全手動軽文量産機

──A.L.M──

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砂漠の獅子王

 ───これはある記憶の断片。


 ────世界に刻まれた一つの記憶。


 ───触れた記憶の夢真は、誰も知らず。












                  ───砂漠の獅子王───












 ■■■にとって、過去とは捨て去ったものだ。

 彼はかつて砂漠で傭兵をすることで生計を成り立てていた。若いころはかなりの無茶を重ねたが、彼──かつての名はバダック──にはそうした無茶に耐えるだけの強靱な肉体があった。
 戦術的な指揮に関する天性の才もあったのだろう。いつしか彼はそれなりに名の馳せた傭兵団を率いるまでになっていた。

 だが、無茶を重ねる若さにも、必ず終わりの時は来る。幼いころよりいつも隣に居た、誰よりも愛する人を妻に迎え、子供を授かったころには、すっかり荒事の世界から身を引く決心がついていた。

 身重の妻の身体を気づかって、バダックは一時的に生活に利便性のある王都に移り住むことを決めた。幸いなことに、妻の母親が王宮勤めということもあって、新たな生活への準備はとんとん拍子で進んで行った。移り住んだ王都に腰を落ち着け、いったいどんな子が生まれるのだろうと、期待に胸を膨らませた。

 そして、ついに一人の女の子を授かった。バダックは妻と検討に検討を重ねた結果、選び抜いた名前を自らの娘に付けた。メリルと名付けられた娘は、二人から惜しみなく捧げられる愛情を一身に受けながら、健やかに成長していった。王都での生活はこれといった問題もなく、緩やかに過ぎていった。



 ある日、全ては夢と消えた。



 本来なら娘を守ベき義母が、自身の孫を王宮に捧げ渡した。子供を無くした王妃が心を病んだ結果、せめてもの慰めになればと連れて行ったメリルを、王妃が自らの子供と思い込んでそのまま取り上げのだ。

 バダックはただ権力に屈することなど到底認められなかった。義憤にかられるまま王宮に乗り込み、娘を奪い返そうと考えたとき、ローレライ教団の司祭が突然、我が家を訪れた。

 安心するが良い。あなた達の娘は、王族に迎え入れられることがスコアに詠まれていたのですよ。司祭の告げた言葉に、義母はスコアに詠まれていたならば仕方ないと直ぐに諦めた。

 預言に詠まれていた。その事実は何よりも重くのしかかる。

 預言に詠まれていたならば……仕方ない。仕方ないと……思おう。

 結局、バダックは無理やり折り合いを付ける道を選んだ。この選択には、彼が長年努めていた傭兵家業において、別れとは近しい隣人であったことが大きな影響を与えている。必要なら死すら割り切れる傭兵にとって、生きていることさえわかっていれば、娘との別れとて、ギリギリのラインで耐えられたからだ。

 しかし、それはある種の強者のみが選べる道だった。

 バダックの妻は心優しい人で、家族を愛するという称賛に値する強さを持っていたが───同時にこのような理不尽な突然の別れには、決して耐えられない人だった。

 彼女がローレライ教団の敬虔な信者だったことも影響した。娘を取り戻したい。しかし、これはスコアに詠まれていた事態。決して覆すことは許されない。ああ、でもわが子をこの腕に抱きたい。親にとって当然の欲求は決して納まる様子を見せない。

 心の乱れは、身体に影響を与えて行った。日に日に身体を衰えさせ、心を病んでいく妻を前に、バダックは唇を噛み締め、拳を握り血を滴り落とした。

 なぜ、我ら家族がこのような謂われなき苦難に見舞われなければならないのだ! 始祖ユリアよ、答えよ!! 叫びに、応える声はなかった。



 終わりは唐突に訪れた。



 もはや寝台から起き上がることも少なくなった妻に、せめてもの栄養をつけてもらおうと、バダックは滋養の高い食品を市場で買い込んだ。帰宅途中、港付近に不審な人だかりができているのを横目にしながら、足早に我が家に帰る。

 荒れ果てた室内。散乱する硝子の破片。叩き割られた家族の肖像。開け放たれた扉。

 一瞬呆然と立ち尽くし、彼の愛する人の姿が、この部屋にない事にようやく思い至る。

 はやる気持ちを落ち着かせ、バダックは鳴りやまぬ鼓動とともに家を飛び出す。このとき、既に嫌な予感はしていた。そして、この種の予感が外れたことはなく、それ故にバダックは砂漠の傭兵王として君臨することができた。

 だが、今はその恩恵が何よりも恨めしい。

 港にできた人だかりの群れ。それを割って中に入る。囁かれる言葉が耳に届く。誰かが海に身を投げたそうだ。かわいそうにねぇ。いったい何があったんだろう。どうして誰も止めなかったんだろう。スコアに詠まれていなかったのかねぇ。

 澄み切った蒼い海の中、金髪が波に揺れ動く。弛緩しきった彼女の身体は、既に硬直が始まっているのか、ピクリとも動かない。

 彼女は死んだ。

 バダックは空に向けて吼えた。立ちはだかる野次馬の群れを強引に投げ飛ばし、誰よりも愛する人の亡骸を腕に抱き、引き上げる。陶磁器のような白い肌は温かみを失い、どこか畏怖を孕んだ美しさを放っていた。噛み締めた唇から流れ落ちる鮮血を感じながら、バダックはもはや生気の失せた彼女と最後の口づけを交わした。

 冷たい唇は、ひどく濃密な、死の味がした。



 腐っている。



 バダックは妻の墓標を前に、拳を握りしめる。滴り落ちる血が地面を濡らす。心の中で渦巻く憎悪が吹き出す先を求めて荒れ狂う。

 俺たちが何をした!? バダックは世界を呪った。家族と引き離されることに耐えられなかった、心の弱さが悪いというのか? そんなバカな! 家族を愛するな、忘れろなどと、どうして言えようか? 間違っているのは俺たちではなく、この世界そのものだっ!

 スコアを信仰することは、その先に続く未来に希望があると信じればこそだ。祈りを捧げる先に救いがもたらされると信じるからこそ、誰もがスコアに詠まれた未来を受け止めるのだ。

 だが、今の自分はどうだ? スコアに詠まれるまま我が子を引き離された結果として、妻の心は衰え、崩壊した世界は死を選ばせた。義母は全ての結果にただ畏れ戦き、娘の葬式にすら出ようとしなかった。そんな義母に対して覚えるのは哀れみだった。

 憎悪の向かうべき対象はスコアに支配されたこの世界そのものだった。

 だが、この世界でスコアに憎しみを抱いた先にあるものは、絶望だった。誰もが盲目的にスコアを信仰し、その存在を疑おうとすら思わない。



 バダックは世界に絶望し、砂漠へと帰った。



 無為な戦いの先に果てるのが自分には相応しいと思いながら、どのような相手だろうと構うことなく雇われて、次々と戦いに身を投じていった。かつて誰よりも盗賊に畏れられた男は、いつしかごろつき共の頂点に立っていた。敵味方構わず立ちふさがるものは全て皆殺しにするバダックは、仲間内からも畏れられ、誰も近づこうとはしなかった。

 酒を浴びるように飲み、ただ世界への憎悪を戦に身を投じることで紛らわし、一切の過去と決別した悪徳の日々は続いた。

 だが、終わりはまたしても唐突に訪れた。

 教団から派遣されたオラクル騎士団によって、バダック達は追い詰められた。

 だが教団の兵士を相手にするという事実に、バダックは鬼神のごとき働きを見せた。

 鎌を振るう。首を飛ばす。足を切り裂く。腸を抉る。

 教団兵は殺す! 殺して、殺して、殺して、殺し尽くしてくれるわっ!

 幾多もの屍の上に立ち、死神の鎌は命を刈り取って行く。

 だが、一人の男によって、バダックは敗れ去った。

 盾も使わずに豪快な剣術を駆使する相手に、バダックはついに地へ伏せた。このまま教団のゲスの手に掛かるのか。無念さのあまり、バダックはスコアに対する呪いの言葉を最後に叫んだ。

 男が、止めをさすべく振り上げていた剣の動きを突然止めた。

 いったいどういうことだ? 不審さを覚えるバダックに対して、男はひどく興味深そうな視線を向けると、部下に向けて連行しろと自分の拘束を命じた。

 戦場で果てることもできず、バダックはダアトへと連行された。

 閉じ込められた牢の中、格子の向こう側に、自分を倒した男が一人立っていた。

 何の用だ? 忌ま忌ましさに顔を歪めるバダックに、男はふっと顔をほころばせ、口を開く。

「預言が憎いか、バダックよ。だが教団兵を幾ら殺したところで、世界は何も変わらない」

 耳に届く声は魂を直接撫であげるようにして、バダックの心を掴み取った。
 自分よりも一回り程離れている若造に、自分が完全に飲まれていることをバダックは悟った。

 バダックに対して、男は語る。

「世界の真実の姿をお前に教えよう。我が力となれ───砂漠の獅子王よ」

 こうして、バダックはすべてを知った。

 そして絶望の深淵を知りながら、全てを覆すと約束してみせた男に対して、犬の如き忠誠を誓った。もはや過去の全てを切り捨て、男の目指す世界の実現に向けて邁進することを約束した。

 忠誠の代価として、与えられる新たな役割と名前。

 オラクル騎士団第一師団師団長───黒獅子ラルゴ。


 ラルゴにとって、過去とは捨て去ったものだ。


 この事実が覆ることは、決して有り得ない。


 故に、憎悪の焔は、煌々と燃え上がり続ける。


 いずれ全てを飲み込み、燃え尽きる刻が来ることを、知りながら───…………



  1. 2006/12/30(土) 22:39:40|
  2. オリ長編文章
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