全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第一話 「とある午後の昼下がり」


 アルビオンにおける内乱終結から、ハルケギニア全土を巻き込むことになる戦乱の序曲に至るまで、いまだ一年もの空白期間が存在する。


 仮初の平穏が続いた、この一年を振り返ることで、はたしてウェールズの存在はハルケギニアにいかなる変化をもたらして行ったのか―――


 まずはその影響を、じっくりと見定めていくことにしよう。



               * * *



 アルビオン内乱鎮圧より、半年後。
 国を真っ二つに割るような騒乱の記憶も、既に民衆達の中から薄れて久しい。
 蜂起に参加した大貴族たちの領地も大半が王領に編入されることになったが、これまで以上に人々の顔は輝いている。 

 次々と実施される新たな政策。皇太子主導で進む港の建設と、航路設定により地方へ流れ込む活気。
 勢いのまるで衰えることのないアルビオンの発展を受け、誰もがその立役者として一人の皇太子の名を口にする。


 さすがはアルビオンが誇る次代の名君───プリンス・オブ・ウェールズと。


 そんな恥ずかしい事態になってるとは露知らず、今日も今日とてアルビオン王宮の執務室から、ウェールズの上げる呻き声が木霊する。


「あーうーあー……マジでどう対応したもんかねぇ」
「先程から難しい顔で、いったい何を唸っておるのでしょうか、殿下?」
「ん、パリーか。いや、ちょっとな」

 数度のノックの後、開け放たれた扉から顔を覗かせる侍従長パリーの姿があった。
 手にした書類から目を離さぬまま、ウェールズは上の空といった様子で侍従長を室内に迎える。

 パリーはそんなウェールズの根をつめた様子を前にして、自然と眉根が寄ってしまうのを自覚した。
 皇太子の仕事に掛ける強い熱意はいつものことだ。将来即位した際のことを考えれば、非常に頼もしいと言えるだろう。
 それでも、この皇太子が幼き頃より側仕えしてきた『じい』としては、ウェールズの体調を心配せずにはいられなかった。

 しかし、このまま休息を取るよう勧めたところで、素直に聞く御方でもない。結局、パリーは相手の気を紛らわせるべく当たり障りのない話題を振る。

「最近はあちこちで交易の拡大を図ろうとしていると耳にしておりましたが、やはり殿下でも難しい部分が?」
「……うん。やっぱりなかなかね。でもそろそろまた一つ、ようやく話がまとまりそうなところがあってさ。その報告が来て、対応に迷ってるというわけだよ」

 ヒラヒラと振って見せた後で、ウェールズは件の書類をパリーに向けてひょいと手渡す。
 受け取ったパリーは興味深そうに書類を眺めるも、記された内容を理解するや、仰天して叫ぶ。

「なんと!? 殿下を交渉の場に呼び立てておるのですか!?」
「ま、そういうことになるね」

 詳しい経緯はわからなかったが、書類の中で、ウェールズ自身が交易に関する交渉締結の立ち会い人になることが求められている。それだけは理解できた。

「何という不遜な……アルビオン国内ならいざ知らず、商いに関する事柄で殿下を国外に呼び立てるなど、笑止千万!」

 到底許せることではありませんぞ! パリーは顔を真っ赤にして怒鳴った。
 そのあまりの剣幕に、思わずウェールズも姿勢を正して相手の言葉に聞き入る。

(……一瞬マジでビビッたわ。しかし、パリーのじいさんもこんな風に怒ることがあるんだな)

 慣れ親しんだ顔を正面に捉える。普段の好々爺然とした姿が印象的だったウェールズにとって、パリーの憤りようはかなり意外なものがあった。

 もっとも、そもそも問題にする場所が違うんだけどなぁと、ウェールズは内心で唸りを上げる。
 しばらくの間パリーの言うに任せた後で、ウェールズは相手の息継ぎの瞬間を狙って言葉を滑り込ませる。

「いや、それでも別にこっちが足を運ぶこと自体はさして問題視してないんだけどね」
「で、殿下ぁーーーっ!?」

 涙目の混じったパリーの悲痛な呼びかけが執務室に響き渡った。

「な、なんだよパリー?」
「何度も申し上げておることですが、もう少し慎重な行動を心がけて下され! 殿下は少しばかり御身を軽んじ過ぎますぞ!!」
「あー……まあ、気が向いたらそのうちな」

 ウェールズは顔を逸らして、あっさりと否定を返す。

「で、殿下ぁーーーぁ!!」
「あーあー私はもう何も聞こえないったら聞こえない」

 おいおいと悲嘆にくれるパリーの陳情を耳を塞いで聞き流す。

「ともかく、だ!」

 話を戻すぞ、とウェールズは指先で机を数度軽く叩く。

「今回の話がまとまれば、おそらくこれまで以上に金が外に出て行くことになるはずだ。そう思うとな」

 どうにも憂鬱になる訳だよ。ウェールズは溜め息混じりに愚痴を漏らした。

 現在、ウェールズが保有する資産はかなりのものがあった。大半は航空事業の運営過程で得たものだったが、その他いまだ事業と呼べないような細々した分野に対する投資先まで含め、少なくない数の収入源を確保している。

 しかし、今回の交易事業は国外が絡むため、投機的と言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけ成功するかどうかもいまだ怪しい部類の話である。その上、商会から投資を募ろうにも、まずはウェールズ自身が率先して出資することで、交易に掛ける意気込みを周囲に示す必要があった。

「……まあ、これ以上は考えても仕方ない。とりあえず、明日にはここを発つから」
「明日ですか!?」
「思い立ったら即行動、それが私の行動指針ってな。とりあえず後のことはよろしく頼むぞ、パリー」
「うぐっ……ず、随分と急な話の流れですな」
「あー……パリーにはすまないと思うよ。でもなぁ、他に頼める人材もいなくてなぁ」

 侍従長として長い間宮廷に仕えてきたパリーは、アルビオンの内政方面にかなり明るい人材だった。
 高齢であることを差し引いても、まだまだ十分現役で通用するレベルにあると言える。

 これまで内乱発生に備えるべく、ウェールズは有為な人材の発掘に取り組んできた。
 そうした者達の筆頭としては、情報分野のバーノン、軍事方面のボーウッドの二人が居る。
 彼らは専門分野についてなら、ウェールズに代わり独自に判断を下すことすらできる人材と言えるだろう。

 しかし、ウェールズは内乱勃発による死亡フラグを恐れるあまり、こと文官方面の人材発掘については、さして優先順位を高く設定していなかった。そのため、いまだ内政方面に関しては、自身の代わりを任せられる程の人材を見出せずにいた。

 アルビオンを留守にする場合も、自分に代わり独自の判断も下せるような人材としては、パリーを頼る以外にないのが現状だった。

「はぁ……もう何を申し上げてもお考えは変わりませぬのでしょう? わかりました。わかりましたぞ」
「おぉさすがはパリーのじいさん! マジで助かるよ」
「ただし! ワシは決して殿下の軽挙を認めた訳ではありませぬからな!!」
「ははは! わかってるわかってるって」

 いまだ説教を続け足りなそうなパリーの渋面からふと視線を外す。執務室の扉脇に置かれた台車が目に入った。

「ん? ああ、そっか。こっち来たのも、お茶の用意とかしてきてくれてたのか」

 ならちょうどいいや。ウェールズは机の書類を一時的に脇に片付ける。

「政務も一段落ついたことだしな。美味しい紅茶をよろしく頼むぞ、パリー」
「はぁ……どうもいろいろと誤魔化されたような気がしてなりませぬが、わかりましたぞ」

 パリーが紅茶の準備するのを眺めながら、ウェールズはしばしのティータイムと洒落込む。

「ふぅ……ま、なんだかんだ言って平和なもんだよな」

 紅茶を口元に運びながら、ウェールズはのほほんとした口調でつぶやいた。

 その瞬間、ウェールズの手にしたカップにビシリと無数の亀裂が走る。
 ついでテラスから覗く青空に一瞬で黒雲が立ち込め、遠く雷鳴が轟いた。
 樹から一斉に飛び立つ鳥たちが、ギャアギャアとけたたましい鳴き声を上げる。

「…………ふ、不吉ですな」
「ん、なんか言ったか?」
「い、いえ、なんでもありませぬぞ」

 まるで気付いた様子のないウェールズに、パリーは無用な心配を与えたくない一心で、ひたすら動揺の押し殺した声を上げるのだった。


  1. 2007/07/19(木) 00:50:00|
  2. ジャンク作品
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:11

コメント

更新きたー!

待ってましたよ!続きもすぐ来ると信じてます!
  1. 2008/09/23(火) 20:17:39 |
  2. URL |
  3.  あき #8S63PFWQ
  4. [ 編集]

きたあああああああああああああああああ
  1. 2008/09/23(火) 20:19:02 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

更新お疲れ様です
さて、第3部が始まっていきなりの展開ですがウェールズを呼んだのが何処なのか次回が楽しみです。
  1. 2008/09/23(火) 20:35:54 |
  2. URL |
  3. NYcat #cxYzK9gg
  4. [ 編集]

待ってましたぁぁあ!?
さぁ、貿易する国はどこでしょうか?
自分としては、外伝で少し出てきたみそ大好きっ子なエルフを期待してます!?
  1. 2008/09/23(火) 21:03:25 |
  2. URL |
  3. とりねこ #GMs.CvUw
  4. [ 編集]

まってましたー!
  1. 2008/09/23(火) 22:58:09 |
  2. URL |
  3. #xcBl4GRk
  4. [ 編集]

更新キターーー!!!
交易拡大!交易拡大!みそが大活躍するのに超絶期待
  1. 2008/09/24(水) 00:52:50 |
  2. URL |
  3. #HuBhO90w
  4. [ 編集]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2008/09/24(水) 02:55:54 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

更新お待ちしていました!
ウェールズの活躍をwktkしながら見守りますよ!
  1. 2008/09/24(水) 03:25:40 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

きたぁぁぁ!!
いきなり不幸フラグ。
…多分ジョゼフかミョズニトニルンが直接ウェールズを見る為に画策したんでねぇの?
もしくは…暗殺?
  1. 2008/09/24(水) 17:12:11 |
  2. URL |
  3. 百人目 #Zd1t387I
  4. [ 編集]

アルビオンでのプリンス・オブ・ウェールズってのはウェールズの名前がウェールズだからですか?
それともイングランドみたいに王子は皆そうよばれているのでしょうか
アルビオンのウェールズの名前も王子の称号で王になると名前が変わったりするのかなとか考えてしまいました
  1. 2008/09/26(金) 23:24:08 |
  2. URL |
  3. #tHX44QXM
  4. [ 編集]

 文官の育成が急務になってきましたね~。
オックスフォードやケンブリッジは12,13世紀に作られましたから、官吏育成の為に大学を作ってもいいかも知れませんね。更にその大学の入学が平民もOKとなると、野心的な若者が目指し、国の活発化に一段と拍車がかかるのではないでしょうか。
 文官の育成は、近代国家には欠かすことの出来ないものですから、どのようにクリアするか楽しみに待ってます。
  1. 2008/10/08(水) 02:56:40 |
  2. URL |
  3. 三択 #-
  4. [ 編集]

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