全手動軽文量産機

──A.L.M──

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 ──生誕の追憶──



 それは途切れた意識の垣間見た光景の断片。

 垣間見た事象の夢真は、誰も知らず。



                 【1】



 ───死後の世界ってあるもんなんだな。

 自分が死んだことに確信を抱いていた彼は、ひどくすんなりとその事実を受け止めた。

 彼は地殻に投げ落とされた時点でも、意識があった。

 覚えている限りでは、ろくな抵抗もできないまま投げ落とされて、地殻に飲まれてそのまま死んだ───はずだった。

 それがどういうわけか。

 今、自分はよく訳のわからない場所にいる。

 身体の感覚も酷く薄っぺらく、すべてが嘘くさかった。

 それでも、危機感とかを覚えるまでには至らない。

 中途半端なのだ。

 何もかもが、ひどく中途半端だった。

 周囲を見渡すという行為を意識すると、あやふやな視界の中に一つの部屋が浮かび上がる。

 秒針の止まった、おびただしい数の時計が壁に掛けられているのが見える。全ての時計の時間が、頂点を指し示した段階で止まっている事実に、酷く薄ら寒いものを彼は感じていた。

 ──ッ───ッッ──…………

 ん? あー……またか。

 ──ッ───ッッ───ッッ───────ッ────………

 途切れ途切れ、意味のまるで介せない音が耳に届く。ついで周囲をチカチカと切れかけの音素灯のような朧げな燐光が、明滅を繰り返しながら舞い踊る。

 わかんねぇって。何言ってるか……。

 それは自分に呼びかける声だった。なぜ声と認識できるのかはわからないが、確かにそれは自分に向けて何かを訴えていると彼は理解していた。

 だが悩ましいことに、耳に届くのはすべて酷くノイズの混じったものばかりで、まるで意味が掴めなかった。

 彼は溜め息をつく。

 ここが死後の世界だとしたら、何とも面白みのない世界だと彼は思う。

 ただ一人無人の領域に佇み、時折訪れるノイズ混じりの声を聞きながら、チカチカと点滅する燐光にまとわりつかれ、既に動きを止めた、壁に掛けられたおびただしい数の時計を眺める。

 何を思ったところで、この空間は変わらない。

 だが、何かを考えていないと、彼はやりきれなかった。

 このすべてが停滞した空間に、いつまで漂い続ければいいのか。

 一時間? 半日? 一日? 一年? 十数年? 数十年? 数百年?

 それとも……永遠にこのままか? 薄ら寒い想いが沸き起こるが、十分にあり得る事態だ。

 あまりに絶望的な事実を認識しながらも、しかし彼の感情が動揺することはない。

 彼は既に、自分が緩やかに───狂ってきつつある事を認識していた。

 だから少しでも長い間、自分を保つ為に、彼は思考を続ける。

 自分の意識が虚無の淵に呑み込まれ、消えてしまわないないように、無駄と思えるような事柄でも構わず考える。

 自分が終わるのが先か、それとも、この場から抜け出すのが先か。

 答えが出るはずもない疑問に思考を巡らせ、ただつらつらと考え続ける。

 いつのまにか、自分にまとわりつく燐光がその数を増していた。同時に囁かれる意味もわからぬノイズ混じりの声が、騒めきを増していく。

 茫洋とした意識の中、視界が光に覆い尽くされ、頭の中を騒めきが占める。


 ───開幕の鐘が鳴り響き、借物の追憶が、始まりを告げる。



                 【2】



 あん?

 気づくと、俺はどんよりした空の下、荒廃しきった平原に一人立っていた。

 見渡す限り何もない。

 一人ぽつんと佇んでいる。

「何をしているんじゃ、お主?」

 気づくと、一人の老人が俺に話しかけてきた。

 あー、よくわからん。気づいたら、ここにいた。

「ふむ……まあ、おそらくアレに滅ぼされた集落から何とか逃げ延びたはいいが、ショックのあまり記憶が混乱しているといった所じゃろう」

 はぁ……アレに滅ぼされた集落? ……よくわからねぇな。

「あーいい。無理に思い出す必要はないじゃろう。とりあえず、ワシに着いて来るか? 集落に案内するぐらいはしてやろう。お主が望むなら、仕事の工面も可能じゃな」

 なんか、随分と都合のいい話だな。

「ふっ、単に人手があって悪いことはないだけじゃ。幸い、廃棄された音機関なら腐るほどあるからな。修理に必要な人手は幾らあっても、多すぎるなんてこたないからのう」

 そんなものか?

「そんなものじゃ」

 軽く返して、笑う老人。自然とこっちも笑みが漏れる。

「お主、名前は覚えておるか?」

 名前……

 名前、名前、名前……るっ…ぐっ……ろ……ろー……ローレライ……

「ローレライ……とな? それがお主の名か?」

 わかんねぇ……なんか、頭に思い浮かんだ。

「ふむ……奇妙な符合の一致もあったもんじゃな」

 奇妙? 何の話だ?

「ああ構わん構わん。年寄りの戯言じゃ。ちなみに、ワシの名はサザンクロス」

 はぁ……なんかどっかで聞いたことあるような気がするんだが……

「別に思い出す必要もないじゃろ。ワシは単なるひょーきんな老人に過ぎん」

 ……自分でひょーきんとか言ってれば世話ないよな。

「カカカッ! 若造が言いよるわい。それでどうする? 一緒に来るか?」

 ん……そうだな。お願いするよ、じいさん。

「うむ。お主の来訪を歓迎しよう──ローレライ」



                 【3】



 ホゥホゥホゥと梟の鳴き声が響く。

 薄い紫色の膜に覆われた夜空に、微かな月灯が地上を照らす。

 あん? 俺、さっきまでじじいと平原で話してたと思うんだが……どういうこった?

 記憶が飛んでるのだろうか? ──いや、違うな。

 ここに来るでの間に何があったのかは思い出せる。だが、それを体験したという認識がない。

 ───場面が飛んでいる?

 首を捻って、ない頭で何が起きたのか考え込むが、疑問に答えがでる気配はない。

 その上、どうも考えてる時間もなさそうだ。

 集落が、どうにも慌ただしくなっている。

 どうしたものかと考えた瞬間、じじいが慌ただしくこっちに駆け寄ってくる。

「小僧、何を悠長にしとるっ! 逃げるぞ! もうこの集落もお終いじゃ! 奴が来る!!」

 奴? 奴って何のことだ?

「───怪物じゃ」

 老人は一言で応えた。

「空を見ろ。障気が其の濃度を増しておる。奴が近づいている証拠じゃ」

 畏怖するように、老人は手を握り込むと、淀み切った紫紺色の空を見上げた。

 そのとき、遠くの方から、奇妙な旋律が響く。

「!? まずいっ───奴が────」



                 【4】



 あれ? ……また、意識が飛んだのか。

 どうなってんだ? 急に変わった場面に、俺は首を傾げる。

 しかし考え込んだままでは何も始まらない。

 疑問に想いながら、とりあえず現状に意識を移す。

 腕の中で、ヒューヒューと漏れる息。

 瀕死の老人が、腕の中にいた。

 な、じじい! どうしたんだよ?

 呼びかけに応じて、薄く開かれた老人の瞳が俺の姿を捉える。

 僅かに開かれた口から、掠れた言葉が紡がれる。

「……スマン。先に、逝く」

 な、なに謝ってんだよ! 

 小さな身体が震える。

 腕の中で、刻まれる老人の鼓動が弱く、小さくなっていくのがわかる。

 待てよ、じじいっ! 諦めるな! まだ───

「お主は、生きろ」

 呼吸が止まり老人の身体から力は抜け落ちた。

 死んでいる。


 ──────っ──────っ───────っ!!


 声にならぬ叫びが、喉を突き抜けた。

 燃え上がる憎悪に駆り立てられる俺は自らの意識すら定まらぬまま剣を手に取り外へと飛び出すべく足を踏み出───


 時計が秒針を刻む音が響く。


 気付けば、全ての光景が色をなくし、静止した空間に俺は一人立ち尽くしていた。

 まとわりつく燐光が其の光を増す。囁かれるノイズ混じりの言葉が頭を占める。

 そして、俺の意識は、再び掻き消える。






 役者は定められた役柄を演じ、借物の追憶に浸る。

 幕引きは未だ遠く、使者に演目の認識はない。

 それ故に、いましばらくの間───

 この道化芝居は続く。



  1. 2005/05/29(日) 14:30:05|
  2. 【家族ジャングル】  第七章
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