全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第7話 「絆を手に進む先」 ─後編─



 俺は俺で在り続けることができなかった。

 俺の代替品──劣化レプリカによって、俺の人生は奪われた。

 だが、やつは否定する。

 俺はお前じゃない。そんな言葉をあっさりと返す。

 ふざけるな! 

 押さえきれぬ激情が、頭の中を占める。

 たとえ、そうだとしても、俺の人生が奪われた事実に違いはない。

 決着をつける。

 俺が、俺自身であるために──…………





                  【1】




「……本気なんだな?」
「ああ。剣を構えろ」

 殺気混じりの視線を交わす俺たちに、ナタリアが悲痛な声を上げる。

「二人とも止めて下さい!」
「……ナタリアの頼みでも、これだけは譲れん」
「アッシュ……」

 互いに間合い取りながら、俺たちは剣に手を掛ける。

「ルークも……本気なの?」
「ローレライを制御するのにもコツがあってさ。少しでも自分の制御に自信が持てないようだと、それを切っ掛けに暴走しようとしやがる。だから、これもいい切っ掛けかもな」

 アッシュに視線を据えたまま答える俺に、ジェイドが確認するように言葉を掛ける。

「ローレライの制御に絶対の自信を持っておくためにも、この戦いにはそれなりに意義があるということですか」
「ああ。そういうことだ」

 軽い口調で頷く俺に、アッシュが低い声で告げる。

「……能無し、テメェに一つ言っておく」
「ん、なんだ?」

「テメェが超振動を暴走させたと判断したら、そのとき俺はテメェを殺す。超振動を使えるのはテメェだけじゃねぇってことを忘れるな」
「まあ、せいぜい肝に銘じておくさ」
「……ふん」

 互いに円を描くように足を動かしながら間合いを測る。

 皆が見守る中で、俺とアッシュはこれが最後とばかりに言葉を交わす。

「ヴァンの使役するオブリガードは、ローレライの対極に位置する力だ。条件はほぼ同じか、より悪いといっていいだろう。超振動に頼った一撃が決め手にならない以上、勝敗を決するのは、より純粋な力になるはずだ」
「つまり、どういうことだ?」
「俺一人、ローレライに頼らず倒せないようなら、ヴァンを倒すのも到底無理な話しだってことだよ」
「なるほどね。まあ、勝った方がローレライ連れてヴァンに挑む。わかりやすくていいな」
「ふん……ほざけ」

 互いに剣を引き抜き構える。

「アルバート流、アッシュ……いや、ルーク・フォン・ファブレ!」

 響き渡る相手の痛快な名乗り。上等だ。俺もまた不敵に笑って応じる。

「同じくアルバート流、ルーク・フォン・ファブレだ!」

 互いに名乗りを上げ、剣先を一度合わせると同時、間合いを大きく離す。

『勝負!』

 鏡合わせのように相似した構えを取りながら、俺たちは一斉に剣を振り上げた。




                  * * *



 先手必勝。一足飛びに間合いを詰めた俺はローレライの鍵を袈裟懸けに振り降ろす。応じるアッシュは冷静に剣を振り上げ最初の一撃を弾いた。
 
 刹那の間も置かずに、俺は地を蹴りながら返す刀で渾身の切り上げを放つ。これにもアッシュは即座に対応。音素が収束された抜手で一撃は呆気なくいなされた。

 だが本命は別だ。剣を振り上げた勢いもそのままに俺は更に地を蹴り上げ、大上段から渾身の振り降ろしを放つ。
 雷光の如く放たれた頭上からの追撃に、しかしアッシュは抜手を引き戻すと同時に神速の突きを返した。

 ───牙連崩襲顎。

 ───烈穿双撃破。

 どちらもアルバート流奥義の一つ。

 交わされる剣戟に、響き渡る高音。

 互いの武器が衝撃に弾かれるや、今度はアッシュが地を蹴った。上空から全身の力を込めた渾身の刺突が放たれる。これに俺は地を這うような体制から剣を切り上げ、相手の一撃を強引に弾き返す。

 ───鷹爪豪掌波。

 ───斬影烈昴刺。

 互いに知り尽くした技。奥義の応酬。次に何を出すか、繰り出された技にどう対応すべきか。すべて互いにわかりきった攻撃だけに、どちらも決定打を出せない。

「ちっ──なら、こいつでどうだ!」

 地を蹴ったアッシュが大きく間合いを離した。口元で紡がれていた詠唱が、高速で完成する。

「雷雲よ、我が刃と為りて、敵を貫け!」

 譜陣が地を走る。生み出されるは雷撃の刃。

《───サンダァアブレェード!!》
「なめんな───穿衝破!!」

 稲光を上げる雷撃の鉄槌と、音素の集束された斬撃が激突する。

 掻き乱される大気。相殺される互いの一撃。帯電する空気が火花を散らす。

 雷光の余波を切り裂きながら、互いに開いた距離を一瞬で詰め、俺たちは再び剣戟を重ね合わせる。

「屑がっ!」

 二度三度と打ち合わせた互いの刀身が離れると同時、跳躍したアッシュが落下の勢いを乗せた渾身の斬撃を放つ。俺はそれに刀身を重ね合わせるも、たやすく一撃は弾かれた。だが慌てることなく、俺は弾かれた剣の勢いすら利用してそのまま回転──大地に音素を収束させた剣先を叩きつけ、衝撃波を放つ。

 再び離れる間合い。

 絡み合う互いの視線が告げる。

 次の一撃で決める。

 これまでの攻防の流れから、今この瞬間、この状況に、最高の一撃を手繰り寄せる。

「──瞬速の剣閃!」
「──ぶっ潰れちまいな!」

 収束する音素の光。空間を切り裂く剣閃。地を駆ける二匹の獣。

 間合いが一瞬で消失する。

《───翔破裂光閃!》
《───烈震天衝!!》


 渾身の力を込めて放たれる刺突。突き出された互いの剣先がぶつかり合い、衝撃の余波に大気が荒れ狂う。


 交錯する二人の影。


「ふん……これが、テメェの力か」


 アッシュが膝から崩れ落ち、手にした剣が砕け散った。





                  【2】




 息を荒らげながら、俺は膝をついたアッシュを見下ろす。

 ギリギリの勝利だった。誰よりも俺がそれを自覚していた。
 最後に放った技も、辛うじて、俺の一撃が先に相手に届いたに過ぎない。

 だが、それでも勝ったのは俺だ。ニヤリと笑って告げる。

「俺の勝ちだな、アッシュ」
「……レプリカが、偉そうな口を聞く」

 尚もへらず口を叩いた後で、しかしアッシュは俺から顔を逸らすと、小さくつぶやく。

「ふん……まあ、いい。認めてやるよ。ルーク、お前の勝ちだ」

 これが、初めてアッシュが俺に対して、俺自身を個として認めた言葉になった。

 張り詰めていた空気が弛緩する。

 周囲で見守っていた皆が一斉に安堵の息をはいた。どうやら思ったよりも心配させていたようだ。

「はわぁ~もうなんだかすごい勝負だったね」
「ああ。実力が拮抗していたからこその、名勝負ってやつだろうな」
「それでも、まだまだ甘い部分も多いですがね」

 なにやら論評している三人を余所に、ティアが心配そうに俺に近づいてくる。

「大丈夫、ルーク?」
「ああ。ギリギリだったけどな」

 ティアの呼びかけに肩を竦めて応えた後で、俺は自分の拳を見据える。
 何かを掴んだ。その感触がはっきりと在った。
 もうローレライの力を暴走させることは、二度とないだろう。

「大丈夫ですか、アッシュ」
「……すまないな、ナタリア」

 ナタリアに治癒術を掛けられながら、アッシュがどこか居心地悪そうに身動ぎした。だが、結局抗うことなく、それを受け入れているのが見えた。アッシュはアッシュで、この一戦で、何かふっ切れたところがあるのかもしれない。

「さて、では勝負もついたことですし、そろそろ移動しましょうか」

「ジェイド……お前なぁ……」
「その切り替えの早さは、さすがだよなぁ、大佐」

 俺とガイの呆れが混じった言葉に、ジェイドは苦笑を刻む。

「いえ、実際、リグレットとの戦闘が決着してから、それなりの時間が立っていますからね。エルドラント内を警備するものが、六神将のみとは限りません」

 ジェイドの言葉にはっとする。確かに、オラクルの半数以上が、ヴァンの離脱と同時に、教団から姿を消したんだよな。

「追撃がかかるとしたら、おそらくそろそろ……」

「──居たぞ! 侵入者だ!!」

 そんなジェイドの言葉を合図にしたように、通路の先から数十人にも及ぶオラクル兵達が姿を現した。

「おやおや、噂をすれば影というやつですかね」
「本気ですげぇタイミングだわな」

 まあ、笑ってられるような状況じゃないわけだが。

 通路の先から続々と駆け付ける増援を前に、アッシュが立ち上がる。

「ちっ……ここは俺に任せろ。テメェ等はヴァンを倒せ」
「アッシュ! 私も残りますわ」
「どっちみち退路の確保もしなくちゃだしね。ここは私たちに任せて、ルーク達は総長の方を頼んだよ」

「アッシュ、ナタリア、アニス」

 確かに、このまま時間を取られているような余裕はないか。

「わかった。ここは任せた」

 頷き返す俺に、アッシュが俺を睨む。

「能無し……必ず勝てよ」
「言われるまでもねぇさ。お前の方こそ、絶対に死ぬなよ」
「ふん。約束してやるよ」

 互いに拳を突き合わせ、俺はアッシュ達に背を向ける。

「そこを退けっ!」
「断る。お前らの相手はこの──ルーク・フォン・ファブレだ!」

 足止めに残るアッシュの痛快な啖呵が、最後に俺の耳に届いた。




                  【3】




 アッシュ達と別れた俺たちは一路、エルドラントの深淵に向けて進む。

 ある程度先へ進んだ所で、無数の屋敷が立ち並ぶ、かつての居住区らしき場所に行きついた。グランコクマに見られるような建築様式で、白を基調とした整然とした街並みが続いている。

「ここは……」

 不意に足を止めたガイが、屋敷の一つを見上げる。

「どうした、ガイ?」
「……やっぱりそうだ」

 ガイはどこか泣きそうな表情で、俺たちを振り返る。

「ここは……俺の屋敷だよ。ここは、本当にホドなんだな」

 フォミクリーによって再生されたホドの大地。つまり、ガイにとっては失われた故郷。
 深い感慨の込められた言葉に、咄嗟に掛けるべき言葉が思い付かない。

「ガイ……」
「大丈夫だ、ルーク。ただ、もう二度とここに戻れる日は来ないと思ってたからな。少しだけ、感慨深いもんがあるだけだよ」

 軽い口調で返すガイに、俺はそれ以上踏み込むのを止める。再生されたかつての故郷か。

「しかし……やっぱり、どんな技術も使い方次第なのかね」
「そうですね。全ての道具は素晴らしいことにも、下らないことにも使えるものです」

 ジェイドの言う通り、結局は使うやつがそれをどう使うかにかかってるってことか。

「スコアもさ。結局、停滞世界の維持に使われてたけど、もう少し不審に思うやつが多ければ、ある種の警告にもなったんじゃないのかとか思っちまうんだよな」

 スコアに関する俺の言葉を受けて、ガイが僅かに目を瞑る。

「『本来なら存在し得ないはずの未来の記憶』か。確かに、そうだな。そんな不自然なものをユリアがあえて世界に広めたのも、実は誰かがいつか世界の真実に気付いて、行動するのを待っていたからかもな」
「ユリアはこの停滞した世界の現状を覆して欲しかった、か」

 ふと漏らした俺のつぶやきに、ティアが突然顔を上げる。

「! そうか……七番目の譜歌の象徴は……」
「ティア?」

 集まる視線を前に、彼女は自らの思い出した記憶を語る。

「思い出したの。兄さんからはじめて譜歌を習った日のことを。兄さんは言ってたわ。ユリアは……この世界の現状を覆して欲しいと願っていた。ユリアは世界を愛していた」

 譜歌は世界を愛したユリアが、ローレライに託した願い。契約であると。

「それって……つまりヴァンはユリアの意志を、叶えようとしてたってことか?」
「そうかもしれない。でも……他にも道はあるはず。それを探ることもせずに、すべての可能性を切り捨てて、新たな世界を望むことは、ただの逃げに過ぎないと思うわ」

 ヴァンの選んだ道を否定する。そんなティアの言葉を受けて、ガイもまた頷き返す。

「ああ、そうだな。たとえこの世界が歪んだ流れの中に在ったとしても、世界そのものを消して、代わりに新しいものを造ればいいなんてことが、あっていいはずがないんだ」

 一人沈黙を保っていたジェイドが、不意に口を開く。

「しかし……ということは、我々の目指すものもまた、ユリアの願いに叶ったものになります。大譜歌の旋律でローレライを目覚めさせた場合も、向こうから自発的な協力を得ることが可能かもしれませんね」
「そうだな。今の俺は力付くでローレライの手綱を握ってるようなもんだからな」

 仮にローレライから協力を得られるなら、より高いレベルで力を行使することが可能になるだろう。

 期待を込めた視線がティアに集まる。

「でも、私にできるかどうか……七番目の象徴は、今思い出したばかり。旋律と言葉だけは、セントビナーでも歌い上げることができたけど、この象徴が本当に正しいのか……」

「ティアなら大丈夫さ。今までもティアは譜歌を使いこなしてきたんだ。なにより、ティアの大譜歌で俺は地上に戻れたんだ」

 不安そうに瞳を揺らすティアに、俺は何も心配する必要なんかないと笑いかける。

「頼んだぜ、俺の契約者」
「る、るる、ルーク!?」

 何気なく続けた俺の言葉に、ティアは何故か動揺したように目を白黒させながら、声を上げた。彼女の顔は真赤に染まり上がっている。

「……あれは、わかってやってるのでしょうかね?」
「……いや、絶対にわかってないだろうな」

 どこかしみじみとした様子で、ジェイドとガイが小さく言葉を交わす。ん、何でだ?

 しばらく動揺した後で、大きく息を吸い込むと、ティアは頷いた。

「──わかった。やってみる」

 もはや彼女の瞳に不安の色は見えない。覚悟を決めたもの特有の強い意志の光だけが見えた。

「私の大譜歌で、ルークの中のローレライを目覚めさせる」
「目覚めたローレライにも協力して貰って、ヴァンとあいつの使役するオブリガードを叩き潰す」

 俺とティアはそれぞれの取るべき行動を確認し、頷き合った。

「これで、どうにかヴァンとも渡り合えそうだな」
「それでも油断はできませんがね。敵はヴァンと、かつてローレライの力をもってすら完全に滅ぼしきることが叶わなかった希代の化け物」

 ゆめゆめ油断は禁物ですよと、ジェイドが苦言を呈す。

「アブソーブ・ゲートでは敗れたが、もう二度と油断するつもりはないさ」

 以前とは違うと自らの胸を叩くガイ。それにティアが同意する。

「ええ。私たちも以前とは違う。今の私たちは兄さんの目指すものを理解した上で、それを否定するためにここへ来た」
「ああ。停滞世界の維持も、新世界の創世も必要ない」

 かつては理解できなかったヴァンの漏らした言葉の意味も、今ならわかる。だがそれを理解した上で、俺たちは別の道を行くことを選んだ。

「どんなに理不尽に思えようが、やり直しの効かないこの世界が、俺たちの生きる場所だ」

 エルドラントの中枢、空に渦を巻く漆黒の球体、ヴァンの生み出した創世の殻を見上げる。

 永延と膨張を続ける第八音素の集積体が視界に入った。立ち込める強大な気配はエルドラントのあらゆる場所から感じとれたが、最も濃紺な気配はあの球体の真下にあることが嫌でも理解できた。おそらく、そこにヴァンも居るだろう。

「行きましょう。兄さんの求める世界と、私たちの生きる世界を掛けて」

 全てに決着をつける。




                  【4】




 白一色に染められた無数の柱が立ち並ぶ、広大な空間。
 どこか神殿のような神々しい広場の中心に、天で渦を巻く漆黒の球体から、黒い糸のようなものが伸びる。
 天地を繋ぐ糸は、空間の中心に突き立てられた一本の大剣と繋がっていた。
 ほのかに蒼白い光を放つ大剣に手を掛けながら、男はゆっくりと顔を上げる。

「ルークか」
「ヴァン」

 栄光を掴むものと、聖なる焔の光。

 かつての師弟が、今やまったく異なる立場をもって、ここに再会を果たした。


  1. 2005/04/16(土) 00:00:26|
  2. 【家族ジャングル】  最終章
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