全手動軽文量産機

──A.L.M──

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【──水城征治/1回目──】




──【金曜日、昼】──




 彼の率いる団体は、基本的に積極的な勧誘活動というものを一切行わない。

 これは数年前の、勧誘活動が悪辣なまでに苛烈となった暗黒期においても同様だった。この事実を耳にした生徒は一様に驚愕し、口をポカンと開いたまましばし茫然自失とした後で、誰もが同じ問い掛けを放つ。

 え、それって正気? 

 ……随分とアレな質問である。

 しかし、彼自身も決して口には出さないが、そう思われるのも仕方ないと考えている。諦めの境地というやつだ。

 勧誘週間というものが導入され、新入生に対する勧誘活動の規模が縮小したとは言っても、その重要性まで失われた訳ではない。今でも勧誘週間の初日から半ばまではお祭騒ぎもかくやと言わんばかりの活動が行われ、かなりの人員がこの期間に自らの所属する組織を決めている。

 ではなぜ、彼の率いる団体は勧誘活動をしないのか? これには一言で答えられる。

 すなわち───無駄であるからと。

 弱小代行職者達が集まることで設立された代行屋──万屋には、そもそも勧誘対象の枠組みが定められていない。そのため、どのような職種の者であろうとも参加できるため、多様な依頼を受けることは可能だが、新入生にとっては無視できない類の致命的な欠陥が存在した。

 万屋は通常の代行屋なら必ず備えているような、基礎的な技能を磨く場が一切存在しない。

 大手の組織であれば、おそらく蓄積されたノウハウから規範とするべき行動の示された教本などが存在するだろう。中小の組織でも、専門性の高さから親密な関係が築かれ、先輩達が後輩の指導に当たることができるだろう。

 しかし、万屋に横の繋がりは一切存在しない。誰もがそらもー本能に任せるままふらっふらっふらっふらっと所在すらよーわからん状態で各地に散って、時折提示される依頼を好きなときに達成している。

 そんな状態で組織としてやっていけるのかと心配になるかもしれないが、誰もが職業意識そのものは無駄に高い為、依頼達成の納期に遅れる者は皆無であった。

 組織活動? ナニソレ?

 本気でそんな言葉が返ってきてもおかしくないヤクザな組織である。

 学園中がお祭り騒ぎとなる勧誘週間であっても、誰もが普段通りに行動している。依頼の達成に向けて動いているか、好き勝手動いて事件に首を突っ込んでいるかのどっちかだ。

 仮に勧誘活動しろと言っても誰も動かないだろう。彼はそんな結論を密かにもっていたりする。ひどく達観したものの見方だが、ある意味、一番ヒドイやつだ。

「しかし……暇だな」

 つらつらと益体もない事柄を考えながら彼──水城征治はベンチに一人腰掛け茶を啜る。膝の上には白米の上に梅干しが載せられた日の丸弁当がある。おかずは皆無で、健康にはかなり悪そう。

 普段であれば、こんな風にぼけーっと真っ昼間からベンチに腰掛け、日の当たる場所で食事をしているような暇は彼に存在しない。

 能力的には優等生、でも性質的には問題児も泣いて逃げ出す魔神の巣窟。

 そんな悪魔的評判が公然と囁かれる万屋で職長やってるのは伊達ではない。クライアント側との折衝、依頼する相手の見極めなど、次々と舞い込む仕事の処理に忙殺されて、普段の彼には一切仕事を忘れて過ごす時間など存在しないはずだった。

 しかし、この期間だけは例外だ。

 勧誘週間中は特例として、学園に寄せられる新規依頼のすべてが生徒会の手によって差し止められることになる。

 これは基本的に学園中の代行屋がすべての総力を勧誘活動につぎ込んでいる状態であるため、この期間は新規の依頼を受けるような余裕がない状態であるからだ。

 依頼を受けたはいいが、下手に中途半端な状態のまま仕事に赴き結局失敗しているようでは目も当てられない(実際過去に数度あった)という理由から来る、至極ごもっともな決定だ。

 つまり、勧誘活動を一切行わない万屋の職長は、この期間、特にやることがなくなるのだ。

「……結局、今日も学園で過ごしてしまったな」

 哀しきは仕事人間の業。

 降って湧いたような休憩が訪れたとしても、特にやることが見つからなかった。別に学園に来なくてもいいというのに(烏丸学園は一年で共通科目の履修は終了する)今日も今日とて登校。これで勧誘期間中全てを学園で過ごしたことになる。

 日の丸弁当をモソモソと食べ進めながら、水城征治は茶をすする。

 ぼけーっと何をするでもなく空を見上げ、暇をもてあます。

 いつのまにか食事も済んで、弁当箱を風呂敷に包む。午後はどう過ごしたものか。そんなことを考えながらベンチを立ち上がったとき、事態は動き出す。

「───あの、すみません」

 ひどく思い詰めた表情をした女生徒が立っていた。肩に届くぐらいの長さで切り揃えられた髪が風に揺れ、意思の強そうな瞳がこちらを見据えている。

 全体的に抱く印象としては、可もなく不可もなくといった所だろう。特にこれといって専門的な技能を身につけているようにも見えない。女生徒から声をかけられて抱く印象が技能考察な時点で、水城は色々と終わっていた。

 ともあれ、特に顔見知りというわけでもない相手の観察を終えた後、水城は彼女の脇に視線を向ける。僅かに眉を動かし、驚きの表情を作る。

「…………隣に居るのは、一ノ瀬くんか」
「食事中に失礼する、水城職長。今、少し時間は取れるだろうか?」

 淡々と礼をとる万代行所属、唯一の一年生、一ノ瀬ユイの姿があった。

 災禍の昼下がり以降、彼女の身辺に関して言えば、これといって問題は起きていなかったように思うので、悪の組織云々とはまた別口の用件だろう。

 いったいどのような用件なのか。考えながら、水城はとりあえず口を開く。

「……別に構わん。勧誘週間中、自分には特にすることがないからな」
「? それってどういうことです?」

 一ノ瀬の連れが疑問符を浮かべる。それに一ノ瀬が事も無げに答える。

「私の所属することになった代行屋は、基本的に勧誘活動を行っていないんだ」
「……そういうことだ」
「はぁ、勧誘活動を行って、いな、い…………」

 反芻しながら途切れる言葉。しばしの茫然自失。

 我に返って定型句。1、2、3、はい。

「って正気ですかっ!? どどど、どうしてそんなことになってるの、ユイっ!?」
「少しは落ち着け、ハルカ。私も万屋にまだ所属してからそう日がないため、推測で答えるしかないが……おそらく、組織的な特性から来る止む終えない理由があるんだろうな」

 一ノ瀬は連れに説明しながら、チラリとこちらに確認するような視線を寄越す。見事に肝心の部分は言葉を濁した説明に、水城は内心で苦笑しながら頷き返す。

「……まあ、概ねその通りだ」
「そ、そうですか」

 彼女は未だ納得いかなげに首をうんうん捻らせる。

「そういう代行屋があっても、別におかしくはない……のかな?」
「うん。何もおかしくない。私はそう思うぞ」

 何度も首を頷かせて肯定する一ノ瀬に、彼女の連れもとりあえず納得したようだ。かなり強引な理屈だったが、彼女が納得したならそれでいいだろう。

 それよりも、今は気になることがある。

「……それで用件とは何だ?」
「実は、彼女はまだ所属する代行屋が決まっていない状態だ」
「……所属代行屋の未確定者か」

 それはまた大変だなと、水城は僅かに顔をしかめる。既にほとんどの代行屋は勧誘活動を終え、出店の類も撤去されている。これから所属先を決めるのは大変な労力を伴うだろう。

「可能なら私が案内をかって出たかったのだが、あいにく他の代行屋に関する知識がない。そこで水城職長、あなたのことを思い出した。彼女に大まかでいいので、代行屋を案内して貰えないだろうか?」
「……なるほど」

 つまり職長を務める自分なら顔が広いだろうという判断から、めぼしい代行屋を案内して欲しいということか。

 確かに、妥当な人選だろう。水城は納得した。彼女の知り合いも一年が中心のはず。ならば彼女の周囲に存在する生徒で代行屋とそれなりに関わりのある者達と言えば、万屋の人間しかいない。自分以外にも彼女の知り合った先輩は存在するが、今回ばかりは除外できる。

 まあ……誰だって友人をブレーキの聞かない暴走特急に載せたいとは思わないだろう。

「……しかし、この時期に確定していないとなると……彼女の適正職種は器用貧乏型か?」
「……うっ……え、ええ、そうです」

 水城の確認に、女性徒が顔を少し引きつらせて答えた。

 まあ、器用貧乏型なんて括りをされれば、誰もが恥ずかしいと思うだろうが、これも必要な確認だ。この程度の非礼は許して欲しい。

「無理にとは言わない。しかし、あなたは今日、時間的に余裕があると言う。できれば受けて欲しいのだが?」
「……ふむ」

 一ノ瀬が一通りの説明を終えると、女生徒が前に出る。

「すみません。初対面の人に、こんな図々しいお願いするのが筋違いというのは、わかってます。でも、他に頼れる人が居なくて……」

 ひどく申し訳なさそうに言い募る相手。彼女の様子から、この決断に至るまでにも、それなりの葛藤があったことが伺える。

 まあ、特に断る理由も無いか。水城はこの時点で申し出を受けることを決めた。

 こういった交渉ごとにおいては、返答にある程度重みを持たせるためにも、多少は時間をおいて熟考したと相手に見せる形で態度に示した方が無難だ。そう水城の経験は告げていた。

 しかし、今の自分は職務中ではない。なら、返事を勿体ぶる必要もまたない。

「……いいだろう。その申し出、受けよう」
「そうですよね。やっぱり無理…………」

 続けようとした言葉が立ち消える。瞼を数度瞬かせた後で、ポカンと呆気に取られた顔で口を開く。

「今、なんて言いましたか?」
「……君の案内を引き受ける。そう言った」

 仕事の場であればまだしも、私事においてまでまどろっこしい遣り取りするのは、少なくとも水城征治は御免と考えていた。だから。端的にわかりやすく応じる。

 しかし、相手はあまりの呆気ない返しに、返答が信じられないらしい。

「本当……ですか?」
「……ああ」
「本当に、本当に、本当───ですか!?」

 獲物に食らいつく肉食獣のごとく、問い詰めてくる。そんな相手の迫力に少し気押されるのを感じながら、水城はとりあえず口を開く。

「……こんなことで嘘は言わん。これでも約束は可能な限り守ることにしている」

 少し憮然としながら答える水城に、彼女の顔にようやく納得が浮かぶ。

「あ、ありがとうございます!」

 ぱぁと顔を輝かせながら、彼女は幾分気の早い礼を言ってくる。健康的な笑顔に常人なら心が和むところだが、しかし人間的感性が壊滅気味の水城征治の心は動かない。

 変わらぬ無表情のまま、手を差し出す。

「……自分は水城征治。不肖ながら万屋の職長を務めさせて貰っている。今日は宜しく頼む」
「わたしは高町晴香と言います。今日はよろしくお願いします、水城先輩!」

 快活な挨拶を交わし合い、二人は握手をもって友好を結ぶのだった。

 こうした一連の遣り取りに感動した高町は、水城の人物評をかなり高い位置に置くことになる。曰く、職長を務める程の立場にあるのに、飾らない受け答えをしてくれる気さくな良い人。

 しかし、実際に水城が内心で考えていたことは、評価とはまるで対照的なのものだった。

 ……まあ、いい暇つぶしになるか。

 水城征治はけっこーヒデェやつだった。




 これが水城征治と、高町晴香の出会い────其の1回目。




……つづく?
  1. 2007/11/25(日) 18:34:16|
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