全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第7話 「絆を手に進む先」 ─前編─





                  【1】




 轟音を響かせながら天を駆ける機械の翼。二機のアルビオールは寄り添うように一路エルドラントを目指す。猛烈な砲火が荒れ狂う戦場を突っ切りながら、ついに瓦礫の崩れ落ちた要塞内部に向けて、回転する機体が飛び込んだ。

 機体の胴体部が壁面と接触し火花を散らす。衝撃に耐えながら、ノエルが機体の制御に全力を傾ける。絶えず揺れ動く機内に突如訪れる一瞬の静寂。直後、凄まじい衝撃が機体を襲った。

 永遠とも刹那とも取れるような時間が流れる。

「到着……か?」
「はい! 無事、エルドラントへ突入することができました」

 ノエルの宣言に、安堵が場を包む。

「はわ~もう目がグルグル廻ってるよ」
「なんだか足元がふらつきますわ」
「確かに凄い衝撃だったわね」

 顔を見合せ、口々に突入時の感想を述べる一同。それだけ突入時の衝撃はすさまじいものがあったということだろう。

「しかし、あの状況で突入が可能になったのもノエルの腕があってこそ。素晴らしい操縦でしたよ、ノエル」

 ジェイドの労いの言葉に、ノエルが嬉しそうに笑みを浮かべた。だが、そんなジェイドの反応にガイとアニスは目を見張る。

「うわわ、大佐が褒めたよ」
「大佐が礼を言うなんて、よっぽどまずい状況だったんだな」

 好き勝手言ってるガイとアニスに、ジェイドが一度咳払いをして場を引き締める。

「とりあえず、アッシュと合流しましょう。これ以上分断されるのはさすがにまずい」

 ジェイドのもっともな促しを受けて、一同は外へ向かう。瓦礫の間に挟まるようにして停止した機体から外へ出る。

 改めて、ある程度離れた場所から突入路とアルビオールの機体を見やり、誰もが目を見開いた。

「こりゃひどいな」
「やはり触媒武器の一撃を受けたのがまずかったのでしょうね」

 アルビオールは機体そのものが限界を迎えたのか、そこかしこから煙が上がっていた。塗装は剥がれ落ち、むき出しになった翼の一部からは、骨組みとおぼしき金属片が見える。これでは再び空を飛べるかも怪しいところだろう。

「──どうやら無事に着いたようだな」

 瓦礫の積み上げられた通路から、一段高い場所から響く声。見上げた先に流れる真紅の長髪があった。

「アッシュ! そちらも無事でしたのね」
「……ああ」
 ナタリアの満面の笑みを受けて、アッシュは僅かに照れたように顔をあさっての方向に逸らした。

「……だが、そっちの機体はもう限界のようだな」
「そのようですね、アッシュさん」

 アッシュの後に続いて、ノエルと同じ金髪の青年が姿を現す。彼はアルビオールの機体をある程度眺めた後で、アッシュの推測に肯定を返した。厳しい評価に、ノエルが無念そうに肩を落とす。

「ごめんなさい、ギンジ兄さん」
「あのタイミングで、あんな位置から砲撃が来るのはさすがに予測できないよ、ノエル」

 あれは仕方がなかったと告げるギンジの言葉に、ノエルもある程度気分を盛り返したようだ。二人は更に何事か言葉を交わした後で、こちらを向き直る。

「皆さん、機体はおいら達に任せて下さい」
「皆さんはルークさんの後を追ってください」

 切迫した状況を考えた上でなされたノエルとギンジの提案に、ジェイドが一度周囲を見回した後で、頷き返す。

「そうですね。この位置なら当分は敵が来ることもないでしょう」
「ああ。それに敵戦力も先に突入した形になる能無しの迎撃に集中されてるはずだ。急ぐぞ」

 アッシュが先頭に立って進み始める。早期に合流することに異論があるはずもなく、誰もがその後に続く。

 崩れ落ちた外壁を踏み分けながら進む。連合軍の砲撃に浮足立っているのか、巡回する兵士の姿は見えない。警戒心をもったまま慎重に進む内に、ようやく通路と思しき場所に行き当たった。

「……この先ね」

 穿たれた壁の穴。凍り着いた壁面。溶け落ちた彫像。
 視界に映るあらゆるものに、ルークとリグレットの交わした戦闘の痕跡が見えた。

「大丈夫かなぁ……ルーク」
「さて……間に合うといいのですが」
「ああ、早く合流するにこしたことはないな」
「ルーク、待っていて下さい!」

 それぞれが思い思いの言葉を口ずさみながら、先を急ぐ。

 ただ一人、アッシュは無言のまま皆の後に続いていた。

 視界に映るもの全てが、交わされる戦闘の苛烈さを物語る。

「………決着のつけ時、か」

 僅かに握りしめられた拳が、ギシリと軋んだ音を立てた。





                  【2】




 絶え間なく降り注ぐ氷の散弾。時折思い出したように、強烈な閃光が大地を薙ぎ払う。
 一瞬の油断で、直ぐさま踏み込みそうになる死線を、絶えず身体の位置を動かすことで回避する。

 後方に殺気。頭が命じる前に身体は動く。

 振り向きざまにローレライの鍵を薙ぎ払う。弾かれた魔弾が床を穿つ。着弾した部分が一瞬で凍結し、数秒後に砕け散った。

 射線を仰ぐが、既にリグレットの姿は存在しない。

「くっ──!!」

 片腕を地面に着いて、その場から回転するように飛び退く。一瞬遅れで着弾した氷の散弾に、先程まで自分の居た場所が凍り付いた。

 絶えず足を動かしながら、ひたすら周囲の気配を探る。

 背に輝く光の翼は伊達ではない。高速で絶えず空中を移動しながら、次々と全方向から降り注ぐ魔弾の豪雨。発射された位置を見つけ出した次の瞬間には、既に別の方向から新たな魔弾が降り注ぐ。

 氷の魔弾と光の翼。さすがは二つの触媒武器を同時に制御する相手だけはあるってことか。

 再び回避に専念しながら、更に意識を研ぎ澄ませる。魔弾の発射される方向ではない。発射される直前、微かに漏れ出る殺意を感じ取る。

 右後方。揺れ動く気配。突き刺さる冷徹な殺意。そこかっ!

《───魔王!》

 振り向きざまに斬撃を放つ。集束された音素が火花を散らし、ローレライの鍵から紅蓮の焔が吹き上がった。

《────絶炎煌!!》

 灼熱の斬撃が放たれ、壁に大穴が穿たれた。高音に炙られた壁の一部がガラスの結晶になって砕け散る。十分な威力が込められた会心の一撃。

「───甘いな」
「────っ!?」

 背後から響く声、収束する音素の気配。

《───クラッシュガスト!》

 凍てつく吹雪の咆哮!

 氷結をもたらす凍気の息吹が荒れ狂った。連続して吹きつける猛吹雪に、全身を貫かれるような痛みが走る。この攻撃はなによりも範囲が広い。回避することは事実上不可能だった。

 全身に音素を張り巡らせながら、必死にこの瞬間が終わるのを待つ。

 致命的な一撃にはならないだろう。だが、この状況はまずい。このまま足を止めて居ては、それこそいい的だ。頭を焦燥感が駆けめぐる。

「氷結は終焉,せめて刹那にて眠れ──」

 案の定、動きを止めた俺の耳に詠唱が届いた。

 ある程度のダメージを受けるのを覚悟で、この場から飛び退こうと足を動かす。だが、凍気に晒され続けた影響か、全身の反応が思いのほか鈍い。

 くっ───これは、本格的にまずい。

 収束する音素の光が、視界に映る。構えられた譜銃の尖端、空間に刻まれた譜陣が回転する。周囲に展開される無数の氷柱。研ぎ澄まされた氷柱の尖端がこちらを向く。

《───インブレイスエンド!》

 凄まじい数の氷柱が風切り音を響かせながら視界に迫る。

 一発目、身体の直ぐ側をかすめる。
 二発目、構えた刀身に直撃、着弾の衝撃で身体が宙を舞った。
 三発目、意識で追うことを放棄。
 四発、五発、六発、七発──すべて勘に任せるまま鍵を振り回す。
 そこで、限界を越えた。視界に迫る魔弾。直撃コースだ。もう迎撃は間に合わ───


 横殴りに吹き上がる紅蓮の焔が、氷結の魔弾を焼き払った。


 ついで通路の真横から、聞き慣れた声が届く。

「よっ、ルーク。なんとか間に合ったみたいだな」
「ガイ!」

 戦場に飛び込んだガイが、紅蓮の焔をまといながら、軽い調子で手を上げた。
 ガイの後に続いて、他の連中も続々と姿を見せる。

「間一髪ですね、大佐♪」
「ええ。分断されたときはどうなることかと思いましたよ」
「ジェイド、アニス。それに……お前、アッシュ!?」

 どうしてここに居るんだと声を上げて驚く俺に、相手は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「……俺が居て悪かったな」
「アッシュ! そのように言わなくてもいいではありませんか!」
「…………ふん」

 ナタリアの叱責に、アッシュが罰悪そうに顔を逸らした。

 この二人の関係は相変わらずだな。思わず苦笑が浮かぶ。まあ、ここにヴァンのやつが居るんだ。アッシュのやつが突入して来ても、別におかしくないか。

 再会の喜びを交わす俺たちを余所に、通路から最後の一人が現れる。

「リグレット教官……」
「……ティアか。来てしまったのだな」

 ティアは戦場に首を巡らせると、かつて自らに教団兵としての心得を伝えた、敬愛する教官の名を呼んだ。




                  【3】




 合流した俺達の動きを警戒してか、リグレットは一度光翼を大きく翻し、空中から俺たちを見降ろす。光の翼が空をかく度に、光の粒子が周囲に舞い散った。翼の周囲には回転する氷の結晶が、リグレットの後を追随するように浮かんでいる。

「リグレット教官……あなたは、何故、そこまで兄さんに仕えるのですか?」

 悲痛な思いの込められた問い掛けに、リグレットの表情に始めて感情の波が浮かぶ。

「閉じた世界の中を……同じ歴史をただ繰り返すだけの世界を生きるならば人の意志は、選択は何の為にある? どのような歴史を紡ごうとも、最期には全てがなかったことにされる世界など、私は絶対に認めない。人の意志は……未来とは、人に委ねられるべきだ」
「そのために……私たちの今生きる世界が消滅してもですか?」
「永劫回帰の牢獄から解放されるためなら、それも止むを得ない」

 もはや迷いなど存在しないと、リグレットは断言した。

「教官……」
「それでも立ちふさがると言うならば、もはやお前でも容赦はすまい。閣下の──あの人の邪魔をする者は殲滅する!」

 光翼が眩いばかりの光を放つ。リングのように回転する氷の結晶が一瞬で形状を変化させた。銃身の周囲を取り囲むように回転する氷のリング。注がれ行く力に大気が鳴動し、プラズマ状の輝きが急速に空間を染め上げる。

 俺はティアと背中合わせに並びながら、リグレットの正面に立つ。

「……ティア、第二と第三の譜歌を頼む」
「わかったわ。堅固たる守りの調べ──……」

 ティアが強い意志の力を乗せながら譜歌を紡ぎ始める。耳に届く音色に合わせ、俺はローレライの力を高めていく。
 ローレライの制御は完全だ。あとは統制された力をどう使うか、それが問題だった。
 自らの内に存在する回収された意識の断片。地属を司るローレライの力を鍵の刀身に収束させて行く。

「氷雪の欠片、光翼の乱舞よ、敵を穿て…………」

 リグレットの銃身を取り囲む氷のリングが回転する。針金のように突き出された譜銃の先端部に譜陣が展開された。回転する譜陣は光翼から放射される光を取り込みながら、どこまでも貪欲に力を高め続ける。周囲に放たれる光に今や世界は白一色に染まり上がっていた。

《───プリズムバレット!》

 もはや人の手で抗う術など存在しない、膨大な光の奔流──空間そのものを薙ぎ払う閃光の鉄槌が放たれた。

 眼前に迫る必殺の一撃を見据えながら、俺は山吹色の光に染まるローレライの鍵を手に、大きく腰を落とす。

「駆けろよ、地の牙──!」

 ローレライの鍵を大地に突き立てた。展開された譜陣が山吹色の光を放ち、導かれる超振動の負荷に鍵の刀身が甲高い音を立てる。

《───岩斬!》

 握った柄に渾身の力を込めながら、大地そのものを斬り裂くようにしてローレライの鍵を振り上げる。

《────滅砕陣!!》

 地を駆ける衝撃波。天地が縦に切り裂かれた。

 巨大な斬撃は迫り来る膨大な光の奔流と正面から激突する。

 荒れ狂う衝撃の余波に、空間そのものが比喩などなしに震え上がった。

 軋みを上げながら相殺される互いの一撃。視界は閃光に塗り潰され、耳朶を振動が貫き通す。

 放たれた一撃の終焉を見届けることなく、俺はリグレットに向けて駆ける。

「壮麗たる天使の歌声……」

 背後から続けて響く、ティアの譜歌をその身に受けながら、ローレライの鍵を大きく後方に引き絞る。

「そして、受けろよ烈風───!」

 吹き荒れる烈風。集束される超振動の力。ローレライの鍵が深緑の光に染まり上がり、空間に刻まれた譜陣が回転する。

《───空破っ!》

 地を駆ける勢いもそのままに、ローレライの鍵をまるで槍を投げ放つかのようにして、全身の力を込めて正面に突き上げる。

《─────絶風撃っ!!》


 深緑の風が疾った。


 ローレライの鍵を突き出した体制のまま、リグレットを見据える俺。いつでも譜術を放てる構えのまま相手の動きを警戒するジェイドとナタリア。武器を構えたまま牽制を続けるアッシュ、ガイ、アニス。譜歌の詠唱を終えたままリグレットを見据え続けるティア。

 誰も動かない。

 永遠とも刹那とも取れるような静寂が続く。

「……あと一歩、届かなかったか」

 リグレットの譜銃に組み込まれた水弓と光杖、ローレライの力を括られた触媒武器に、無数のヒビが走る。

 光と雪のかけらを巻き上げながら、触媒武器は砕け散った。

 触媒武器の破片が音素に変わり、ローレライの鍵に吸収されると同時───

 俺の視界を、光が、埋めつくす。












                  ───魔弾の射手───













 ジゼル・オスローにとって世界は家族とそれ以外。この二つに分けられた。

 教団兵となったのも、それが他に身寄りのない自分たち姉弟が生き抜いていく為に、必要な選択だったからだ。

 それなりに兵士としての適正があったのか、ジゼルはオラクル騎士団の中で順調に任務をこなして行った。そんな姉の姿に感銘を受けたのか、弟もある程度成長すると、教団へ志願していた。

 弟は別部隊だった。配属されたのは当時でも精鋭が集うと言われていたヴァン・グランツ隊長の下だ。

 ヴァン隊長は凄いんだよ。尊敬の念を込めて語る弟の姿に、このときはただ頷きを返し、半ば聞き流していたようなものだった。それでも、ジゼルもまた弟の能力が評価されたことに対して、誇らしげな気持ちを抱いた。



 弟が死んだ。



 任務中の事故。遺族には十分な保証の用意がある。通達された紙面に記されていたのは、そんな事務的な事柄のみだった。どのような状況で、誰に、何によって弟は死ななければならなかったのか。全てが機密の一言に阻まれ、知ることは許されなかった。

 ふざけるなっ!

 ジゼルは弟が死んだ原因を知るべく、自らの能力をすべて使い、当時の状況を探って行った。

 そうして動く内に、判明した事態は、あまりに信じがたいものだった。

 預言に詠まれていた弟の死。それを知りながら、全てを黙認した当時の指揮官。弟が誰よりも尊敬していた上官──ヴァン・グランツの手によって、弟の命は奪われたのだ。



 殺してやる。



 想いが行動に移るのに、躊躇いはなかった。自らの名前を改竄し、ヴァンの部隊に近づいた。相手を殺すために、最も効果的な状況を調べ上げ、単独で襲撃を仕掛けた。

 だが相手の技量は凄まじかった、ものの数分で間合いを詰められ、一撃の下に打ち倒された。

 殺せ。生き恥をさらすつもりは毛頭なかった。当時、ヴァンはすでに主席総長となることが確実と言われていた。そんな人間に襲撃を仕掛けた以上、末端の兵士がどのように処分されるかなど、分かりきっていたからだ。

 ならばこのまま教団の審議にかけられ、誰ともわからぬ者の手にかかるよりも、この相手にせめて呪いの言葉を残して果ててやる。

 自らの襲撃の理由を告げるこちらに、しかし相手は剣を納めた。

 どういうつもりだ? 尋ねる彼女に、彼はこともなげに答えた。

「どうせ命を狙うなら、いつでも狙うことが可能な、私の近くに居た方がいいだろう」

 そう言って笑うと、彼は自分を副官として取り立てた。

 忌ま忌ましく想いながら、彼と行動を共にする内に、不可解な点に気づく。彼はスコアに対して、決して快い感情を抱いていないことが直ぐに知れたからだ。それでいて、教団上層部から命じられる任務を疎かにする様子もなく、淡々と処理していく。

 そのまま数年が経過し、彼は主席総長の座に上り詰めた。

 不可解なこれまでの行動の真意を尋ねる自分に、彼は事も無げに答えた。

 語られる過去。この世界の現在。先に望む未来。

「全てが終焉を向かえた後ならば、この命、お前にくれてやろう」

 気付けば、彼女はこの相手に、心からの忠誠を捧げていた。

 第四師団師団長──魔弾のリグレット。

 もはや彼の望むものが、彼女の全てだった。








                  * * *



「……残念だ。私がこの手で、お前を殺せなかったのは……」

 全身から急速に乖離する音素の光を吹き上げながら、リグレットがティアを見上げる。

「閣下に、お前を殺す重荷を負わせたくは、なかった……」
「……教官は、この世界にほんの少しの未練もないのですか? あなたにとって、大切なものは何一つ残っていないのですか?」

 懇願するようなティアの問い掛けに、リグレットは僅かに視線を伏せる。

「……一つの未練も、ないものなど、おそらくいない。人は何かに、かならず、執着する……。だが、私を孤独からすくい上げてくれたのは、閣下だ。閣下が望むなら……この世界が滅びることも、私は厭わない……」

「それが教官の本心なら、私はあなたを軽蔑します! 人の意志を謳っておきながら、あなたにはその意志がない!」

 涙をこぼしながら訴えるティアに、リグレットは苦笑を刻んだ。瞳に浮かぶのはどこまでも優しげな色だ。

「ティア、お前は一つだけ間違っている。お前は私に意志がないといったが、人は……誰かのためでなければ、命をかけることはできない。……少なくとも、私はそう。……私はあの人と、その理想を愛し、そのために命をかけた……それが、わたしの意志。ただ、それだけのこと……」
「教官……」

 次々と音素は立ち上る。どこか幻想的な光の中心で、リグレットは最後の言葉を残す。

「歪んだ世界を、解放して──ヴァン───……」

 舞い上がる光の乱舞。最後に小さな雪の結晶を残し、リグレットの身体は音素の光へと返った。




 全ての遣り取りを、一人黙り込んだまま見据えていたアッシュが俺の顔を見据える。

「………これで、ローレライを構成する要素は全てテメェの中に取り戻された訳か」

 どこか含みを感じる言葉に、俺はアッシュの顔を見返す。

「……何が言いたい?」
「能無し、テメェに一つ言っておく」

 睨み付けるような、鋭い眼光が俺を射抜く。

「このまま行けば、お前はオブリガード相手に、完全な状態に戻ったローレライの力を、それこそ全力で行使することになるだろうな」

「!? ……おっさんから、聞いたのか?」
「……さあな」

 張り詰める空気。突如、緊迫した空気を放つ俺たちに、皆が困惑を顔に浮かべる。
 ただ一人、ジェイドは事の推移を見定めるように、沈黙を保った。

「アッシュ、突然殺気振りまいて、いったいどうしたんだ?」
「ふん」

 戸惑いを顔に浮かべながら問いかけるガイに、アッシュは鼻を鳴らして応えた後で、視線を周囲に巡らせる。ジェイド以外の誰もが状況を理解できないと、戸惑った様子にあるのを確認すると、アッシュは再び俺に視線を戻す。

「やはり、こいつらには何も話してなかったのか。……テメェらしいな」
「アッシュ、いったいどういうことですの?」
「…………」

 ナタリアの問い掛けに、アッシュはしばし沈黙を保った後で、ジェイドに視線を寄越す。

「カーティス大佐に聞くんだな。そいつなら、カンタビレと同じ情報を共有していたはずだ」
「…………」

「大佐、どういう意味だ?」

 皆を代表して尋ねるガイに、ジェイドはゆっくりと口を開く。

「……そうですね。もう、皆さんも知っておいた方がいいでしょう」

 集まる視線に、ジェイドはメガネを押し上げ、表情を隠す。

「すべては、地殻から帰還したルークの中に、ローレライの中枢意識体が存在したことから始まりました」

 そう言って、ジェイドは語り始める。今の俺がどういう状況にあるのか。

「集合意識体は文字通り、意識の集合体です。寄り集まった無数の意識は、中枢足り得る意識によって統括されています。そして今のルークは、そんなローレライの核たる中枢意識を、自らの肉体に取り込んだ状態にある」

 ルークが自らの内でローレライを制御する限り、ローレライが音符帯に昇ることはなく、世界の再演もまた起こり得ない。

「しかし、いずれルークの寿命がつきれば、ローレライは解放されます。世界の再演を防ぐ為にも、我々にはヴァンの新世界の創世を止めるだけでなく、オブリガードを完全消滅させることが求められています。……ここまではいいですね?」

 特に疑問は上がらない。そこまでなら、既にケセドニアを立つ前に、司令部で説明されていた事柄だったからだ。

「ですが、相手は仮にも一つの属性を統括する意識体。ましてや、かつて始祖ユリア達ですら完全に滅ぼしきることができなかった正真正銘の化け物です。そんな存在を完全に消滅させるためには、ローレライの力をそれこそ全力で行使する必要がある」

 そして、ルークはこれまで触媒武器を破壊することで、そこに括られていたローレライの意識の断片を解放してきた。今や全ての触媒武器を破壊したことで、ルークの中に存在するローレライは完全な力を取り戻している。

「……確かに、この状態で超振動を放つなら、かなり高い確率でオブリガードに対抗することも可能でしょう。ですがそれで仮にオブリガードの消滅が成し遂げられたとしても、ローレライの力を全力で解放したルークが、最後まで自らの意識を保てるかどうかの保証は……何処にも存在しません」

 そこで一旦言葉を切ると、その場に立つ者たちの顔を見回しながら、ジェイドは結論を告げる。

「最悪、ルークの意識は消し飛ぶでしょう」

 静寂が耳に痛い。

 告げられた言葉がいつまでも耳に残る。

 語られた一つの可能性に、誰もが動揺していた。

 停滞した空気の中で、最初に沈黙を破ったのはアッシュだった。

「つまり、集合意識体の力は絶大だが、それでもお前の意識が貧弱なようなら、全てに意味がなくなるってことだ」
「……アッシュ、つまり何が言いたい? はっきり言えよ」

 カンタビレと交わした会話から、ある程度の予想はつく。促す俺の言葉を受けて、アッシュは俺に向き直る。

「なら端的に言ってやる。テメェは俺の完全同位体。俺とローレライの音素振動数もまた完全に同一だ。ローレライを身体の中に取り込めるのはテメェだけじゃねぇ。俺なら、テメェの中のローレライを引き継ぐことが可能だ」

 刺し貫くような視線で俺を射抜きながら、アッシュは告げる。

「テメェがローレライの力を制御する自信がねぇようなら、俺がすべて終わらせる。ローレライは引き継いで、俺がヴァンを仕留めてやるよ、聖なる焔の光ルーク


  1. 2005/04/16(土) 00:00:30|
  2. 【家族ジャングル】  最終章
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