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──A.L.M──

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第8話 「求める世界は──……」





                  【1】




 無数の柱が立ち並ぶ神殿のような神々しい空間。上空で渦を巻く漆黒の球体がうねりを上げた。
 大地に突き立てられた大剣に手を掛けながら、ヴァンはゆっくりと顔を上げる。

「大したものだな。ローレライに飲まれることなく、ここまで辿り着くとは」
「ヴァン」

 張り詰めた空気の中で、ヴァンは感慨深そうに口を開く。

「だが、やはり歴史の流れは、大筋が変わることもありえないということか」
「歴史の流れ、か」

 繰り返される世界に刻まれた経験の軌跡。この世界以前に流れた歴史。

「前史においても、ここ──エルドラントが決戦の地となった」

 そこではレプリカ世界などというものを私は目指した末、聖なる焔の光に倒されたそうだ。そうヴァンは苦笑を刻んだ。

「だが、もはや状況は一変している。ローレライはお前の手に、オブリガードは我が手の内にある。どちらの望む世界が選ばれようとも、もはや世界が再演されることはなくなるだろう」

 既存の音素とは異なる、狂った音素がヴァンを中心に収束する。

「あとは我等の望む未来のどちらが選ばれるか、全ての決着をここに着けるのみ」

 大地に突き立てられた第八奏器──刻剣エターナルが咎人の上げる絶叫のような音色を響かせる。

「終焉の獣オブリガードよ、我が意に従え!」

 三対六条の漆黒の光が、あたかも御使いの翼のようにヴァンの背に広がった。

「狂えし因果の歪みを正し、ここに世界の創世を導く!!」



 ──世界の命運をかけた、決戦が始まる。



「因果は示した。時空の扉は、あらゆる場所へ通じると──」

 振り上げられる大剣。足元に展開される譜陣が回転し、虚空に浮かび上がるヴァンの手元で第八奏器が禍々しい光を放つ。

「時空の扉よ、ここに在れ!」

 響き渡る烈声。譜陣に突き立てられる大剣を起点にして、空間に歪みが走る。

 漆黒の力場が突如、俺たちの中心に出現した。誰もが荒れ狂う力に翻弄され動けない。力場の中心にはヴァンの姿があった。

《冥空───》

 三対六条の鋭角的な翼が大きく左右に開かれた。先端部を折り曲げたかと思えば、次の瞬間、俺の全身が貫かれる。

「──────っ!?」

 射抜かれた箇所から血は流れない。ただ、魂を直接撫で上げられるような筆舌に尽くしがたい痛みが俺の全身を襲う。
 翼が尖端を空に掲げると、展開される力場の中心に俺の身体は吊り上げられた。ついで俺の額に向けて、ヴァンの掌が迫る。

《────斬翔剣!!》

 漆黒の稲光が荒れ狂った。

『ルーク!?』

 身体から抜け落ちる。根源的な何かが、俺の中から、強引に引き剥がされて行く。

「天地に散りし白き光華よ。定めに従い、敵を滅す力となれ………!」

 ティアの詠唱が場を貫く。空間を走る譜陣が漆黒の力場と反発しながら、純白の光を放つ。

《───フォーチューン・アーク!》

 天に舞い上がる光の柱が、力場を砕く。
 降り注ぐ光槍の乱舞に、空間を喰らう稲光は掻き消された。

 地面に解放される俺の身体。虚空に浮かぶ譜陣の上からそれを見据え、ヴァンがつぶやく。

「中枢は逃したか……だが、これでローレライの力の大半は我が手の中に封印された」

 引き抜かれた翼の尖端部に展開される譜陣が、闇、土、風、水、焔、光……各属性の音素が湛える色合の光を放つ。周囲を取り巻く漆黒の音素が、あたかも鎖の擦れ合うような耳障りな音を立てながら譜陣へと絡みつく。

 ローレライの力を奪われた。絶望的な状況に一瞬、誰もが動きを止める。

 その隙を相手が見逃すはずもない。振り切った剣を譜陣に突き立て、ヴァンは続けて告げる。

「因果は示した。時空の歪みは、あらゆるものを断ち切ると──」

 ヴァンの手にした大剣を中心に、ギシリと、空間が軋みを上げた。
 空間に無数の歪みが走る。視界がまるで鏡合わせの迷宮にでも放り込まれたかのように屈折する。

「歪みに絶たれよ!」

 天に向けてゆっくりと掲げられるヴァンの大剣。漆黒の球体から注がれる力に、蒼光を放つ切っ先が振り降ろされた。

《───次元斬!》

 空間そのものを砕きながら疾る斬撃の刃が天空より迫る。

「くっ──神速の斬り、見切れるかっ!」

 裂声が場を貫く。誰もが動けない中、全身から高まり行く音素の光を放射しながら、納刀された刃を腰だめに構え、ガイが一人地を駆ける。

《閃覇───》

 鞘に納められた刀身から閃光が疾った。

《────瞬・連・刃!!》

 放たれる無数の斬撃が空間を打ち砕く刃と激突する。
 破砕される空間の中心点で、互いの刃が弾かれた。

「ガイ!」

 激突によって生じた衝撃の余波に撥ね飛ばされながら、ガイが僅かに顔を上げた。

 後は任せた。

 ガイの瞳はそう語っていた。

「因果は示した。時空の流れは、いかなるものも抗えないと───」

 譜陣が空間を走る。展開された譜陣は回転しながら無数の光球をヴァンの周囲に生み出した。光球はヴァンの周囲で回転しながら急激な勢いで膨張を始める。

「因果に飲まれるがいい!」

 大剣が頭上に突き出されると同時、天高く打ち出される光弾。大きく弧を描きながら、それは一斉に俺たちの頭上に降り注ぐ。

《虚空───》

 ついで斜めに構えられた大剣が振り降ろされる。

《───蒼破斬!!》

 天より降り注ぐ光弾の間を縫うようにして、巨大な斬撃が大地を薙ぎ払わんと迫る。

「旋律の縛めよ、ネクロマンサーの名の下に具現せよ!」

 そこに響き渡る詠唱。

 ジェイドの周囲に展開される譜陣は光の軌跡を描きながら空間を浸食する。幾重にも張り巡らされた譜陣はもはや三次元的な球体となって内に湛えし膨大な力を解き放つ。

《───ミスティック・ケージ!》

 天を貫く衝撃と閃光。ジェイドが俺に向けて微笑みかけながら、吹き抜ける衝撃の余波に撥ね飛ばされた。

 俺たちを庇いながら先に倒れたガイ、ジェイド。退路の確保に残ったアッシュ、ナタリア、アニス。全ては俺たちに対する深い信頼があったが故の行動だ。

 なら、たかがローレライの力を奪われたぐらいで、いつまでも怯んでなんかいられない。奪われたなら、それこそ奪い返すまでだ!

「ティア、ローレライを解放する。俺に力を貸してくれ!」
「ええ、私たちは負けない!」

 ティアと俺は背中合わせに並び立ち、荒れ狂う力の波に立ち向かう。

「……譜歌を使うつもりか」

 力の中心で、ゆっくりとヴァンが顔を上げる。

「確かに譜歌はローレライの力を解放するだろう。だが、お前は大譜歌に託された真の願いを知らない」
「いいえ、兄さん。私にはわかる。ユリアがこの譜歌に込めた願いが、今ならわかるわ」

「それが真実なら、見事歌いきってみせよ、メシュティアリカ!」

 圧倒的な力が蠢動する。
 天に座す漆黒の球体から、ヴァンの手にする大剣に漆黒の光が走った。
 大剣を目の前に掲げると、ヴァンはゆっくりと円を描くように回転させる。

「そして、因果は示す。時空の渦に、人は翻弄される以外に術はないと───」

 前面に展開される譜陣。それはゆっくりと回転しながら、狂った音素を周囲に撒き散らす。

「終焉の獣、オブリガードの力を見るがいい!」

 ヴァンの背から広がる三対六条の鋭角的な翼の尖端が譜陣を囲む。簒奪せしローレライの力が強引に引きずり出され、譜陣に注ぎ込まれて行く。

《さらばだ──エンド・オブ・フラグメント!!》

 回転する譜陣の中心が闇色に染まり、絶叫染みた音を響かせながら闇の力が放たれた。

 それは天を覆うような闇のヴェール。内に包み込んだ者を安寧の内に死へ導く力の波。押し寄せる死の具現を前に、俺はゆっくりとローレライの鍵を腰だめに構える。



                       ───第一の譜歌、闇のナイトメア。


「深淵へと誘う旋律……───」

 ──トゥエ──レィ──ズェ──クロァ──リョ──トゥエ──ズェ──

「───受けろよ、連撃……!」

 紡がれるティアの譜歌に合わせ、ローレライの力を解放する。
 ローレライの鍵が闇色に染まる。鍵の刀身を核にして、巨大な闇の刃が形成された。

《斬魔────》

 闇色に染まるローレライの鍵の刀身が、限界を越えた負荷に甲高い音を放ちながら振り抜かれる。

《───飛影斬!》

 放たれる闇の斬撃に闇のヴェールは切り裂かれ、狂った音素の封印が討ち砕かれた。

 解放されるローレライの力、闇を司る構成意識が、俺の中に取り戻される。足場を闇色の譜陣が包み、歓喜するように音素の光が周囲を舞い踊る

「まだだっ! 終焉を超えられるか、ルーク!!」

 ヴァンの前面に展開される譜陣の色が変わる。

《エレメンタル・シフト》

 放たれるは淀んだ山吹色の光。回転する譜陣は狂った音素の力を強引に集束させると、絶叫染みた音を響かせながら地属の力を解き放つ。

《顕現せよ──ノーム!!》

 それは腐敗した土砂の群。エルドラントの大地そのものが地響きを上げながら、圧倒的な質量の土石流が押し寄せる。



                      ───第二の譜歌、地のフォースフィールド。


「堅固たる守り手の調べ……───」

 ──クロァ──リョ──ズェ──トゥエ──リョ──レィ──ネゥ──リョ──ズェ──

「───駆けろよ、地の牙……!」

 山吹色の光に染まるローレライの鍵を大地に突き立てる。

《魔王───》

 地響きを上げ揺れ動く大地。両手で柄を握り、大地そのものを切り裂くように振り上げる。

《────地顎陣っ!!》」

 大地を切り裂く衝撃波に腐敗した土砂の群は薙ぎ払われ、狂った音素の封印が討ち砕かれた。

 解放されるローレライの力、地を司る構成意識が、俺の中に取り戻される。四方を取り巻くように展開される山吹色の譜陣。それは鉄壁の護りとなって、俺の全身を覆う。


《エレメンタル・シフト》

 ヴァンの前面に展開される譜陣の色が変わる。淀んだ深緑の光。回転する譜陣は狂った音素の力を強引に集束する。絶叫染みた音を響かせながら風属の力が放たれた。

《顕現せよ───シルフ!!》

 それは荒れ狂う烈風の嵐。狂った音素の上げる悲鳴染みた音色が耳朶を貫く。掻き乱される大気の余波で、神殿に連なる無数の支柱がたやすく切り裂かれて倒壊する。先端部を槍のように尖らせながら、うねりをあげる嵐が俺たちに迫る。



                      ───第三の譜歌、風のホーリーソング。


「壮麗たる天使の歌声……───」

 ──ヴァ──レィ──ズェ──トゥエ──ネゥ──トゥエ──リョ──トゥエ──クロァ──

「───受けろよ、烈風……!」

 深緑の光に染まるローレライの鍵。腰を落し、剣先を後方に向け引き絞る。

《空破────》

 剣先に集束される音素。
 まるで槍でも投げ放つかのように、全身の力を込め、渾身の突きを放つ。

《───絶風撃っ!!》

 ほとばしる鮮烈な風。超振動を付加された神風の刃に吹き荒れる嵐は切り裂かれ、狂った音素の封印が討ち砕かれた。

 解放されるローレライの力、風を司る構成意識が、俺の中に取り戻される。深緑の風が俺の周囲を取り巻く。風から伝わる大気の流れが、この場で起きるあらゆる事柄を知覚させる。


《エレメンタル・シフト》

 ヴァンの前面に展開される譜陣の色が変わる。淀んだ青色の光。回転する譜陣は狂った音素の力を強引に集束させる。絶叫染みた音を響かせながら水属の力が放たれた。

《顕現せよ───ウンディーネ!!》

 それは凍てつく氷柱の刃。天を貫かんばかりに成長した無数の氷刃が、狂った音素に導かれるまま荒れ狂う吹雪を従え、俺たちに迫る。



                      ───第四の譜歌、水のリザレクション。


「女神の慈悲たる癒しの旋律……───」

 ──リョ──レィ──クロァ──リョ──ズェ──レィ──ヴァ──ズェ──レィ──

「───凍っちまいな……!」

 蒼色に染まるローレライの鍵。剣の切っ先をヴァンに向ける。

《守護───》

 前面に展開された譜陣が光を放つ。

《───氷槍陣っ!》

 爆発的な勢いで伸びる氷槍が、狂った音素に導かれし氷柱の刃を粉砕する。超振動の光をまとう氷槍の一撃に、狂った音素の封印は討ち砕かれた。

 解放されるローレライの力、水を司る構成意識が、俺の中に取り戻される。歓喜の音色を響かせながら、蒼白の譜陣が俺を取り巻く。心地よい水の流れは、俺の全身から失われた体力を一瞬で回復させた。


《エレメンタル・シフト》

 ヴァンの前面に展開される譜陣の色が変わる。淀んだ赤色の光。回転する譜陣は狂った音素の力を強引に集束させる。絶叫染みた音を響かせながら火属の力が放たれた。

《顕現せよ───イフリート!!》

 それは灼熱の息吹。狂った音素に導かれるまま、天高く猛り狂う紅蓮の焔が大気そのものを焼き尽くしながら俺たちに迫る。



                      ───第五の譜歌、火のジャッジメント。


「魔を灰燼と為す、激しき調べよ……───」


 ──ヴァ──ネゥ──ヴァ──レィ──ヴァ──ネゥ──ヴァ──ズェ──レィ──

「───吹き飛びな……!」

 手にしたローレライの鍵を肩に担ぎ上げるように構え、一息に振り降ろす。

《魔王───》

 大上段から振り降ろしの一閃。
 刃の軌跡を辿るようにして───紅蓮の焔が走った。

《────絶炎煌っ!!》

 超振動を付加された灼熱の劫火は巨大な斬撃となりて、吹きつける灼熱の息吹を薙ぎ払い、狂った音素の封印を焼き尽くした。

 解放されるローレライの力、火を司る構成意識が、俺の中に取り戻される。ローレライの鍵を取り巻くように紅蓮の焔が迸った。


《エレメンタル・シフト》

 ヴァンの前面に展開される譜陣の色が変わる。淀んだ白色の光。回転する譜陣は狂った音素の力を強引に譜陣の中心に集束させると、絶叫染みた音を響かせながら光属の力を解き放つ。

《顕現せよ───レム!!》

 それは天より降り注ぐ光の柱。神々しき光の支柱は、光輝に触れし者を一切の区別なしに天上に送り届ける御使いの葬列。抗うことすら思い付かない神聖なる光が、俺たちに迫る。



                      ───第六の譜歌、光のグランドクロス。


「破邪の天光煌めく、神々の歌声……───」


 ──クロァ──リョ──クロァ──ネゥ──トゥエ──レィ──クロァ──リョ──ズェ──レィ──ヴァ──

「───そして貫けよ、閃光……!」

 ローレライの鍵が純白の光を放つ。構えられた剣先に湛えられた光は限界を超え、引き絞られた

《翔破───》

 刀身を伝う力が、刃の切っ先を焦点に膨大な光を放つ。

《────裂光閃っ!!》

 解き放たれる膨大な光の奔流は、天より降り注ぐ光の柱すら飲み込んで、狂った音素の封印を光の中に掻き消した。

 解放されるローレライの力、光を司る構成意識が、俺の中に取り戻される。背中に展開される純白の譜陣。回転する譜陣は周囲から膨大な光を束ねると、まるで翼のように俺の背に広がった。

 全ての封印がここに討ち砕かれ、ローレライの力は完全に取り戻された。

 ヴァンの前面で回転する譜陣が音を立てて砕け散り、三対六条の翼が軋んだ音を上げながら崩壊する。

 復活したローレライの意識は一切の抵抗なく、俺の意志に付き従う。解放したローレライの力を全身に展開しながら、俺はそのままヴァンに向けて駆ける。



                      ───第七の譜歌。そして音の──…………


「求めるは永劫を穿つ響き、人の紡ぐ音色───……」


 ──レィ──ヴァ──ネゥ──クロァ──トゥエ──レィ──レィ──…………

「───こいつで、決めてやる……!」

 地を這うような体勢で駆けながら、限界を越えた超振動の光を湛えたローレライの鍵を腰だめに構える。

《───集えぇ!》

 膨大な量の音素が、俺を中心に荒れ狂う。

《────響けぇ!!》 

 鳴り響く超振動の旋律。第八音素に覆われた薄暗い世界が一瞬にして覆り、日輪の如き輝きが大地を照らす。

《─────全てを滅する刃と化せ!!》

 集束された莫大な量の音素はローレライの鍵を基点に収束され、一瞬で巨大な切っ先が形成された。地を蹴り上げながら、大上段に構えた光の刃を振り降ろす。跳ね上げる。袈裟懸けに切り落とす。斬る。斬る。翻って斬る。

《──────ロスト・フォン・ドライブッ!!》

 閃光が瞬いた。

 刹那の間に放たれた無数の斬撃が、あらゆる属性の力を統合する。

 抗うことなど許されない、絶対の一撃が──因果を討ち砕いた。




                  【2】




 光が消える。

 蒼天の下、全身から乖離する音素の光を立ち昇らせながら、男の身体がグラリと傾いだ。

「っ師匠!」
「来るな!」

 思わず駆け寄ろうとした俺を片手で制しながら、師匠は笑みを浮かべた。

「……この後に及んで、まだ、私を師と呼ぶか……我が不肖の弟子よ」

 かつて屋敷で過ごした日々のように、俺を弟子と呼んだ。

「兄さん」
「七番目の旋律……理解したのだな……ティア」

 ついで泣きそうな声を上げるティアの顔を見やり、微笑む。

「許せよ、我が同士達よ……」

 手にした大剣を突き立て、今にも崩れ落ちそうな身体を支えながら、ヴァンは先に逝った仲間たちに侘びると、俺に再び視線を戻した。

「ルーク。この私を破ったのだ。この世界ごとき、お前の手で、見事救いきってみせろ」

 その言葉を最後に、急速に乖離する音素の光に包まれながら、あたかも虚空に解け落ちるようにして、ヴァンの姿は、完全に、この世から消え失せた。

「……ヴァン、師匠」

 胸の内で、かつての師に向けて、俺は小さく別れを告げた。

 同時に、これまで制御されていた第八音素の集積体に急激な歪みが生じ始める。
 今や地響きを上げながら、エルドラントそのものが崩壊を始めていた。

「テメェら無事か!」
「エルドラントが崩壊をはじめましたわ」
「一度脱出しないとヤバイって!」

 退路を確保していたアッシュ達が合流して、エルドラントからの退避を促す。

 だが、俺は大地に突き立てられた大剣──第八奏器を見据えながら、ローレライの鍵を構え前に出た。

 上空を見上げる。制御する者を失った第八音素の集積体に変化が生じていた。漆黒の球体は激しく揺れ動きながら、周囲の空間に不気味な音を響かせる。それは創世歴時代にその名を刻む希代の化け物、第八音素集合意識体──オブリガードが解放される兆し。

「皆は先に脱出してくれ。俺はここで──オブリガードを潰す」

『ルーク!?』

 ジェイド以外の皆が上げた驚きの声に、俺は不敵に笑い返す。

「このままだと同じことの繰り返しだろ? ヴァンの信じた道を否定してのけた以上、それ以上の未来を掴む為にも、これでもかってぐらいの完全無欠のハッピーエンドを導いてやるさ」

 誰もが理解していた。
 解放されたローレライを完全な制御下に置いたルークと、因果を制する第八音素の集合意識体オブリガード。両者がぶつかり合う戦場で、今や誰もが足手まといにしかならないと。


「ローレライの力を制御したと言っても、かつての創世歴時代でさえ、オブリガードを封印することで精一杯だったと言います」
「そうらしいな」

 まったく怯んだ様子もみせない俺に、ジェイドは苦笑を刻む。

「しかし、それはあなたが挑んだ結果ではない。なら、勝算は十分にありますよ」
「ああ。絶対に勝って、帰ってくるさ」

 約束です。そう言葉を掛けると後ろに下がるジェイドに替わり、前に出たガイが俺の肩に手を回す。

「絶対に帰って来いよ。ご主人のいない使用人ってのは、寂しいもんなんだぜ?」
「何だよそれ。心の友の間違いじゃないのか?」
「ははは。つまりお前なら、心の友兼使用人でいてやってもいいってことだよ」
「へへへ……バカだよな、ガイ」

 他愛もない冗談めいた言葉を交わした後で、不意に真剣な表情が俺を見据える。

「さくっと倒して戻って来いよ。主役がいないと、凱旋も絞まらないからな」
「わかってる。また後でな」

 伸ばした互いの掌をパンと叩き合わせると、ガイは離れた。
 入れ代わるように前に出るのは、少し俯いた顔で両手を後ろに回す教団の少女。

「アニス」
「……ルークが最後、何しようとするか。私も知ってたよ? ガイみたいに確信じゃないけど」
「うっ……そんなに俺ってわかりやすいか?」
「だってルークって単純だからね。とことんまでやんないとすっきりしないって丸わかりだもん。それにルークがいなくなると、私も困るんだよね」
「なんでだ? まさか俺に乗り換えるつもりかよ?」
「まっさかー♪ 私は教団を立て直したいんだ。そのためにはパトロンが必要でしょ? だから、ちゃんと帰って来てよね♪」
「やれやれ。勝手にパトロン任命かよ」

 笑いながら俺の背中をバシバシ叩いて、アニスは離れた。
 ついで前に出るのは、俺の大切な幼なじみと、彼女の大事な想い人。

「ルーク……生きて帰って下さい。キムラスカを守る為でも、世界を守る為でもなく、あなたが、あなた自信の人生を生きる為に」

「ああ、絶対に生きて帰るよ。アッシュも俺がいない間、みんなを頼んだぜ?」
「ふん。言われるまでもねぇ。せいぜい居場所がなくなる前に、早く倒して戻ってくるんだな」

「まあ、アッシュ! そんな言い方はないではありませんの!」
「ふん……心配するだけ無駄だ。こいつは殺しても死ぬようなやつじゃないからな」

 かなり遠回しながら、俺を認めるようなことを言うアッシュに、俺とナタリアは顔を見合わせて、苦笑を刻む。

 二人が離れた場所に、小動物二匹が立つ。

「ご主人様……」
「ぐるぅぅう……」

 つぶらな瞳に、別れが近いのを感じてか、涙が浮かんでいるように見えた。

「ミュウ、お前の役目は終わったよ。胸張って仲間の所に帰れよ。
 コライガ、途中で放り出すようなことになっちまったが、お前ならどこでも生きて行けるさ」

 二匹を胸元に抱きしめ、背中を撫でる。

「それでも俺の帰りを待ってくれるなら、また会おうぜ」
「ミュウも、ご主人様が戻ってくるの待ってるですの! 絶対ですの!」

 ナタリアとアニスに抱かれて、二匹は下がる。

 そして、最後に彼女が残った。

「……私にできることは、本当に、何もない?」
「ティア……」

 いつも肩肘を張って一人頑張りながら、本当はどこまでも優しいこいつのことだ。俺一人残して行くことに、相当の抵抗があるんだろう。何もできずただ見守ることの辛さは、俺にもわかる。

「なら、歌ってくれないか? ローレライの力は解放されたから、もう意味はないかもしれない。それでもティアが歌っててくれると思えば、それが俺の力になる」

「わかった。あなたを想って歌う。だから、絶対に……絶対に生きて帰って!」
「ああ、絶対生きて戻る。約束だ」

 ローレライの剣を手に、漆黒の球体に向かう。背中越しに、ティアの声が届く。

「必ず! 必ずよ! 待ってるから。ずっと、ずっと……ルークを──……」

 最後の一歩を踏み出すと同時、掠れた彼女の呼びかけが耳に届いたような気がした。

 それが意味するものを理解する前にローレライの鍵が光を放ち、漆黒の球体が俺の全身を包み込んだ。




                  【3】




“──繰り返される世界において、消え去った世界の残滓は星の記憶にのみ刻まれる”

 おびただしい数の時計が壁に掛けられた白い空間。

“それは地上に生まれ落ちたローレライの完全同位体──聖なる焔の光の記憶だ。ローレライを音符帯に送り届けた聖なる焔の光が、再演された世界において、ローレライの新たな集合意識の一つに加わることで、星に刻まれる世界の記憶”

 時計が秒針を刻む音が響く。

“つまり星の記憶とは、世界の滅びを見据え続けた観測者──ローレライ達の記憶とも言える訳だ”

 顔のない誰かが、ひたと俺を見据えていた。

“そして前史において、世界は一つの転機を迎えた。ローレライを音符帯に送り届ける前に、世界を覆う怪物の力の残滓──障気が、ローレライの完全同位体と、そのレプリカの手で一掃され、ローレライが音符帯に昇った後も、世界は再構築されることなく、数世紀もの長きに渡って続くことになった”

 時計が秒針を刻む音が響く。

“しかし、その世界ですら永劫回帰の牢獄から抜け出すことは叶わなかった”

 無貌の誰かは両手を大きく広げながら、歌うように続ける。

“プラネットストームという封印を補助する機構が停止した世界だ。時が経つにつれ怪物は次第に力を取り戻して行った。そして、ある日、地殻より復活を果たした怪物の手で、オールドラントは滅亡寸前にまで追い詰められた”

 時計が秒針を刻む音が響く。

“結局は既に音符帯に昇っていたローレライが、超振動をオールドラントに放つことで、全ては終焉を向かえた。積み上げられた歴史もまた全て無に帰し、世界は創世歴時代にまで遡り、再構築された”

 時計が秒針を刻む音が響く。

“だが、怪物を解放したまま世界の繰り返しが起きたことで、世界は怪物の封印が成し遂げられる以前の段階にまで遡り、再構築されることになった。結果として、再演された世界に再び降り立ったローレライの使者が、オブリガードと死闘を演じて、もう一度怪物を地殻へ封印した”

 時計が秒針を刻む音が響く。

“そうして全てはこれまでの歴史と同じ流れに戻ったかのように見えた訳だが……そう上手くはいかないもんだ。封印が一から構築された結果として、怪物の存在を示唆する無数の遺物が、今のこの世界に残されることになった。それらは各地に残る古代遺跡や、禁書庫に残された書物を通じて、人々に世界の歪みを訴え続けた”

 無貌の誰かが再び、ゆっくりと顔を上げた。

“それが、今回の世界において、これまで繰り返された歴史の中でも一切の前例にない、ややこしい事態が起きた原因だろうな”

 無貌の誰か──いや、第八音素集合意識体、オブリガードが肩を竦めながら話しかける。

“しかし、まったく面倒くさいことだな。刻の流れは決して覆せないものだ。如何なる世界も終焉においては一切の例外なく滅びへ至る。停滞世界の維持も、新世界の創世とやらも下らんな。滅びを否定することは無意味。お前もそうは思わないか?”

 同格の者に対して同意を求めるような響きが、その声音には込められていた。呼びかけを受けた俺は鼻を鳴らして応える。

「さぁな。そんな長い先のことまで、いちいち考えちゃいられねぇよ」

“ほぅ……? 自らもいずれ世界法則を司る集合意識に合流する身で、そんなことを言うか、次代のローレライ?”

「……滅びに向き合うことでしか、見えないものがあるのも確かだろうよ。だが俺たちは滅びに向き合った上で、それでも生きることを選んだ」

 目の前に立つ滅びの意志、破滅の具現に向けて、俺たちの選択を告げる。

「たとえ、『それ』がいつか来るものだとしても、可能な限り抗って生きようとする。それが人間ってもんだろ?」

“……なるほど。それが、お前達の見出した答えか”

「ああ、そうだ」

 これまで歩んできた道程を思い返しながら、自負を持って答える。それに相手は腕を組んで、しばし考え込むように首を傾げる。

“ふむ……共感はできないな。だが、理解はできる。まあ、その考えを通したいなら、言葉ではなく、力でもって証明して見るがいいさ”

 互いに相容れない存在として、そこで会話は終わりを迎えた。

“人の手で造り上げられた怪物に与えられた命題は一つ。
 この瞬間を永遠に刻め。世界が続く限りこの願いを果たすことが叶わないならば、全てに滅びをもたらし、あの日の一瞬を永遠に刻むまでだ”

 壁に掛けられたおびただしい数の時計が一斉に鐘を打ち鳴らす。全ての時計の針は何処にも止まることなくひたすら廻り続ける。

 ガラスが割れるような音を上げながら、ヒビだらけの世界はノイズを吹き上げ崩壊して行く。

 世界法則を司る集合意識体──神格位同志の死闘が始まる。




                  【4】




 エルドラント上空に存在する漆黒の球体が蠢動する。あたかも水面のような表面に揺らぎが生じたかと思えば、次の瞬間、凄まじい勢いで天に向けて八本の柱が迸る。

 漆黒の球体から伸びる八本の柱はとぐろをまきながら鎌首をもたげ、ただ一点を見据える。

 魂が消し飛ばされるような咆哮が、オールドラント全土を貫いた。

 それは神代の時代に記された八つ首の魔龍の咆哮。

 咆哮に応えるようにして、魔龍の視線の先で、光の柱が天に向けて迸った。

 それは紅蓮の焔よりもなお紅き光輝を湛えし聖焔の柱。あたかも天に座す日輪のような輝きを放ちながら、光は世界を照らし出す。

 日輪の如き輝きを放つ焔の柱と八つ首の魔龍が、互いの姿を正面に捉えた。

 閃光が天を貫く。

 空から雲が消し飛んだ。海面が爆弾でも投げ込まれたかのように飛沫を吹き上げる。一瞬遅れで、雷鳴よりも凄まじい轟音が響き渡った。


 閃光が瞬く度、世界は激しく鳴動する。


 遥か彼方、上空で行われる死闘の余波は地上からもたやすく確認できた。

 異常な規模の力が天空でぶつかり合う中、その一方、地上でも一つの動きが起こりつつあった。

 エルドラントを取り囲んでいた艦隊が、一斉に動き出す。

 艦隊群がそれぞれ定められた位置に辿りつくと同時──海上に光が疾った。

 それは中央大海全てを覆い尽してもなお止まらず広がり続ける譜陣の軌跡。ひたすら貪欲に展開され行く巨大な譜陣は、海上を超えてオールドラント全土へとひた疾る。

 刻まれ行く譜陣の基点には、無数の艦隊が並んでいた。





                  ───キムラスカ本国艦隊旗艦・クリムゾン───




「ふん。子供に全て押し付けたまま、ただ座して待つことなどできるものか」
「そうだな。子供の力になれず何が大人か。微々たるものといえども、我等の力を受け取ってくれ、ルークよ!」

「坊ちゃん! ガンバレー!!」
「いけー! そこだ! ルークさまぁー!!」





                  ───マルクト本国艦隊旗艦・サンダルフォン───




「やれやれ。陛下自ら前線に立つなど、普通なら考えられないことですな」
「ははは! そう言うな、じい。どっちにしろルークが負ければ、どこに居たって同じことさ」
「それもそうですな」
「それにあいつ一人に全て任せてられるような問題でもない。世界なんて規模のデカイ話なんだ。力になれることがあるなら、誰だって手を貸すのが当然さ」





                  ───ローレライ教団急襲艦・トライデント───




「ふぅ……何とか陣の基点に艦隊が整列できたか」
「突貫で構築しましたからね。皆も奥で寝込んでますよ」
「まあ、その甲斐あって、間接的でも大将戦に参加できるんだ。贅沢は言わせねぇさ」
「予めルーク殿の手にするローレライの鍵に譜陣を刻んでおき、オブリガードとの決戦時、彼の下へ地上に展開された譜陣の上に存在する者達の力を送る……ですか。こんな方法、よく考えつきましたね」
「ただ黙って地上に残るなんて御免だろ?」
「それもそうですね。───と、始まったようですよ」




                  ───アルビオール二号機・甲板───




 見渡す限り、どこまでも果てなく広がり続ける、とてつもなく巨大な譜陣の軌跡。それを上空から見下ろしながら、ジェイドは一度驚きに目を見開いた後で、直ぐにどこか納得したような顔でつぶやく。

「これだけ大掛かりな仕掛けができるのは……なるほど、カンタビレの仕業ですね」
「この譜陣は……? いったいなんなんだ、ジェイド?」

 ガイの問い掛けに、ジェイドはあっさりと応える。

「これだけ巨大なものを見るのは初めてですが、おそらく陣の上に存在する者たちの力を束ね、特定の対象に送り届ける戦略級の補助譜陣でしょうね」
「力を送り届ける? まさか、その対象って……」
「ええ。この状況を考えるに、ルーク以外にいないでしょうね」

「ど、どうやれば力を送れるんだ!? ジェイド!!」
「特に誓約はありませんよ。ただ譜陣の効果を受け入れるだけでいい」

 よくわかっていない顔の皆を見回して、もう一度別の言葉で言いなおす。

「つまり、ルークの事を考えながら力を与えたいと願う。ただ、それだけのことです」

 ジェイドの説明を受けて、誰もが意識を集中し始める。

「ルーク……俺たちの力、受け取れよ!」
「やっちゃえ! いけー! ぎったぎたにしちゃえ、ルーク!」

「私たちの力を……あなたに……!」
「ちっ……負けたら承知しねぇぞ、能無し」

 一つ一つでは小さな力でも、寄り集まれば、それは大きな力になる。

「ルーク、皆の想いを、あなたの下へ……───」


 人々の意志を響かせながら、譜歌は紡がれて行く。

 譜陣によって集束された力を、しなやかに受け止めながら、更に増幅して、彼の下に送り届ける。




     ───オールドラントに住まう、あらゆる人々の力が、届けられる。




                  【5】




 異常な規模の力がぶつかり合う天空の戦場。
 激突の余波で空間はたやすく砕け散り、加速度的な勢いで無数の断層が生じていく。
 咆哮を上げる漆黒の魔龍と日輪の如き輝きを放つ焔の柱は、崩壊を始めた空間で饗宴にひたる。

 人間の立ち入ることなど許されない神域の戦場に独り立ちながら、しかし俺は何ら気押されることなく剣を振るう。

 おかしな話しに聞こえるかもしれないが、微塵も負ける気がしない。

 地上から流れ込む力が──そこに込められた皆の想いが、俺の背中を支えていた。

 ああ、そうだ。俺は一人じゃない。

 ローレライの鍵の刀身を中心に放たれる日輪のごとき輝きが世界を照らす。鍵を基点に収束する力はとどまるところを知らず、どこまでも成長する。

「俺たちの意志は、たかが世界ごときなんかに負けたりしねえっ!!」

 真紅の光の奔流が迸り、天を貫いた。

 それはオールドラントを覆う音素の層を突き抜けても尚止まることを知らず、どこまでも果てなく吹き上がる聖焔の柱。漆黒の光は一切の抵抗も許されず、真紅の光に飲み込まれた。

“そうか……人は、人の意志は、世界が前に進むことを選んだか”

 新たな特性を得た第七音素──第二超振動の力によって、乖離する音素すら光を失い次々と虚空にとける。

“まあ、こういう最期も、悪くない”

 こうして、穢れし澱、狂えし帰結、終焉の刻守。
 第八音素集合意識体──オブリガードを構成する中枢意識は、この世界から完全に消え失せた。

「……あばよ、オブリガード」

 かつて人の手で生み出された神に敬意を表し、手にしたローレライの鍵を掲げ鎮魂を捧げた。

 しばし瞑目した後で、俺は自らの目の前に鍵の刀身を持ち上げる。

「さて、これで良いんだな、ローレライ?」

 一人砕かれた空間の狭間に立ちながら、ローレライの鍵に呼びかける。

「世界の破滅の原因はなくなった。だから、世界の再演を起こす必要もなくなったぜ」

 呼びかけに応じるように、ローレライの鍵から真紅の光が放たれた。

《───誰もが成し得なかった、停滞世界の解放を成し遂げるとは》

 鍵から響く声は焔のような光を巻き上げながら人の形を造ると、俺を見据え微笑んだ。

《───驚嘆に値する》

 そう言葉を残すと、立ち上る光は瞬き消えた。

 ローレライの中枢意識は、定められた役目の終りを悟り、自ら消え去った。

「やれやれ……無責任な奴だよな」

 残されたのは、統括するものを無くした膨大な第七音素。いまだ何者の意志にも染まっていない、純粋な力だけが残された。

「これから、どうしたもんかね」

 歪んだ時空の中で、独り立ち尽くす。膨大な力の激突に、空間はとうに限界を向かえていた。それは迷宮のようにどこまでも複雑に入り乱れて、もとの世界への帰路を惑わす。

 だが、このまま立ち止まっていた所で、何も始まらない。

「約束したからな」

 果たさなければならない、約束があった。

 これまで俺が歩んだ道、出会った人々の姿を思い返しながら、とりあえず前へと進む。

 ジェイド、アニス、イオン、カンタビレ。

 ガイ、ナタリア、アッシュ。

 そして──ティア。





                  【6】




 誰もが空を見上げていた。

 天空で死闘を繰り広げる、日輪の如き輝きを放つ焔の柱と、蒼穹を侵す漆黒の魔龍。

 対極に位置する光の渦は互いに喰らい合うように、何度となく激突を繰り返しながら、更なる高みへと昇っていく。

 絡み合うようにぶつかり合う光の柱が、空の頂きまで昇ったとき、一際強い閃光が放たれた。

 それは世界そのものを貫く、幻想的な光の乱舞。

 全ての色は消え失せ、ただ純白の光に、世界は染め上げられた。

 永遠とも刹那ともとれるような静寂が流れる。


 そして──────


 漆黒の光が砕け散った。

 天を見上げる者達の歓声が上がる。


 ゆっくりと、真紅の光が世界に舞い降りる。


 見上げた先に広がるのは、雲一つない澄みきった蒼天と、天から無数に降り注ぐ真紅の燐光。


 粉雪のように、空から舞い散る音素の光が、ただ優しく世界を包む。



 ─────まるで、それは聖なる焔の光。



  1. 2005/04/15(金) 00:00:25|
  2. 【家族ジャングル】  最終章
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