全手動軽文量産機

──A.L.M──

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【──外界の傍観者】






「やれやれ……学園全体が《威海》に飲み込まれるとはね。こんな事はいつ以来だろうか?」

 学生服の男が一人、目深に被ったシルクハットを片手で抑えながら、視線を上向かせた。ついで校門から先に広がる光景を視界に納めると同時、感嘆の吐息を洩らす。

 上空に燦然と輝く方陣が、ギチギチと耳障りな音を立てながら回転していた。真下に位置する学園校舎の姿は見えない。方陣から絶え間なく注ぐ闇色の光によって、学園の敷地内は完全に外界から隔絶されているようだ。

「しかし、水城職長らしくない油断だね」

 光に覆われた学園をまじまじと見据えながら、やれやれと溜め息を洩らす。

 五大職種筆頭を回っていたのだ。他の職長達から情報は得ていただろうに、いくら素人を連れていたとは言え、為す術なく降臨陣の展開範囲に飲まれるなど、あまりにも彼らしからぬ失態と言えた。降臨陣の展開に多少でも注意していれば、彼なら対処も容易であっただろうにと、どうしても思ってしまう。

「あら、彼にも油断することぐらいあると思いますよ───春日井さま」

 澄んだ声が、背後から届く。

 名を呼ばれた男───春日井怪奇は背後を振り返り、僅かに眉根を上げた。烏の濡れ羽のような漆黒の長髪。学園指定の制服が、目の前の彼女が着込むだけで、まるで専用に誂えられた豪華なドレスであるかのような錯覚を覚える。

「おや君か、会長・・
「ええ。ごきげんよう、春日井さま」

 微笑みながら、会釈を返した相手───烏丸学園生徒会長の登場に、春日井は鷹揚に頷き返す。

「ごきげんよう、会長。それと先程の言葉だが、それは君が彼を生徒会でしごいていたときの経験から来た言葉かい?」
「そうですね。水城くんはあれでいて、けっこう感情に流されちゃう人ですから」

 くすくすと口元に手を当て、可笑しそうに笑う会長に、春日井は苦笑を浮かべた。数ある代行屋の中でも、鬼子とも称されることがある万代行屋の職長に対して、そんな評価を与えられる者など彼女ぐらいの者だろう。

「……まあ、彼もまだまだ経験が足りないという事か」
「あら、春日井さまと比べたら、誰もが若輩者になってしまいますわ」
「ふむ……言われてみれば、そうかもしれないね。でも、君の事は僕もそれなりに認めているつもりだよ、会長」

 どこかとぼけた顔でシルクハットを指で弾く春日井に、会長は笑みを深める。

「大戦から生き続ける英雄の言葉です。素直に嬉しく思いますわ」
「むむ……それを言うのは止めてくれたまえ。僕はまだまだ若いつもりなんだから」
「あら、春日井さまは十分お若い容姿を保っていると思いますけど?」
「違う違う。その考えがそもそも間違ってるのだよ」

 小首を傾げる会長に、春日井はまだまだ甘いと指を左右に振って、彼女の間違いを指摘する。

「これでも見た目だけじゃなく、中身も十分に若いつもりなんだよ。僕はね」
「あら、これは失礼。でも、精神的にも十分お若いと思いますわ」
「……なんだか無理やり言葉を引き出したようで少し気が引けるね。しかし、一応ありがとうと言っておこう」
「どういたしまして……と言うのもなんだか変ですわね」

「む……それもそうだね。まあ、僕はまだ若い。それだけ認識しておいてくれればいいよ」
「はい。わかりました。まだまだ若い、春日井さま」

 互いに顔を合わせ、なんだか間の抜けた会話に、少しの間、笑みを交わし合う。

 不意に笑みを消すと、会長が視線を校舎に戻した。

「今回の件に関して、春日井さま御自身が動く予定はありますか?」
「最初はそうするつもりだったのだがね。どうもヨルのやつが既に動いてるようなんだよ。だから少し迷っている」

 返された言葉に、会長も納得したように首を頷かせた。

「確かにヨルくんが動いているなら、春日井さまが動く必要はないかもしれませんね。あまり多くの者が介入し過ぎても、事態をややこしくするだけでしょうし」

「うむ。僕もそう判断した。なんで、しばし静観しようと思ってる訳だが……学園側としては、今後どう動く予定なのだろうか?」

「素直に結界の修復に務める予定です。一度【魔王】が顕現した以上、専用の装備も整っていない状態で突入した所で、何の解決にもならないと思いますから」

「ふむ。正しい判断だね」

 【魔王】の危険性を、正確に見越した上での判断と言えた。解決を図れる者が既に領域内に居るのだ。ならば、外に居る自分たちは、他に出来ることをやるべきだろう。

 そこまで考えた所で、ふと疑問が浮かぶ。

「【魔王】という存在について、君達はどう考えているんだい?」
「【魔王】について、ですか?」

 唐突に放たれた問い掛けにも関わらず、会長は素直に考えを巡らす。

「そうですね……錬課でもそれなりに研究を進めているようですけど、対象が対象なだけに、あまり芳しくないのが現状です。それ故に一般的な人々に広がっているイメージを言えば……文字通り、絶対的な存在、といった所でしょうか」

「ふむふむ。まあ、そんな所だろうね。間違ってはいないよ。《威海》より現れる異相具象体どもの中でも至高階級───魔王と呼ばれる程の存在だ。まさしく、絶対的な存在と言える」

 王という称号は、何も国をおさめる者にのみ付けられるものではない。他者を圧倒する絶対的な力。あまりにも周囲から隔絶した異能の持ち主。彼等は畏怖を込めて、こう呼ばれるだろう。

 すなわち───魔王と。

「威海の発見から既に半世紀近くが経った訳だが、その間、【魔王】がこちら側の世界に姿を現した回数を知っているかい?」

 問い掛けながら、春日井は相手の答えを待たず、そのまま答えを告げる。

「驚くべきことに、たったの四回なのだよ」
「……四回」
「異相具象体達にも、自らの行動を律する何らかのルールがあるということだね。いずれのケースも、彼等は現界するために、こちら側からの呼びかけを必要としていた。すなわち忌まわしき召還陣──魔王降臨陣の展開をね」

 いったい誰が考案したのか、それすらも定かではない戦略級の殲滅術式───魔王降臨陣。

 かつての大戦時、威海からの侵攻に追い詰められていたときの政府は四国の放棄を決定。軍の撤退と合わせて、黄泉平塚に通じるとも言われた四国そのものを贄として降臨陣を展開───魔王を召還した。

 一度顕現した魔王の力から、逃れられる者は存在しない。それは同じ威海より現れた異相具象体どもにも言えることだ。

 召還された魔王の名は残されていないが、降臨陣により展開された世界は【黄泉返り】と呼ばれ、文字通り黄泉の国───死の世界が現実世界に顕現した。

 四国の放棄から半月の間、威海からの侵攻は停滞し、政府は貴重な時間を得た。

 しかし、戦力を再編した軍が、再び四国を奪還するためには、数十万にも昇る特殊技能執行者達の犠牲を必要とした。

「【魔王】はこちら側に顕現した瞬間から、世界の支配者となる。自らの存在する領域において、絶対の法を占き、万物の覇者となるのだよ。文字通り、自らの存在する世界ソノモノの───王となる訳だ」

「何度聞いても、おそろしい存在ですね」
「うむ。【魔王】に敵対する事は、世界そのものを敵に回すようなものだ。それ故に、【魔王】の支配領域に突入することは、あまり現実的な対処法とは言えない訳だよ」

 過去に【魔王】が顕現した場合も、大抵は陣の展開された空間そのものを吹き飛ばし、降臨陣が展開された事実そのものをなかったことにする事で、対処していたぐらいだ。

「……まあ、空間ごと破砕する方法もあるにはあるが、あれは周囲に与える被害があまりにも大きすぎるのが欠点だ。今回は使えないだろうがね」

 学園の周囲には市街地が存在する。空間そのものが吹き飛ばされることで生じる衝撃波を完全になくすことは出来ない。周囲に与える損害を考えれば、却下せざるを得ないだろう。

「あえて他に【魔王】に対抗できるような方法を上げろ言われたならば、それこそ【魔王】と同等の存在を用意するか、あるいはより高次の概念を司る存在───《真理執行者》を【魔王】に直接当てるぐらいしか、打開策はないだろうね」

 春日井は校舎に視線を戻す。上空に展開された幾何学的な紋様を描き出す方陣が、音を立てながら回転していた。学園敷地内は空間そのものが、こちら側とは異なる位相に切り離されている。そこで何が起きているか、外界から伺う術はない。

「つまり、当面はヨルに任せる以外にないということだよ。なんとも厄介な事にね」

 どこか複雑な表情で被りを振る春日井に、会長がからかいを含んだ視線を向ける。

「なんだか不安そうですわね、春日井さま」
「それは不安にもなるさ。何しろ彼は手加減というものを知らないからね」

 揺れるシルクハットを片手で押さえながら、肩を竦めてみせる。

「まあ、せいぜい校舎が全壊する程度で済むことを祈るよ、僕は」

 そう言って、春日井怪奇はシルクハットに目元を隠す。

「それはもう心の底から、ね」

 目深に被られたシルクハットに遮られ、春日井の表情は見えない。しかし、面倒事は御免だという発言内容とは裏腹に、僅かに除く春日井の口元は、緩やかな弧を描いていた。

 まるで、この先起きる事態に対して、隠しきれぬ高揚感が、『笑み』という形で表情に、溢れ出たかのように───………






……続く?


  1. 2007/11/24(土) 18:35:23|
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