全手動軽文量産機

──A.L.M──

書庫へ戻る |  日記過去ログ |  アビス総合目次 |  ジャンク作品目次 |  お勧め一次創作 |  お勧め二次創作 |  掲示板 |  注意書き |

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

第二話「とある神官の独り言」


 浮游大陸アルビオンと大陸の窓口に当たるトリステイン。
 両国の間を繋ぐ貿易港として、両脇を峡谷に挟まれた人口三百程の小さな街──ラ・ローシェルはあった。
 小さいとは言っても、二つの国を行き交う人々によって、この街は常に人口の十倍以上の人間で満ちている。
 そんなラ・ローシェルに、古くから店を構える一軒の酒場「金の酒樽亭」で、こんな会話が交わされた。


「お客さん、こんな昼間に酒場なんか来ていいんですか?」
「仕方ないさ。アルビオンで神官は肩身が狭くなってるからね」

 酒場のカウンターに腰掛ける一人の客が、軽く肩を竦めて見せた。
 外套の下から僅かに覗く法衣を目にして、ああと店主も直ぐに納得顔になる。

「どうにも僕らみたいなのは、あの国で活動し難い空気になってるみたいだよ」

 左右で色が異なる珍しいオッドアイ──月目の青年は、周囲の目を引く金髪を掻き上げながら苦笑を浮かべた。

 内乱の首謀者が大司教の地位にあったことで、アルビオン国内で神官に対する不信感が強まっていた。
 嫌がらせや排斥などといった手段にこそでないもの、露骨に侮蔑を含んだ視線が向けられる。

 当然、アルビオンに存在する各寺院も内乱終結までの経緯は聞き及んでいる。そのため、反論しようにも罰のわるさが先に立ち、これといって強気な行動に踏み切ることもできず、ひたすら肩身の狭い想いを味わっていた。

「なるほど。それでお客さんも息抜きにラ・ローシェルまで出てきたって訳ですかい?」
「いや、実を言うと僕はアルビオンの坊主じゃないんだけどね」
「……さいですか、お客さん」

 いったい何の話の前振りだったのか。肩すかしを喰らった店主はグラスを磨きながら半眼で応じる。
 そんな相手の視線を気にすることなく、青年は気安げな調子のまま店主に話しかける。

「ところで、これはなんて料理だい? 随分と斬新な味だけどさ」
「知らねぇんですかい?」

 ああ、でも別におかしくないのかな。店主はグラスを磨く手を一時止めると、質問に答える。

「こいつはあっしの創作料理でさぁ。斬新に感じたのは、アルビオンで最近出回り始めた調味料使ってるせいでしょうね」
「へぇ……アルビオンで、ね」

 産地を耳にした瞬間、青年の眼が僅かに細まる。一瞬だけ覗いた酷薄な表情がひどく印象的だった。
 だが、それも一瞬のこと。青年はすぐに柔和な人好きのする笑みを取り戻す。

「最近色々な方面で、彼の国に関連したものと遭遇することが多くなってきたなぁ。気にはなっていたんだけど、近頃のアルビオンはたいそう発展してるそうだね?」
「まぁそうですね。船乗り達もみんなアルビオンは景気がいいと騒いでますよ」
「なるほど、商人たちだけじゃなくてかい?」
「へぇ、それにいろんな連中見てると、共通した特徴があるのもわかりますさぁ」
「共通した特徴?」
「どっちかってぇとこれまで威張ってた連中よりも、下請けやってた連中の方が待遇がえらい変わったって喜んでますね」
「ふーん。やっぱり、それも彼の皇太子の御威光かな?」

 冗談めかした口調でありながら、そこには何かを真剣に検討するような色が伺えた。
 こらあんまり突っ込んだことは聞かない方が良さそうだ。店主は相手の様子に気付かぬふりをしたまま、素知らぬ顔で続ける。

「あっしも詳しいことはわかりませんがね。まあ、アルビオンの皇太子殿下はたいそう切れるお人のようですから。いろいろと難しい施策を次々と実行しては成功させてるってぇよく聞く噂ぐらいなら耳にしたことがありますよ」
「……なるほど。やはり評判はいいようだね」

 アルビオン、ガリア、トリステイン、ロマリア、ゲルマニア。
 始祖の威光が普く広がるハルケギニアの国々において、最近見え始めた変化の兆し。
 はたして、いったいこの先何が起こるのか。誰もが時代の流れを感じながら、不安に口を閉ざす。
 揺れ動く時代の潮流。すべての切っ掛けは、はたして何処から起きたのか。

「……切っ掛けはガリア、かな」
「へ? 何か言いましたかい?」

 思わず店主が尋ねるも、客は直ぐに曖昧な笑みを浮かべ、かぶりを振った。

「いや、何でもないよ」
「はぁ、さいですか」
「ごちそうさま。美味しかったよ。店主、これは勘定だ」

 そのまま席を立ち、客はカウンターに指で弾いた貨幣を投じる。
 いちいちやることがキザったらしいなぁと思うが、そうした一つ一つの仕種が様になってるから色男ってのは特なもんだ。

 変な方向で感心しながら、店主は手にした貨幣を改めて視界に収め、ぎょっとする。

「って、金貨!? さ、さすがにこんな大層なもんは貰えねぇですよ、お客さん!?」
「ああ、これは話を聞かせて貰った分のお礼だよ」

 取っておいてくれ。そう気前良く言い残すと、そのまま青年は酒場を去った。

「はぁ……随分と金払いのいい人もいたもんだなぁ」

 店主は感心と飽きれの混じった顔で、金貨をかじる。この感触、やはり本物だ。

「しかし、いったい何しにきたんだろうな?」

 月目の金髪を思い出す。最初に出された料理を少し口にするや、突然、よく意味の取れない話を振り始めた気前のいい客。一杯も口にされなかったグラスを片付け、店主は一人首を傾げた。



              * * *



 船乗りたちの行き交う雑踏を歩きながら、酒場を後にした月目の青年は空に浮かぶ船を見上げる。
 ラ・ローシェルの港はトリステインにおけるアルビオンの貿易拠点として、以前から活気に満ちた土地だった。
 しかし、数日滞在した程度だが、港を行き交う船の数、双方に運び込まれる物資の量が、これまで以上に増大していることがわかる。

「アルビオンも随分と手広くやるものだね」

 素直な感心を顔に浮かべながら、青年は港で見聞きしたことを思い返す。

 大抵の場合、荷運びの仕事などというのはかなりキツイものがあり、船員となる者も長くは続かない。
 雇う方もそうした事情は承知しており、たいていは日雇いで済ませるか、最低限の賃金で短期的な雇用を行い、少しでもボロを出せば即刻解雇する。

 当然、そんな劣悪な環境下にあっては、集まる人材もろくな者がいない。

 しかし、アルビオンの商会が運用する船に限れば、その事情も大きく変わりつつあった。

 アルビオンの商会が提示する雇用条件は、他に類を見ないほどしっかりと作り込まれている。
 雇用条件の厳格さから戸惑いを覚える者もいるが、それを補って余りある魅力的な待遇をもって船員達を迎えていた。

 今やアルビオンの船に雇われることは、船員たちにとって自らの能力を一流と認められたと他の船員達に誇れるような、一種のステータスとさえなりつつあった。

「交易量が増加すれば、必然的に船員達を雇用する機会も多くなる。あれも船員達に対するアピールってやつなのかな?」

 そうして意図的に作られたアルビオン船籍に対する印象だけで、ああも生き生きと船員達が働くなるようになる。本当に面白いことを考えたものだ。

 それに、アルビオンの船には必ずメイジが一人は乗り合わせ、頻繁に入れ替わるとも聞く。いったい何を目的とした人材なのか、ひどく興味深い話だ。

 しかし、いま最も手にしたい情報は、そうした取るに足らない瑣末事ではない。

「……いったい、始祖の血脈は何処にある?」

 我が祖国ロマリアに関しては、今更言うまでもないことだ。
 ガリアに関しては既に確定。トリステインに関しても、おおまかな目星はついている。
 残るはアルビオン一国のみとなる訳だが、困ったことに内乱勃発を前後して、彼の国の防諜体制はロマリアからしても、なかなかどうして侮れないまでの域に達している。

 詳細な現状をやり取りすべく、アルビオン担当の連絡員を尋ね、ラ・ローシェルにまで足を運んだ青年だったが、やはり大した情報は入手できなかった。

 確かなのは、王家の血筋が入った大公に仕える、サウス・ゴータ家に頻繁な出入りを繰り返す皇太子の存在。
 一際厳しい、アルビオン南部地方の防諜体制。世継ぎのいないことで知られるモード大公家。

「やはり確証を得るのは難しい、か」

 だが、それも仕方ないことだろう。ある程度の線で割り切るしかない。青年はこうした割り切りが異様なまでに得意だった。

 そう、いずれかの国に存在することさえわかっていれば、今はそれでいい。

 この時点でまずもって押さえておくべき対象は、やはり大国ガリアに存在する虚無の動向だろう。
 彼のガリアの狂王が、はたして今後どう大陸に干渉するつもりなのか、これに尽きる。

 明らかにアルビオンの諜報機関を意識して、水面下で活発な活動を見せ始めたガリアの工作機関。
 王の手足となり動く北方花壇騎士団達の不可解な動き。
 密かに、トリステインに流入を始めた大量の物資と、煽動され行く無数の傭兵達の存在。

「次に何か起こるとしたら、トリステインかな?」

 僅かに目を細め、活気に満ちたトリステインとアルビオンを繋ぐ貿易港、ラ・ローシェルを行き交う人々を見やる。

 まあ、いずれにしてしても、ロマリアがやることに変わりはない。
 機を見て立ち回り、あの畏るべきエルフどもの手にある聖地奪還に向けた流れを作り出すのみ。

「約束のときは、意外にすぐそこまで近づいているのかもしれませんね、猊下」

 聖戦発動の種火は、確実に燃え上がりつつある。

 ロマリア宗教庁の密偵──ジュリオ・チェザーレは近づきつつある戦乱の予感に、うっすらと酷薄な笑みを浮かべた。


  1. 2007/07/19(木) 00:40:00|
  2. ジャンク作品
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:10

コメント

更新待っていました!
今回はロマリア側から見てのアルビオンですか。
物語がどんどん加速していきますね。
それにしてもウェールズは相変わらず評価が高いですね。
ええ、半分が勘違いってのはやっぱり見ていてニヤニヤします。
知識と言う面で見れば能力は十分にあるんでしょうけどね。
次回更新も楽しみにしています。
  1. 2008/10/07(火) 22:51:27 |
  2. URL |
  3. Alto #/9hBKkrU
  4. [ 編集]

更新乙です!


一段落したかと思えば、まただんだん雲行きが怪しくなってきたような・・・
ウェールズ!茶ぁすすってる場合じゃねぇぞ!
  1. 2008/10/07(火) 22:54:36 |
  2. URL |
  3. モロ #-
  4. [ 編集]

ああ、おまちしておりました。
しかし、皆様方はやいですね~
それだけ待ちわびている人が多いのでしょうね。
次回も楽しみにしています
  1. 2008/10/07(火) 23:14:30 |
  2. URL |
  3. ちとせ #kkU9ek06
  4. [ 編集]

kita!

更新オツです!
  1. 2008/10/07(火) 23:44:07 |
  2. URL |
  3.  あき #KlPdLNBE
  4. [ 編集]

そういえば

史実の歴史になぞらえるとすると、
アルビオンはロマリアと手を切って、アルビオン国教会でも作るんですかね?
お互いを破門しあって。
そうしたら、ロマリアの諜報員である神官も、追放できますけど。
ついでに、これからロマリアに始祖がらみで内政干渉受けることもなくなりますし。
ウェールズは自分で皇帝の冠を戴くみたいな。。
  1. 2008/10/07(火) 23:48:49 |
  2. URL |
  3.  あき #h0D/NfaY
  4. [ 編集]

お待ちしてました!

ジュリオがここで登場しますか。警戒レベルが低いとはいえアルビオンの諜報網はロマリアが
つかんでいるトリステインへの不安定化工作の兆候を見逃してしまっているようで、まだまだ
007の国のような諜報機関への道は通そうですね。

しかしラ・ローシェルの斬新な味の料理とは・・・やはり味噌味でしょうかw
酒のツマミとして出してるならワインなどの洋酒と味噌などの発酵食品は
相性が悪いとも言いますし、やはりここは新たな酒として日本酒の開発も!w
  1. 2008/10/08(水) 00:00:24 |
  2. URL |
  3. 最上 #mQop/nM.
  4. [ 編集]

外洋に乗り出すならリスクの分散と資金調達を考えるとそろそろ株式の発行に乗り出す時期かな?
  1. 2008/10/08(水) 01:46:57 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

更新乙!!

ゼロ魔で最も危険な連中、ロマリアが動き出したようですね。
聖戦を起こそうと望む頭の切れる狂信者たちの国が。
これはますますウェールズに死亡フラグが・・・。
内乱を無地に収めたことで、ティファの情報が漏れることは阻止できましたね。
でも彼女の身柄の安全を守るには、こちらの世界の歴史に習いアルビオン王立国教会の設立とエルフ領との国交締結が重要になりそうかな?
いずれにしても浮遊大陸という両用艦隊さえ持っていれば国土全体が要塞であるアルビオンという立地を生かして立ち回らないといけないだろうな~。
  1. 2008/10/09(木) 21:56:54 |
  2. URL |
  3. #SFo5/nok
  4. [ 編集]

更新お疲れ様

しかし酒場の親父程度に不信感を抱かれるロマリアの密偵
まあ、ロマリアらいしいといえばらしい。

なんかロマリアの密偵って、ばれててもロマリアの密偵だし
目をつけられて問題になるのも嫌だし
適度に軽い情報を流しとけいいやと各国に思われてそう。

そこでアルビオンの誇る情報機関がロマリアの情報機関を手玉に取ることを
期待している私がいる。
  1. 2008/10/10(金) 23:50:11 |
  2. URL |
  3. #EBUSheBA
  4. [ 編集]

ここまでヨルムガントに対抗できる戦力なし
  1. 2008/10/26(日) 17:37:55 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可(誤字・脱字等の報告を下さる場合は、チェックして頂けると幸いです)

トラックバック

トラックバックURL
http://suimin5088.blog58.fc2.com/tb.php/287-a5e8fbe8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
書庫へ戻る |  日記過去ログ |  ジャンク作品目次 |  アビス一覧目次 |  お勧め一次創作 |  お勧め二次創作 |  掲示板 |

FC2Ad


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。