全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第四話「正直忘れてた」


「あちらで談笑しているのは、北方の都市国家を併呑して急速に成り上がった、帝政ゲルマニアのアルブレヒト三世閣下。中央でゲストの相手をしている二人が、今回の宴の開催国、トリステイン王国の太后マリアンヌ様とマザリーニ枢機卿ですね。ああ、ちなみに今祝杯を掲げたのはトリステイン近郊に存在するクルデンホルフ大公国の……」

「いや、そんな一遍に言われても無理だって、バーノン」

 げんなりとした顔で、ウェールズは手にした杯を一息にあおった。会場入りした父王と別れてから、これも勉強と割り切って、延々と続くバーノンの人物評にも耳を傾けてきたが、もういい加減限界だった。

「しかし、これだけの面々が一堂に会する機会は、滅多にないと思うのですがね」

 もったいない。ウェールズの集中力を欠いた反応に、バーノンは大げさに肩を竦めて見せた。

「まあ、それもわかっちゃいるんだけどな……」

 バーノンの指摘を受けたウェールズは、改めて大園遊会の式場に視線を巡らせる。大天幕の下に集った各国の貴族たちが、夜空を彩る魔法式の花火の下で祝杯を交わす。数週間にも渡って行われる宴だけあって、規模も参加人数も凄まじいものだ。さすがはトリステイン王国のトップ、太后マリアンヌを祝う誕生会と言ったところか。

「ん……そう言えば、ガリア王ってもう居るのか?」
「彼なら、あそこですね」

 バーノンが示した先に、贅を尽くした料理が次々と運ばれて来るテーブルがあった。宴の会場の中でも、一際豪華なドレスを着た者たちが集まっているようだが。

「あれはガリア料理か?」
「ええ。国力を誇示する手段の一つと言ったところなのでしょうね」

 わざわざ自国の料理人を連れてくるとは、さすがはガリア王。言外に皮肉げな雰囲気が漂っていた。

 ふんだんな香辛料を使われた料理に舌鼓を打つ貴族達の中心に、一際目をひく蒼い髭を伸ばした美丈夫の姿が見える。あの男がガリアの簒奪王、ジョゼフ一世か。朗らかな笑みを浮かべながら、周囲の貴族たちと如才ない受け答えをしているように見えるが、内心では何を考えていることやら。ジョゼフの本性知ってるウェールズからしてみれば、何とも薄ら寒いことこの上ない光景と言えた。

 まあ、それはそれとして。

「しかし、美味そうな料理だな」
「……殿下、ヨダレ、垂れてますよ」
「うっ!」

 ニヤニヤと笑いながら、バーノンから手拭いが差し出された。手拭いを乱暴に受け取ると、ウェールズは慌てて口元を拭う。なんという恥辱。

「最近は殿下も色々と試行錯誤してるようですが、やはり他国から料理人を招聘する時期に来ているのかもしれませんねぇ」
「……もうどうとでも言え」

 ニヤニヤと揶揄を飛ばすバーノンに、ウェールズはやけくそ気味に手にした杯をあおった。

 今回のウェールズは、父王のオマケとしてついて来た者に過ぎない。こちらに到着した時刻が遅かったこともあって、本格的な顔合わせは明日行われることになっている。そのため、ウェールズは特に人の波に飲まれることなく、宴に興じる人々を観察することができた。

 地方がキナ臭い動きを見せ始めたってのに、宴に参加か。自分も呑気なことしてるよな。ウェールズはパカパカと何度も杯をあおりながら、ここ最近の不安定な情勢に思いを巡らせる。

 最近はウェールズから再三の報告を受けたことで、父王も地方の動きに関して、注意を払い始めていた。今回アルビオンを留守にするにあたっても、王軍の将軍達に警戒を厳重にするよう父王が言い含める光景を目にすることが出来た。

 北東部の領境に存在する砦の人員も、普段より増員されている。いま蜂起が起きてくれれば、むしろこちらとしてもやり易いくらいだろう。以前を考えると驚きの変化と言えた。

(……それにしても、最近のアルビオンはなんかおかしいよな)

 状況の変化が早すぎる。

 ここ最近のアルビオンの情勢から、ウェールズはそんなことを漠然と感じていた。

 レコン・キスタが不穏な動きを見せ始めたのは、原作二年前。今が原作三年前であることを考えれば、原作通りに事態が流れたなら、反乱の発生も今から一年後以降になるはずだ。

 しかし、現在のアルビオンの状況を鑑みるに、最悪このまま行けば、今年中に反乱が発生してもおかしくないとウェールズは考えていた。

 どうにもいやな話になるが、ウェールズが進めたさまざまな改革は、良くも悪くも、思いのほか強い変化をアルビオンにもたらしたようだ。

(……まあ、結局ガリアにつけ込まれる隙を消せなかったという意味では、悪い変化に近いかもしれないんだがね)

 思わず自嘲染みた笑みが漏れたが、実際は言うほど深刻には考えていなかった。どちらにせよウェールズ自身が、積極的に原作の流れを変えるべく動いてきた結果、導かれた現状だ。原作の惨状を考えれば、状況の変化はそれがどのようなものであれ、歓迎してしかるべきものだろう。

 だが、そんなウェールズにも一つだけ、どうにも意識を傾けずには居られない変化があった。

 それは最近、地方で囁かれ出した噂の一つ───虚無の存在をほのめかす噂話の存在だ。

「……そう考えると、これもいい機会だったのかもな」
「何か仰りましたか、殿下?」

「いや、何でもない。バーノン、私はちょっと外に出て風に当たって来るよ」
「はて、酔いが回りましたか?」

 それにしてはまだまだ素面のように見えますが。遠回しにこちらの真意を尋ねてくる腹心の一人に、ウェールズは苦笑を返した。

「まあ、何と言うか、少し確認しておきたいことがあってね」
「確認したいことですか?」
「ああ、そうだ」

 それじゃ、こっちは任せた。

 首を傾げるバーノンをその場に残し、ウェールズは式場の喧騒に背を向けた。

 向かうは天幕の外、水の精霊住まう伝説の地───ラグドリアン湖畔へ。



              * * *



 トリステイン王国とガリア王国に挟まれた内陸部に位置するラグドリアン湖。
 広さは六百平方キロメイルに達する、ハルケギニアにおける名勝の一つである。

 魔法の花火が夜空を瞬き、湖面に星空の輝きと交りあった彩りを与えていた。岸辺に設けられた大天幕が翻り、トリステイン王国、ガリア王国、アルビオン王国、帝政ゲルマニアといった、ハルケギニア中の貴族たちが集まり、宴に興じている。

 いまラグドリアン湖畔では、太后マリアンヌの誕生日を祝う、大規模な園遊会が開催されていた。二週間に及ぶ大園遊会も既に半ばを過ぎたが、宴はいまだ盛り下がりを見せない。

 そんな盛大に祝われる式場を抜ける一つの影があった。フードを目深にかぶった彼女は天幕から離れると、ラグドリアン湖畔の岸辺にそっと歩み寄る。

 月明かりを反射する湖面がきらきらと輝いて、ひどく幻想的な光景を創り出していた。足先に触れるひんやりした水の心地よさに、彼女──アンリエッタは目を細める。

 口うるさい侍従に見つかったら、小言ではすまないだろう。しかし、どうも足を入れるだけでは満足できそうもない。周囲を見回しながらそっとドレスを脱いで、彼女が湖面に身を投じようとした───そのときだ。

 湖のほとりから、囁き合う声が届いた。

「それで、湖の水位が上がりつつあると?」
「そのとおりです、殿下」

 思わず身を硬くするが、声の主がこちらに気付いている気配はない。暗がりの一画に視線をやると、二つの人影が何やら言葉を交わしているのが見えた。

 こんなところで、いったい何をしてるのかしら? 興味を引かれたアンリエッタは、そのまま声をかけることなく、二人の会話に耳を澄ませる。

「毎日見てないとわからないでしょうが、近くで暮らしてるウチラにしてみれば一目瞭然の変化ですよ。今はまだ大雨が続いた後ぐらいの増水にしか見えないでしょうが、あれは尋常な変化じゃありません。ありゃ絶対に水の精霊さまの仕業ですって! このまま行ったら、村が飲まれちまうんじゃないかと、皆もたいそう心配しています」
「うーん……そうか。もう、そんなことになってるのか……」

 何かを考え込むように顔を俯けていたかと思えば、直ぐに次の質問が飛ぶ。

「ああ、ちなみに地元の領主はどうしてる?」
「どうにも領地経営より、中央の政に夢中のようでして、こちらの訴えにもさっぱりですよ」

 どうにかして頂けないでしょうか、ウェールズ殿下。

 一方の影が最後に呼びかけた言葉に、アンリエッタの意識が反応する。
 ウェールズ……? 確か、それは自分の従兄妹の名ではなかったろうか? 

 プリンス・オブ・ウェールズ。アルビオンの皇太子。今は亡き父王の兄君、アルビオン王の長男である。つまりあの人影がウェールズなら、あそこに居るのはアンリエッタの従兄妹ということになる。

「まあ、状況はだいたいわかった」

 難しそうに唸っていたウェールズと思しき人物が、不意に顔を上げた。

「しかし、なんでまたそうもあっさり任せる気になったんだ? 私はこの国の貴族じゃないぞ」
「知らなかったんですか? アルビオンの皇太子、ウェールズ殿下の名前はトリステインでもかなり有名ですよ」
「ふーん。有名ねぇ。ちなみに、どんな風に?」
「へぇ、なんでも……」

 市井の間で、アルビオンの皇太子、ウェールズの名が如何に広がっているか話し始める。

 曰く、アルビオンの皇太子、ウェールズ殿下は真の勇気を知る稀なる貴族。勇気とは市井の生活に踏み込むことも畏れず、あらゆる知識を我が物とするその行為! 民の乱れはすなわち国の乱れ! だが真の勇気を知る殿下が国にいるならば! 国家は磐石にして正しく乱れないっ! 国家の平和は勇気の産物っ!! いくら魔法が使えても、勇気を知らん貴族はノミと同類よぉーっ!!

「……と、いった内容ですね。きっと今回の件も、殿下ならば何とかして下さると皆も確信しております!」
「って……いったいそりゃ何処の誰の話しだよ、おい」

 興奮気味に言い募る村人に向けて、ウェールズが冷静に突っ込んだ。しかし、相手は訳がわからないと目を瞬かせる。

「へ? そりゃもちろん、ウェールズ殿下のことに決まってまさぁ」

 いやですなぁ、冗談はよして下さい。まったく本気に取ろうとしない村人の反応に、ウェールズは盛大に顔を引きつらせた。

 そんなウェールズの微妙な反応にまるで気付くことなく、村人は再び真剣な顔でウェールズに向き直る。

「殿下、お願いします! どうか、どうかわたしらの村を助けて下さい!」

 深く下げられた頭を前に、ウェールズがポリポリと居心地悪そうに頭を掻く。

「あー……はいはい、わかったよ。まあ、何とかやってみるさ」
「ホントですか!? あ、ありがとうございます!!」
「あんまり大げさに触れ廻らないでくれよ……まあ、もう今更かもしれないけどさ」
「それでは、宜しくお願いします、殿下ーっ!!」

 感激の声を上げながら、何度も頭を下げて、村人は去った。

 完全に人影が消えたのを見送り、ウェールズがため息を漏らす。

「いったい、どうなってんのかね。この時期に水位の上昇か。やっぱりこっちの行動が影響与えてるのか……」

「いったい何について話していらしたのですか、ウェールズさま?」
「ん? ああ、そりゃ……」

 自然に口を開きかけたウェールズの動きが、途中でピタリと止まる。

 しばしの沈黙が流れた後、ウェールズはどこかぎこちない動作で、ゆっくりとこちらを振り返る。

「こんばんは、ウェールズさま」

 にっこりと微笑み掛けるアンリエッタの姿を目にするや、ウェールズは仰天して叫んだ。

「って、トリステインのアンリエッタ王女!?」
「ええ、アンリエッタですわ」

 激しく動揺するウェールズを余所に、アンリエッタはくすくすと微笑を漏らしながら、至極あっさりと頷き返すのだった。


  1. 2007/07/21(土) 00:00:33|
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  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:13

コメント

更新お疲れ様です。
こういう政略・戦略の裏話大好物なんで、続きを楽しみに待っています。
  1. 2008/04/07(月) 12:42:23 |
  2. URL |
  3. 燐弓 #-
  4. [ 編集]

更新お疲れ様です。今回も面白かったです。
ウェールズ皇太子ルートのメインヒロイン(?)のアンリエッタが登場し、これからの二人がどんな関係を築くか興味津々です。次の話も楽しみです。
  1. 2008/04/07(月) 15:34:51 |
  2. URL |
  3. クマの頭領 #-
  4. [ 編集]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2008/04/07(月) 16:45:05 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

思わぬ展開になってきましたね。とても続きが気になります。次回を楽しみに待っています。
  1. 2008/04/07(月) 17:01:34 |
  2. URL |
  3. やせた馬 #-
  4. [ 編集]

更新お疲れ様であります。
この続きも楽しみではありますが。
外伝のプロジェクトXものもなにとぞ続きをお願いいたします。w
自転車、三輪車なんてのもおもしろくね?とかw
がんばってください。
  1. 2008/04/07(月) 18:51:41 |
  2. URL |
  3. BB #HfMzn2gY
  4. [ 編集]

更新お疲れ様です。
ウェールズの魔法などの修行などはどうなっているのでしょう?
無能皇太子として政略・戦略などの政治手腕で何とかするのでしょうか?
続きを楽しみに待っています。
  1. 2008/04/07(月) 20:13:37 |
  2. URL |
  3. にしや #-
  4. [ 編集]

水位上昇ですか、そしていよいよアンリエッタの登場。ティファニアと三角関係を築くのかどうか楽しみです。続きも期待して待っています。
  1. 2008/04/08(火) 22:50:39 |
  2. URL |
  3. シャルティア #-
  4. [ 編集]

更新お疲れ様でした

 更新お疲れ様でした。水面下での動きがようやく活発になってまいりましたね。あと、やはりテファとアンアンの三角関係になるのでしょうか?(笑 続きを心から楽しみにさせて頂きたく思います。
  1. 2008/04/09(水) 22:43:58 |
  2. URL |
  3. らっちぇぶむ #.vIW7e3Y
  4. [ 編集]

1年前倒しになっているということは…。

 ルイズの召喚も1年前倒しになるのでしょうか?
 一応保護しているから、フーケは出ないのかな?
 アンエリッタはヒロインというより、コネ扱いされそう…。
  1. 2008/04/09(水) 23:15:39 |
  2. URL |
  3. 凡士 #-
  4. [ 編集]

流れは変わらず?

アン様とりあえず服着ろ。
それはともかく、今のままだと貴族派を完全に抑える事は無理みたいですね。
クロムウェルが虚無の担い手を騙っている事を公表してやれば、有る程度有利に事を進められるとは思いますが。
アンリエッタに頼んで水の精霊とコンタクトを取れば証拠としては十分です。
あとは、操られているであろう将校連中を事前に見つけて押さえられれば原作よりは多少はマシになるかと。
テファがディスペル・マジックを使えればなぁ。始祖のオルゴールに呪文あるといいんだけど。
  1. 2008/04/15(火) 23:57:23 |
  2. URL |
  3. somabu #-
  4. [ 編集]

上の方でウェールズの魔法うんぬんについて言っている方へ

この世界魔法の能力>>>>>>人格及びその他才覚なので
喩え魔法以外がどれほど優秀であったとしても魔法が弱ければ無能扱いです。

というわけで魔法が弱かったら部下を従えられず、それまでですね。
ご愁傷様
  1. 2008/04/22(火) 21:07:08 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

作者見解

他の方のコメントに言及するのは否定しませんが、断定的に切って捨てるようなレスはお控え下さい

一応質問に答えておきますと、ウェールズの魔法の腕は原作と同じぐらいか、やや落ちる程度を想定しています。
また、作者は魔法の腕がすべてとは認識していません。
  1. 2008/04/30(水) 21:40:21 |
  2. URL |
  3. 管理人@スイミン #mQop/nM.
  4. [ 編集]

勇気の産物

このトリステインにはワインを刃物のように操る男爵が居そうですね。
  1. 2008/05/07(水) 15:59:15 |
  2. URL |
  3. マリニー #Gunbb4dY
  4. [ 編集]

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