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──A.L.M──

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第4話 「暴カレル、世界」 ─後編─



 ここ数年の間、積み重ねられた信頼が、掛けられた言葉が、脳裏を過る。


 ───なかなか飲込みが早いな。だが、まだまだ。


 ───屋敷を抜け出すのもいいが、ほどほどにしておけ。あまり家族に心配をかけるものではない。もちろん、私も心配だとも。


 ───結ばれた絆は変わらない。兵器であることを、自らに許すな、ルーク。


 すべてが、ただ一度の頷きで、崩壊する。


 師匠は俺に剣を教えてくれた。こいつは六神将を指揮していた。
 師匠は俺に結ばれた絆の意味を示してくれた。
 目の前に立つ男の指示でイオンは狙われていた。
 師匠はこの男はこいつは俺にとって……


 混乱する思考が暴走し、取り止めも無い言葉がぐるぐると意識を苛む。
 今にも我を忘れこの手に握った剣を叩きつけたくなる。そうすることが何よりも一番ふさわしい行為に思えて来る。
 そうすれば俺の気持ちは晴々することは自明の理であり、そうしない理由など何一つ見当たらない。
 ならばそうしればいいじゃないか。早く剣を振り上げろ。早くっ早くっ早くっ!


 頭の中で急き立てる声に抗うには、明かされた事実はあまりに重すぎた。


 それでも──衝動に流され動くことだけは、もう二度と御免だった。
 今にも剣を振り上げようとする腕を必死に押さえつけ、沸騰した頭に思考しろと訴えかける。


 なにを言われたのか理解しろ。決して衝動的に飛び掛かるな。自らの力も自覚せぬまま動いた結果を、決して忘れるな。
 あの日を繰り返すことだけは絶対に許すな。頭に血が昇ったが最後その先に待ち受けるのは絶望だけだ。
 それを回避したいならばどうすればいいかお前は既に身をもって知っているはずだ。


 動揺を押さえ込み意識を研ぎ澄ませ。
 目の前の認め難き事実を見据え、
 放たれた理解し難き言葉を理解しろ。


「イオン、下がってろ。こいつは───」

 目の前に立つこの男は───

「敵だ」


 切っ先を突き付ける。剣を握る手は、もはや震えを止めていた。


「ほぅ……我を忘れて打ち掛かって来るものとばかり思っていたが、意外に冷静なようだな」

 面白そうに投げ掛けられた言葉に、俺は自分を必死に押さえ込み、押し殺した言葉を返す。

「……冷静なわけが、ねぇだろ。腸が煮えくり返ってる真っ最中さ。ただ、堪えてるだけだよ。……怒りに我を忘れて、自分の力量もわきまえずに突っかかるような無様な真似だけは二度としない……そう誓ったからな」

「ふっ……本当に、強くなったものだ」

 どこか感慨深そうに遠くを見据え、彼は軽く顎を撫でた。

「だがお前がこの私に勝てるとでも思ったか? ──自惚れるな」


 圧倒的な威圧感が放たれる。


 ギシギシと空間が音を立てるような感覚に、思わず剣から手を放して今すぐにでも背を向けて逃げ出したくなる。
 だが、そんな弱気を必死に捩じ伏せ、俺はわずかに腰を落とし構えを取る。


「さぁな。やってみないとわからないこともある。そうだろ、『師匠』?」
「確かに、その通りだな。ならば余興代わりとして、少し揉んでやろう、我が不肖の『弟子』よ」

 俺の構えに応じるように、師匠がゆっくりと杖を構える。

「剣を抜かなくてもいいのかよ」
「その必要はない。試してみたいこともあるからな」
「……後悔するなよ」

 絶望的な状況にありながら、しかし俺は僅かな諦めも抱かず、目の前に立つ最強の敵を──

「ふっ……させてみろ」

 迎え撃つ。




             * * *




 放たれる技はどれも僅かでも掠めれば、一撃で俺の意識が刈り取られかねない威力をもっていた。
 かつて女王と演じた死闘がお遊びに感じられるまでにこの相手は──強い。


「そこだ」
「……っ!」

 何ら予備動作無しに杖が突き出された。
 咄嗟に掲げた刀身が衝撃に震える。防御を通り抜けて伝わる衝撃に、俺は後方へ飛び退くことで対処する。

 離れた間合いを、師匠はただ一歩の踏み込みで無へと返す。
 僅かに杖を後方に引き絞ると──無数の突きが放たれた。


 剣を握る手に残る痺れに、俺は口の中で短く悪態をつきながら、攻撃を見据える。
 至近距離でうなじを撫でる死神の鎌を感じながら、全身全霊をかけて、相手から放たれる攻撃をひたすら受け流し続ける。

 永遠に引き延ばされたかのような刹那の交錯の後、俺と師匠は互いの獲物をぶつけ合い、間合いを離す。


「ふむ……なかなか腕を上げているようだな」
「よく言うぜ……」

 俺はうんざりと言葉を返す。致命的な一撃は避けることができた。
 しかし、それ以外の部分はすべからく打ち据えられ、全身に痣が浮かんでいる。


 認めるしかない。


 この相手に単騎で挑み、俺が勝つことなんざまず不可能。
 おまけに、相手はこちらの癖などもすべて把握している。
 こんな相手に正面から挑んで勝利するなんてことは到底不可能。絶望的と言ってもいい状況だ。


 しかし、俺も諦めたわけじゃない。
 なんの考えもなしに、この相手と打ち合っているわけではないからだ。

 絶対的な力量差を持つ相手と戦う場合、心掛けることはただ一つ。
 簡単な話だ──そう、なにも相手を圧倒する必要はないことを理解すればいい。


 ひたすら相手の行動に集中し、次に取るであろう一手を予測する。
 一方的に押され続けながらも、しかし俺は致命的な一撃を確実に見抜き、捕食者に怯える獲物のごとき臆病さを持って、死に物狂いで回避する。

 一方的な劣勢の状況にありながら、それでも僅かな余裕を感じさせる俺の様子に、師匠が眉を潜める。
 しばらく膠着状態が続いた後、師匠は冷静にこれまでの俺の動きを分析し、その狙いを看破する。


「なるほど。ひたすら攻撃を受け流して時間を稼ぎ、仲間の到着を待つ……か。確かに、彼の高名な死霊使いは、なかなかに厄介な相手だ。さて、どうしたものか」


 ちっ、気付かれたか。……いや、そうなることはわかっていた。
 相手は敵対したとは言っても、俺の師匠であることに変わりは無い。
 俺程度の考えることなんざとっくの昔にお見通しだろう。だが、


「負けまいとする相手は、勝とうとする相手よりも遥かに抗し難いものだ……あんたの言葉だぜ」

 それでも、この手を仕掛ける利点は、相手がそれとわかっていても対処法が見つからない点にある。

「同時にそれを完全に実践することは難しい……とも教えたはずだ」

 僅かに構えを崩し、師匠があからさまな隙を見せる。
 思わず打ち込みたくなる隙だが、これ程までに露骨な誘いに乗るほど俺だってバカじゃない。
 相手の意図がわからず眉をしかめる俺に、師匠が言葉をかける。


「二年前のあの日を──善良なる剣虎が死刑台に送られた日を覚えているか?」
「……っ……!」


 明らかな挑発の言葉とわかっていても、俺は僅かな反応を示すのを止められなかった。

「一つ教えてやろう。彼の者が死刑台に送られた理由を、お前はなんと説明された? おそらくは、私怨に狂った貴族どもの仕業だとでも告げられたのではないか? だが──それは間違いだ」

 冷静さを保て。この言葉は挑発だ。真実を言っているとは限らない。

「真実とは残酷なものだ。彼の者の死は、あらかじめ預言により確定された事象の流れの内にあったのだよ」

 だが俺の理性とは裏腹に、感情は相手の話す真相に耳を傾ける。

「彼の者の死はスコアに詠まれていた。そう、彼は──死ぬべくして死んだのだ」
「っ──デタラメを言うなっ!!」

 俺は放たれた言葉に動揺し、叫び返していた。同時に、僅かに構えが崩れ、相手から意識が逸れる。


「意識を離したな?」


 すぐ目の前で、俺に向けて腕を伸ばす師匠の姿があった。

「なっ──がはっ!」

 喉元を掴み上げられ、俺の身体が宙に浮く。

 だがそんなことよりも、先程の有り得ない現象に俺は混乱する。
 動揺して相手から意識が放れたのは確かだった。それでもあの一瞬で間合いを詰められる程、気を抜いてはいなかった。
 馬鹿らしいことに、先程の動きは、まるで俺には知覚できないものだった。


「少し制御に難はあるが……それは今後に期待と言ったところか」

 師匠の片手に握る杖が、鼓動と共に燐光を放つのが視界の端に映った。

「──ヴァン! 止めろっ!!」

 セフィロトの入り口から駆け込んできた、漆黒の教団服を着込んだ男が叫ぶ。俺と酷似した相貌が、今は焦燥に歪んでいる。

「アッシュか……ここには来るなと言っておいたはずだが?」
「……残念だったな。俺だけじゃない。あんたが助けようとしてた妹も連れてきてやったぜ!」

 アッシュの後に続いて、彼女が姿を見せる。続いて駆けつけてきた仲間達が、この場の状況を見据え、一斉に武器を構える。

「……メシュティアリカ」
「兄さんルークを放してっ! いったい彼になにをさせるつもりなの! バカな真似は止めてっ!」

 ティアの必死の呼び掛けに、しかし師匠は無機質な視線で俺を撫で回す。
 酸素が、足りない。俺の手に握られていた剣が、掌から転げ落ちて、甲高い音を立てる。


「ちっ。劣化野郎に、あんたの相手はさすがに荷が重かったか」
「ふっ……そうでもない。時間を稼ぐことにだけは成功していたようだからな──しかし、このアクゼリュスの地を訪れた時点で、すべては決していたのだ」


 俺は朦朧とする意識の中で、無意識の内に右腰に吊るされたもう一本の剣に手をかける。


「さて。お前の役目を果たして貰おうか……」


 震える手を動かしながら、俺は剣を抜き放つ。


「力を解放しろ──『哀れなレプリカルーク』」


 俺が剣を振り上げると同時──耳元で、その言葉は囁かれた。



 俺の脳裏に、キャッツベルトの船上で、聞いた覚えのない言葉を囁かれる自分の姿が映し出される。


 ───私が解放を指示したら、おまえは全身のフォンスロットを解放し、パッセージリングに向け超振動を放つ。

 ───そう、今使っているその力だ。

 ───合言葉は……『哀れなレプリカルーク』



 ピシリッ──……



 俺の意識の中で、膨大な力に蓋を落としていたクビキが、確かに破壊される音が響いた。

「劣化野郎っ!」
『ルークッ!』


 かつて船上で放ち掛けた力が俺の意志など関係無しに、強制的に引きずり出されるのを感じる。握られた剣の先に灯った光の球体は急激に膨張を始め、周囲に漂う第七音素を爆発的な勢いで喰らい始める。


「ようやく、ここまで辿りついた。これより世界の解放が始まる……──」

 師匠のつぶやきを合図に、暴虐なる光の柱は天に向けて駆け上る。


 忌まわしき超振動の力が、放たれ──


 同時に、俺の手に握られた剣から、

 その瞬間アクゼリュスに引き起こされたすべての事象が、

 俺の、頭の中に、無理やり、流し込まれる。

「が、ぁ、あ。あ、ああ、ああああ、あああああ──……」

 情報の奔流に俺の意識は呑まれ、しかし五感を閉ざすこともできず、俺はただその光景を見据え続けた。




 ──大地を薙ぎ払う光を、その日、人々は目撃した。




             * * *




 セフィロトの中枢にかつて位置したパッセージリングは跡形も無く消し飛んでいた。
 周囲から瓦礫の崩れさるような音が断続的に響き渡り、大地を振動が襲う。続いてセフィロト内部にも地割れが巻き起こった。

 揺れ動く大地に立ちながら、ヴァン・グランツは引き起こされた現象を興味深そうに見据えた。

「予想以上の威力だが……なるほど」

 ヴァン・グランツは悠然と歩み寄り、その場に悄然と膝をつく俺の手から無造作に剣をもぎ取った。

「鍵の存在……か」

 返す返す剣を見つめ返しながら、ヴァン・グランツは俺に視線を戻す。

「私がアッシュにくれてやったものを、なぜお前が持っていたのかは知らぬが……この奏器が第七音素を収束させたようだな」

「ちっ──ヴァンッ!」

 頭上から振り卸されたアッシュの斬撃を、師匠は顔も向けぬまま手にした剣であっさりと弾く。
 舌打ちをしながら虚空に身を踊らせるアッシュに一切の注意を払わぬまま、ヴァン・グランツは片手を口元に近づけると、笛のような音を出す。

 だが風を切る音が聞こえ──上空から現れた魔物が、アッシュを掴み虚空へと持ち上げた。


「くっ……放せ! 俺もここで朽ちる!」
「イオンを救うつもりだったが仕方がない。おまえをレプリカのように使い棄てるわけにはいかないからな」

 同様に現れたもう一匹の魔物の背に乗り込み、ヴァン・グランツはさしたる感情も込めずに告げた。


「兄さん! やっぱり裏切ったのね! この外殻大地を存続させるって言っていたじゃない! これじゃあアクゼリュスの人もタルタロスにいる神託の盾もみんな死んでしまうわ!」
「既に死んでいるだろうな」

 あっさりと返された頷きに、ティアが愕然と目を見開く。

「先程そこの哀れなレプリカが放った力は、鍵からの支援を受け〝完全なる超振動〟に限りなく近いカタチで発動した。パッセージリングのみならず、アクゼリュスの地表までもが薙ぎ払われたのだ。崩落を待つまでもなく、人々は死に絶えたことだろう」

 ヴァン・グランツの言葉が意味するものがすべて理解できずとも、そこに込められた言葉の迫力に気押されてか、その場に居る誰もが息をのむ。

 だが他の誰でも無く俺自身は、改めて言われるまでもなくすべて理解していた。
 俺の放った力が、あの瞬間、なにを引き起こしたのか。剣から流れ込んだ情報が、すべて克明に俺の意識に焼き付いている。


 噴き出す障気に呑まれ絶叫する鉱夫、崩落に巻き込まれ押し潰される子供。
 患者を避難させようと背負いながら走り出た医者が、数歩進んだ先で亀裂に飲み込まれる瞬間。

 そして、全てを飲み込む俺の放った超振動の光──


「ヴァン・グランツ……」

 俺は全身を襲う虚脱感に苛まれながらも、胸の内から沸き上がる一つの衝動に従って身体を動かす。自身を突き動かす感情の昂りに任せるまま、床に転がる剣を拾い上げ、地面に突き立て身体を起こす。


 全てを理解した上で俺にあんな光景を見せた、視界の先に映る男に剣を突き付ける。


「私が憎いか? 哀れなレプリカよ。ならば、この絶望的な状況を乗り越え、私を追って来るがいい」
「ヴァン・グランツ──────ッ!!」

 俺の憎悪に染まった叫びに、しかし彼は満足そうに頷いた。

「そして……メシュティアリカよ」

 激しい揺れに襲われるセフィロトの中で、奴はその視線をティアに向ける。

「お前にもいずれわかる筈だ。この世の仕組みの愚かさと醜さが。それを見届けるためにも……おまえには生きていて欲しい。おまえには譜歌がある。それで……」

 最後まで言い終えぬまま、ヴァン・グランツは上空へと消えた。それと同時に、地響きが一層その激しさを増し、決定的な振動がこの場を襲う。

 頭上から降り注ぐ瓦礫に、大佐が叫ぶ。

「まずい! 坑道が潰れます!」
「私の傍に! ……早く!」

 柔らかい音素の収束する光と共に、ティアを中心に歌声が響く。

 クロァ──リョ──ズェ──トゥエ──リョ──レィ──ネゥ──リョ──ズェ──

 俺はガイに手を引かれるまま彼女の傍で、この地獄のような状況に似つかわしくない、綺麗な歌声に耳を傾ける。

 譜歌の光に包まれながら、俺は崩れ行くこの世界から決して目を逸らさず、その最後を見届けた──


 アクゼリュスの地は、こうして崩落した。





             * * *




 頬を舐める温かい感触と、俺に呼び掛ける誰かの声が聞こえる。

「……人さま。ご主人さま」
「うっ……ミュウ、コライガ……か?」
「ご主人さま、気がついたんですの」

 俺の意識が戻ったことに安堵するミュウと、未だ心配そうに頬を舐めるコライガが目の前に居た。

「いったい……ここは?」
「僕にもわからないですの……」

 俺は身体を起こし、周囲を見渡す。

 障気に覆われた泥の海がどこまでも広がっている。
 自らの倒れ伏していた大地が、わずかなカケラ程度のものとしか思えない。
 見上げれば、空を覆う障気の雲が時折放電のようなものを繰り返す。


 まるで地獄のような光景だった。


 呆然と周囲を見回していると、同じように立ち尽くす数人の仲間の姿が視界に入る。

「皆……無事だったのか」

 俺の上げた声に、ナタリアが心配そうに駆け寄って来る。

「気がつきましたのね、ルーク」
「ここは……どこだ? 俺達はいったい……?」

 全身を襲う虚脱感に耐えながら尋ねる俺に、別の方向から言葉が返される。

「……ここは魔界です。しかし、こんな形で訪れるとは……」

 沈痛そうな面持ちで顔を伏せるイオンに、俺とナタリアのもの問いたげな視線が集中する。

「……いずれご説明します。今は少しでも生き残っている人を捜したい……」

 押し黙る一同の中で、一人わずかに離れた場所に立つティアが押し殺した声を上げる。

「……取り返しのつかないことになってしまったわ。守りきれなかった……」

 しばらくして、周囲を伺っていた大佐とガイが戻って来るのが見えた。

「生き残りは俺達以外に居ないようだ。というよりも、この周辺の大地しか残っていないって言った方が正しいな。後はすべて泥の海に沈んじまったようだ……」
「崩落する際に、既に無数の断片に大地が分断されていたせいでしょうね。ティアがあの譜歌を詠ってくれなければ、私たちも死んでいました。あれが、ユリアの残した譜歌の威力か……」

 二人から告げられたアクゼリュスの末路に、俺は目を見開く。

 アクゼリュスを崩落させ、人々を殺したのは──いったい誰だ? 

 師への憎しみが一瞬で冷めやり、俺は自らの両手を見下ろす。

 血に塗れた手が、一瞬俺の視界に映る。


 そのとき、振動が俺達の立つ浮島を襲った。
 視界の端に映る島の一つが、周囲に障気を吹き上げる泥の海に飲み込まれて消えた。

「……タルタロスに行きましょう。この先に私達と同じように落ちているのを発見しました。どうやら緊急用の浮標が作動したようで、この泥の上でも持ちこたえています」

 大佐の言葉に促されるまま、俺はふらつく足を動かし、タルタロスに乗り込んだ。

 幸い動力機関等に深刻なダメージはなかったらしく、俺達はティアが告げたユリアシティという魔界の中にある唯一の街に向かうことになった。




             * * *




「行けども行けども、何もない。……なあ、ここは地下か?」

 単調な光景に耐えられなくなったガイの上げた疑問に、ティアが硬い口調で答える。

「……ある意味ではね。あなたたちの住む場所は、ここでは外殻大地と呼ばれているの。この魔界から伸びるセフィロトツリーという柱に支えられている空中大地なのよ」
「意味が……わかりませんわ」
「昔、外殻大地はこの魔界──クリフォトにあったの」

 一同に言葉が浸透するのを確かめると、続けて説明を口にする。

「二千年前、オールドラントを原因不明の障気が包んで大地が汚染され始めた。この時ユリアが七つの預言を詠んで滅亡から逃れ、繁栄するための道筋を発見したの」

「ユリアは預言を元に地核をセフィロトで浮上させる計画を発案しました。この話を知っているのはローレライ教団の詠師職以上と魔界出身の者だけです」

 後を引き継ぐ形で、イオンがローレライ教団の導師として説明を締め括った。

「途方も無い話だな……」

 ガイの洩らした言葉に、イオンが視線をティアに向ける。

「……とにかく僕たちは崩落した。助かったのはティアの譜歌のおかげですね」
「何故こんなことになったんです? 話を聞く限り、アクゼリュスは柱に支えられていたのでしょう?」

 ドクンッ──……

 大佐の問い掛けに、俺の胸が騒めく。

「それは……柱が消滅したからです」
「柱……グランツ謡将もなにか言っていたような気がしますが、いったいどうして?」

 頭から冷水を被せられたかのように、俺の全身が強張る。
 どうしてか? そんなのは決まっている。


「……俺のせいだ」


 皆の視線が、俺に集中する。


「俺の超振動が……柱ごとアクゼリュスの地表を薙ぎ払ったからだ」

 向けられる視線から目を逸らさず、俺はもう一度わかり易い言葉で繰り返す。

「俺が……殺した。アクゼリュスに居る連中を皆殺しにしたのは、この俺だ」

「しかし、超振動とは二人以上の第七音素術士が居てはじめて引き起こされる現象のはずですが……」

「他の奴らがどうだか知らないが、俺はできる。なにせキャッツベルトの甲板で師匠……あいつが言っていた言葉だからな」

 自嘲の笑みを浮かべ、俺は吐き捨てた。思えば、あのときから奴はこうなることがわかっていたんだろうな。屋敷に剣を教えに来たのも……すべてはあの瞬間のため……。

 暗い感情を瞳に宿らせる俺から目を逸らし、大佐がイオンに顔を向ける。

「……イオン様、私達が来るまでの間にセフィロトでなにがあったのか、教えて下さい」、

 大佐の問い掛けに、イオンが俺の様子を気にしながら、ポツリポツリと口を開く。

「……まずヴァンは僕に扉の開錠を迫りました。そしてセフィロト内部で、パッセージリングになにかし終えると、ルークに柱の傍へ行くよう命じました。それにルークが抵抗するとヴァンは……後はみなさんも知っての通りです。僕が迂闊でした、ヴァンがこんなことを企んでいたなんて……僕があのときに安易に扉を開かなければ……」

「だが直接手を下したのは俺だっ!」

 顔を伏せ後悔の言葉をつぶやくイオンに、俺はそこだけは誤魔化せないと、気付けば叫んでいた。

「しかし、それもヴァンが……」
「あいつが俺に何かしたんだとしても……結局アクゼリュスを崩壊させたのは俺なんだよ。これだけは、誰がなんと言おうが覆せねぇんだ……」

 未だ俺の頭には、崩落する瞬間の光景が──超振動に殺される奴らの叫び声が焼きついてる。

「……俺が殺したんだ。俺のせいで……アクゼリュスは崩落した!」

 握りしめた拳から血を滴り落とし、俺は叫んだ。

「……大佐?」

 不意に動いた大佐が、甲板に背を向ける。

「……艦橋に戻ります。何が起きたか把握できた以上、もう尋ねることはありませんからね。ただ、一言わせて貰うなら……自虐も程々にしておきなさい。そう何度も自分が悪い悪いと繰り返されると、まるでその裏で自分は悪くないと言ってるように聞こえてしまうものです。
 それに……後悔に、区切りはありませんよ」

 そのまま甲板から立ち去るジェイドの背中を、俺はなにも言えぬまま見据えた。

「ルーク……私はまた、あなたの助けになれませんでした」

 ナタリアが俺の傍に歩み寄ると、俺の頬にそっと手を添える。

「こんな私が何を言うとあなたは思うかもしれません。けれど……信じています。あなたが再び立ち上がる日が来ることを……」

 泣きそうな顔を向けながら、俺の頬を一撫ですると、ナタリアもまた甲板から去った。

 何一つ反応できないまま立ち尽くす俺の前に、表情を強張らせたイオンが立つ。

「僕も……あなたと同じです。だから自分を責める気持ちはわかるつもりです。ですが……僕達がいつまでも立ち止まっているわけにはいきません。ヴァンがアクゼリュスの崩落のみを狙っていたとは、僕にはどうしても思えない。ルーク、僕はヴァンを止めてみせます」
「イオン様!」

 アニスはブリッジに戻っていくイオンの後を慌てて追おうとしたが、突然立ち止まり、俺を振り返る。

「あの……元気だしなよ。私、まだ状況とかよくわかってないけど……落ち込んでるだけじゃ、なにも解決しないのだけはわかってるから。だから、元気だしなよ。……じゃあね」

 いつもの取り繕ったものではない本音の言葉を残し、アニスは改めてイオンの後を追った。

「ルーク……ひどい顔だな」
「ガイ……」

 いつのまにか隣に立っていた親友の言葉に、俺は自らの両手を見下ろす。

「俺はまた、なにもできなかった。また……殺しちまったよ」
「……そうか」
「お前は……否定しないんだな」
「そんなことを言ってる相手に、今更俺がかけるような言葉はないからな。自分を許せないのはいいさ。いくらでも責めろ。ただ、これだけは覚えておいてくれ。お前がなにを仕出かそうと──俺はお前の親友だよ」

 擦れ違いざまに俺の肩を叩き、ガイもまた甲板を後にした。

 どいつもこいつも……情け容赦がないね。
 呆れるぐらいに、甘い言葉なんか口にせず、とっとと自分で立ち上がれとケツを蹴り上げる。
 後悔しているような暇も与えてくれない皆の言葉に──そこに込められた信頼に、俺は目頭を押さえ顔を上げる。

 最後に残ったティアが、俺の目の前に立っていた。

「私が……あなたを巻き込んだ。屋敷で襲撃をかけなければあなたは……あのまま屋敷で平穏に過ごせていたはず。だから、この事態は私の責任よ」
「いや……それは違うぜ。師匠が……あいつが俺の傍に近づいた時点で、こうなることはすべて、決まってたんだろうな。……ティアが責任感じる必要はないんだぜ?」
「いいえ。私がもっと兄に注意していれば、こうはならなかった。兄さんが世界を憎んでいることはわかっていたのに、私は自分の個人的な感情に……兄はもしかしたら憎しみを棄てられたのかもしれないという期待に、流されたのよ」

 強情に自分が悪いと続けるティアに、俺はすこし苛立たしさを感じながら、もう一度告げる。

「だが、アクゼリュスを崩落させたのは俺だ」
「……それでも、すべては私の責任よ」

 なんだか互いの顔を見据える視線がどんどん険悪なもんになっていく。高まる緊張感に耐えられなくなって、とうとう俺は頭をガシガシかき回しながら叫んだ。

「だぁーっ! もう、俺が悪いったら悪いんだよ! ティアが責任感じることなんざ何もねぇだろがっ!!」
「いいえ、私の責任だって何度でも言うわ! だからあなたが自分を責める必要なんて何も無いのよ! 責任を感じるなという言葉は、あなたにそっくりそのままお返しするわ!」

「お、俺はだな───」
「わ、私だって───」

 互いに頭に血を昇らせて言い合うこの状況に、俺は不意に既視感を覚え、突然口を噤む。

「……どうしたの? 急に黙り込んで?」
「ああー……なんつぅーか、前にタルタロスで言い争ったときみたいだって思ってな……」

 かつてタルタロスで争った、どっちがお人好しかなんていう──他愛もない言い合いが思い出された。

 ティアもあのときのことを思い出してか、ほんの僅かに表情を緩めた。

「へへっ……なんで、俺達はいつも気付くと怒鳴り合ってるんだろうな」
「……そうね」

 どこか哀しそうに微笑を浮かべるティアに、俺は笑みを返そうとした。しかし引きつった表情はどうしても俺の意志に従わない。目尻から今にも溢れ出ようとするものの存在が、俺に笑うことを許さない。

 途切れることなく押し寄せる衝動が押さえきれなくなって、俺はティアの肩に顔をうずめた。

「る、ルーク?」
「少しだけ……肩を貸してくれ。少しでいいんだ」

 一瞬戸惑ったように声を揺らしたが、彼女は俺を突き放さなかった。

「……っ……っっ……っぅっ──────っ」

 俺は彼女の肩に顔を隠し、押し殺した声で──嗚咽を洩らした。

 ミュウがそんな俺を心配そうに見据え、コライガは物哀しげに遠吠えを上げた。




             * * *




 障気の泥の上を進み、俺達は大瀑布が流れ落ちる魔界の都市に上陸した。

「ふぇ……! これがユリアシティ?」

 物珍しそうに周囲を伺いながら、アニスが先頭を歩きながら驚いたように声を上げる。

 どこか地上の街とは決定的に異なる様相だった。
 そこかしこに人工的な光がともされ、街を形作るものもすべて見たこともないような材質で出来ている。
 一番近いものを上げれば……セフィロト内部の様相が一番近いだろうな。

「ええ。奥に市長がいるわ。行きましょう」

 さっさと先に行く連中の中で、動かない俺に、一人気付いたティアが振り返る。

 彼女の顔を正面から見た瞬間、さっきの出来事が思い出される。
 唐突に沸き上がる気恥ずかしさに、俺は一瞬硬直しちまう。
 しかし、よかったのか悪かったのか、ティアはなんら気にした素振りも見せず冷静な声音で問いかけてくる。

「どうしたの? 行きましょう」
「……いやぁ、まあ、なんつぅーか。少し気分が落ち着いたら、気が重くなってね」

 なんとか言葉を返しながら、俺は足が止まっちまった理由を考えて、気分が落ち込むのを感じた。

 この街がセフィロトを管理していることは既に伝えられている。これから今後の判断を仰ぐ意味も兼ねて、街の市長に会うことになっているわけだが……パッセージリングをぶっ潰した張本人が顔を出すんだ。いったい何を言われるもんだか……気も重くなるってもんだろう?

 俺の尻込みした様子に、ティアがため息をついて口を開きかけ──俺の背後に視線を向ける。

「──とことん脳味噌が足らねぇようだな! 出来損ない!」

 振り返った先に居たのは、セフィロトで奴に連れ去られたはずのアッシュだった。

「お前、アッシュ!? どうしてお前がここに?」
「はっ! 笑いたければ笑え。無様にもヴァンの野郎に助け出された俺をな」

 自嘲的に吐き捨てられた言葉に、俺はあのときのあいつのアッシュに対する態度を思い出す。

 ……そう言えば、あいつはアッシュがあの場所に来たのに意外そうな顔してたっけな。

「おい、劣化野郎。この剣を握れ」
「──って、いきなりなんだよ!?」

 唐突に放り投げられた剣を危ういところで掴んで、掌に視線を落とす。

「これは……げっ、あの剣かよ」

 俺が超振動を放った瞬間、アクゼリュスに起こったあらゆる事象を俺の頭に流し込みやがった剣だった。あの後、あいつに持って行かれたはずだが、アッシュに返されていたのか。

 いったいこいつを俺に渡してどういうつもりか。睨む俺の視線を無視して、アッシュは口を開く。

「どうだ? なにか変わった感じはしないか? 声が聞こえたりとかはしないのか?」
「……いや、なんも無いぜ」

 あまりに真剣な面持ちで尋ねるアッシュに、俺も嘘偽り無く答えた。

「くそっ! そうかよ!」

 乱暴に俺の手から剣を取り返し、アッシュが目を閉じてなにかをつぶやくが、直ぐに舌打ちを洩らす。

「ちっ! やはり駄目だ! とうとう完全に沈黙しやがったってことか……っ! 唯一の切り札はこれで失われた……いや、こうなることがわかっていたから、奴も大して拘りもせず返したってことか……。くそっ! 俺がもっと早くヴァンの企みに気づいていれば……アクゼリュスもっ!」

 拳を握りしめ、なにやら吐き捨てていたアッシュが俺に顔を向ける。

「やはり貴様なんぞに鍵を預けるべきじゃなかったな! もっと頭使って、立ち回れなかったのか!? 俺の代替品のくせに、つくづく使えねぇ奴だっ!!」

 一方的な物言いに、さすがに気分が悪くなる。確かに俺がもっとしっかりしてれば……アクゼリュスがどうにかなったかもしれないことは認めるよ。それでも、代替品とまでこいつに言われるような筋合いはない。

 なにか言い返そうと口を開いた瞬間──その言葉は、吐き捨てられた。

「レプリカってのは能力だけじゃなくて、脳みそまで劣化してるのかっ?」

 俺の意識が、凍りつく。

「レプリカ……だって?」

 思えば、俺が超振動を放った瞬間、あいつも俺にそう呼び掛けていなかったか?

「哀れなレプリカ……あいつもセフィロトで、俺をそう、呼んで……っ! ……まさ、か……っ」

 あえて考えないようにしていた事柄が、アッシュの一言で、次々と関連づけられて行く。

「なんだ……お前、まだ気づいてなかったのか?」

 心底意外そうに、目の前の男は──俺になにからなにまで酷似した男が、目を見開く。

「はっ、こいつはお笑い種だな! なら俺の口から直接教えてやるよ、『ルーク』」

「アッシュ! やめて!」

 俺達の会話を黙って聞いていたティアが、そこで始めて口を挟む。悲痛な叫び声を上げ、その先を続けるのを制止しようとする。しかしすべてを無視して、アッシュはどこか陰惨な喜びを感じさせる笑みを浮かべると、その先を続ける。

「俺とお前、どうして同じ顔してると思う?」

「……う……うそ……だっ……」

「俺はバチカル生まれの貴族なんだ……七年前に、ヴァンて悪党に誘拐されたんだよ」

「……そんな……ことがっ………」

「いい加減、認めろよっ! お前は俺の劣化複写人間、ただの──レプリカなんだよっ!」

 頭が痛む。俺の望む望まざるとに関わらず、脳裏に、デオ峠でなされた一連の会話が蘇る。

 ───でき損ない風情が口をはさむな

 ───知らなければいいことも……世の中にはあるのです。

 ───今は、私も冷静に話せる自信がありません。

 劣化野郎。でき損ない。禁忌の技術。フォミクリー。代替品。紛い物の──哀れなレプリカ。

「……嘘だ……っ! 嘘だ嘘だ嘘だっ!」

 暴かれた世界の真実に──俺は癇癪を起こした子供のように、ただひたすら頭を振り回して、否定の言葉を放つ。認められるはずがない。そんなことが、認められるはずがなかった。

 だから、俺は目の前に立つ存在を否定すべく、剣を抜き放つ。

「……やるのか? レプリカ」
「嘘を、つくんじゃねぇよっ!!」

 構えも踏み込みもなにもかも無視したただひたすらに力押しの一撃を叩き込む。それを苦もなく受け止めたアッシュが、憎悪に燃え上がる瞳で俺を睨み据える。

「はっ、何度でも言ってやる! お前は俺の劣化複写人間、ただのレプリカなんだよ!」
「レプリカと呼ぶんじゃねぇっ!!」

 右腕を振りかぶる。容赦など一切ない。渾身の力を込め、殺意を解き放つ。

「──烈破掌っ!」
「──烈破掌っ!」

 ぶつかり合う技が、互いの身体を後方にふき飛ばす。空中を一回転して衝撃を殺し、俺達は体勢を整えるや否や、再度向き直って突進する。

「……レプリカがっ!」
「俺は……! お前なんかじゃねぇっ!」

 一足飛びに間合いを詰め、俺は剣を振り上げる。相手の渾身の振り降ろしとぶつかり合い、互いの刀身が火花を散らす。

「ぐ…っ!」
「認めたくねぇのは! こっちも同じだッ!」

 アッシュが吐き捨てると同時に、更に強まった力に俺の剣が弾かれる。

「邪魔なんだよ! レプリカがっ!」
「うるせぇっっっ!」

 剣戟が飛び交う。

 かつて廃工場前で交わした円舞が嘘のように、激昂した俺達は技も構えも取らず、ただ獣のようなぶつかり合いを演じる。

 どこまでも粗雑な、力押し一辺倒の攻撃は、ひたすら俺達の体力を削り取っていく。


 全力で交わされたどこまでも泥臭いぶつかり合いの果てに──俺は辛うじて勝利した。


「ぐっ……この俺が……」

 剣を地面に突きたて、体力を使い切ったアッシュが肩で息をしながら吐き捨てる。

「こんな能無しレプリカに、俺が……! はっ、これじゃあ俺の家族も居場所も全部奪われちまうわけだ……。自分が情けねぇ……っ!」

 吐き捨てるアッシュを見据えながら、俺は戦闘の狂気を引きずったまま錯乱したように喚き散らす。

「認めるかっ! 認められるかよっ! 俺は……っ! 俺が……っ! こいつの……──ぐっ!!」

 頭に激痛が走る。

 いつもの電波が飛んで来るときのような感覚が、俺の頭の中をかき回す。しかし、いつもの電波と決定的に異なる点があった。

 頭の中から伸びる、一本の線が見える。

 激痛に耐えながら線の先を辿ると、それは目の前に膝をつく男──アッシュに繋がっていた。

「くっ……これは……」

 脳裏に閃光が走る。

 なにかが、線を伝って自分の中に流れ込んで来るのがわかる。

 これは、記憶だ。

 十歳以前の──ルーク・フォン・ファブレの記憶。
 
「ぐっ……俺は……レプリカなんかじゃねぇ………俺は……俺は……」

 光の合間に浮び上がる過去の光景。


 俺が失ったと聞かされた、生まれた時から途切れることなく続くルーク・フォン・ファブレの──今や『アッシュ』と名乗る男の記憶が、そこにあった。


「俺は……俺は……」


 本当に──俺の記憶は失われたのか?

 そんなもの──最初から存在しなかったんじゃないか?

 欠けるはずの無いものが抜け落ちている俺という存在は、ならば───


「俺はいったい、誰なんだ?」


 その言葉を最後に、■■■■の意識はブツリと途切れた。



  1. 2005/09/22(木) 18:17:20|
  2. 【家族ジャングル】  第三章
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