全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第一話 「限界突破の一歩前」


 基本的に割と神経質な所が多いウェールズは、それなりに重用している者以外には、いまだ素の自分を晒していない。始まった年齢がそろそろ物心がつき始めるかどうかという、これまた微妙な時期だったからだ。

 生真面目であるがそれなりに冗談もわかる、下々の者たちに対しても非常に物分かりのいい御方。周囲からの評価も、そんなどーとでも取れるような当たり障りのないものでしかない。

 公共事業や官営工場の運営が軌道に乗り始めてからは、身分の貴賤問わず顔を合わせるちょっとした変人という微妙ーな評価も加わっていたりする。

 しかし、誰に対しても非常に気さくな態度で話しかけるウェールズに対して、貴族・平民問わず、親しみを持った感情を抱く者たちは多い。

 最近では、宮廷内でウェールズに関するとある噂話が囁かれていたりもする。なんでもウェールズ殿下の詰める執務室から、時折奇怪な笑い声が響き渡り、それを耳にしたものは…………という、まあ、よくある怪談話の一つである。

 この噂に関して、ウェールズに仕える者たちは誰もが沈黙を守っているため、真偽のほどは定かではない。だがそうした彼らの態度がより一層の尾ひれ羽ひれを生んでいたりするから手に負えない。本人の預かり知らぬところで噂話は果てなき拡大発展を遂げ続け、今ではとんでもないレベルに到達しつつある。

 知らぬは本人ばかりなり。

 良くも悪くも、とかく人々の注目を集めるアルビオンの皇太子であった。


 そんな今日も今日とて執務室で書類仕事に勤しむウェールズの下に、一つの報告が届いた。一枚、一枚と報告書を捲る内に、その顔は次第に青ざめていく。

 報告内容全てに目を通し終えた後で、ウェールズはゴクリと生唾を飲み込んだ。

「おっ恐ろしい限りだな、おい……」

 現在、ガリアを粛清の嵐が荒れ狂っていた。

 正直、それはちょっとどうかと思うが、え、そこまですんの? マジ? マジですか? 

 ガリアの現状は、いまだ現代人の感覚が抜けないウェールズからすると『ドン引き』の一言に尽きた。

 かつてのオルレアン公派だったもの達など悲惨だ。ほとんどが取り潰しに合うか、よくても公職から追放の上、地方に飛ばされている。だが、公式に処分された彼等はまだ幸運な方だろう。病死、行方不明など、あまりに忽然と消息を絶った者たちも少なくない。

 おそらくは、裏で北方花壇騎士団などが動いているのだろうが、それにしても、えげつないにも程がある。

 いっそ褒め讃えたいほどに、ジョゼフの行動はオルレアン公派だった者たちに対して非常に容赦がなく、もーなんかどこまでも悪辣だった。

(……まあ、そこまでしたから、原作でも無能王とか影で言われながら、同時に国中の貴族から畏れられる存在になったんだろうけどなぁ)

 眉を潜めながら改めて報告書を読み返し、こりゃないわと急激に襲ってきた頭痛に額を押さえる。

 原作のジョゼフの権力基盤が如何にして築かれたのか。それをまざまざと理解できた。ぶっちゃけあんま理解したくなかった訳だが。

 報告書の最後に記されていたのは、そんなガリアに現在進行形で潜伏中の部下が記した、現状を踏まえた上で、ガリア内における今後の行動をどうするべきか、改めてこちらの判断を仰ぐ言葉だった。

 しばし考えた後で、ウェールズは当初の予定通り動くよう指示を出す。予想以上に悲惨なガリアの現状にそうした指示を出すのは多少気が引けたが、ある意味ではやりやすくなったとも言える。だから何の問題もない。問題ないはずだ。そう思おう。

 うんうんと自らに何度も言い聞かせながら、ウェールズは最後のサインを終えた。決して誤魔化した訳ではない。いい仕事したなぁと額の汗を拭った後で、改めて報告書に視線を落とす。

「……しかし、ハルケギニア随一の魔法先進国の名は伊達じゃないってことかね」

 これだけ大胆に貴族を処分できるのも、メイジの人口比がハルケギニアのどの国家と比べても、ずば抜けて高いガリアだからこそできる行動だろう。

 それでも、国内の混乱をある程度まで収めるのに、少なくとも数年はかかるはず。ガリアが大規模な軍事行動に出られるようになるのは当分先と言っていいだろう

 が、だからといって安心できないのが簒奪王のクオリティ。

 正直言って他の国のどの王と比べても、原作のジョゼフが一番真っ当に国力を増強させる政策を打ち出していたりする。その上、陰謀、策謀、暗殺、不正規任務はなんでもござれの北方花壇騎士団。魔道具使ってメイジ戦ではほぼ最強のミョズニトニルンまで揃ってやがると裏に関しても隙がない

 その癖、あらゆる物事に一切の執着を見せないから、思い切りまでいいと来ている。

 脳裏に思い出されるのは、クロムウェルに手を貸しながら、最終的には賽子ダイス の一振りで、レコン・キスタをあっさりと切り捨てた原作の行動だ。

(……まあ、ジョゼフの最終目標が、アルビオン王家の秘宝『始祖のオルゴール』と『風のルビー』の奪取にあったと考えれば、レコン・キスタの煽動も、本当にお遊びに過ぎなかったんだろうけどな)

 アルビオンが滅びようが存続しようが、レコン・キスタが勝とうが負けようが、最終的に始祖の遺産を自らが手にできれば、それで良かったという訳だ。

「くっ……なんだか腹が立ってきたな」

 あの男が即位を果たした以上、そろそろミョズニトニルンも動き出す頃だ。火種は何処にだってある。これまで以上の警戒が必要になるだろう。

「あー……もうヤダヤダ。本当に、ドンドン余裕がなくなっていくよなぁ……」

 飛行船事業の開始から、既に二年の月日が流れている。事業としての仕組みも整い、それなりに安定した状態で運営され始めていた。収益もそれなりに上がり、中央と南部以外でも、地方の中小貴族がそれなりに航路の設定や港の建造を受け入れ始めている。

 いずれは国内に網の目のように情報網を張り巡らせることも可能だろう。

 ……まあ、それもいまだ反抗的な大貴族の領地を除けばの話になる訳だが。

 現在の状態をたとえるなら、そう。所々にデカイ穴の空いた蜘蛛の巣。そんな所がせいぜいだ。

「……おまけに東部と北部。この二つはとうとうダメだったしなぁ」

 他の地方は貴族としての大小問わず、それなりの規模の協力者が集まり始めている。

 が、この二つの地方だけは例外だった。いまだに協力者は皆無。ゼロである。

 おそらくは、それぞれの地方を統括する大貴族が、近隣の領主に受け入れを拒絶しろとでも通達を出しているのだろう。

 東部の大貴族、マンチェスター伯。
 北部の大貴族、リーヴン伯。

 以前から名前だけはやたらと聞いていた大貴族の二人だ。この両名は国内貴族の監視役たるバーノンの報告から、昨今、見事に要監視対象入りを果たしていたりする。

 東部と北部だけで、これだけ露骨な結果が出るのも、彼らが近隣の貴族に圧力を掛けている以外には考えられなかった。

「けっ! 無駄にこれまでヒィヒィいいながら書類の海に埋もれてた訳じゃないんだ。現代人嘗めんな!」

 いずれ決定的な行動に出るようなら、そのときは目にもの見せてやるよ。ウェールズはどこかテンパった笑みを口元に浮かべながら、ついには堪えきれないといった様子で天井を仰ぐ。

「くくくっ……はぁーっはっはっはっはっはぁーーーーー!!」

 ウェールズの上げる高笑いが執務室に木霊する。外に漏れ出た声は、侍従室に控えるメイド達によって、すぐさまサイレントの魔法で消音処理が施された。故に声がそれ以上広がることはない。


 ほんの数日の間でいいから、政務のことは一切忘れて、サウスゴータで一度本格的に身体を休めて欲しい。ウェールズの主立った部下や協力者が、連名でそんなことを申し出るのは、それから僅か数時間後のことである。

 さまざまな施策の運営に頭を悩ませながら、日々執務室に籠もりきり政務を処理し続けたウェールズの精神状態は、ぶっちゃけかなり限界だった。


  1. 2007/07/21(土) 03:50:13|
  2. ジャンク作品
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6

コメント

楽しかったです。不定期で今度はいつかわかりませんが続きを楽しみにしてます。
  1. 2008/01/05(土) 00:03:20 |
  2. URL |
  3. 灘 #ql9a2zSU
  4. [ 編集]

ジョゼフ簒奪王じゃなくね?
  1. 2008/01/12(土) 17:38:32 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

>簒奪王?

ちと説明不足でした。それは中の人が「あいつが無能王? 冗談じゃねぇっ! あいつは、生まれついての悪だぁっ!!」と周囲の警戒心煽ろうと勝手に呼んでるだけなので、他の貴族からは原作と変わらず無能王と呼ばれてます。
  1. 2008/01/12(土) 19:43:50 |
  2. URL |
  3. 管理人@スイミン #mQop/nM.
  4. [ 編集]

あり?
ここのメイドはメイジなの?
サイレントをメイド達がかけたと読み取ってしまう。
  1. 2009/03/18(水) 06:10:33 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

無能王ってのは、役に立つ(と思われる)のまで纏めて切ったから言われるようになったと思ってた。
害をなすと見なすか否かってのはジョゼフ次第だったわけだし。
俺がトリップして鳥の骨役になってたら適当な理由つけてワルドは唐突にでも切るね。きっと無能と罵られるだろう。これは違うか
  1. 2009/03/21(土) 00:35:51 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

現実でも宮殿のメイドっていうのはほとんど貴族のみで構成されてますよ
平民を宮殿で雇うのはさすがにリスク高すぎでしょう

ワルドはヴァリエール公っていう後ろ盾有りDA☆ZE
  1. 2010/10/11(月) 07:42:38 |
  2. URL |
  3. #3ZuCF1hk
  4. [ 編集]

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