全手動軽文量産機

──A.L.M──

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─第一幕、鳴り響く開幕の鐘─


 結局のところ……あの赤毛が他の可能性と比べてあれ程までに変質しちまったのも、やつらとの出会いがすべての始まりだったんだろうな。

 なんでも人間ってな生き物は、環境によっていくらでも変化するらしい。

 もともと備わってるような性質ってもんは変わらんらしいが、それでも確実に、自分ってもんと関わりある存在に影響を受けるのだそうだ。最初から固まっちまってる俺らみたいなのからすれば、なんとも奇妙な話に聞こえるがな……。

 これからする話は、そんな環境に影響を受けた、赤毛の愚か者に起きた変化の話だ。

 同時に、観測以前にすべてが確定されちまってる、結末のわかりきった退屈な過去の記録にすぎない。

 登場するやつらはどいつもこいつも、甘ったるいぬるま湯に漬かり切ったような日々が、いつまでも続くもんだと信じて疑わない。

 だから誤魔化しなど許さない決定的な変化が訪れたときも、当然の帰結として、結局なにも成し遂げることができなかったような愚か者だけが残された。

 胸がかきむしられるような慟哭も、滑稽すぎて笑い出したくなるような喜悦も、すべてはそんなどうしようもない結末に至るための、とうに分かり切った道化芝居にすぎなかったわけだ。

 けれど、そんな絶望的なまでに愚かしい環境からの影響を受けたっていうのに、あの赤毛は今も必死に足掻き続けている。

 かつて自身の体験した道化芝居から目を逸らさず、ただ意地だけを頼りに、歯を食いしばってやせ我慢を続け、ついにはすべてを飲み込んだ──そう、あいつはそんなバカなのだ。

 これはそんなどこにでも居るバカが、目も覆いたくなるようなやせ我慢を続けた結果、より底抜けのバカになるまでの過程を綴った話し──

 すべての切っ掛けとなった、とある出会いから始まるおはなしだ。

 少しばかり耳を澄ませてみて欲しい。ほら……開幕のベルが聞こえて来ないか?

 どうしょうもなく笑えて、滑稽で、泣き叫びたくなるような──

 
さぁ──喜劇の幕開けだ。
 






















Tales of the Abyss



~家族ジャングル~























──むかしむかしのおはなし──























……音素はただそこにあるだけでは、その結びつきを解かれ、乖離していく存在だ。第一~第六までの音素もまた同様で、発揮された力は時間とともに消え失せる。つまりは、瞬間的な《現象》を具現化させる力と言えるだろう。対して、第七のみが他の音素と一線を画した力を発揮する……

  ──『音素概論』──























 【不良神官】



 僕は今日も今日とて暇が過ぎる職場に乾杯を上げる。

 ぐびぐびっと喉を鳴らしてビールを飲み干す。うまい、うまいねぇ。職場で飲む酒がやっぱ一番うめぇーよ。

「かぁー! ったく、酒でも飲まねぇーとやってらんねぇーな」

 僕は蒼天を仰ぎながら酒をかっこむ。座っている椅子は、教会前に設置されてる衛視小屋から引っ張り出したものだ。周囲を通りすぎる街の人々が、僕の姿を目に留める。

 大半は苦笑を浮かべて通りすぎるか、嫌そうに目を逸らすかのどちらかだ。

 ここで僕の職業を紹介しておこう。僕はキムラスカ・ランバルディア王国の首都バチカル駐在の教団武官の一人だ。つまりは神に仕える身の上なんでございます。がーっははははっ!

 酔っぱらった頭が笑えと命じるままに従って、僕は腹捩らせて笑いまくるのです。

「真っ昼間から酔っぱらうとはいい身分だな、アダンテ」

 いつのまにか気配も無く、すぐ側に立っていた銀髪の男が僕の名前を呼んだ。

「ん? なんだギンちゃんじゃねぇーか。僕に会いに来たの? でもだめだぜ。いま営業停止中。窓口は締め切られましたってか。がーっはっはっはっはっ!!」

「こ、この酔っぱらいが……っ!」
「お、押さえるでヤンス、親ビン」
「そうよ。こんな酔っぱらいに突っかかってもしょうがないわよ、リーダー」

 ん? と視線を横に滑らせると、ギンちゃん意外にも二人の人影が目に入る。一人は背の低い筋肉質の男で、もう一人は色っぽい姉ちゃんだ。ああ、いつ見てもいい女だよなぁ。でもギンちゃんに惚れてるみたいだから、手を出さないけどね。

「それでギンちゃん、どっかしたの?」
「ギンちゃん呼ぶなっ!」

 なぜか怒鳴るギンちゃんに首を傾げる。どってそんなに怒ってるのさ?

 わなわなと腕を震わせながら、ギンちゃんが両隣に立つ二人に目配せをする。

 ささっと動いて、三人が構えたところで、彼らがなにをするのかようやくわかった。

「闇を切り裂くサーベルタイガー、ギンナル!」

 背後で音素が緑色の光を撒き散らし、風が巻き起こる。

「闇に地響きナウマンゾウ、ドンプルでやんす!」

 背後で音素が黄土色の光を撒き散らし、小石が跳ね上がる。

「闇夜に羽ばたく吸血コウモリ、ユシア!!」

 背後で音素が青色の光を撒き散らし、水滴が滴り落ちる。

『我ら! 最強戦団、漆黒の牙!!』

 びしっと決め台詞を放った三人組に、僕は拍手で応えた。

「がーはっはっはっ! そうだったそうだった。漆黒の牙でした。
 ──で、何の用さ、ギンちゃん」

「こ、こいつは……」

 再び呻き始めるギンちゃんを、両隣の二人が押さえる。

「親ビン、ここはひとまず用事を先に澄ませた方がいいでヤンス」
「そうよ、リーダー。ぐずぐずはしてられないわ」
「そ、そうだったな」

 おや? いつもならこのネタで三十分は潰せるのに、今日はいやに割り切りが早いな。

「ほんとどうしたんだ? なんか随分焦ってるみてぇだけどよ」
「実はだな、お前を見込んで頼みがある」
「へっ、頼みだって?」
「そうだ。ユシア」

 呆気に取られる僕に応えて、ギンちゃんがユシアに目配せをする。

 頷いたユシアがなにやら背後から手を引いて連れてきたのは、一人の子供だった。わけがわからずきょとんと見つめるしかない僕に向けて、そのガキは少しくすんだ真紅の長髪を揺らしながら、性根の腐ってそうな目で睨み返してきた。

 子供を目にした瞬間、僕は事態を把握した。

「ギンちゃん……ちゃんと認知してやるんだぜ?」
「ああ、わかってる責任はとる──じゃねぇっよ! こいつは俺の子供じゃない! ドンプルもあっさり信じるな! ユシアも泣きそうになるよ!」 

 乗り突っ込みするギンちゃんに僕は馬鹿笑いを上げた。マジで腹がよじれるわ。

「くっ……ともかく、アダンテ。こいつを家に送って行って欲しいんだ」
「へ? なんでまた僕? 家に送るぐらいギンちゃん達でもでできるだろ?」

 あんまりにもからかい易い性格に忘れがちだが、漆黒の牙は名実共に最高技量を誇る貴族専門の窃盗集団だ。俗に言う義賊である。

「実はだな……仕事先でこいつに見つかってしまってな」
「このおっさんが、まちをあんないしてくれるのか?」

 ギンナルの言葉を遮って、性根の腐ってそうなガキが僕を不審そうに見やる。

「とまあ、そんなわけだ」
「……どういうわけだよ?」

 僕がちょっと声を低くして尋ねると、ギンちゃんがだらだら汗を流しながら弁解する。

「いや、じつは見つかっても騒がない交換条件として、街を案内しろと言われてな」
「そんな要求のんだのかよ」

 言下にそんな口約束は破っちまえと言ったのだが、ギンちゃんは即座に否定を返す。

「いや、俺は交わした約束は破らない。誰が相手でもだ。これだけは、絶対譲れん」
「親ビン……」
「リーダー……」

 ギンちゃんの断言に、配下二人も感動したように声を震わせる。

 まったくギンちゃんはバカだよなぁ……でもま、そんなやつだから、僕みたいな不良神官と親交があるわけだけどさ。

「しょうがねぇーな。他ならないギンちゃんの頼みだ。引き受けるよ」
「おお、ほんとか。ありがたい。感謝するぞ、アダンテ」
「今回だけだぜ、こんな無茶なお願い聞くのはよ」
「わかってる。この借りはいつか返そう」
「がーはっはっはっ! まあ、無期限利子無しで、いつまでも待ってるぜ」

 律儀な答えを返すギンちゃんに、僕は笑い返す。

「リーダー、そろそろやばいよ」
「む、そうか」

 なにやら袖を引っ張られて、ギンちゃんがかなり真剣な顔になる。

「どったの? ああ、もしかして仕事終わったばっかりなのか」
「そうだ。なるべく穏便に帰せる方法があるとしたら、やはり教団の人間が送り届けるのが一番怪しくないだろうと思ったんだ」

 確かに、子供が抜け出したのを『保護』したって言って一番受け入れられ易いのは、教会の人間だよな。

「それでは、我等は去る。坊主、このおっさんが街を案内して、家まで送り届けてくれるだろう」
「えーっ! ギンナルもういっちゃうのかよ! いっしょにまちみようぜ!」
「そう言うな。お前が信じる限り、漆黒の牙は不滅。いつか出会うこともあるだろう」

 駄々をこねるガキに、ギンちゃんが不敵に笑いかける。相変わらず子供に好かれるよな。

「さらばだルーク!」

 うるうると目尻に涙を溜めるガキを後に残し、ギンちゃんがばさりとマントを翻す。同時に巻き起こる突風が視界を覆い隠す。

 次の瞬間には、漆黒の牙の姿は跡形もなく消え去っていた。

 ほんと何回見ても、凄まじい移動の速さだよなぁ。

 感心していると、さっきまで強気だったガキが僕の方に向き直る。

「そ、それでおっさんがまちをあんないしてくれるのかよ?」

 どこか弱気を滲ませる物腰に、さっきまでの態度が虚勢にすぎないことがわかった。小憎たらしい口聞いても、なんだかんだ言って子供は子供だな。

 いけ好かないガキだっていう第一印象が、まだまだ子供に変化する。

「な、なに、ニヤニヤしてんだよ。こたえろよ!」
「がーはっはっはっ! わかったわかった。これもなにかの縁だ。教団は出会いを大切にすんだ。街のなかでも、お前が一番楽しめそうなところに案内してやるよ」
「ほ、ほんとかぁー?」

 さっきまでの不貞腐れた態度から一変して、目を輝かせる。身長、体格からして12歳ぐらいか? どうも見かけと違って、子供子供してるやつだな。

「ああ、本当だ。ついてきな。僕の特選スポットに案内してやるよ」

 不敵に笑いかけ、僕は子供を連れて、街へと繰り出すのであった。




【金髪奉公人】




「ルーク様を探せ……ですか?」
「そうだ」

 俺は自分の雇用主たるファブレの旦那が告げた言葉が信じられなくて、思わず命令を繰り返していた。

 俺の名はガイ。とある理由から、キムラスカ王国でもそれなりに名の通った大貴族にあたるファブレ家に仕える奉公人だ。今のところは屋敷の一人息子であるルークの世話役兼、遊び相手として日々の雑事をこなしている。

 ルークの誘拐事件があってから、旦那は俺に対していろいろな用事を言いつけるようになった。誘拐されて記憶を失ったルークを見捨てずに、世話をし続けた俺のことを妙に信頼してしまったようだ。少し、胸が痛いね。

 おっと、それよりも今は旦那さまの話しだ。

「いったい……どういうことでしょうか?」

 誘拐事件があってから、ルークは屋敷に軟禁されている。探すもなにも、屋敷から出ることは不可能なわけで、言われたことがよく理解できなかった。

 しかし旦那の言葉に嘘は無いようで、どこまでも真剣に頷きを返す。

「どうやったのかはわからないが、やつは屋敷を抜け出して街に向かったようでな。お前にはやつを連れ戻してほしい」
「白光騎士団の方々に任せるわけにはいかないのでしょうか?」
「駄目だ。それでは騒ぎが大きくなりすぎる。あくまで、お前がついている状態で、やつはお忍びで街に繰り出したにすぎない。表向きは、そういう筋書きとなる」

 なるほどねぇ。確かに屋敷の外に騒ぎが知れたら、とんでもない事態になるかもな。

「それでは、ルーク様の居所には、だいたいの検討などはついているのでしょうか?」
「うむ……それなのだが……」

 なぜか言いよどむ旦那に、俺は相手に気付かれない程度に眉をしかめる。なにか言葉にしにくい理由でもあるんだろうか?

「──に居るようなのだよ」
「はい?」

 かなり失礼な行為だったが、俺は思わず間の抜けた声を上げしまった。

 だが旦那もそれについては咎めずに、同じ言葉を繰り返した。

「やつは、孤児院に居るようなのだ」

 俺は呆気にとられて、口をポカンと開いて固まってしまった。




【赤毛小僧】




「このやろー!」
「なにくそっ!」

 オレは掴みかかってくるそいつの拳を引きつけるだけ引きつけて、限界ギリギリで身をかわす。そのとき左足をわずかに残し、相手の足を引っかける。

「あっ──」
「へっ──おそいぜっ!」

 振り抜いた拳が相手の顎を直撃する。頭を揺らされたそいつは、へなへなとその場に尻餅をついた。追撃をかけようとするオレに向けて、そいつはあわてて両手を上げた。

「ま、まいった!」
「へへっ。どんなもんだ?」

 周囲をとりまいていた連中が、一斉に歓声を上げる。

「すっげぇー。かったよ」
「かっこいー」
「なにかぶじゅつでもやっているんでしょうか」
「すごいわぁ~」
「くっ、くそ、負けたぁ!」

 オレは鼻の下を擦って、得意気に胸を張る。

 オレの名はルーク。王国の貴族、ファブレ家の嫡男だ。誘拐されたショックで、キオクショウガイとやらにかかって、昔のことが思い出せなくなってから屋敷の中だけがオレの世界だった。

 でも今日、オレは見知らぬ人物が屋敷の中を歩いていることに気付いた。そいつに近づいて見てみると、なんとそいつはマントをしてたんだ。その瞬間、オレにはわかった。そいつはオレを屋敷の外に連れ出してくれるヒーローだってことに。

 漆黒の牙のリーダー、闇を切り裂くサーベルタイガー、ギンナルは、オレの頼みを笑って聞き入れ、あっさりとオレを屋敷の外に連れ出してくれた。残念なことに、屋敷の外まで連れ出すと、ギンナルは帰ってしまった。きっと活動時間が限界だったんだろうな。

 そんなギンナルに変わって、今はアダンテとかいうおっさんがオレに街を案内してくれている。ギンナルと違って、なんだかだらし無いおっさんだが、悪いヤツではないようだ。街を行き交うほんとんどの人が、アダンテに向けてあいさつをしていた。

 街を見て回った最後の場所として、オレと同い年かもっと下の連中が集まってる孤児院とかいう場所に連れてこられた。物珍しげに見ていると、そこに居た連中のなかでも一番年長のやつが、突然オレに喧嘩をふっかけてきやがった。

 周囲のはやし立てる中、喧嘩を買ったオレは見事にそいつを叩きのめし、今や歓声に包まれているというわけだ。

「これからは、あいてをみてけんかをうるんだな!」
「くっ……」

 悔しげにうなだれるそいつに、オレはガイから聞いた喧嘩に勝ったときの決め台詞を初めて使った。

「おれのなまえはルークだ。そのむねにこのなをきざめっ!」
「くそっ! おぼえてやがれよ!」

 かけ出していくそいつに向けて、オレは指を突き付けて名前を告げた。

「ルーク兄ちゃんすげぇ! あいついつもいばってたけど、だれもかてなかなったんだぜ」
「アニキってよんでいいー?」
「なかなかの腕だということは認めましょう」
「ルーク兄さまかっこいい~」

 はやし立てる皆の言葉に、オレはちょっと戸惑いながら、くすぐったいものを感じて鼻を擦った。




【金髪奉公人】




「ごめんくださ~い」

 俺は家の塀あたりから声をかける。だが住人は家の中に引っ込んでしまっているのか、声が返ってくる様子はない。どうしたもんかと頬を掻いていると、突然肩を叩かれる。

 反射的に腰の刀を抜き放ちそうになるのを必死で堪え、顔を上げる。

「家に何か用かい?」

 金髪の長髪を無造作に背中に流した、白い鎧をまとった男が微笑んでいた。どうにも戦意が削がれるというか、人の良さそうな顔の造りをしている。だが、その物腰からかなりデキルことが伺えた。

「いや、その実は、うちの坊ちゃんがお邪魔してるって聞いて、迎えに来たんです」
「え? そうなのかい? なら一緒に来なよ。おーい、帰ったよ~」

 俺の答えも待たずに、その人はずんずん家の中に入って行ってしまう。

 初対面の相手に悪いかもしれないが、なんともボケボケした人だ。

「あら、お帰りなさい。ちょうどよかった。いまアダンテさんが来てるのよ。挨拶しときなさい」
「え、アダンテさんが? わかった。あ、そうだ。なんか子供が遊びに来てるとかって聞いたんだけど、迎えの人が来てるよ。伝えておいて」
「そうなの? わかったわ」

 ボケボケした人と話していた黒髪を肩あたりで切り揃えた女の人が、俺に笑顔を向ける。かなりの美人さんだな。

「いらっしゃい。でも、ちょっと待っててね。連中、裏庭で遊んでるみたいだから。もうすぐおやつの時間だから戻ってくるでしょうけど。そうだ! ちょうどいい。あなたもちょっと手伝って行きなさい。はい、これ運んで」
「へっ……はぁ」

 こちらの返事も待たずに、黒髪美人は台所から一方的に指示を飛ばす。俺も特に抵抗するでもなく、なんとなく彼女に促されるまま動いていた。

 ふと我に帰った頃には、キッチンから投げ渡される大量の菓子を受け取り、次々とテーブルに並べたてている自分に気付く。

 屋敷では味わったことない感覚に、なんとも言えない懐かしさを感じて、抵抗しようなんて気が起こらなかったのは確かだが……こんなことしてて、いいんだろうか? ほんと、どうしたもんだろうね。




【不良神官】




 僕はパラパラと本めくりながら、菓子の奪い合いをしている子供連中を見据えた。

 ぎゃあぎゃあと騒がしいもんだが、これこそ子供って感じがする瞬間だよな。

「アダンテさん。今日はどうしたんですか? 連絡無しに来るのって随分と久しぶりですよね」
「ん? そうだったか?」
「そうですよ。でもアダンテさんなら、いつでも大歓迎ですけどね」

 ボケボケした笑みを浮かべるこの男は、見かけとは裏腹に、孤児院の運営費を実質一人で稼いでいるに等しい、すさまじい漢だ。

「副院長さんにそんなこと言われると、僕としては毎日でも入り浸りたくなっちまうぜ」
「え、ま、毎日ですか? そ、それはさすがにちょっと……」

 正直すぎる答えるに、僕は笑い声を上げてしまう。

「がーはっはっはっ! それこそ副院長さんだ。いつまでもボケボケで居てくれよ」
「え、は、はい」

 律儀に答える副院長の背中をばしばし叩いて僕は笑った。

「ちょっとアダンテさん。うちの人をからかわないでくれる?」
「おっと、院長さんにはさすがの僕も敵わないからな。副院長弄りはこんぐらいにしとくよ」
「お、俺って弄られてたのか……?」

 なんだか落ち込んだ様子で肩を落とす副院長を無視して、院長が僕に向き直る。

「アダンテさんの連れてきた子……どうにも危なっかしい子ね」
「だろうな。なんでも、生まれてからずっと屋敷に監禁されて育ったらしいからな」

 その言葉を聞いた瞬間の心境が思い出されて、僕は胸くそ悪さに拳を握りしめる。

「そう……だから……」
「ん? どういうことだ?」
「普通なら知ってるような知識が、随分と抜け落ちてるのよ。目の前に出されたお菓子に、あの子不思議そうな顔をしてたわ。きっと同年代の友達と一緒に食卓を囲むってことも、その話を聞く限りじゃ初めての経験なのかもね……」
「……」

 あまりの胸くそ悪さに、僕は押し黙る。まったく、どうしょもない貴族も居たもんだ。

「あ、そう言えば、迎えの人が来てたけど、どうしてる?」
「ああ、彼ならあそこでみんなの面倒見てくれてるところよ」

 院長の示した先に、金髪を短く刈り込んだ少年が戸惑いを浮かべながら、子供の相手をしているのが見えた。

「ふむ。迎えが来たのか。さすがだな。やっぱそろそろ帰さんとヤバイか」
「なによ、アダンテさん。ヤバイって……誘拐でもしたの?」

 眉をしかめる院長の言葉に、僕は笑って答える。

「さてな。まあ、あんまり口出せない類のもんだよ」

 菓子の争奪戦を繰り広げているルークの下へ、僕は歩み寄るのであった。




【赤毛小僧】




 オレは大満足で街の見学を終えた。孤児院で遊んでる途中で、ガイのやつがオレを迎えに来た。なんでも親父が心配してるらしい。まったくうちの親は心配性だよな。

「ほうほう。お前がルークの家の迎えかよ?」
「そうですが、あなたは?」
「僕は教団の人間で駐在武官の一人をやってるアダンテってもんだ。街中で一人うろついてる子供を発見して保護した。ファブレ家の赤毛は有名だからな。すぐに貴族の子供だって気付いたぜ」
「あ、なるほど」

 なんだか二人は帰り道の途中で、ずっと難しい話をしていた。よく理解できないからつまらなくてしょうがない。天空滑車に乗って、しばらくするとすぐに屋敷についた。あんなすぐ側に、あんなに面白い場所があるなんて初めて知ったよ。

 絶対また抜け出してやる。オレは胸の内で硬く決心するのであった。

「ルーク……無事だったか」
「あ、ヴァンせんせー!」

 屋敷の門の前に控えていた師匠の下に、オレは駆け寄った。

「ガイもご苦労だったな」
「ほんと疲れましたよ、ヴァン謡将」
「ところで、そちらの方は?」
「教団のバチカル駐在武官の一人で、アダンテと仰る方です。なんでも街をうろついていたルーク様を保護してくれたそうで」

 師匠はガイの話を聞くなり、アダンテのおっさんのほうに向き直る。むぅ……いろいろと話したいことがあったのに、師匠はオレに視線を向けてくれないぜ。

「ルークを保護して下さったそうで……あなたにスコアの導きがあらんことを……」
「いや、僕は迷子を保護するって一般的な行動をとっただけですよ。スコアとかはあんま関係ないですね」

 アダンテのおっさんの言葉に、師匠が片眉を動かす。あれは師匠がなにか面白いものを見つけたときの癖だ。でもおっさんのなにがおもしろかったんだろ?

「ほう……あなたは教団の人間なのに、スコアを関係ないとおっしゃる?」
「うんにゃ、盲信してないだけですぜ。だからそんな怖い顔で睨むのはやめて欲しいもんです」
「ふっ……いずれ、あなたとはもっと会話を交わしたいものです」
「まあ、僕の部署はすんごい暇してますから、いつでも来て下さいや。物好きな総長さん」

 おっさんと師匠のやり取りに、ガイが小声で囁く。

「なんか、あのおっさんすごいな。ヴァン謡将と会話して、あれほど自然体の人は初めてみたよ」
「むしんけいなだけじゃねぇーの」
「は、ははは。まあ、その可能性も十分考えられるのが、あの人の恐ろしいところだな」

 なにやら引きつった笑みを浮かべるガイに、オレはわけがわからず首を傾げる。

 ともあれ、この日初めてオレは屋敷の外の世界を知った。

 その後も何度か屋敷を抜け出そうと頑張るうちに、コツを掴んだオレは好きなときに屋敷から抜け出せるようになった。

 この日を境に、オレの世界は急激な広がりを見せていった。

 アダンテのおっさんと話し、孤児院の連中とバカをやり、時々やってくるギンナルに引っついて歩く。

 いつまでも、こんな日々が続くことを、オレは疑いもしなかった。

 これはそんな──むかしむかしのおはなしだ。

 全てが崩れさる悪夢の日まで、この暖かくて、どうしょうもなく残酷なおはなしは続く。




 どうか──できるだけ長く、この日々が続きますように──



  1. 2005/09/28(水) 18:03:17|
  2. 【家族ジャングル】  第三章
  3. | コメント:1

コメント

なんだか懐かしい感じを受けるとおもったら、ブギーポップに似てるんだな。
  1. 2008/12/16(火) 19:02:50 |
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  3. #-
  4. [ 編集]

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