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──A.L.M──

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第3話 「踏ミ越エル、熱砂」


 砂漠で最もキツイものとは何なのか?

 当然暑さだろ。俺とアニスは短絡的に答えた。
 水が無いことかしら。ティアやナタリアは少し考えた後で答えた。
 砂嵐じゃないか。ガイは自らの体験も交えて答えた。

 全ての答えをあいまいに退けると、大佐は一言で正解を告げた。


 それは気候の寒暖差です、と。


 なんでも昼夜の温度差が十数度は当然、下手すると数十度まで広がるらしい。

 そんなとんでもない砂漠を徒歩で渡るなんてことは論外らしいので、足を求めることになった。
 まあ、徒歩もやってやれないこともないでしょうけどね、と大佐は不穏な言葉を付け足していたりもしたけどな。


 ともあれ、幸いなことに、砂漠への境界付近にあるキャラバンで、ケセドニア行きの隊商と合流することができた。
 最初は俺たちの同行にいい顔していなかったが、さりげなくジェイドが権力を臭わせた途端、大人しくなった。

 なんとも世知辛い話だが、名目上は護衛として雇われ、隊商が夜盗や魔物連中と遭遇する度に撃退に駆り出されている。
 何度か戦闘を繰り返し、俺たちにそれなりの実力があることを認めると、俺たちの待遇も鰻登りで向上したから、隊商の連中も現金なもんだとは思うがね。


 今では、戦闘する者がいざというときに疲弊していちゃ話しにならないと、砂上専用の荷馬車を丸ごと一台借り出されていたりする。
 徒歩で砂漠を行くことを考えれば破格の待遇だったが、それでも暑いものは暑いのだ。
 俺たちはヒィヒィ悲鳴を上げながら砂漠を突き進む。


「……マジで、勘弁してくれ……この暑さはケセドニアなんて目じゃないぜ」

 荷馬車のホロの影に倒れ込み、俺はダレにダレまくっていた。

「ルークよ。さすがにダレすぎじゃないか?」
「……あまり気を抜けられても、戦闘になったときに困るわ」

 ガイとティアが荷馬車の中で寝っころがる俺に向けて、苦言を呈する。

「んなこと言われてもだな……暑いものは暑いんだ……どうしょうもねぇだろが」

 反論の声も元気が無く、俺はボソボソとつぶやく。
 そんな俺の様子に、二人がため息をつくのがわかったが、もはや起き上がる気力もない。

 コライガのやつも俺と同じような状態だ。
 むしろ全身を覆う毛皮のせいで、俺なんか目じゃないぐらいに、死んだようにぐったりと荷馬車の床に倒れ込んで動かない。
 時折思い出したようにパタリと動く尻尾のおかげで、辛うじて死んでないことがわかる。

 傍らに寄り添うミュウがハンカチを取り出して、団扇のようにしてコライガを仰いでいるのが見える。

 ああ、マジでダルすぎるぜぇー……

 荷馬車の上に寝っころがりながら、俺は少しでも冷たい床の感触を味わうべく、ごろごろと床を転がる。
 すると視界に、顔を俯けて、無言のままなにかを考え込んでいるナタリアの姿が映る。


 ……工場を抜けた先で六神将の連中と遭遇してから、ナタリアの様子がどうにもおかしい。


 どうおかしいのかと言われれば、答えようはないのだが、それでも幼馴染み故のカンとでも言うのか。
 なんとなくなにかを考え込んでいるのはわかった。その証拠に口数が少なくなり、終始上の空の状態だ。


 こんなときにどう声を掛ければいいのかわからんのだから、俺としても自分のバカさ加減がイヤになる。


 アニスはアニスで、護衛の自分が居たのに、イオンをさらわれたことに負い目を感じてか、最初のうちはどこか痛々しいまでに空元気を演じていやがったのが、今では口数も少なく、黙り込んでいる。


 そんなわけで、必然的に普通に会話できるやつも、ガイやティアぐらいになってしまうわけだ。そうなると小言が嫌な俺としては寝っころがるしかやることがなくなる。

 うん、ジェイドはハナから問題外だけどな。ともあれ、なんとなく嫌な空気が漂う中、俺は寝っころがったまま声を上げる。


「……というか、そろそろオアシスに着くはずじゃねぇのか?」
「そうですね。先程このキャラバンのリーダーに聞いた話では、もうそろそろ見え始める頃ですよ」

 ジェイドがホロから身を乗り出して、進行方向を見据える。

「そういえば、なんでも砂漠には〝死に水〟と呼ばれる怪奇現象があるらしいですよ」

 どこかすっとぼけた調子のまま、大佐が話題を振る。

「死に水だって?」
「ええ。なんでも砂漠の遭難者が水も底をつき、とうとう進退窮まった状態で現れるオアシスのことを、そう呼ぶらしいです」
「水が無くなって現れてくれるなら、いい話しじゃねぇか」

 おざなりに答える俺に、ジェイドが声の調子を抑える。

「それが、死に水の恐ろしいところでしてね。遭難者が歩いても歩いても、一向にそのオアシスにはたどり着けないのだそうです。最終的に遭難者は、最初から少なかった体力を無為に消耗して、死に絶えてしまうのだそうです。それ故に、〝死に水〟と呼ばれているのだそうです」

 なんとも恐ろしい話ですねぇ、と最後はいつもの調子に戻って、ジェイドが話を終えた。
 迫力に押されてツバを飲み込んだ俺を余所に、話を聞いていたティアが感心したように頷く。

「水が生死を分ける……砂漠らしい逸話ですね」
「まあ、実際は砂漠の蜃気楼が生んだ、幻影が噂の正体といったところだろうな。それでもこういう話は、いろいろとその地方特有の教訓を含んでるから面白いもんだよな」

 現実主義のティアと、旅慣れたガイの言葉で、俺はジェイドに自分がからかわれていたことに気付く。

「ジェイド……お前なぁ。俺で遊ぶなよ……マジで……」

 疲労しきった俺が訴えると、ジェイドが苦笑を浮かべながら肩を竦めて見せた。

「いえいえ。なにやら皆さんが元気のない様子だったので、話の種にでもなればと思いましてね」

 そう言って、未だ黙り込んだままのナタリアとアニスを見やる。
 なるほど。大佐もいろいろと考えているわけか。
 それでも、もうちょっと手段を考えて欲しいもんだが。

 理由が理由だったので、それ以上文句も言えずに黙り込んでいると、不意にジェイドが進行方向に視線を戻す。

「おや、とうとう見えてきたようですね」

 砂に覆われた大地の中にあって、水を湛えたオアシスの青色が、目に鮮やかに飛び込んできた。
 当面の目的地に着いたというのに、俺たちの顔は晴れなかった。



 オアシスに到着した隊商は物資の補給に忙しそうに動いている。彼らのリーダーに近づいて何やら話し込んでいたジェイドが、こちらに戻って来るのが見えた。

「それでは、目撃情報でも集めることにしましょうか。彼らに聞いた限りでは、だいたい二~三時間程休憩したら、すぐにでも出発するそうですし、時間はあまりありませんよ」
「情報次第では、隊商ともお別れってことか」

 ジェイドから伝えられた情報に、ガイが少し残念そうに顎をさする。

「……そうなると、こっからは徒歩か……キチィぜ」

 正直、砂漠を舐めていた。ケセドニアのような街中と違って、気温が高いだけではなく、地面を構成するものが砂ってのが最悪だった。足をとられてまくって歩きづらいったらありゃしない。歩くだけで、ひたすら体力を消耗するのだ。

「愚痴を言っていても始まらないわ。情報を集めることに専念しましょう」
「まあ……そうするしかないんだよなぁ……」

 別に異論があるわけじゃねぇが、それでもキツイことにかわりはない。
 俺はため息をつくと、ノロノロと聞き込みに赴くのであった。


 そうして、俺たちはしばらくの間別れて各自情報を集めたわけだが。


 出るわ出るわ……信じられない程に、多くの情報が集まった。
 中でも有力な情報が一つ。

「東の遺跡に向かった戦艦の噂ですか……」

 聞き込みをする際、最近見かけた変わったものとして、誰もが戦艦の存在をあげた。
 なんでもこのオアシスに寄った後、遺跡のある方向に去って行ったという話だ。
 かなり具体的な情報を前に、しかしジェイドは難しそうに腕を組んでいる。
 同じくガイやティアもどこか考え込んでいる様子だ。


「とにかく! イオン様の手がかりがあるかもなんだから行きましょうよっ!!」


 一人必死なアニスは藁にも縋る思いでとりあえず言うだけは言っておけと訴えるが、ジェイドは渋い顔だ。……というか、なんか様子がおかしいな。

「なんで、そんなに渋ってるんだ?」
「あまりにも、情報が具体的すぎるのよ」

 俺の疑問に、ティアがやはり口を引き結んだまま答える。

「こういう場合、向かった先には大抵ろくでもないもんが待ち構えてるってのが相場だよな」

「罠……ということなのでしょうか?」

 ナタリアが二人の言葉に顔をしかめる。


 罠。


 つまり情報を予め流しておくことで、ブラフの場所に誘い込んで、俺たちを撃退。
 イオンは別の場所に確保したまま、親善大使も始末できて一石二鳥。そんな感じだろうかね。
 俺が視線で問いかけると、ジェイドが顔に掛かった前髪を払いのけながら解説を口にする。


「いえ……罠だと断定できればまだいいのでしょうが、これまでの直接的な襲撃と比較して、今回は少しばかり回りくどい印象を受けます。六神将側の意図が、どうも測りかねますねぇ……」

 確かに、これまであんなに露骨な襲撃をかけていやがったってのに、今回が罠だとしたら、妙に持って回ったやり方だよな……。

「胡散臭い話だとは思うけどよ、結局他に情報がない以上動かざるをえないんじゃねぇか?」

 連中がなにを考えてるかわからないにしても、イオンがこのまま六神将側に確保され続けることを考えれば、こっちとしても動かざるを得ないだろう。

 まあ、俺程度の考えつくことは十分踏まえた上で、ジェイド達も難しい顔をしているんだろうけどな。
 本当にどうしたものか。うーんと皆で難しい顔のまま考え込んだ、そのとき。


 利き手と反対側に吊るしたアッシュの剣が、鈍い光を放ちながら、虫の這いずる様な音を上げる。


「なんだっ……ぐっ……」


 頭痛が、俺を襲う。


 痛む。割れるように、頭が、傷む。痛み意外に、なにも、頭に入って、来ない。
 額を抱えたままうずくまった俺に、皆が寄って来るのがわかるが、痛む頭のことしか考えられない。

 どこかで聞いたような声が、頭の中で響く。


 ──応えろ。グズがっ!──


「……っ……誰だよ……お前……」


 突然虚空を見上げ喋り出した俺に、皆がなにやら声をかけるのがわかる。
 しかし、それに応じるような余裕はない。
 ただひたすら頭の中に響く声だけに、意識が集中されて行く。


 ──ふん。バカはバカなりに考えているんじゃなかったのか? 脳無し野郎──


「お前、アッシュか……!?」


 コーラル城での応酬を皮肉として返されて、俺は声の相手が何者か悟る。


 ──奴らはザオ遺跡に居る。イオンをさっさと助け出すんだな。ったく……人が折角オアシスに情報を流してやったっていうのに……使えん屑め──

「おまえ………一体どういうつもり………」

 ──……俺の意図なんてどうでもいいだろうが。ともかく、ザオ遺跡だ。そこにイオンは居るはずだ。これ以上、てめぇらに関わってる暇はない。じゃあな──

「待っ──くそっ。……切れたの、か」


 声が消えると同時に、頭痛もまた嘘のように消え去った。
 アッシュの剣もまた、その不思議な発光を止めている。

 虚空を見上げて吐き捨てる俺に、ガイが心配そうに視線を向ける。


「大丈夫か、ルーク? また例の頭痛か?」
「いや……アッシュのやつがどうやってかはわからんが、俺に声を飛ばしてきた」
「声を……?」

 ガイが不可解そうに眉を寄せる。
 他の皆もどこか理解できないといった感じで俺を見据えているが、ジェイドだけが真剣な面持ちで、俺に問いかけた。

「アッシュが……ですか。それで、彼はなんと?」
「あいつの話を聞く限りだと、ザオ遺跡とやらにイオンは居るらしい」

「ザオ遺跡……ここから東にある遺跡ですか。目撃情報とは一致していますね」

 ジェイドが先程聞き込みで集めた情報を思い返し、さらに表情を引き締める。

「けど、なんか変なんだよな……あいつ。オアシスに情報を流したのは自分だって、言ってたぜ。その上で、さっさとイオンを助け出せとか……なんか、俺たちに有利な情報を流してるし……」

 さっき頭に響いたアッシュの言葉を思い返すに、少なくとも俺たちと絶対的に敵対しているような感じはなかった。
 まあ、それでも俺に対する侮蔑のような感情は確かに感じ取ったけどな。


「アッシュは他の六神将とは別の思惑で動いていると言うの……? だとしたら……やっぱり……六神将に指示を出しているのは……」

 俺のもらした言葉に、ティアがなにやら考え込みながら、小声でつぶやき始める。

「これはもう、罠かどうか言ってられるような状況じゃないんじゃないか、大佐さんよ」
「……そうですね。もはや、どんなカタチであれ、ザオ遺跡に六神将が関与していることは明白でしょう」

 ガイとジェイドの言葉に、アニスが目を輝かせる。

「じゃあ!」
「ええ、ここは一先ずザオ遺跡に向かいましょう。それでいいですね、ルーク」
「なんにせよ動かねぇことには始まらないだろうしな」

 ジェイドの確認に、俺も威勢のいい言葉で同意を返す。

「とりあえず行ってみるか。ザオ遺跡とやらに」




             * * *




 オアシスの東部に存在したザオ遺跡は、地上に露出したかなりの部分が風化したものだった。
 ジェイドの話によると、なんでも昔に存在した都市の名残で、遺跡の大部分は地下に存在するらしい。
 話の通り、地上部分に存在した入り口から螺旋状の階段を降りた先に、遺跡の本当の姿が広がっていた。

 地下という薄暗い場所と、あちこちに散乱する砂礫の存在が、この場所にどこか墓所めいた雰囲気を漂わせていた。


「罠の可能性はまだ捨てきれません。十分に注意して、進みましょう」

 ジェイドの忠告に頷き、俺達は遺跡のかなり奥まった部分まで進んで行く。

 途中にあった音素溜まりで、ミュウがなにやらソーサリーリングの新しい力とやらに目覚めたりもしたが、まあ、大したことではない。
 この力で小さい岩程度なら破壊できるって話だが、なんというか、力の発動の仕方が自爆特攻してるようにしか見えなくて、かなりひきました。

 ……極力使わないようにしよう。そう俺はかたく誓うのであった。


 ともあれ、俺たちは緊張感を保ったまま進み行き、とうとう遺跡の最深部に行き着いた。


 周囲を都市の残骸に囲まれたちょっとした公園ぐらいの大きさがある空間。
 奥まった場所に存在する、この先に続く開け放たれた扉らしきものの前。
 まるで門番のように佇む巨大な鎌を担いだ大男の姿があった。


「来よったか……導師イオンはセフィロト内部で儀式の真っ最中だ。おとなしくしていてもらおう」

 セントビナーで見かけた、確かジェイドに負かされたとか言っていた大男が恫喝の笑みを浮かべる。

「やっぱりイオンはここに居るってことか……」

 相手の言葉に、俺は少し考え込む。アッシュの情報は正しかったってことか。
 どういう意図かはよくわからんが、六神将同士でもなにか対立構図のようなものがあるんだろうかね?

「あなた、その物言いはなんですのっ! 仕えるべき方を誘拐しておきながら、儀式などとふてぶてしい!」
「そうだよラルゴ! イオン様を返してっ!」

 考え込んでいた俺を余所に、ナタリアとアニスが声も高らかに訴える。

「そうはいかないよ」

 そこに、ラルゴの背後に庇われた通路の先から、仮面の男が現れる。

「奴にはまだ働いてもらう必要があるからね」
「烈風のシンク……」

 二人目の六神将の登場に、ガイが顔つきを強張らせてつぶやく。
 それにシンクは仮面の下に露出した口元に、嘲りの笑みを浮かべる。

「どうやってこの場所を知ったのかはしらないけど、ここに来た以上、ただで帰れるとは思ってないよね」
「はんっ! コーラル城で逃げ出した奴が、調子のいいことほざいてんじゃねぇよ。ウダウダ言ってねぇで、さっさと掛かって来るんだな。変態仮面」

 腰から得物を抜き放ち、俺は相手を馬鹿にしたようにひらひらと掌を動かす。

「言ったね。六神将烈風のシンク。……本気で行くよ」

 口元を引き結び、シンクが腰を沈める。
 対峙する俺たちも臨戦態勢に入る中、ラルゴが俺に向けて心底面白そうに笑い声を上げる。

「わははははっ! よくぞ言った小僧! 同じく黒獅子ラルゴ。いざ、尋常に──」

 肩に担いだ鎌を眼前に構え、ラルゴがその言葉を告げる。

『勝負!』

 最初に動いたのはシンクだった。その小柄な身体を活かした小刻みなステップで、相手の意識の間隙を縫うように間合いを詰め、気付いたときには俺たちの死角にその身を滑り込ませている。

 厄介な相手の突撃に、俺たちは陣形を崩され、連係が乱されてしまう。

 って、アブなっ! 首筋を掠めた回し蹴りを、俺はカンの訴えるまま身を仰け反らせ、なんとか回避することに成功する。ついで俺は振り返りざまに剣を薙ぎ払う。

 一撃、もらってげっ!

「ちっ──」

 軽い舌打ちとともにシンクは身を翻し、次の瞬間には俺の剣の間合いから離れやがった。

 こいつ……烈風とあだ名されるだけあって、身のこなしが尋常じゃないぐらい素早い。

「シンクにばかり気を取られていていいのか、小僧?」

 間合いの外に立つ俺に向けて、鎌を振りかざすラルゴの姿があった。

「──地龍吼破っ!」

 地面に転がる無数の岩石を多数巻き込みながら放たれた薙払いの一撃が、わずかな距離などものともせず俺に押し寄せる。シンクに気を取られていた俺は対処が追いつかない。

 後衛組に攻撃対象を切り換えたシンクの相手に、ガイとアニスは手を取られ、俺をフォローするような余裕はない。

 やばいっ! これは直撃するっ!

「──そこですわっ!」

 響いた烈声と同時、後方から飛来した矢の連撃に、俺の目の前にまで迫った岩石が一つ残らず射抜かれた。大した腕だ。まったく言うだけのことはあるぜ。

「助かった!」
「当然ですわ。今です、ルーク!」

 大技を放った直後のラルゴが、ナタリアの方を見据えながら、わずかに硬直したように動きを停めている。

「行くぜっ!」

 俺は極限まで低く腰を落とした体勢で、得物を背中に担ぎ上げるような構えのまま、突進する。

 ──通牙

 全身の力を込めた斬撃の振り下ろしに、ラルゴが辛うじて鎌を両手で構え防御する。
 さすがなだ。けどな、それもこっちの想定の内だ!

 ────連破斬


 一切の間隙を置かずに放たれた右の掌底が、ラルゴのがら空きのどてッ腹に突き刺さる。
 苦悶の呻きを上げる相手に、俺は相手の防御を受けて跳ね返された勢いそのままに、一回転させた剣の柄を握り直し、渾身の斬り上げを放った。


「がっぁ──っつ!!」


 俺の連撃にふき飛ばされたラルゴの巨体が、遺跡の壁にブチ当たり、粉塵を舞い上げる。


「ラルゴっ! くっ……ゴチャゴチャとうざいんだよ……!」


 ガイとアニスの二人を相手取りながらも、特殊な歩法で全ての攻撃を避け、時にはいなしていたシンクがそこで初めて焦りを見せ、その動きを停めた。
 そこに好機を見出した二人が追い打ちを掛けるべく、シンクの両脇から一撃を放とうと間合いを詰める。


「吹き飛びな……」

 シンクが拳を頭上に向けて抱え上げながら、円を描くように両の足を踏み揃えた。
 音素が急激な収束を起こし、シンクの下へと殺到する。


「受けてみろ──昴龍礫破っ!」


 空中に飛び上がるようにして放たれたアッパーに、シンクを中心に巻き起こる音素の風刃が周囲を荒れ狂う。
 間合いを詰めていたガイとアニスがその身を切り刻まれ、苦痛の呻きを洩らした。

「チョロチョロ目障りなんだよ──さっさとくたばりなっ!」

 無防備のまま倒れ伏す二人に、シンクが止めを刺そうと迫る。

「それはこちらのセリフですね……すべてを灰塵と化せっ!」

 後方で戦場全体を眺め、機を伺っていたジェイドの譜術が発動する。

「──エクスプロードッ!」

 シンクを中心に大規模な爆発が巻き起こる。
 円形状に広がる灼熱の業火は時間と供に広がりを見せ、周囲を焼き尽くす。

「って、アニスとガイは大丈夫なのかよっ!」

 思わず叫んだ俺の言葉に、ジェイドが呆れたように肩を竦める。

「やれやれ。きちんと二人には識別──マーカーをしてありますから、なにも影響はありませんよ」
「うっ……そ、そっか。マーカーなんてもんが、そういやあったっけな」

 俺とジェイドが間の抜けた会話をしている内に、爆発が収まる。
 爆発が直撃して吹き飛ばされたシンクが、この先に続く通路付近に、虚空から投げ出された。

「命を照らす光よ、ここに来たれ──ハートレスサークル!」

 ガイとアニスの倒れ伏していた場所を中心に、柔らかい光を放つ円陣が展開。空中から降り注ぐ燐光に、二人の傷が癒される。

「助かった……」
「ありがとね、ティア」

 立ち上がった二人が、癒しの譜術を放ったティアに向けて軽く会釈を返す。

「二人とも、大丈夫なようね」

 安心したとティアが微笑む。

 ともあれ、これで、俺たちは体力の消耗は別にして、ほぼ戦力的には最初の状態に戻ったわけだ。

「さてと──まだやるつもりかよ?」

 俺は地面に膝をつく六神将の二人に向き直って告げた。

「くっ…」
「ぬぅっ! 簡単に、やられはせんぞっ!!」

 額から血を流しながらも、執念で立ち上がった巨漢が鎌を構える。

「……ケガをしたくなければ、退けいっ!」

 吹き付ける尋常ならざる闘気の高まりに、俺たちも反射的に武器を強く握りしめる。
 再度戦いが始まるかと思われた、そのとき──


「ラルゴ、やめるんだ。ここは一度、退こう」


 シンクが俺たちにとっても予想外の言葉を放ち、ラルゴを制した。

「しかし──」
「いいかい? なにも欲をかく必要はないよ。最低限であれ、とりあえず任務は果たしたんだからね」
「むぅっ……」

 黙り込んでしまったラルゴを脇において、シンクが俺たちに向けて言葉を放つ。

「取引だ。こちらは導師を引き渡す。その代わりここでの戦いは打ち切りたい」
「このままおまえらをぶっ潰せばそんな取引、成り立たないよな?」

 相手の調子のいい言葉に、俺は相手の本気を探り掛ける言葉を放つ。
 それにシンクは軽く鼻をならすと、天井を指差す。

「ここが砂漠の下だってこと忘れないでよね。アンタたちを生き埋めにすることもできるんだよ」
「むろんこちらも巻き添えとなるが、我々はそれで問題ない」

 指し示された天井は、さっき放たれたジェイドの譜術の影響もあってか、時折パラパラと、砂や小石のカケラが落ちて来る。
 シンクの言葉の通り、連中が後先考えずに奥義級の技を放てば、俺たち諸共生き埋めにするぐらいのことは簡単だろう。

「それに、こっちはまだセフィロト内部でイオンを確保してる奴が居るんだ。合流すればアンタたち程度なら蹴散らす余力は十分にあるよ」

 シンクが告げた戦力の存在に、俺達は押し黙る。

 正直、六神将二人を相手どったさっきの攻防でも、辛うじて勝利したようなものだ。
 ここで更に敵側に戦力が加わったなら、もはや勝てるかどうかはわからなくなる。ここは、提案にのるしかないか?

 皆に確認するように視線を巡らせると、全員が頷きを返した。


「ルーク。取り引きに応じましょう。今は早くイオン様を奪還してアクゼリュスへ急いだ方がいいわ」

 皆の意見を代表するように、一歩前に出たティアが俺に訴える。

「しょうがないか……わかったぜ。シンク、さっさとイオンを連れて来いや」

 シンクが無言のまま、通路の先に消える。


 数分後、シンクが約束通り、イオンを伴い戻ってきた。
 イオンを監視していたとかいう奴の姿は見えない。伏兵のつもりか、それとも俺たちを退かせるブラフだったのかね?

 なんにせよ、イオンが無事でなによりだが。

 わずかに焦燥した様子のイオンの登場に、アニスが目を潤ませながら感激の声を上げる。

「イオン様! 私、心配しました……」
「……迷惑をかけてしまいましたね。アニス、皆さん。本当に……ありがとうございます」

 少し青ざめた顔に笑顔を浮かべたイオンが、自分も辛いだろうに、俺たちに礼を言った。

「そのまま先に外へ出ろ。もしも引き返してきたら、そのときは本当に生き埋めにするよ」

 イオンを引き渡した後もこちらに向けて警告を放つのは忘れず、シンクが苛立たしげに告げた。

「ふん。こっちだってイオンが帰って来れば、お前らなんかに用はねぇよ」

 あくまで相手に対する警戒は怠らずに、俺たちもまた、その場を後にした。

「……やっぱり似てたな」

 シンクとイオンを見比べていたガイがなにごとかつぶやいたが、憤慨したナタリアを宥めることに忙しくなり、特に俺の意識に残ることなく消えた。




             * * *




 こうして地上に戻った俺たちは、再会の喜びを味わう間も惜しんで、ひたすらケセドニアへ直行した。

 体力的に砂漠越えがキツイだろうイオンのために、途中何度か休憩は挟んだが、ほぼ休み無しで進み行き、俺達はなんとか日が昇っている内にケセドニアへ行き着くことができた。


「ダリィ……もう、二度と徒歩で砂漠越えなんてしたくねぇー……」
「確かにな。今回はちょっと、つかれたな」
「ええ……やはり砂漠とは過酷な場所ですわね」


 体力お化けのガイとナタリアの二人も、さすがに砂漠の強行軍は堪えたものと見える。

「でもでも、ようやくケセドニアまで着きましたね」
「ここから船でカイツールへ向かうのよね?」

 確認するティアに、ジェイドが今後の予定を口に出す。

「マルクトの領事館へ行けば船まで案内してもらえるはずですよ。ですが……いささか疲れましたね。今日のところは、ケセドニアで宿を取りましょう」
「ですが、アクゼリュスの人々は私達の到着を待っていますわ!」

 ジェイドの言葉に、ナタリアが少しばかり感情的な反論をする。

 確かに俺も正論だとは思うが……ちょっと現状が見えちゃいないよなぁ。

「ちっとは落ち着けよ、ナタリア。俺たちの状態も少しは考えようぜ? 六神将の二人と戦闘した上に、その後砂漠を超えてきたんだぞ? これで船に乗り込んだりしたら、体力消耗しきって、どっちにせよ誰か体調崩す奴が出る。そうしたら、結局到着は遅れんだ。今のうちに、回復しといた方がいいって」
「……ええ。そう……ですわね。少し、気が急いていました」

 自分の言動を振り返って、ナタリアが少し気落ちしたように顔を伏せた。

「ねぇねぇ。そしたら宿に行こうよ。イオン様のこともどうするか考えないと……」

 アニスの言葉はもっともだ。とりあえず俺たちは宿へと向かった。


 宿帳に記帳し、二部屋を取る。
 そのうちより広い方である四人部屋に集まって、俺たちは今後の予定を確認する。

「ところでイオン様。彼らはあなたに何をさせていたのです? あそこもセフィロトなのですよね?」
「……はい。ローレライ教団ではセフィロトを護るためダアト式封咒という封印を施しています。これは歴代導師にしか解呪できないのですが、彼らはそれを開けさせて、内部でなにかしているようでした……」
「なんでセフィロトを護ってるんだ?」
「それは……教団の最高機密です。でも封印を開いたところで何もできないはずなのですが……」

 なんだか話がズレているのを感じた俺は、今後の問題に話を戻す。

「で、イオンのことはこれからどうすんだ?」
「六神将の目的がわからない以上……彼らに再びイオン様を奪われるような事態は避けたいわね」

 確かに、連中がなにを狙ってるのかわからないにせよ、戦争起こそうなんてしてる連中だ。
 少なくとも、ろくなことじゃあるまい。そんな奴らにイオンが誘拐されるのは避けたいよな。

 ああでもないこうでもないと議論する俺たちに、顔を俯けていたイオンが、なにかを決意したように拳を握り、顔を上げた。

「もしご迷惑でなければ、僕も皆さんと一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「イオン様! そんな危険ですっ! それにモース様がまた怒りますよぅ?」
「僕はピオニー陛下から親書を託されました。ですから、陛下にはアクゼリュスの救出についてもお伝えしたいと思います。和平のために行動することは、教団の理念になにも反していません。モースには少しばかり、我慢して貰います」

 どうやら、イオンの決心は堅いようだ。

「ま、しょうがねぇか。これで送り返して、また誘拐されんじゃないかと心配してるよりは、身近にいて貰ったほうが、こっちとしても守り易いもんな」
「ご迷惑お掛けします、皆さん」
「では、アクゼリュスでの活動が終わりましたら私と首都へ向かいましょう。
 ───そういうことで、よろしいですね?」

 ジェイドが全員に確認を取り、この件は終わりを見た。

「またしばらくよろしくお願いします」

 律儀にお辞儀をするイオンの挨拶を最後に、この日は解散となった。


 こうしてイオンの同行は決まり、俺たちは翌日領事館へと赴いた。

 驚くべきことに、領事館についたところ、なんと師匠たちは先に先遣隊とアクゼリュスに向かったと聞かされた。
 なんとなく気が急くのを感じながら、俺たちは急いで領事の手配した船へと乗り込む。

 船が出航すまでの間、何度かガイが腕を抑えながら、少し気分が悪そうにしていた。
 昨日の強行軍の影響かと心配させられたが、ケセドニアから離れると同時に、なぜかすっきり収まったという。
 なんとも不思議なことがあるもんだと、俺たちは呆気にとられた。


 ともあれ、船はケセドニアを発ち、俺たちは順調にアクゼリュスへと近づいている。
 俺は甲板に突っ立ち、ぼけっと海を眺め見る。


 ───昨夜見た夢が、どうにも俺の意識に引っかかってしょうがない。


 なぜ、いまこのときに、あの夢を見たのか。
 白地の布にジワジワと広がる墨のように、漠然とした不吉な予感が沸き上がる。

 無邪気に甲板ではしゃぐミュウとコライガを目にしても、この不安は晴れない。


 なにかが、起ころうとしている。


 ただ漠然とした不安を胸に抱き、俺は拳を握りしめた。






















            ──あるよるのおはなし──






















 階段を昇っている。

 一段、二段、三段……十段、十一段、十二段。

 十三段目に足をかけたところで、彼が歩みを止める。

 取り囲む醜悪な観客達の中から、泣きそうな顔で見つめる俺の姿を一瞬で探し出し、なにかを告げる。

「──ルーク、  を  ろよ」

 前に向き直って、十三段目を踏み込む。

 ガタンッ────

 ゆらゆらと、揺れる。

 首にかかった紐を起点に、身体が揺れている。

 彼は、いったい、どうしたんだろう?

 そうか、彼は──


 死。






             * * *






「──っあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 俺は絶叫を上げながら、飛び起きた。
 額から滴り落ちる汗が、布団を濡らす。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 周囲に視線を巡らせる。ここは、ケセドニアの宿屋。
 周囲には熟睡しきった男連中の顔が見える。

 そこで初めて、俺は自分が夢を見ていたことに気付く。


 夢──それもとびきりの悪夢だ。


「……久しぶりに見たな、くそっ」

 俺は額を押さえる。一向に引く気配を見せない汗が、掌を伝って滴り落ちる。
 夢が、なにを意味するのか、俺にはよくわかっている。
 なぜなら、あれは確かに、かつて起こった現実の光景だ。


 俺の記憶から、再現された事実に他ならない。


「いったい……俺になんて言ったんだよ……」


 俺は掠れた声で、あいつの名を呼んだ。
 当然、応える声はない。窓から見上げた空は、未だ闇に閉ざされている。


 夜は終わらない。




  1. 2005/09/25(日) 18:10:58|
  2. 【家族ジャングル】  第三章
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