全手動軽文量産機

──A.L.M──

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【──高町晴香/1回目──】


──【金曜日、朝】──



 これから新世界が始まる。

 地平の彼方を通り過ぎても、まだまだ甘いと言わんばかりに、どこまでも広がり続ける巨大校舎。

 そんな無駄にでかい建物を前に仁王立ちする少女が一人。未だ真新しい学生服を春風にたなびかせ、少女───高町晴香はぐっと握り拳を固め、決意を新たにするのだった。

 ちょうど登校時間の校門前ということもあってか、周囲を通りすぎる学園生徒の群れが、チラチラと通りすぎざまに彼女を見やる。当然、そうした視線には彼女も気づいていたが、この程度で羞恥を覚えているような余裕は自分にはない。そらもう皆無であった。

「あー、みてみて、あの娘またやってるよ」
「ホントだ。懲りないね、あの人。昨日も同じこと言ってたよ」
「なんか、初日も似たようなこと言ってるの見たな」
「マジかよ! よく最終日まで売れ残ってるよな」

「外野、うっさい!!」

 ギロリと視線を向けて一喝。わーと蜘蛛の子を散らすようにして、野次馬は直ぐにいなくなる。ふん、バカにしやがって。鼻を鳴らして去っていく生徒達を見やり、彼女は改めて校舎に向き直る。

「ええ──そうよ。わたし高町晴香は今日こそ、自らの所属する代行屋を決めてやるのよ!」

 自身の通う広大無辺の化けモノ学舎、烏丸学園本校舎。

 高町晴香は自らの熱い想いを言葉に込めて、一生に一度あるかと言わんばかりの壮絶なる決意を固めるのだった。


 ちなみに、これで六度目だったりする。



                 * * *



 新入生勧誘週間。

 そう名付けられた一週間が存在する。

 この週間に関して説明する前に、改めて烏丸学園の特色について触れておこう。

 まず烏丸学園が代行職専門課程を実施していることは誰もが知っているだろう。当然、この学園を志望している生徒の大半も、何がしかの代行職に就くべく、学園の入学を決めたものがほとんどである。

 また、烏丸学園には代行屋の活動を奨励している。代行屋とは、学生たちが主体的に運営する技能鍛練の場であり、限りなく実践に近い形で仕事を請け負ったりする学生組織の事だ。

 当然、代行職専門過程を実施している烏丸学園においては、代行屋の数質ともにどれも一線級のものばかりが揃っている。

 常日頃の組織運営においても、似たような職種の集まる代行屋が対立し合い、学園支給の定額予算の分配や、舞い込む数少ない仕事を奪い合う。まさに市場主義の原理に乗っ取り、苛烈な競争が繰り広げられているのが現状だ。

 そんな戦国時代もかくやと言わんばかりの様相挺する代行屋の乱世。有象無象の中から頭角を顕すために、各代行屋の職長が採るべき方針とはいかなるものか? 誰もが頭を悩ませ、散々試行錯誤を繰り広げた結果、至極単純な一つの答えに行き着いた。

 それは、すなわち───所属人員の大量確保である。

 学園に所属する生徒の意識は高く、学園では一般的と言われるような生徒が一人増えただけでも、かなりの戦力アップが見込めるのだ。故に、新規人員の獲得と所属人員の維持は、各代行屋職長達にとって、まず最初にぶちあたる関門であり、いつまでも頭悩まされる問題であった。可能な限り多くの人材を確保したいという答えに行き着くのも、当然の帰結というものだろう。

 閑話休題。

 さて、そんな目的意識を持った者たちが大量に入学してくるのがこの季節──新入生入学シーズンである。当然、各代行屋は新入生たちの所属を巡って対立し、新規人員の獲得競争はそらもー壮絶なものとなる。

 一昔前は、それこそ強引なんて言葉では到底収まり切らないような類の勧誘手段が我が物顔で横行し、いったいここは何処の暴力特区かと言われんばかりの無法っぷりが、入学シーズンが過ぎた後も延々と続いていた。過去形である。

 現在の生徒会長が一つの方針を定めたことによって、こうした暗黒時代は終焉を迎えた。

 それこそが───新入生勧誘週間の導入である。

 制度の内容は、しごく簡単なのものだ。

 入学から一定の期間、新入生の勧誘を禁止する。そしてしかるべき定められた一週間に、一斉に勧誘を開始、期間終了をもってすっぱり勧誘を諦めるというものだ。

 誰もがそらそーだと頷くような、さして目新しくもない制度だったが、そんなある意味当たり前の発想が何処からも出て来ない程までに、当時の勧誘競争は激化を究めており、荒れまくりの末期状態だったそうな。

 こうして誰もが至極納得の行く紳士協定が、生徒会という権力機構の決断により結ばれた。

 この取り決めによって、もともと自らの志向する職業が明確であり、所属する代行屋に当たりがついているような生徒は、安心して勧誘禁止期間に、強引な勧誘に悩まされることもなく、納まるべき所に納まることができるようになった。また所属すべき代行屋に迷っていたような生徒達も、この勧誘週間に集中して自らの所属すべき代行屋を選別することが可能になった。

 意外なことに、この制度は代行屋側にとっても旨味が大きかった。既に所属を決めているような意欲の高い人員が、ライバルの邪魔を受けることなく確保できたからだ。また、もともと余所に行く事を決めているような者たちに、無理をしてまで人手を割かなくてもよくなったこともプラスに働いた。

 だが、ここで誰もが考えなかったような、新たな問題が生じた。

 意欲の高い人員は既に勧誘週間に入るまでもなく所属を決めている。また、迷っている者たちの中でも、ある程度の目標が定まっているような者たちは、最初の数日ですんなりと所属先を決めてしまうようになったのだ。

 つまり、勧誘週間と言いながら、実質的には最初の数日で全ての勝敗は決しているのである。

 逆を言えば、最初の数日が過ぎれば、あとは惰性で過ぎさるのみ。目ぼしい人材は抜け落ち、残るはどこかパッとしない生徒ばかりなり、なんて事態が毎年のように繰り返された。

 数は力だ。でも、質もとても大事。

 至言である。

 巨大組織は其の巨大さ故に、自然と前評判のみでも、そこそこの人員が集まった。弱小組織は其の弱小さ故に、打ち出された専門性によって、それなりの人員が集まった。

 長く続いた暗黒期の経験によって、派手な勧誘活動はさして有益な結果をもたらさず、むしろ強引な勧誘活動に発展する危険性を秘めた愚作へと成り果てた。

 結果として、最初の数日を過ぎると、勧誘活動はパッタリと見られなくなった。もう花見の翌日の如く、もの悲しーい雰囲気が漂うのである。そうなると所属先が決まっていない者たちが情報を入手するには、直接歩いて稼ぐか、友人の伝を使う以外になくなってくる。


「───ということで、お勧めの代行屋があったらぜひ教えて欲しいなーって思うのよ」


 共通科目の休み時間。

 ふとした拍子に勧誘週間に話題が移り、高町晴香は友人二人にぶっちゃけた。かなり切実。

「…………なるほど。まだ決めてなかったのか、ハルカ」

 友人の一人は白衣に両手を突っ込んだまま、少しの間を置いた後で、至極冷静な動作で肩にかかった髪の毛を払う。背の高さと相まって、些細な動作に至るまでひどく決まっている。

「うっ……ま、まあね。でもだからこそユイっ! どーか助けると思ってお知恵を拝借!」
「無理だ。そもそも拝借させる程の知識がない。勧誘週間前に決めた私に言われても困る」

 頼りになる参謀一ノ瀬ユイは即答。絶対無理と白旗を上げた。ががーんとかなりショックだ。

「お勧めの……代行屋?」

 もう一人の友人は口元に運んでいたお菓子をくわえたまま、小首を傾げる。年齢にしては小柄な身体と相まって、ちょっとした動作に至るまですごく小動物じみている。

「そうよ。あ、もしかしてマユミ、どっかお勧め知ってたりするのっ!?」

 問いかけられた浅田真由美は少しの間を空けた後で、ようやく理解が及んだようだ。ぽとりと口元にくわえられていたお菓子が地面に落ちる。これが前触れ。

「って、えぇ──っ!? はは、ハルカちゃん、まだ所属先決まってなかったの───!?」

 まんまるに目を見開いて、この天然娘は盛大に声を上げやがるのだった。

 何事かとクラス中の視線が集まる。だがちょっと天然入ってる真由美は驚きに固まったまま動かない。いつも冷静な一ノ瀬はそもそも他人の視線を気にしない。どっちかっていうと小市民に分類される高町晴香は一人、集まる視線を前に羞恥にさらされた。

 …………そらもーすんごい、恥ずかしかった。

 真っ赤になった顔を力なく俯け、高町晴香はそのままガクリと机の上に突っ伏すのであった。



                  * * *



 高町晴香にとって代行職とは『未だ定まらぬ夢』のことである。

 いったいなんのことを言っているのか。曖昧が過ぎる言葉だが、それ以外の表現はどうもしっくり来ず、これといって当てはまるような単語も他に思い付かないのだから仕方ない。

 適正試験の実施によって、人々は自身の適正を正確に把握することが可能になった。

 ここで言う正確さとは、一切の絶対的例外が存在しない正確さであり、国会決議に反対していた当時の学者達すら忌ま忌ましく舌打ちを漏らしながらも、認めざるを得ない判定結果が打ち出されている。

 当時把握されていた職種は、だいたい分厚い電話帳数十冊ぐらいで納まる程度のものだった。職種の括りも緩かったせいもあっただろうが、判定試験の結果わかる職種もせいぜい5~8種類程度で、多くても20職種行けばいいほうだった。

 すべて過去形である。

 月日は流れ、時代は移ろい、制度は適応進化をし続ける。

 今や太陽系など何のその、銀河系も飛び越えて、アンドロメダ星雲目指して突き進めと言わんばかりの規模で発展し続けた代行職制度。

 現在登録されている職種の数は、そらもーとんでもないことになっている。

 台帳数百冊を軽く飛び超え、電子媒体による管理をもってしか把握しきれないまでに膨張し続けている。今現在も尚、である。

 故に人によっては、適正職の判定結果は、そらもーすごいことになる。

 お役所仕事は未だ大部分が書類を挟むのが常である。届けられる判定試験の結果が下手なハードカバー数冊分ぐらいにまで肥大化している者も存在する。

 彼等は一様に、気軽に受けてみた適正試験の結果を役所に受け取る段階になって、初めて顔を蒼ざめさせる。受け付けの脇に次々と運び込まれるカタログの山を前に、立ち尽くす。

 いや、これをどうしろと? 誰もが問いかけるが返る答えは無情。規則で決められています。

 そら顔も蒼ざめるってものだ。

 また、面白い傾向がある。一昔前で言うところの、ある特定の分野に秀でていると言われる人々、所謂一つの『天才』と評されるような人種は、驚くほど適正職種の判定結果が少ない。A4ビラ一枚どころか、下手するとメモ帳一枚で事足りるぐらいの少なさだ。

 これは、もはやその職種に関連した才能があることが、誰にとっても明白なほどに、その人物が秀でていると判定されたからである。従来の特殊技能執行者の保護と育成という代行職制度成立の理念に最も則した事例であると言えるだろう。

 つまり、これといって欠点もなく、さりとて優れているとも言えない大部分の者たちが最初に迎える関門とは、適正職種の判定結果に一通り目を通すことになる。それこそ2、3日は当たり前、下手すると一月以上ぶっ続けで夜通し涙目になりながら目を通し続けても、終わらないことがある。

 それでも自らのなりたい職業というものが──夢があるならば話は別だ。それこそ目録だけに目を通して、目指す職業、もしくは関連する職種を十分に吟味して、申請することができる。

 あるいはまだ職種を決めるべきときではないと判断を保留して、代行職専門課程ではなく、普通科に進学するのも一つの道と言えるだろう。適正判定試験の受験は義務だが、適正職種への就業は義務ではないのだから。

 だが、これといってなりたいものはないが、さりとてなりたくないものもなく、一通りのことはそつなくできてしまうが故に、なにものかになりたいと望む者たちも確かに存在する。

 哀しきは夢なき凡人。器用貧乏は適正職種を把握するのでさえ一苦労。

 高町晴香もまた、そんな器用貧乏の一人であった。

 彼女が判定試験の結果、弾き出された適正職種の数は、何と2000職種! 学園入学日を目安に、せっせとカタログ捲って、適正職種の把握に励んでいったが、いつまでも経っても終わらない。先が見えない。ってか把握なんかもー無理そう。

 そんなときに、新入生勧誘週間がついに幕を開けた。

 というか、幕を開けてしまった。

 なりたいもの、目指すもの───とか探す以前の問題で、高町晴香は自分の適正職種を把握することすらできていないのが現状だった。あれよあれよいう間に日は流れ、気づけば勧誘週間最終日。勧誘活動も下火になって、もはやいろいろ体験するのも不可能です。

 いったい、この状況下で自分にどうしろとっ!?

 高町晴香は叫びたかった。でも常識もそれなりにある器用貧乏は人並みの羞恥心も存在した。だから友人に頼ることを選んだ。小声でお勧めを聞いてみたら、大声で叫ばれ教室中にばれまりましたよ。こんちくしょーっ!

 焦りは禁物。しかし、余裕がないものにそんな言葉は届かない。高町晴香は焦燥感に駆られながら、まず自らの目指すべき職種を探すべく、学園中を駆けずり回る羽目になった。

 そんな彼女がとある事件に巻き込まれることになるのも、道理というものであろう。

 哀れ、まさしく器用貧乏の陥る地獄であった。




……つづく
  1. 2007/11/25(日) 18:34:32|
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