全手動軽文量産機

──A.L.M──

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【────まであと■時間】





 塔、と呼ばれるものが在る。

 天に向け悠然と聳え立つソレは、人知を越えた領域に存在する象徴的な存在。地上を這い回るしかない人間が、僅かばかりでも天の頂きに己が身を近づけようとして作り上げた、数ある祭器の一つ。

 学園の中央区画に存在するソレは、まさしくそんな塔の一つだった。

 烏丸地区に存在するどんな建物よりも高く、天に向けて伸びる建造物。人の出入りすることが許されない尖塔の頂き、正面方向に備えつけられた銀盤を廻る二つの針が、絶え間なく時を刻む。

 時計塔。

 無機質に街を見下ろす塔は、眼下で繰り広げられる人間の営みなど関係なく、ただひたすら時を刻み続ける。巨大な時を刻む歯車を止めることができるモノなど存在しない。


 くるくると、クルクルと、狂々と───廻り続ける。


 定められた、ただ一つの覆せぬ、そのときに至るまで。
















               【────まであと■時間】



















 散策は、特に目的が存在しない。

 視界の端を流れ行く景色に意識を傾けるでもなく、一定の間隔でただ進み続ける。興味を引くものがあれば、一時的に歩みを止めることもあるだろう。しかし、それも長続きはしない。数分もしないうちに足は動きだし、ひたすら目的のない散策が続く。

 特にこれと意識するまでもなく、単調な間隔で黙々と足を動かし続ける。このとき、日常生活を過ごす中で必然的に発生するような、雑事に対する配慮が介在する余地はない。思考の網はすっぱり取り払われ、ひたすら自らの内面の淵に沈み込むことが許される。

 つまり、考え事などをする際に、散策は最も好ましい手段の一つであると言えるだろう。

 特に、それが日常的な生活を過ごす際も、決して無視できぬ問題について、考えるときなどは。

「…………ふぅ」

 高町晴香は自らの存在する世界に違和感を覚えていた。

 それは他の誰に問い掛けても、きっと共感を得ることなどできない、世界そのものに対する不和。

 この世界が、自らの生きる場として、正しいものと認識できない。

 友人の一人に、この疑問を、それとなく洩らしてみたこともあった。そのときは、核心に近いものを返されたような気もしたが、その答えにもどこか言いようのない違和感がつきまとった。

「…………ふぅ」

 結局の所、自らの見出した答えでなければ意味がいない。そういうことなのだろう。

 高町晴香は考える。自らの生きる世界を視界に流しながら、自らの内面世界に沈み込んで、深く深く考える。

 本当に、ここは自分のいるべき世界なのか?

 突拍子もない、荒唐無稽ながらも、何者であろうと完全な証明も否定もできないような、決定的な疑念に対する答えを、ひたすら追い求める。


 不意に、耳を打つ鐘の音があった。


 僅かに顔を上げて、街の中心部に視線を据える。

 天高くそびえ立つ一本の尖塔。

 音源は学園都市の中枢、学園本校舎に作られた時計塔が鳴らす鐘の音だ。街そのものを包み込むように、音色は一定の感覚でなり響く。

 しばらく耳を澄まして、音色に聞き入った後で、高町はふと思い付く。

「そうね。時計塔に行ってみようかな?」

 もともと目的など存在しない散策。それでも一定の区切りというものは必要。煮詰まった考えを一新するには、そう悪くない考えかもしれない。

 うんうんと何度も首を頷かせながら、高町はこの思いつきを行動に移すことに決めた。
 良しと気分を切り換え、新たに定まった目的地に向かうべく、歩みを再開させる。

 しばらく進んで行くと、通りの向こうからこちらに近づく人影が見えた。男はぶつぶつと一人で何やら呟いている。高町は自然と相手を避けるように、身体を路地の脇に寄せる。

 擦れ違う瞬間、聞くともなしに、男の呟かれた言葉が高町の耳に入る。

「……いったい何処にあんだかね。ったくマッドな科学者は手に終えんよな。あーあー本当ならあいつの側に張りついてなきゃならないんだろうけどさ。九条経由の以来はさすがに断れねぇからな。ったく割に合わねぇ依頼だよ。まったく本当によ…………」

 ぶつぶつと、ひたすら独り言を呟きながら路地を進む男。

 すごい変人だ。擦れ違った瞬間、まず浮かんだ感想がそれだった。

 男の独り言もそうだが、なによりその格好がまた一段とおかしい。いったい何を考えているのか、このポカポカした陽気の中で、男は漆黒の外套を羽織っている。黒という色は高級感を見るものに与えることもあるが、一つ間違えると、身にまとう者の怪しさを助長する色合いでもある。

 まあ、どっちになるかも、身にまとう人次第なんだろうけどね。高町はさりげなくヒドイことを考えた。

「ん?」
「へ?」

 不意に、男と高街の視線がかち合った。同時に男は歩みを停めて、高町をしげしげと見据え始める。近視の人が不鮮明な像を見定めようとするように、ぐぐぐっと目を細めながら視線を送る。ぶっちゃけかなり引く表情だ。

「な、なに?」
「んー……?」

 不躾な視線に気押されながら、辛うじて言葉を返す彼女に男は告げる。

「あんた、実は正気だろ?」
「え……?」

 まったく意味がわからなかった。ぽかんと口を開いて男を見据える高町の様子に、男はあれ? と首を一度傾げた後で、すぐに言葉を再開する。

「いや、目覚め掛けの方か? んーまあ、どっちにしろ感心感心。
 ま、もう少しの辛抱だからさ。頑張ってくれ。絶対に俺が救い上げてやるからよ」

 うんうんと首を頷かせながら、ポンポンと気安げにこちらの肩を叩くと、男は何事もなかったかのように悠然とこちらから距離を離す。

 何だって言うんだ? 呆然と男の後ろ姿を見送った後で、高町は我に変える。

「ちょ、ちょっと! それ、どういう意味──?」

「んー……? ……ああ、まだ揺らいでる所に、いらんこと言っちまったか」

 参ったなぁと頭を掻きながら、男はしばし言葉に迷うように沈黙した。しかし、結局は面倒くさそうにかぶりを振った。

「……ま、今わからんようなら、気にすんな、高町晴香」
「!? な、なんで、私の名前を……」
「あー……またやっちまったか。まあ、直に理解できるはずだから、今は説明とかかんべんな」

 そう投げやりに言い捨てると、男はそのまま逃げるように曲がり角に身体を入れた。視界から消えた相手の背中に、高町は慌てて男の後を追う。

「ちょっと、待────……っ!?」

 男の後を追って駆け込んだ曲がり角の先。
 男が角を曲がるのと、彼女が後を追うまでに要した時間差は僅か数秒に過ぎない。
 だと言うのに、

「うそ………誰も、いない」

 目の前には、ひたすら無人の路地だけが、広がっていた。


















               【異邦人達の会話】












「本当に、奇妙な世界だよな」

 現実世界と何ら変わる所のない街並みが眼下に広がっていた。同行者との落ち合い場所、人気のないビルの屋上。漆黒の外套を風にはためかせながら、男はどこか呆れたような口調で呟くと、ついで周囲に視線を巡らせる。

「あ、ヨルさん。どうだった?」

 ビルの端。一人の少女が黒衣の男に気付いて、顔を上げた。手を上げて彼女に答えながら、黒衣の男は肩を竦めてみせる。

「収穫はなしだよ。ったく、ここまで同じだと厄介極まるな」
「仕方ないよ。展開されたのが学園だもん。降臨陣を展開した人たちも食べられちゃった後だし、彼らの認識の影響もあるんだと思うよ?」
「まあ、な。当然と言えば当然なんだが、それでもなぁ……」

 厄介なもんだ。ビルの下に広がる街並みから、黒衣の男は視線を少女に戻す。

「で、実際そっちはどんな案配よ、浅田マユミ?」
「ヨルさんヨルさん。いい加減、フルネームで呼ぶの止めて欲しいんだけど?」
「……ん? あ、こりゃすまん。でもなんか癖でな」
「うー」
「あーわかったわかった。で、浅田の嬢ちゃん。実際、どんなもんだ?」

 名前でいいんだけどなぁーと不満げに呟きながら、少女は改めて周囲に知覚を飛ばす。

「うーん。……やっぱりダメ」

 額に手を当てながら、しばし唸ったと思えば、直ぐにぱちりと目を開いて、首を左右に振る。

「ここも違うみたい。あーもう、本当にどうなってるんだろ? いくらなんでもおかしいよ? 陣の基点になりそうな場所はこれで最後だって言うのにさー……」

 おかしいなぁとひたすら首を傾げる少女に、黒衣の男は懐から地図を取り出した。地図には幾つかの印が記されている。印を確認しながら、同じく懐から取り出したペンで、印の上に×を付けていく。

「あー確か最初に廻ったのがココとココだろ、そんで次にアソコ廻って、ココに来た訳だ」
「うん。ココとココも違ったから、ココだろうって検討つけてきた訳だけど、今度も違ってた。あの感覚からするとたぶん高い場所にあるはずなんだけど、ココでもないって言うのがなぁー。これでもうほとんどの候補がなくなっちゃったよ」

 もうお手上げー。両手を上げる少女に、黒衣の男も不可解そうに眉根を寄せる。

「しっかし【魔王】の種類がわからないってのが致命的だよな」

 だよねーと少女の同意が返った。

 基本的に、【魔王】が内包する世界は一つの概念に支配される。

 かつて四国に降り立った【魔王】は【死】の概念を司っていた。これは何も偶然そうなったというわけではなく、極めて高い不死性を誇っていた【威海より這いずるモノ】達に対抗するため、軍部が検討に検討を重ね、不死性を無意味に貶める概念を持った対象を、狙って呼び寄せた結果だった。

 呼び出される対象が司る力は、予め描かれる降臨陣の作成過程によって変わってくると言われているが、具体的な作成資料は軍部の中でも最重要機密として秘匿されているため、確認はできない。しかし、完成された陣の資料は戦後の混乱期、裏の世界にそれなりに出回っており、呼び寄せられた魔王の種類もそれなりに判明している。

「それに今回の降臨陣は、そもそもどこから流れてきた資料を基にしたかもよくわかってないから」
「あー……まあな」

 外部から流れてきた資料を手にした半端な術者が展開した降臨陣。結果として呼び出されたものが暴走するのも、当然の帰結と言えた。

「だが、それにしてもこれまで廻った場所のどれでもないってのが、妙に腑に落ちないというか……」
「展開された領域から考えると、どこか高い場所のはずなんだけどね……うーん」

 基本的に降臨陣の描かれた場所は、世界が魔王の支配領域となり変質した後も変わらず残る。そのため、突入した部隊が降臨陣の消去を目指すことも可能となっている訳だが……

 黒衣の男はげんなりと眼下に広がる町に視線を転じる。そこには平和そのものといった街並みがひたすら広がっていた。

「ここまで何から何まで外と一緒だとなぁ……」
「さすがに見当すらつかないよねー……」

 げんなりと顔を会わせ、二人は同時に溜め息を洩らす。

 これまで廻った場所も、世界の歪みを感知することに長けた少女の感知能力を頼りに、ひたすら足を使って検証して回ってきたわけだが、この場所でほぼ怪しいと当たりを付けた場所は廻り終わってしまった。

「後は、見込みの薄い候補地しか残ってないはずなんだが……どうにも、この世界そのものにいやーな違和感がつきまとって仕方がねぇんだよな」
「うーん。確かにね。何か根本的なものを見落としてるような気が私もするような……」

 二人して首を傾げ、改めて地図を見据える。

 そのとき、鐘の音が街中に響く。

「ん?」
「あれ?」

 澄んだ音色が高らかに鳴り響く。

「これって……時計塔の鐘か? さっきも聞こえたような気もするが、随分と懐かしいもん持ってきたもんだよな」

 どこか呆れたようにつぶやく黒衣の男とは対照的に、少女の顔色が変わる。

「え、あれ、なんで……?」
「って、どうした? 急に顔青ざめさせて」

「時計塔って、確か、数年前に取り壊されたはずだよね?」
「ん? ああ、そうだぜ。でも、まあ威海だしな。そういうこともあるだろ」

「違う、おかしいよ! ここまで何から何まで現実と同じくせに、あんな目立つものを置き換え忘れるなんて、逆に絶対怪しいよ!」

 少女の焦ったような訴えに、呑気に相槌を打っていた黒衣の男も、ようやく理解が及ぶ。

「と、すると」
「うん。たぶん」

 二人はほぼ同時に広げた地図の一点を指さす。


『ここが降臨陣の展開地点』


 そこは学園都市の中枢。烏丸学園本校舎───時計塔。










…………つづけぇ!


  1. 2007/11/24(土) 18:35:12|
  2. オリ長編文章
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