いったい何から始めたものか。

「おじいさん」
「なんだ?」
「ヒントを。ヒントをプリーズ」

 他力本願ばんざーい。

 最も効率的な道筋を真っ先に導き出したわたしに向けて、おじいさんは何故か痛ましいものでも見るかのような視線を向けてきました。

「まったく……お前というやつは……まあいい。確か、お前はお菓子作りができたな」
「はい」
「彼らは甘いものが好きだ」
「はい?」

 惚けるわたしに、おじいさんは数度咳払いを挟むと、より簡単な言葉で言いなおします。

「つまり、まあなんだ、餌付けできるということだ」


 餌付けときましたか。

  1. 2009/09/20(日) 00:40:00|
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人類は接触しました その四


              【4】



 不思議と人間が大勢暮らしている地域では、妖精さんの姿を見かけることはありません。
 必然的に妖精さんと接触を持つ調停官の事務所も、都市部から離れた場所に置かれることになります。

 それ故に、事務所から一歩足を外へ運べば、そこは大自然のど真ん中、などという状況が容易に成立する訳です。
 職務内容を考えれば、本来歓迎すべき措置なのでしょうが。

「あら……?」

 気付けば、周囲はまるで見覚えのない場所でした。

 おじいさんから頂いたヒントを下に、妖精さんと親交を持つべく、お菓子をポシェットに詰め込み、意気揚々と事務所の裏手にある山道へ向かったわたしでしたが。


「ひょっとして、わたし迷子になりました?」


 視界の先に広がる、破棄された都市のビル群。その隙間を縫うようにして生い茂る草木の数々。

 コンクリートジャングルです。

 グルグルなのです(錯乱中)

 遭難した場合は、なるべくじっと動かず救助を待つのが一番ともいいます。
 しかし、混乱したわたしは闇雲に足を動かし続け、ますます深みへとはまっていきました。

 画一的な造りの人工の熱帯林は、迷い込んだ者の帰路をたやすく惑わします。

 当然の如く、帰り道が見つかることはなく、とうとう疲労の限界を迎えました。


「はぁ……はぁ……」

 わたしはその場に膝をついて、大きくあえぎます。
 既に日は落ちかけ、周囲に霧のようなものが立ち込め始めていました。

 こ、これは、本格的にまずい状況かもしれません。


 思い起こせば、学舎では児童の体力をつけるべく、学問以外の教育課程もふんだんに盛り込まれていました。
 当時から、将来は主に頭脳労働を担当することになる調停官になろうとしていたわたしです。その種のプログラムを受講することに何のメリットも見出すことができずとも、そうおかしな話ではないでしょう。

 しかし、どれほど力を注いだとしても、複雑に入り組んだ学習カリキュラムから、あの悪魔的な体力育成プログラムを完全に取り除くなどという行為は、個人ではとうてい不可能な目標でした。

 数度の挫折と出会いの先に、わたしは決断します。志を同じくする仲間を集め、体力育成に関連したありとあらゆるプログラムの受講を可能な限り取り除くべく、一丸となって、特殊なカリキュラム作成ツールの開発に乗り出したのです。

 結果として、カレイド式、すごい、知的カリキュラムなる名を付けられた受講ツールが完成しました。
 わたしの卒業後も、このツールは後輩たちの間でひそかにやり取りされ、末端価格バイト幾らで取引されていると遠い噂に伝え聞いたことがあります。
 そう、もはや誰もがあの拷問に等しき悪魔的プログラムから解放されたのです。ああ、なんて素晴らしいことでしょう。


 ……ええと、なんだか、いよいよ思考が混迷を深めてきたような気もしますが。
 ともかく、今は少しでも体力を取り戻すべく、しばしの間休憩を取ることが先決でしょうね。

 覚束ない手先を動かして、水筒を取り出すべく、わたしはポシェットを開きます。
 そのとき、こぼれ落ちたクッキーが周囲に散乱。鼻孔を刺激する、シナモンの美味しそうな香りを周囲に漂いました。

「なんという失態でしょう……」

 いくら疲れているとはいえ、かつて学舎で主席を努めた身としては、あまりに屈辱的な失態と言えました。
 一度瞼を閉じて大きく呼吸を整えた後で、わたしは散乱したお菓子を広い集めるべく手を伸ばします。


 お菓子に群がる妖精さん達の姿が、目の前にありました。


「……あら?」

 視界に写ったものが、にわかには信じられず、数回瞬きを繰り返します。
 しかし、視界に写る妖精さん達の姿は消えません。一心不乱にビスケットにかじりついている様子が見えます。


 なんとも、あっさりとした遭遇もあったものです。


 どうしたものかと行動を躊躇っているうちに、フラフラとお菓子の魔力に引き寄せられる妖精さん達の数はますます増えていきます。

 このまま沈黙しているのは、いずれこちらに気付かれた際、もっとまずい事態を招きかねません。

 彼らの数が数十人規模に膨れあがったところで、わたしは恐る恐る声を上げます。

「あの……少し、よろしいでしょうか?」

 ビクリと一度大きく震えると、一斉にその動きを止める妖精さんたち。
 プルプルと震えながら、こちらを貫く無数の視線。
 耳が痛いまでの圧倒的な沈黙が、場に降りました。

「あ、あははは、その、ですね……」

 微妙に引きつった笑みを自覚しながら、わたしはどうにか友好的なコンタクトを図るべく、気付けば彼らに問い掛けていました。

「みなさん、こちらのお菓子も食べますか?」

 ポシェットのお菓子を示し、ひたすら餌付けの道をひた走ります。

 かたまっていた彼らは、不意に我に返ると、寄り集まって円陣。
 何やらひそひそと相談を始めます。

 しばらくすると、代表者らしき妖精さんがひとり前に出され、わたしと対峙します。

「にんげんさん、ごしつもんよろしいですか?」
「ええ、なんでも聞いて下さい」

 わたしの差し出したポシェットを指さすと、妖精さんは恐る恐る尋ねます。

「……ぼくらをたべる、あまいわな?」
「いえ、食べませんよ」

 というか、あなた方は捕食対象だったのですか……。

「よく、もりのなかまとかに、かじられますなー」

 妖精さんは、思いのほか過酷な自然環境の中を生き抜いているようです。


「どするー?」「こまった」「おいしそう」「いっそ、わなでもよくない?」「どういどうい」

 こちらが返した否定に、妖精さんたちは再び円陣を組んで相談を始めました。

 しかし、お菓子の誘惑だけは、どうにも堪えがたい様子。
 彼らの何人かは、既にポシェットに視線を向けたまま、ヨダレをたらしています。

 このまま放っておいても、あちらが崩れるのは時間の問題のようにも思われました。
 しかし、硬直した関係に突破口を開くのは、やはりいつでも行動以外にないでしょう。
 わたしはポシェットのお菓子を数個手に掴み、決断します。

「そーれ、召し上がれー」
「あー!」「おかしー!」「うまうまー!」「ぎゃぼー」「はっするはっする!」「これでかつたー!」

 わたしがポシェットから振る舞うお菓子に、本能に負けた妖精さんたちは次々と飛び付きます。
 それは同時に、わたしと妖精さんたちとの間に確固たる絆が結ばれた瞬間でもありました。


 ふふふ、チョロいものです。
 ニヤリと笑うわたしに、一部の妖精さんたちが震えながら何やら言葉を交わします。

「け、けいかくどおり?」「しんせかいのかみ、こうりん」「ぼくら、えるです?」「がーまー」


 ともあれ、これがわたしと妖精さんのファーストコンタクトとなりました。


 その後も、たき火にあたりながらお菓子を振る舞うわたしの下に集う妖精さん達の数は、加速度的な勢いで増えていきました。

 普段はあまり人の前に姿をあらわさない妖精さんですが、不思議と誰もが人間に好意的。
 あまり都市部で見かけないのは、好きすぎて大勢を前にすると緊張してしまうからという話です。
 逆に言うと、少人数相手なら妖精さん達もあまり緊張することはないわけで、思いのほか容易に妖精さんと親しくなることができました。

 ちなみに、妖精さんは場の楽しい度が上がると自然に個体数を増やすという摩訶不思議な習性があったりします。
 集合離散の法則と名付けられているそうですが、いい年した学者の方々が生真面目な顔で、場の楽しい度に関する議論を行っている場面を想像すると、少しおかしいですね。


 こうして騒がしい時は瞬く間に過ぎ去り、一夜が明けた翌朝、事件は起こります。


  1. 2009/09/20(日) 00:35:02|
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人類は接触しました その五


              【5】



 目覚めると、そこは雲の王国でした。


「こ、これは……?」


 地面から僅かに離れた位置を漂う白い雲。
 それらはいくつもの層を形成しながら広がり続け、まるで海原のような光景を目の前に展開しています。
 わたしの身体も半ば雲に覆い隠され、かろうじて首から上が突き出た状態です。

 空の上に浮かぶ雲とも微妙に組成が異なるようで、どこかゼリーの中にでも居るかのような不思議な感触が返ります。


「あー、にんげんさん、おきました?」


 雲海の上に立つ(比喩にあらず)妖精さんのひとりが、こちらに気付きました。

「おはようございます?」
「お、おはようございます。あの、妖精さん」
「はい?」
「この摩訶不思議な状況は、いったい……?」
「くものおうこく、つくってるですよ」
「雲の王国?」

「そうです」「かすみくっていきるせかい」「せんにんごっこ」「めざせきんとうん」
「はぁ……?」

 あまり要領を得た答えは返りませんでした。
 彼らは優れた知性を持っていることは確かなのですが、それを言葉で伝えるのは苦手なようです。

 よくよく周囲を見回してみると、雲海から僅かに高い位置には、ひつじのような形をした雲が無数に見えます。


 というか、メェメェと鳴きながら妖精さん達の後をついていっています。


「あ、あの、雲が羊で、羊が雲で、何故か動いて生きているようにしか見えないのですが!?」

 半ば錯乱しながらアワアワとひつじぐも(仮称)を指さすわたしに、妖精さんが自身も首を傾げながら答えます。

「んー、なんか、けむりいじってるうちに、ああなりました」
「けむり……?」

 言われて思い出すのは、昨夜わたしがお願いして付けて貰った、たき火。
 そこから立ちのぼる、何故かサバ味のするケムリ。


 内政干渉。若き調停官のスキャンダル。調停免許の停止。いつかやるとは思った。


 一瞬ですっぱ抜かれる自分の姿がイメージで浮かびました。

「い、いえ、そんなことはきっと起こりません」

 そう、大丈夫。ええ、かなりきわどいですが、あくまでこれは彼らの遊びの一つ。
 決して内政干渉の結果などではありません。そうに決まっています。おそらく、たぶん、きっと。

「にんげんさん、おきたー」「ねおきどっきり?」「おこっちゃやーよ」
「まくらえいぎょうか」「それなんかちがくない?」

 葛藤していると、雲で作られたかまくらのような住居から、わたしの目覚めに気付いた妖精さん達が次々と外へ出てきました。
 驚くべきことに、昨日は数十人程だった人数が、今では数百人規模にまで成長しています。

 今後の展望に思考を巡らせるわたしを余所に、妖精さんたちはなにやら手慣れた様子で、それぞれ活動に移ります。

 メェメェ鳴き声を上げるひつじぐもを放牧する妖精さん。
 雲海から僅かに高い位置を漂う、魚のような形をした雲にむけて、投網を投げる妖精さん。
 僅か一日足らずで、昨夜のけむりから発展した雲は、既に一つの特異な生態系を形成し始めているようです。


「あのー、にんげんさん、にんげんさん。おひとついかがでしょ?」
「あら……?」

 目の前に差し出されたのは、妖精さん達が捕獲していた魚のような形をした雲の一匹でした。
 確かに、昨日からお菓子しか口にしていないことを考えると、たいへんありがたい提案なのですが。

「……これは、はたしてわたしにも食べられるのでしょうか?」
「あんしんですよ? けむりのはってんけいなのでー」

 サバ味けむりの発展形ですか……。

 差し出されるまま、とりあえず受け取り、まじまじと『さかなぐも』を観察します。

 うっ、ピチピチとなにやら活きのいい様子で、手の中を蠢いています。
 ふわっとした雲であるというのに、やたらとリアルな動きです。

 衝動的にこのまま放り投げたくなりますが、そこは妖精さんの好意。調停官としては、受けざるを得ないでしょう。

 しばし躊躇った後で、わたしは覚悟を決めます。

「それでは、お言葉に甘えて一つ」

 手の中を跳ね回る『さかなぐも』をわし掴んで目を閉じると、わたしは口に運びます。
 ワタ飴のような不思議な触感を残して、一瞬で口の中に解け落ちる雲。

「……これは」
「どーですかー?」
「とても美味しいサバ味でした」


 ふわっとした外観とは裏腹に、すごく、魚味な雲でした。


「あー、やぱりそですかー」

 わたしの感想に、妖精さんはなにやら落ち込んだ様子で、ぐにゃりと膝をつきました。

「いえ、すごく美味しいですよ?」
「でも、ぼくらあまいくも、つくりたかったのですよ」

 どよーんと膝を抱えた体育座りで、口々にその後に続く妖精さん。

「きしょうかんりはほんとむずい」「たきびで、じょうしょうきりゅう」「もくもくですよ」
「そううんまではうまくいったがなー」「こうせきうんとかも、かってにできるしねー」「でも、なんかじりつしこうはじめるし」
「るなうぃるすまぜたの、よくなかたなー」「すいそどこでもあるからね」「へんいどうにゅうりつたかすぎよ」

 気象管理……ウィルス……変異導入率……?

 途中から発言内容がかなり不穏なものを含んでいたような気もしましたが、とりあえず、気にしないことにします。
 それよりも気になるのは彼らの言葉。

「そうですか……甘い雲ですか」

 あまいくもを食べたい。それは子供なら誰もが一度は夢見ることかもしれません。
 子供の頃はわたしも、様々な形をした雲を見上げては、甘いお菓子の味を連想したものです。
 たとえば、

「わた飴?」
『あー!』
「生クリーム?」
『あっあっー!』
「ショートケーキ?」
『あああああんー!』

 悶える妖精さんたち。とうとう我慢できなくなってか、一斉にヨダレを垂らして雲を見上げます。

「あまいくたべたいです」「でもうまくいかんとです」「ぼくらあまいものつくるのにがて」

 何故か、あれほどの超常的科学技術を誇る妖精さんたちでも、お菓子のような甘いものを作り出すのは苦手な様子。

「あまいはしあわせ」「しあわせはどこにある?」「みつからない」「にんげんさんやっぱすごい」

 うーん、ここはどうしたものでしょう?

 頻繁に妖精さん達へ干渉することは、調停官としてあまり褒められた行為ではないでしょう。
 しかし、このまま彼らと別れようにも、絶賛迷子中である所のわたしが、自力で家路に付くことができるとも思えません。

 しばらく考えた後で、わたしは決断します。
 ポシェットの中に入れておいた、簡易的なおかし作りの道具を取り出して彼らに提案。

「とりあえず、くもに砂糖と蜂蜜を混ぜ込んでみましょうか?」
『おおおおおおおおーーーーっ!』

 盛大な歓声が上がりました。


 こうして、わたしは妖精さん達の構想する「あまいくも創造計画」に参加することになりました。
 もとい、なってしまったのです。


  1. 2009/09/20(日) 00:30:02|
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人類は接触しました その六


              【6】



 ふわふわとした雲がどこまでも広がる白の王国。
 周囲から降り注ぐ熱い視線を背に受けながら、わたしは最後の作業を終えました。


「ふぅ、出来ました。これで完成です」
『おおおおおおおおーーーーっ!』


 妖精さんたちが歓声を上げ、雲海の中心に立つわたしを取り囲んではしゃぎ回ります。
 その様子はあたかも旧暦に鉄器を手にした古代人の如く、まさに大興奮の渦。
 彼らの夢が現実ものとして成ったことを、本当に喜んでいるのがよくわかります。

 そう、わたしの提供した砂糖や蜂蜜を核にして、妖精さんたちが裏技を駆使して作り出した甘い雲──すなわち、『あまぐも』さんがついに完成したのです!

 なお裏技が何かといった細かい突っ込みは、ここでは不要です。
 妖精さんは人知を超越した存在であるという大前提に目を向け、些細な疑問はばっさり切り捨てましょう。
 人類が彼らと円滑な関係を保つ為にも、ときに必要ない情報は無視することも必要なのですよ。

「に、にんげんさん」「ぼくら、しんぼうたまらんです」「おかしのゆめ、ここにたんじょう」
「ゆめ、はかないもの」「ゆめはおっても、りそうはおうな」「しびあだー」

 モジモジと甘い雲の周囲を取り囲みながら、どこかギラついた視線を向ける妖精さん一同。
 作業途中で手を出されてはたまりませんでしたが、もはやなにも遠慮する必要はありません。

「ええ。さあ、たんと召し上がれ」
『ピーーーーーーー!!!』

 一斉に飛び付く妖精さん。もはやそこには至福のお菓子を前にした

 あまりの甘味にひたすら我を忘れて群がる妖精さん。一部にはもよおしてしまった方々も見受けられます。
 わたし自身が大きく完成に寄与したものであることも考えると、感慨深さもひとしおです。

 ああ、なんだかちょっと快感。



 こうして誕生した『あまぐも』でしたが、そこは甘いもの好きな妖精さん。
 時を追うにつれ、あまぐもの生産量が爆発的な勢いで増えていくことになるのは、娯楽嗜好にはとことん拘る妖精さんたちにとっての必然だったのでしょう。
 ですが、まさかそれがあんな事態に繋がるとは……求める心というものは、かくも業が深いものかと実感させられたものです。




 あれから数日が経過……したような気がします。

 なんだか時間感覚が曖昧になってきているようにも感じますが、気にしたら怖いことになりそうなので、いまは気付かない振りです。なにごとも割り切りというものが人生には必要な要素となると、どこか諦観した《学舎》の友人はよく、そんな年寄りじみたことを言っていたものです。


 その間、食べるものは、ひたすらくも。くも。くも!
 霞を食べて生きる。そんな言葉を妖精さんの一人がどこかで言っていましたが、まさに今のわたしはそんな状態です。
 途切れることなく生産されるくもは、なにやら摩訶不思議な栄養価を備えているようで、体調はすこぶる良好なのは僥倖ですが。


 いま、わたしの周囲には無数のレンズのような雲が浮かんでいます。

 普通にお空を見上げれば目に入るような綿雲のミニチュアサイズ版。
 その名の通り綿菓子のような形をしており、上部はモコモコしていて雲底は平たいです。
 午後にはむくむくと成長し、たいていは夕方近くになると消えてしまうのが特徴と言えますね。


 しかしたとえ一時的に消えたとしても、雲の数を増やすのは簡単。
 ふわふわと浮いている雲の下の方から、掌やウチワなどでそっと扇いであげる。
 ただそれだけで、拡散された空気が雲を押し上げ、雲はより大きなものへと成長していきます。

 手拭いを巻いた額に汗を浮かべながら、背中に『祭』と大きく書かれた衣を羽織り、必死になってウチワをふって風を起こす妖精さん。
 彼らの一人に近づくと、わたしは雲海の上に並べられたウチワの一つを手に取ります。


「協力しますね」
「あ、どーもどーも」「おれおれえんごですな」「ありがたやーありがたやー」「きょしんへい、しゅつじんす」「これでかつるー!」


 妖精さんたちと比べて、身体の大きい存在であるわたしなら、わずかに腕を動かすだけで急激に雲は発達します。
 そう、身体の大きいわたしなら! いつも小さい小さい他人から言われていた、このわたしが、大きいと!

「えいやー!」
「にんげんさん、のりにのっておりますなー」「いいことです」「ぎゅっとしてどかーん」「かりすまか」

 妖精さんたちからの賛辞を背に受け、ますます調子に乗って大きく下から仰ぐこと数分後。
 むくむくと成長していく綿雲。妖精さんたちもまた、更なるあま雲の生産を求めて仰ぎ続けます。


 しかし、何事も限度というものがありました。

「あら?」

 気付けば綿雲はとてつもない大きさに成長していました。
 周囲には白いペンキを伸ばしたような、細いすじ状の形の雲が出現しています。
 中心で最高部から最低部まで貫く巨大な雲は、なにやらゴロゴロと不穏な音を立てながら、稲光を発していました。


「こ、これは……?」

 凄まじい勢いで降り注ぐ雨粒。止む事なき豪雨は雲海をみるみる浸水していきます。
 ついで雲から伸びる無数の竜巻がうねりを上げ、妖精さんたちを次から次へと空へ巻き上げていきました。


「あーれー」「すーぱーせーるー」「めそさいくおろろんー」「どっぴらーれーだー」
「ああ、妖精さん!?」


 とっさに手を伸ばしますが、荒れ狂う暴風に遮られ、誰にも届くことはありませんでした。
 かくいうわたしも、降り注ぐ雨が雲海の上を洪水のようにうねりを上げ押し寄せ、身体ごと流されていくのを感じます。


「あうあうあう」


 轟々と横殴りに降り注ぐ雨と、激しい勢いで流れ行く河川の氾濫は、あたかも聖書に記された大洪水のように。
 水に呑まれ意識を失う寸前、飛沫を上げる雨の甘い香りが、不思議と口の中に残りました。




              ■ ■ ■




「なにをしておるんだ、お前?」


 翌朝、わたしは事務所の前に流され、びしょ濡れで倒れているところを、おじいさんに発見されました。

 怪訝そうに見下ろすおじいさんに、わたしは最後の力を振り絞って、端的な事実を伝えます。


「山脈での、突発的な、豪雨には、注意が必要」
「は?」

「かゆ、うま、なのです」
「まったくわけわからんな」


 ……もう、放っておいて下さい。


  1. 2009/09/20(日) 00:25:46|
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人類は接触しました その七+後日談


              【7】



「ふはははっ、そんな面白いことになっていたのか」

 調停官の事務所。わたしの報告を受けたおじいさんが腹を抱えながら心底愉快そうに笑い声を上げます。

「……ひどいめに会いました」
「彼らのおかげで貴重な体験が出来たじゃないか」
「笑いごとじゃありません」
「まあ、彼らのすることだからな。憤るのもわかるが諦めろ」

 わたしが提出した報告書を添削しながら、おじいさんは面白そうに笑っています。なんともこ憎たらしいことです。

「擬似的な知性を有する雲か。それぐらい彼らなら作り出すのもたやすいだろうが……しかし雲、雲か。おそらくお前が最後に押し流されたのも、綿雲を発達させ過ぎて生じた積乱雲のせいだろうな」
「積乱雲というと、雷雨を伴うアレですか?」
「ああ。ときに雹や竜巻も伴うアレだ」

 思い浮かぶのは、激しい夕立などをときにもたらす自然の恵み。
 降り注ぐ場所が変わるだけでああも厄介なものになるとは、夕立も侮れません。

「まあ、台風が生じなかっただけ運が良い方だろう。なにせ台風のもつエネルギーは某クリーンエネルギーを使った爆弾数万個分に相当するとも言うからな」
「それはまた……」

 積乱雲ですら、あの勢いです。はたして台風が生じていたら、どこまで押し流されていたのやら……。改めて考えるとぞっとします。

 おじいさんは改めて報告書に視線を落とすと、今度は最初の表紙部分になにやら注目しています。

「ちなみに、お前は今日が何日だと思っている?」
「○月×日でしょう?」
「いや、それは明後日の日付だな。実際はお前が山に行ってたから、まだ半日も経ってない」

 事務机の脇に置かれた電波時計を凝視します。
 指摘された通り、刻まれる日時はおじいさんの言葉が正しいことを示していました。

「これは、いったい………?」
「お前の体感時間がズレていたのか。または、本当にお前のいた空間と外の時間そのものがズレていた、、、、、、、、、、、、、、のか。うむ、興味深い話だ」

 報告書の先頭に記された日付を指で弾くと、おじいさんはますます面白そうに笑みを深めます。

「古来より霞や煙の中は異界に通じるとも言う。今回のケースも、一種の神隠しと言えるのかもな」
「神隠しとは、大きく出ましたね」
「ふふ、そうでもないぞ。おそらく、せんにんごっことは仙人を指すのだろう。古来より神仙たらんと欲し霊山で修行を積む彼らは、総じて霞を喰らって生きたという。霊山に居を構える故に仙人は霞を喰らうのか、あるいは霊山で霞を喰らうが故に仙人と呼ばれる存在となるのか。はたして、どちらが先だったのだろうな?」

 鶏が先か卵が先か。結論を出すのが非常に難しい思考パズルの一つと言えます。

「でも、そうすると書物に残る仙人達は、妖精さんたちと親交をもった人間だったのかもしれませんね」
「あくまで可能性としての話だが、十分に考えられる推測の一つだろうな」

 なにより、ロマンがある。

 おじいさんは年甲斐もなく、そんな台詞で最後を締め括るのでした。





 後日談です。

 あの日から、事務所の裏手にある山道へ続く別れ道に、一本の立て札が立つようになりました。
 一本の棒に支えられたTの字状の立て看板で、肝心の立て札部分はなぜか矢印の形をしています。
 そして、矢印の中央部分には「おいしいくも、あります?」とだけ書かれています。

 看板の矢印が指す方向は、誰の手も借りることなく、日によって自然に変化していきます。
 最初は山道付近を指していた看板ですが、徐々に角度をずらして行き、最近はずっと空の遥か彼方を指し続けています。


 おそらくいま空を流れる雲の中にも、あの日創られた甘い雲のかけらが混ざっているのでしょうね。










 妖精さんメモ『食用くも』
  くもと名前はついていても、あくまで食べ物です。
  しかし、砂糖や蜂蜜で味付けをしない場合は、魚介類系の臭みが強い、パンチの利いた味つけになります。
  くもの下から扇いだり、くもの中を動いたりすることで、いくらでも増やすことが可能です。
  ただし、あまり急に増やし過ぎると、激しい雷雨を伴う積乱くもに発達してしまうこともあるため注意が必要。
  なお、くもの中と外では時間の流れが少しだけズレたりするので、長居には気をつけましょう。




  1. 2009/09/20(日) 00:20:38|
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四月期報告



『四月期報告』



 アラシヤマ渓谷妖精自然保護区では、新規職員の増員にともない、形而上学的知性保有体妖精類(以下、妖精)と人類の新規交流を試みた。

 当初、渓谷に潜む妖精との遭遇は困難を極めることが予測されたが、職員考案による交流法を実施した結果として、妖精との早期接触に成功した。

 なお、接触は職員が事前に検討に検討を重ねた上で実施するに至った計画に乗っ取り実現された予定通りの行動であったため、この時接触するに至った妖精に対しても慎重な対応が可能となった。

 この結果からわかるように、遭遇が偶発的な要素に頼ったものであるなどという事実は何処にもなく、対話においても不確定要素が発生する余地のない、まったくもって問題ない接触となった。


 その後、離散期にあった妖精の活動状態は集合期へと移行。近隣域に生息していた妖精の大半が集まったと思われる。
 人口が密集した個体数の一地点への過密集合化により、文化ならび科学水準の異常活性が認められるようになった。

 この時には、大気中に半固形化して浮かぶ水滴または氷晶(雲粒の一種と思われる)を用いた、妖精が『くも』と称する構造体を有する擬似的な生態系を創造するに至り、これらに対して牧羊と漁業に酷似した活動を行う妖精の集落が形成される過程が確認できた。

 人類種の文化活動を模倣する遊びを好む妖精の性質を鑑みるに、彼らが『くも』の飼育と育成に至るのはまったくもってごく自然な流れと推測できる。


 なお、これら活動の発端になったものとして、『くも』を最初に発生させた焚き火と思しき構造体が発見されているが、この創造に職員が関わったなどという言語道断な事実は断じて認められず、いったい如何なる要素が契機となりあのような活動が発生するに至ったのか、視察を行った職員としても首を傾げるばかりである。


 その後、『くも』は菓子類を好む妖精の嗜好に合わせ品種改良が施されるに至り、甘味を有するような構造体に変化。
 妖精の菓子類に掛ける情熱は広く知られるところだが、この新種の『くも』開発を契機にして、『くも』の無軌道な増産・育成計画が実施された。

 結果として緻密なバランスの上に均衡を保っていた『くも』種の生態系は破壊されるに至り、妖精の活動は離散期への移行を止むなくされた。


 既存の研究報告が記している通り、集合期は比較的短期(五~七日)で離散期へ移行する。
 しかし今回は前述したように、前例にない短期における離散期への移行が確認された。
 これは妖精という種族特有の、自らの創造物に対する持続的感心の希薄さを鑑みた上でも、不可解な結果と考察できる。


 如何なる要素が離散期への移行を促進させたかについては目下調査中であるが、解決の見通しは立っていない。
 職員の対応に不備があった可能性は否定できないが、人類が感知し得ない原因が存在する可能性も鑑みるに、過度な干渉を行ってまで原因を探るような、早計は避けるべきであろう。


 なお、今回妖精に創造された『くも』の一部が渓谷の上空へと拡散したようで、雨天時には地上からも僅かに甘味を含んだ水の粒が確認できる。

 今後『くも』が大気中に発生する水滴または氷晶と同化する事で、さらなる拡散を遂げたり変異・多様化するといった事態の発生する可能性も否定はできない。

 こうした結果を受け、『くも』の創造主たる妖精に対してより詳細なデータを求め調査を行うべきだという意見も出るだろう。

 しかし『くも』の成分に危険性は一切なく、日々発生する大気中の水滴または氷晶雲の絶対数と比較すれば、まったくもって問題にならない程度の量と思われる。

 内政非干渉の立場に立つ一調停官としても、過度な干渉により最悪の事態が発生し得る危険性を鑑みるに、やはり前述したように早計な調査に乗り出すことは賛同できない。


 そもそも集合期の妖精は文化水準が著しく上昇しているため、調停官は人類社会からの過度な影響が起こらないよう留意しなければならない。

 人類種と同等か、より高次の技術体系を有する妖精社会に対する過度の干渉は、調停理事会の理念に反するばかりか、調停業務そのものの存在意義を揺るがしかねないものである。


 そのような観点から考えても、担当職員の至った保留という結論は真っ当なものであり、そうした認識を導く過程においても恣意的な操作を挟み込む余地などあるはずもなくまったくもって実に本当に決してこれっぽっちも何の問題もなかった。


  1. 2009/09/20(日) 00:15:06|
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