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──A.L.M──

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第4話 「零れ落ちた絆」


 特に追手と遭遇するでもなく、アニスとの合流地点であるセントビナーに到着できた。

 エンゲーブとは違って周囲を堅牢な城壁で囲まれた街並みの物珍しさに、最初は感心しながら辺りを眺めていた俺だったが、すぐにそんな興奮も覚まされる。

「なんでオラクル騎士団が居んだ……?」

 唯一の出入り口たる大門の周辺で、教団兵らしき連中が街を出入りするやつらを尋問してやがる。

「タルタロスから一番近い町はこのセントビナーだからな。休息に立ち寄ると思ったんだろう」

 ガイが事も無げに大門にはりついた教団兵達の意図を測る。

「おや、ガイはキムラスカ人の割にマルクトに土地勘があるようですね」
「卓上旅行が趣味なんだ」
「これはこれは、そうでしたか」

 ジェイドが含みのある感じで頷くが、ガイもさる者で、大佐の攻勢を軽く受け流している。
 なにをやってんだかね。無駄に張りつめた空気が漂うやり取りに俺は呆れた。

「……隠れて! オラクルだわ」

 一人生真面目に周囲を警戒していたティアの言葉に、俺達は口を閉じて身を潜める。
 大門に近づく異様な威圧感を放つ四人連れに、オラクル兵が敬礼を返す。

 どうやら、タルタロスで見かけた連中のようだ。金髪美人に、アリエッタ、それに加えて、俺が初めて見る奴らが二人居る。一人は全身黒づくめのでかいおっさんで、もう一人は仮面をつけた緑色の髪をした細っちい男だ。


「導師イオンは見つかったか?」
「セントビナーには訪れていないようです」

 門の見張りをしていたオラクル兵が、金髪美人の言葉に敬礼をしながら答える。

「イオン様の周りに居る人たち、ママの仇……。森の仔たちが教えてくれたの」

 顔を俯けるアリエッタに、成人ライガが慰める様に鼻を近づける。

「それにあの人、ママからあの仔、奪った……。アリエッタはあの人たちのこと、絶対許さない……」

 成人ライガに手を伸ばして応えながら、アリエッタは暗い表情でつぶやいた。


 ママの仇……か。

 漏れ伝わって来たアリエッタの言葉に俺は息をのむ。俺達が切り殺した連中の中に、彼女のおふくろさんがいたんだろうか。背負うと誓ったはずだったが、それでも改めて目の当たりにした現実に、動揺を禁じえない。


「導師守護役がうろついてたってのは、どうなったのさ」
「マルクト軍と接触していたようです」

 甲高い声で問いかける仮面男に、見張りが答えた。

 導師守護役の目撃情報があるってことは、アニスは無事だったのか。

 敵からもたらされた情報だったが、それでもこれでアニスが無事であることは半ば確定した。ジェイドとイオンに視線を向けると、二人もわずかに頬を緩め、安堵したようにわずかに笑みを浮かべている。

「俺があの死霊使いに遅れをとらなければ、アニスを取り逃がすこともなかった。面目無い」

 黒づくめのおっさんが、悔しげに顔を歪める。言われてみれば、おっさんの顔色は酷く悪い。ジェイドにやられたんだとしたら、よくまあ死ななかったもんだと感心するね。


 耳を澄ませながらオラクルの話を盗み聞いてると、突然周囲から拍手を叩くような音が盛大に響き渡る。


「──はーっはっはっはっは!」


 上空からどこか道化じみた哄笑が降り掛かり、門の付近から音素の色がついた光線が放たれ、とある一点を照らし出す。

「だぁかぁらぁ言ったのですっ!」

 変態が空から降りてきた。

 何故か空中に浮かんでる豪華な椅子に腰掛け、首回りをど派手な襟巻きのようなもので覆った白髪の男が、変態染みたピンク色の光に照らし出されながら笑い声を上げている。

 シュールだ。とてつもなくシュールな光景だ。

「ジェイドを負かせるのは、オラクル六神将、薔薇のディスト様だけだとっ!」
「薔薇じゃなくて死神でしょ」 

 相手するのも鬱陶しそうに、仮面の男が突っ込みを入れる。

「この美しい私がどうして、薔薇でなくて死神なのですかっ!」

 ディストとやらが憤慨した訴えると同時に、周囲に響く効果音が拍手から稲妻のような音に変わる。音源の方に目をやると、どうもあちこちに譜業のスピーカーのようなものが設置されているようだ。

 芸が細かいというかなんというか……変態だな。

 憤慨したと地団駄を踏むディストとやらを無視して、金髪美人が話を戻す。

「過ぎたことを言っても始まらない。どうするシンク?」
「エンゲーブとセントビナーの兵は撤退させるよ」

 シンクと呼び掛けられた仮面男の答えに、黒づくめのおっさんが身を乗り出す。
  
「しかしっ!」
「あんたはまだ怪我が癒えていない。死霊使いに殺されかけたんだ。しばらく大人しくしてたら? それに奴らはカイツールから国境を超えるしかないんだ。このまま駐留してマルクト軍を刺激すると外交問題に発展する」
「カイツールでどう待ち受けるかね。一度タルタロスに戻って検討しましょう」

 背後でなにやらディストが喚いているようだったが、全員が無視していた。周囲に響く効果音が、どこか物哀しいメロディに変わる。

「致し方あるまい。伝令だっ! 第一師団! 撤退!」

 でかいおっさんの一喝に、門の前で見張りをやっていたオラクル兵は敬礼を返す。すぐさまおっさんの指示を復唱しながら、街の中へ駆けて行った。

 それを見送ると、指示を出したオラクルの四人組は即座に身を翻し、去っていった。

「きぃいいいい! 私を無視するなんてっ! 私が美と英知に優れているから嫉妬しているんですねーっ!!」

 一人残された派手男が拳を握りしめて喚き立てる。効果音が再び怒りを現すような雷音を発する。

「はぁはぁ……まあいいでしょう。……私も帰りますか」

 ひとしきり叫んで気が晴れたのか、派手男が髪をかきあげながら呼吸を整える。

 そのまま帰るのかなぁと見送っていると、なぜか派手男は空中に浮かぶ椅子から立ち上がる。そのまま周囲に設置されていたスピーカーや自身を照らし出していた光源を、無言のままモソモソと回収し始める。

「……」

 なんだか見てはいけないものを見てしまったような、なんとも言えぬやるせなさが俺たちを襲う。

 一人回収を終えた派手男は空飛ぶ椅子に再び腰掛けると、やはり無言のままもっそり空へと帰っていった。

「……なんだったんだ、アレ」

 派手な登場とは対照的な去り際のわびしさに、俺は額に浮んだ冷や汗を拭いとる。

 なんというか、とんでもない存在感を持った相手だった。

 もちろん、強敵とかとは別の意味だけどな。

 なんとも言えぬ微妙な空気に仲間の顔を見回すと、イヤに強張った表情をしている奴がいることに気付く。

 ティアが屋敷を襲撃したときのような、いやに硬い表情になっていた。

「あれが六神将……」

 ティアは派手男ではなく、四人組の去って行った方向を見据えていた。

 六神将って言うと、師匠も所属してる教団の部隊だったかね。

「確か、オラクル騎士団の師団長だったか?」
「正確には、オラクルの幹部六人のことです。師団長すべてが含まれるわけではありませんね」
「でもよ、あいつら五人しか居なかったぜ。誰が抜けてたんだ?」

 ガイが指折りしながら、さっきまで居た連中の名前を数える。

「黒獅子ラルゴに、死神ディストだろ。烈風のシンクに、妖獣のアリエッタ、魔弾のリグレット……と、いなかったのは鮮血のアッシュだな」
「どいつも物騒な二つ名だよなぁ……」

 黒獅子とか烈風とか魔弾まではまだわかるとしても、死神とか妖獣とか鮮血とかまで行くと、呼ばれる方もたまったもんじゃないだろうな。明らかに言われる側も不吉な呼び名だぜ。

 げんなりした顔でつぶやく俺に、ティアが押し殺した声で吐き捨てる。

「彼らはヴァン直属の部下よ」

 なにかに耐えるように、一言一言を絞り出す。

「六神将が動いているなら、戦争を起こそうとしているのは、ヴァンだわ……」
「大詠師モースも、六神将の指揮を取れます」

 イオンの冷静な指摘にも、ティアは暗い表情で応じる。

「大詠師閣下がそのようなことするはずがありません。極秘任務のため、詳しいことは話すわけにはいきませんが……あの方は平和のための任務を私にお任せ下さいました。考えられるのは、やはり兄さんしか居ない……」
「師匠が戦争をねぇ……」

 渋い顔立ちした貫祿十分の立ち姿を思い出す。確かに師匠は超絶的なあり得ねぇぐらいの戦闘力を誇るが、それでも戦争を起こそうとするようなやつだとは思えない。

「兄ならやりかねないわっ!」

 俺がティアの考えを疑問視していることがわかったのか、ティアは強い口調でもう一度繰り返す。

「ティア、落ち着いて下さい」
「そうだぜ。モースもヴァン謡将もどうでもいい。今は六神将の目をかいくぐって、戦争をくい止めるのが一番大事なことだろ」

 イオンとガイが諫めると、さすがに取り乱している自分が自覚されてか、すぐに感情を抑えた。

「……そうね。ごめんなさい」

 ティアの謝罪で、ひとまず会話が収まった。

「──終わったみたいですねぇ。それではオラクルも撤退したみたいですし、街の中に入りましょうか」
「あんた、いい性格してるなー……」

 途端に両手を広げ肩を竦めるジェイドに、ガイが半眼でつぶやいた。俺もジェイドに視線を向ける。無論、ジェイドは一向に気にした様子はない。

 ほんと、いい性格してるよなぁ……

 悠然と先を歩くジェイドの背中を見やり、俺は呆れるのだった




               * * *




 そんな風にいろいろとあったが、無事に街の中へ入ることができた。門を潜った先には広場があって、周囲に屋台や宿屋などが並んでいる。そんな広場の奥、門から正面に位置する場所に、かなりでかい上に無骨な造りの建物が在った。

「で、六神将の奴らがアニスはこの街にはもう居ないとか言ってたけどよ、どうすんだ?」
「そうですね。マルクト軍の基地で落ち合う約束でしたが、六神将達の話から判断するに、アニスは既に次のポイントにでも移動しているでしょう。それでも無事を示す書き置きぐらいは残して行ったでしょうから、とりあえずは基地に向かってみます」

 理路整然と俺の疑問に答えると、ジェイドの全員に向けて改めて説明する。

「そんな訳なので、私は軍の基地に向かいます。皆さんはその間、街の見学でもしていてください。ですが、オラクルがこの街から撤退したとは言っても、あくまでも我々は追われる立場だということは忘れないように」
「わぁーてるよ……わざわざ俺の方向いて言うなっつーの」

 明らかに俺限定で放たれた言葉に、俺は手をひらひら振って答えた。

 ジェイドは肩をすくめると、悠然とした足どりで軍のベースへ向かった。

「……さて。そんじゃ、ありがたく見学させて頂くとするか。俺はあのでっかい木が気になってしょうがなかったんだよ」

 ジェイドの背中が見えなくなるや否や、俺はすぐさま興味の対象へと歩き出す。

「ルーク、派手な行動は慎んでね。エンゲーブの二の舞は御免よ」
「うっ……俺だってそこまで馬鹿じゃねぇ。わかってるよ」
「本当かしら……?」
「だぁーもう、気をつけるってっ! いい加減許してくれよ、ティア」

 乱暴な言葉遣いながらも素直に謝る俺の様子に、ガイがからかう様な笑みを浮かべる。

「なんだぁ? 随分と尻にしかれてるなルーク。ナタリア姫が妬くぞ」
「……」

 ガイの言葉にティアは黙り込んだかと思えば、突然ガイに腕をからめる。

「……うわっ!!」
「くだらないことを言うのはやめて」
「わ、わかったから俺に触るなぁっ!!」

 地面に倒れ込んで痙攣するガイの姿に、俺は我が親友ながら心底情けなくなったよ。

「この旅で、ガイの女性恐怖症も克服できるかもしれませんね」
「……イオンも以外にエグイこと言うよな」
「はい?」

 自分の発言が意味するものがまったくわかっていない様子のイオンに、俺は乾いた笑みを浮かべるのであった。


「しかし、でっかい木だよなぁ」

 アホのように口を開けたまま、民家の立ち並ぶ一画に生えた大木を見上げる。

「ルークじゃないけど、確かにあの大木は素敵ね」

 さっきの尻に敷く発言を気にしているのか、妙に俺に突っかかる様な物言いをする。

「あれはソイルの木だな、ここセントビナーの象徴さ。なんでも、この木が枯れかけたときには、周囲の草花も枯れかけたって話だ。一説には樹齢2000年とも言われてるらしいな」
『2000年!?』

 どんだけの時間だよ。驚愕の声を上げる俺達に、ガイが苦笑を浮かべる。

「といっても、あくまでも一説に過ぎないらしけどな」
「はぁ……しかし、それでもスゲェよなぁ……」

 数ある学説の一つに過ぎないとしても、そんなことが言われても不思議じゃないぐらいの雰囲気をこの大木は持っているってことだ。それはそれで、十分すげぇことだよなぁ。

 感心して見上げていると、ミュウが鼻を動かしながら、嬉しそうにくるくる回る。

「この木、ミュウのお家と同じ匂いがするですの~」
「チーグルんとこの木と、この木が同じ種類だってのか?」

 気になって問いかけるも、ミュウは誇らしげにその小さい身体で胸を張って、俺の問い掛けとは的外れの答えを返す。

「でも、この木よりミュウのお家の方が大きいですの~」
「確かに大きかったわね」
「そうですの、ミュウのお家の方が大きいから勝ちですの~!」
「そうね」

 微笑ましそうにミュウに答えるティアを余所に、俺はぼそりとつぶやく。

「勝ち負けの問題か……?」

 しかし、俺の言葉は誰にも拾ってもらえなかった。なんか最近扱い悪いよな、俺……。

 うなだれる俺を慰める様に、仔ライガが俺の頭を前足でポンポン叩いた。




             * * *




 そんな風に街中を見て回っていると、平穏な街並みを悠然と歩くジェイドの姿が視界に入る。基地での首尾はどうだったのか尋ねようと駆け寄る俺に向けて、ジェイドがその手に握っていたものを放り投げる。

 片手を上げて反射的に受け取ったそれに、俺は視線を落とす。

「これは……剣か?」

 鞘に収められた金属の重みを感じながら、俺は受け取った剣をしげしげと見下ろす。

「正確には真剣、です」

 訂正された言葉の意味するものに、俺は一瞬息を飲む。

「今後は六神将との本格的な戦闘も考えられるでしょう。その際、戦闘に参加する者に足を引っ張られるのは、私は御免です。とりあえず、その木剣から卒業することから始めましょう。幾ら刀身にフォニムを込め、響律符で身体能力が強化されているとは言っても、確たる実力者達を前にすれば、そんなものは児戯に等しいですからねぇ」

 いつものように微笑を浮かべながら語られたジェイドの言葉は、昨夜の俺の覚悟を試すものだった。

「……」

 俺は鞘から刀身をわずかに抜き出し、その白刃の輝きを見据える。

 脳裏を過る記憶の断片。

 降り注ぐ血の雨。腸をぶちまけながら絶滅した教団兵の死体。
 そして、俺の油断から切り伏せられ、崩れ落ちる彼女の姿。

 俺は一度だけ瞼を閉じ、自身の覚悟の程を確かめる。胸の内に確かに揺れることなく存在する、剣を取る理由に想いを馳せる。

「……わかった。ありがたく受け取っておくよ、ジェイド」

 刀身を鞘に収め直し、俺は受け取った真剣を掲げてみせた。

 俺の答えに、ジェイドは満足そうに頷きを返した。そんな俺たちのやり取りに、ガイはどこか気まずそうに頬を掻き、ティアはどこかいたましげに顔を伏せた。

「あー……ところでよ、基地の方はどうだったんだ?」

 なんだか気まずい空気が漂い始めたのを感じて、とりあえず俺は話題を変えた。

「やはりアニスは既にここを立った後のようです。基地に手紙が残されていました」
「へぇ。どんな内容なんだ?」

 そんな俺の後を引き継いだガイの問い掛けに、ジェイドがどこか含みを持った視線を俺に向ける。

「どうやら半分はルーク宛のようです。私が読み上げるのもなんですし、どうぞ」
「は? 俺宛だと?」

 渡された手紙を受け取って、とりあえず読み上げる。



   親愛なるジェイド大佐へ。
   すっごく怖い思いをしたけど何とか辿り着きました☆
   例の大事なものはちゃんと持ってま~す。誉めて誉めて♪
   もうすぐオラクルがセントビナーを封鎖するそうなので
   先に第二地点へ向かいますね。
   アニスの大好きな(恥ずかし~☆ 告っちゃったよぅ)
   ルーク様はご無事ですか?
   すごーく心配しています、早くルーク様に逢いたいです☆
   ついでにイオン様のこともよろしく。
   それではまた☆ アニスより



 正直、目眩がした。


「なんだよ、この手紙は……」
「おいおいルークさんよ。モテモテじゃねぇか。でも程々にしとけよ。お前にはナタリア姫っていう婚約者がいるんだからな」
「冗談。あいつは俺の天敵だぜ。むしろあっちの方からそのうち断り入れて来るさ」

 からかう様に言って来るガイに、俺も手をひらひら振って否定する。別にあいつ本人を嫌ってるわけじゃねぇんだが、それでもバチカルではなにかと対立することが多かった相手だ。なにかとカチあってる内に、苦手意識が染みついてしまった。

「ところで、第二地点というのは?」
「カイツールのことです」

 一人冷静に、ティアが今後の計画をジェイドに尋ねる。

「ここから南西にある街で、フーブラス川を渡った先にあります」
「ふむ。カイツールまで行けばヴァン謡将と合流できるな」

 ガイの思わず洩らした言葉に、ティアがその瞳を動揺に揺らす。

「兄さんが……」
「おっと、何があったか知らないが、ヴァン謡将と兄弟なんだろ? バチカルのときみたいに切り合うのは勘弁してくれよ」
「……わかってるわ」

 ティアも頷くが、そこにはどこか自分の感情を押し殺す様な感じが見て取れた。本当に大丈夫か、なんか心配だよな。ティアは師匠に似てどこまでも生真面目な奴だから、一人で抱え込んで潰れないといいけど。

「──では、アニスと落ち合う予定のカイツールに向かいましょうか」
「ほんとあんた、いい性格してるぜ……」

 話題が終わるや否やさっさと歩き出したジェイドに、俺は呆れた視線を向けた。




             * * *




 フーブラス川についた。周辺の大地に、ところどころ岩の突き出た部分があって目につく。川自体はもっと奥まった部分にあるのか、いまだ視界に入ってこない。

「ここを超えれば、すぐキムラスカ領なんだよな」

 これまでの旅路を思い返すと、ちょっと感慨深いもんがある。

「ああ。フーブラス川を渡って少し行くと、カイツールって街がある。あの辺りは非武装地帯なんだ」
「早く帰りてぇ……。もういろんなことがありすぎたぜ」
「ご主人さま、頑張るですの~」

 元気出すですの~とミュウがくるくる俺の周りを回る。仔ライガも頭の上で、ぽんぽん前足を叩いて励ますように唸る。小動物二人組の激励に、俺も大人げないと思い直す。

「うっ、俺だってわかってるよ。ただ言ってみただけだぜ」
「ルーク、面倒に巻き込んで、すみません」
「いや、だからそこで謝られても、むしろこっちの気が退ける」

 頭を下げて来るイオンに、俺はしどろもどろになって、なんとか言葉を返す。

「──さて、ルークの愚痴も言い終わったようですし、行きましょうか」

 それまで黙って話を聞いていたジェイドが、両手を後ろに組むと悠然と歩き出す。

「違いない」
「そうね……」
「行きましょう」

 口々に同意すると、ぞろぞろとみなが歩き出す。

「やっぱ、最近扱い悪いぜ……」

 一人取り残された俺は、ミュウと仔ライガで疎外感を慰めた。



「そう言えば、イオン様。タルタロスから連れ出されていましたが、どちらへ?」

 部分的に階段状になっている坂道を歩いていたところで、唐突にジェイドが尋ねる。

「セフィロトです……」
「セフィロトってのは確か……」

 虚空を見上げながら、なんだったか思い出そうとする。

「大地のフォンスロットの中で、もっとも強力な十カ所のことよ」
「星のツボだな。記憶粒子っていう惑星燃料が集中してて、音素が集まりやすい場所だ」
「いや、一斉に説明するなって。俺だって……あれだ、今言おうとしてたんだよ」

 ティアとガイの説明に、俺はむきなって反論した。二人は俺の言葉に苦笑を浮かべるだけで、まったく悪びれた様子も見せやがらない。

 ふくれっ面になる俺を軽く無視して、ジェイドがイオンにさらに問いかける。

「セフィロトでなにを……?」
「……言えません。教団の機密事項です」

 硬く口元を結んで、イオンは拒絶の意志を発した。

「教団は妙に機密事項とか多いよな……」

 俺が思わずつぶやいた言葉に、ティアが顔を背けた。

 別にティアを揶揄したつもりはなかったんだが、結果としてそう取られてもおかしくない言葉だったか。

 ちょっと落ち込みながら、暗い雰囲気になって歩いていると、とうとう川に行き着いた。街で下流の橋が流されたとかいう話を聞いてたから、どんだけ凄い川なのか気になってたんだが、目の前の川の流れは全然たいしたことないように見える。

「橋が流されたってわりには、静かな流れだよな」
「もう随分と経ってるからな、ようやく落ち着いたってとこだろ」

 俺のなんも考えていない感想に、ガイが苦笑を浮かべながら答えた。

「そうなのか? 荒れてるとこなんて、この様子だとぜんぜん想像できねぇぞ」
「ルーク。川に限らず、水を舐めていたら大変な目に会うぞ」
「……確かに海は怖いそうね」

 ガイの俺を諫める言葉に、ティアもなにか思うところがあったのか、自身を戒めるように頷く。

「そうね……とは、また奇妙な言い回しですね。ダアト周辺には海水浴のできる海岸が幾つもあるでしょうに」
「え、ええ、まあ」

 いつものように、ジェイドがちょっとした言葉尻を捉えて突っ込みを入れる。そんなに気にするようなことか?

「ま、それはともかく、ガイはバチカル生まれなのですか?」
「いや、そうじゃないが、いろいろと地方を回って得た教訓ってとこかな」

 確かにガイは屋敷でも、いろんな土地の事をまるで見てきたように話して俺に聞かせてくれた。バチカルに閉じ込められていた俺には望むべくもない事柄だよな。

「まったく羨ましい限りだぜ。俺もいつか旅行とかに行きたいね」
「そのうち行けるようになるさ。とにかく、そんな俺が言うんだ。海とか川を舐めんじゃないぞ。一歩間違えると、たいへん危険だからな」

 ガイがそこで言葉を切って、俺を見る。他の連中もみんなして、俺に視線を向けた。

「そこで一斉に俺を見るなっつーのっ!」

 そんなに俺は危機管理がなってない人間に見えるのかよ……
 さらに落ち込みながら、俺は皆の後について行く。
 馬鹿話をしながらも、飛び飛びに存在する川石の上を伝って着実に川を横断する。


 最初はおっかなびっくり皆の後についていった俺だったが、ところどころ深さが浅くなっている部分もあって、意外なほど簡単に川を渡ることができた。

「ふぅ……なんとか渡れたか」

 完全に対岸まで渡り切れたことに、俺は安堵の息をつく。

「しかしルーク、おまえ妙に楽しそうだったな」
「そう見えたのか……?」

 ガイのどこか面白がるような言葉を受けて、皆の顔を見回す。
 それに全員が頷きを返した。

 むむ、そうなのか。

 さすがに全員から同意されたので、俺も改めて考えてみる。

 まあ、確かに自分でも川を渡るのがつまらんとは思わなかったよな。そもそもこういう自然を感じさせるような場所がバチカルには皆無だ。自分が気付いてなかっただけで、普通に外を歩くのとかも楽しんでたのかもなぁ。

 自分でもよくわかっていなかった感情の動きに感心していると、突然、頭の上で仔ライガが立ち上がった。

 同時に、雄叫びが遠方から響く。

「なんだ……っ!?」

 周囲を警戒する俺たちのすぐ真上を、咆哮が通過した。

 見上げるのも待たず、周囲に雷を撒き散らしながら跳躍したソレは、呆気なく俺たちの前方に回り込む。

「ライガっ!」
「後ろからも誰か来ます!」

 突如現れた魔物に武器を身構える俺達に、ジェイドが首だけで背後を指し示す警告を発する。

 ライガを警戒しながら振り返ると、そこには黒い拘束服のようなワンピースを着込んだ少女の姿があった。

「妖獣のアリエッタ……見つかったか」
「逃がしません……っ!」

 六神将の一人の登場に、ガイが表情を引き締めながら、重心をわずかに低くする。
 対する少女はアニスの持っていたような不気味な人形を胸元に抱きしめ、毅然と告げた。

「アリエッタ! 見逃して下さい。あなたらなわかってくれますよね? 戦争を起こしてはいけないって」
「イオン様の言うこと……アリエッタは聞いてあげたい……です。でも」

 前に進み出て頼み込む導師に、アリエッタがわずかに顔を伏せた。ついで、屹然と顔を上げた彼女の瞳が俺達を射抜く。

「でもその人たち、アリエッタの敵!」

 こちらを見据える瞳には、憎悪の炎が燃え盛っていた。
 それに気付くことなく、イオンは説得を続けようとする。

「アリエッタ。彼らは悪い人ではないんです」
「ううん……悪い人です。だってアリエッタのママを……殺したもんっ!」

 導師の言葉すら遮って、彼女は憎しみの理由を告げた。

 殺した。

 脳裏を過るのは血に塗れて沈む教団兵の死体。戦艦の襲撃で何人が死んだかは知らないが、それでも相当な血が流れたことだけはわかる。たとえ襲撃を仕掛けたのは向こうからだとして、そのうちの誰かを俺たちが殺したのなら、確かに俺たちは憎まれる対象となるんだろうな。

 これが……背負うってことか……。

 初めて経験する殺人の重荷を意識しながら、俺は少女の瞳を見つめ返す。

「ママってのは……いったい誰のことを言ってるんだ?」
「アリエッタのママはお家を燃やされて、チーグルの森に住み着いたの。ママは子供たちを……アリエッタの弟と妹たちを守ろうとしただけなのに……」

 うつむきながらアリエッタは訴える。家を燃やされて住み着いた。ただ守ろうとしただけだ。目尻に涙を滲ませながら訴える少女の言葉に、俺は背筋が凍りつくのを感じる。

 頭の上で、仔ライガは少女に対してずっと唸り声を上げ続けている。
 少女はその敵意を剥き出した唸り声に、泣きそうなほど顔を歪めている。 

「まさかライガの女王のこと? でも彼女、人間でしょう?」
「彼女はホド戦争で両親を失って、魔物に育てられたんです。魔物と会話できる力を買われて、信託の盾騎士団に入隊しました」

 ティアとイオンの言葉が、どこか遠くに感じる。

 アリエッタは俯けていた顔を上げると、俺一人を睨む。瞳に宿る憎悪の炎がこれまで以上に燃え上がるのがわかる。しかし、そこに浮かんだ表情は同時に、どこか泣いているようにも見えた。

「それになんで……なんでママの子供をあなたが連れてるの!? ママを殺したくせに、どうしてそんなことができるの!? ママだけじゃなくて……アリエッタから妹まで取り上げるつもりなの!?」
「俺は……俺は……」

 ただ呆然と立ちつくしかなくなった俺を見据え、アリエッタは屈辱に頬を紅潮させる。

「あのときママのことがわかっていたら……だまされなかったのにっ! 少しでもいい人だなんて、思わなかったのにっ!!」

 アリエッタが一瞬優しい顔になって、仔ライガに視線を向ける。
 だが、仔ライガはそれにも唸り声で応える。肉親なんて知らないと、敵意を向ける。

「許さない……っ! アリエッタはあなたたちを許さないっ!!」

 残された唯一の肉親からすら敵意を向けられた女王の娘が、あまりにも正当すぎる怒りを俺に叩きつける。

「地の果てまで追いかけて……殺しますっ!!」

 復讐の宣言とともに、アリエッタが胸元に抱いていた不気味な人形を掲げる。
 激しく動揺する俺一人を残し、全員が一斉に武器を構えた。

 今にも戦端が開かれようとした──まさにそのとき。

 大地が激しく揺れ動く。

「うわっ!!」
「きゃっ……っ」

 揺れに足を取られ地面に膝をつく俺達と同様に、アリエッタもまた立っていられなくなって、その場にへたり込む。

「地震か……!」

 だが、異変はそれだけに収まらない。

「おい、この蒸気みたいのは……」

 激しい振動によって地面に亀裂が走り、そこら中からガスが噴き出す。

「障気だわ……!」
「いけません。障気は猛毒です」

 座り込みながらも、ティアとイオンが警告を発する。

「きゃっ……!!」

 噴き出す障気の直撃を受けたアリエッタと成人ライガが悲鳴を残し、一瞬で意識を刈り取られた。

「なっ……大丈夫なのか? 煙なんて防ぎようがねぇぞっ!」
「長時間、大量に吸い込まなければ大丈夫。とにかくここを逃げ……」

 起き上がりながら言いかけたティアの言葉が止まる。

「逃げ道が……」

 周囲の大地は陥没したように落ち込み、地面を走る亀裂から障気が噴き出していた。

「どうする……?」

 向けられた俺の真剣な表情に、ティアがなにかを覚悟するように瞼を一度閉じると、杖を構え直す。

 ティアが大きく息を吸い込み、続けてその唇が開かれた。

 ──クロァ──リョ──ズェ──トゥエ──


 周囲を障気とは対照的な優しい光が満たし始める。

「譜歌を詠ってどうするつもりです? それよりも脱出の方策を……」
「待って下さいジェイド! この譜歌は……──ユリアの譜歌です!!」

 ──リョ──レィ──ネゥ──リョ──ズェ───

 譜歌が終わると同時に、虚空に浮かび上がるようにして光の円陣が周囲を走る。

 その場に居た者達全てを包み込む巨大な紫紺の円球が出現した。球体から溢れる音素の光と、複雑な譜の旋律が周囲を圧倒する。

 視界を閃光が貫いた。

「……障気が……消えた?」
「障気が持つ固定振動と同じ振動を与えたの。一時的な防御壁よ。長くは持たないわ」

 ティアが息を荒らげ、杖に身を預けながら答えた。
 あれほど揺れていた大地も、その動きを止めている。

「噂には聞いたことがあります。ユリアが残したと伝えられる七つの譜歌……。しかしあれは暗号が複雑で、詠み取れた者がいなかったと……」
「詮索は後だ。ここから逃げないと」

 ガイの正論に、いつもの探求癖を発揮していたジェイドも苦笑を浮かべ同意する。

「そうですね」

 言うと同時に、無造作に槍を右手に取り出すと、地面に倒れ込むアリエッタに突き付ける。後顧の憂いを取り除かんと、ジェイドが槍に力を込める。

 俺の脳裏を過る無数の言葉。

 ──アリエッタのママはお家を燃やされてチーグルの森に住み着いたの。ママは子供たちを……アリエッタの弟と妹たちを守ろうとしただけなのに……──

 ──なんでママの子供をあなたが連れてるの!? ママを殺したくせに、どうしてそんなことができるの!? ママだけじゃなくて……アリエッタから妹まで取り上げるつもりなの──

 俺の頭上で、仔ライガが敵意に満ちた呻きを、彼女の『姉』に向けた。

「や、やめろっ!」

 気がつくと、俺はジェイドを止めていた。

「なぜ、止めるのですか? あなたもわかっているでしょう。ここで見逃しても、ただ繰り返すだけです」

 一切アリエッタに突き付けた矛先を逸らさずに、ジェイドは淡々と当然の事実を告げた。

「生かしておけば、また命を狙われます」

「……俺は……ただ……」
「本当に……甘いのね。あなたは……自分に敵意を向ける人に対しても、甘すぎる」

 言葉に詰まる俺に、ティアが俺に背を向けたまま、絞り出すような声音でつぶやく。
 なにも言えなくなった俺を見かねてか、イオンが前に進み出てジェイドを見上げる。

「ジェイド……見逃して下さい。アリエッタは元々、僕付きの導師守護役なんです」
「……まあ、いいでしょう」

 ジェイドは槍を消し去ると、アリエッタに背を向けた。
 どこか不満げであったものの、最終的にジェイドは俺たちの頼みを聞き入れてくれた。

「障気が復活してもあたらない場所に運ぶぐらいはいいだろ?」
「ここで見逃す以上、文句を言う筋合いではないですね」

 ガイの言葉に苦笑を浮かべながら頷き、ジェイドは眼鏡を抑える。

「そろそろ……限界だわ」

 杖を構えたまま、譜歌の効果を維持していたティアの言葉に、俺たちは急いで移動を始める。

「行きましょう」


 無言のまま歩き出す一同の中で、俺は一人背後を振り返る。
 気絶して地面に倒れ込むアリエッタと成人ライガの姿が視界に映った。
 俺と同じものを見ているというのに、仔ライガは彼女らにまるで興味がないのか身じろぎ一つ起こさない。

 ママと妹……か。

 やり切れねぇぜ。俺は自身の業の深さから目を逸らすかのように、気付くと顔を伏せていた。視線を逸らそうとも、俺が犯した罪は変わらないってのにな。

 ライガの家族の絆を引き裂いたのは他の誰でもない、俺なんだ。
 なにも知らない仔ライガが、沈み込んだ俺を慰めるように、甘えた声を出した。




  1. 2005/10/28(金) 17:47:53|
  2. 【家族ジャングル】  第二章
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