全手動軽文量産機

──A.L.M──

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【────まで、あと■分】



「世界はそこにあるか?」

 学園都市に続く無人の路地を、底抜けに陽気な声が響く。

「こいつはとんでもなくアレな問題だよな」
「うーん。本質的な問題、のことかな?」
「うん、それそれ。そして世界とは認識することによって構成される」

 オカルト的な側面から世界を認識した空理架学。物理的な側面から世界を分析した現代科学。
 共通の観測器具の下でさえ、見るものによって世界はその姿を如何様にでも変化させる。
 対極に位置する二つの概念に基づいた《観測器具》の発達によって、世界の認識はより一層複雑化した。

「だが逆説的に言えば、認識する者がいなければ世界は存在しないのと……まあ、アレな訳だ」
「同義、だね」
「そうそう。更に世界が認識によって構成される以上、世界は認識によってたやすく侵される。つまり、見る者の認識次第でどんな姿にでも変貌し得るってことだな」

 複雑化した世界認識は、かつて切り捨てられた旧世界概念の復活を招いた。
 既存の認識された法則とは異なる位相より具象化し、強固に築き上げられた世界の共通認識を侵すもの──異相具象体と呼ばれる化け物達の誕生だ。

 この変化を受けて、世界は観測する者たちの認識によって、如何様にでもその姿を変え得ることが実証された。

 だが、あまりにたやすく、その有り様を変化させる世界に対して、世界の観測者たる人間たちもまた、一つの疑念を抱く。

「あまりに不安定な世界の有り様に対して、疑念を抱いた者たちが、まずもって最初に疑いを抱いた対象もまた、まあ疑念を抱いて当然といえば当然な対象であり、まさしくアレな問題だった訳だ」
「切実な問題、だね」
「そういうことだな。つまり、今、自分達が生きる世界そのものに対する疑念」


 我々が存在すると考えているこの世界は、はたして、本当に存在するのか?


 決して否定を返されることなど認められない。世界そのものに対する疑念。


 疑いをもった者たちは、誰もが胸の内に巣くう漠然とした不安をかき消すべく、ひたすら執拗な研究に取りかかった。

「だが、皮肉なもんだ。研究が進むにつれて『この世界は本当に存在すのか?』という疑念を抱くもの達もまた徐々に、だが確実にその数を増して行った」

 最終的に疑念を抱く者たちの数が一定量を超えたとき『本当は世界は存在しないのではないか?』という疑念が、新たな世界の共通認識の一つとなる。

「そうした認識の変質から生まれた、歪みの究極形と言われるものが……あー、つまりはアレな訳だ」

「──魔王」

「そう、魔王。さらに厄介なことに、世界そのものに対する疑念から生じた新たな世界の共通認識は、人間の抱くネガティブな認識部分を一身に背負えるだけの器量があった」


 世界はいつか滅びるのではないか? 世界はすでに滅びているのではないか?


 世界は世界は世界は世界は世界は世界は──────………………


「つまり、魔王の力の根源が何かと言えば、そいつもまた俺たち人間が抱く認識の一つ。人間が根源的に抱く一つの感情に則してる訳だ」
「うーん……その辺りはまだよくわからないんだけど、結局その感情って何だったのかな?」

「いまだ確たるものとして証明されない事象に対する──純然たる恐怖の感情、ってやつだろうな」

 眼前に広がる、仮初めの認識から構成された虚構の世界。
 展開された仮想世界の核となった人間の意識。その人物が抱く恐怖の感情から、魔王は降臨する。
 だが恐怖にも、それを抱かせるに到った過程というものが千差万別に存在する。

「いったい、この世界の核識は、なにを畏れているんだろうな?」
「……………」

 荘厳な重厚さを伴った鐘の音が、無人の路地に鳴り響く。
 天高くそびえ立つ時計塔が奏でる調べは、神意の天啓を告げるが如く、地上を這い回る者たちの耳に無慈悲な旋律を一方的に届ける。

 そこは世界の歪みの中心点。降臨陣の展開された魔王の玉座。君臨せしは負の認識より顕現せし虚構の王。

「行くか」
「うん」

 もはや交わす言葉もなく、二人は塔の頂に向けて、その足を踏み出した。







               【────まで、あと■分】








 時計塔から一人、高町晴香はダラリと手摺りに寄り掛かり、夕陽に彩られた地上を見下ろす。
 まるで血の色のように、深い朱に染め上げられた街並みを、何を思うでもなく、ただ眺める。

「……私、何してるんだろ」

 高町晴香にとって、世界は優しいものだった。
 惜しみない愛情を注いでくれる両親。さりげない優しさで、自分を支えてくれる先輩。
 ちょっとした疑問にも真剣に向き合ってくれる親友。どこまでも優しい、変化のない日常。


 それでも、この世界は、自分にとって何かが歪んでいた。


「はぁ……」

 だからといって、こんな風に一人黄昏れた所で、劇的に何かが変わるわけでもない。
 よく理解できないまま気分が沈むのは、高町晴香にとっていつものことだった。
 そろそろ帰ろう。そう思って手摺りから身を離す。


 ギィッ。聞こえたのは、さび付いた扉が開かれる音。僅かに遅れて、肉声が届く。

「ん、先客か」
「あらら、どうしようヨルさん」
「いや、俺にどうしようって言われてもな」

 開け放たれた扉の向こうから届く声。振り向くと、時計台の内部から続く通路に、二人の男女が立っていた。一人は栗色の髪を結った自分と同じぐらいの年頃の少女。もう一人は季節にそぐわない漆黒の外套を着込んだ男。

「あはは。こういうときのヨルさんってまるで頼りにならないよね」
「ははは。間違っちゃいないが、そうストレートに返されるとムカツクわっ!」
「いたたたたっ! やーめーてー! コメカミを鷲掴みでぐりぐり力込めるのはいーやー!」

 いきなり目の前で展開された漫才もどきに、高町は面食らう。
 どう反応したものかと逡巡。とりあえず何か声を掛けようと、改めて男の顔を視界に捉えると同時、息をのむ。

「あなた……さっきの」
「ん? って、また会ったな」

 男は時計塔に向かう途中、自分に対して不可解な言葉を投げかけ、そのまま姿を消した人物だった。

 よっと気軽な様子で片手を上げてくる男に、高町は警戒心もあらわに視線を返す。

「なんで、ここに? まさか、私の後をつけて……」
「いや、そりゃないない」
「……すごく、胡散臭いわよ。あなた」
「んー、そう言われるとな。完全に否定するのが難しいのは自覚してるが、あんたも随分と直球だよな。友達少ないだろ」
「そんなの今は関係ないでしょ!」

 むっとして思わず怒鳴り返した高町だったが、相手はどこかとぼけた様子で肩を竦めてみせるのみ。
 まるで堪えた様子のない男の後ろで、目を回していた少女がふらふらと立ち上がる。

「もうヒドイよ、ヨルさん。突っ込みはもっとエレガントにしないとさ」
「いや、突っ込み役になった覚えはないっての」
「でもいつもの三人の中だと、ヨルさんボケも突っ込みもこなしてるよね?」
「…………ノーコメントだ」

 どうにも複雑な関係があるようだ。二人のやり取りを聞くでもなく耳にしていた高町だったが、不意に引き寄せられるように少女と視線が交差する。

 驚愕に歪む相手の表情。

「って、ハルカちゃん!?」

 何故か自分を見て、少女が驚きの声を上げた。
 しかし、高町にしてみれば、むしろ驚いたのはこちらの方だ。

「……なんで、あなたが私の名前を知ってるの? 名乗った覚え、ないよね?」

 あまりの不可解さに、不審さを隠そうともせず、まなじりをつり上げ問い掛ける。
 しかし、彼女はそんなこちらの反応こそ予想外とでも言うかのように数度瞬きしたあとで、ふと何かに気付いたようにポンと両手を打った。

「あ、そっか。こっちの世界に取り込まれちゃってるのか」
「取り込まれ……? それ、どういう意味よ?」

 何故かバツが悪そうに眉を寄せる彼女。こちらの質問に答えは返らない。

「まあ、学園規模の陣だ。飲まれちまうのも仕方ないだろうさ。それより、さっさと作業に入ろうぜ」
「う、うん。わかったよ」

「むっ! ちょっと二人とも、質問に答えなさいよ!」

 こちらの問い掛けなど無視して、二人はなにやらゴソゴソと準備を始めてしまった。

 なんて腹の立つ二人組だ。高町は苛立たしさに拳を握る。こちらの存在などまるで無視して、二人は準備とやらを続けている。
 このまま黙って立ち去るのもなんだか癪に感じられて、高町はみるともなく二人の行動を眺め続ける。

 しばしの時間を費やして、ようやく準備とやらが終わったようだ。

「それじゃ行くよ、ヨルさん」
「おうバチこい、浅田の嬢ちゃん」

 少女が黒革の本を胸元に抱え、表紙を撫でる。
 すると、誰の手も借りずに、本が左右に開かれた。
 本は次々と項を変えていく。風にでも流されるようにして捲られる本に視線を据え、少女は目を細める。

「解除式展開!」

《──技法発動。認識演算開始。術式設定は解除式で固定》

 本から無機質な声が響いた。ついで少女を中心に、四方に向けて杭のようなものが打ち込まれる。
 地面を穿つ杭を基点にして、展開される複雑な方陣が淡い光を周囲に放つ。

《──負荷増大。認識演算、既定値突破まで、3、2、1》

 周囲に響き渡る硝子を叩き割るような異音。目も眩まんばかりの放電が視界を占める。
 虫食い穴のように暗い淵を覗かせ、連鎖的に歪む空間が限界を迎えたその瞬間───


 空が二つに裂けた。


「…………っ!?」

 いったい何が起きているのか。そんな抱いて当然の疑問を口にすることすら忘れて、高町は目の前で展開される光景に見入る。

 二つに裂けた空の向こう側。光輝く方陣が幾重にも重なり会いながら、ゆっくりと回転していた。

「さて、一応簡単に説明しておくとだ。世界の有り様は見方によって千差万別。無限の形態が存在する」

 ゾクリと、背筋が総毛立つような感触。

「対して、一つの認識に特化することで、世界の位相すら浸食するもの達がいる。いわゆる異相具象体って呼ばれる存在だな。その中でも、至高階級たる魔王は別格だ」

 混乱する意識の中で、どこか冷静な部分が、語られる知識をお前は既に知っていると囁く。

「更に言えば、そんな認識の多様性を突き詰めたものが、俺の備える技能でもある」


 ───救世代行、真理執行者。


 ゆっくりと肩を鳴らしながら、大きく伸びをする男の説明に続くようにして、脳裏に浮かぶ無数の単語。
 今の自分が知るはずもない知識が、次々と蘇る。

「ん……ああ、もう実例が来たか」

 滔々と語っていた黒衣の男が、不意に背後を振り返る。


【──仮想世界への侵入を感知。防衛機構発動】


 天から響く無機質な言葉。幾重にも展開された光の方陣がこれまで以上に激しく明滅する。

 歪んだ空間の先より現れ出る影。それは制服の上から無造作に纏った白衣を着込んだ一人の少女の姿を模していた。
 何よりも目に付くのは、その顔を覆い隠す、三日月ような切り込みが口元に入ったシンプルな仮面。

【──展開完了。接続時間、不確定因子殲滅までに固定】

 不気味な笑みの仮面をつけた少女が、虚空からこちらを見下ろす。

「ふぅん。つまり、お前さんが今回降臨した魔王さまってことか」
「今度こそ当たりっぽいね。それじゃヨルさん。降臨陣の解析が終わるまでの間、魔王の相手は宜しくね」
「あーはいはい。まあ、求められた以上、期待には応えるさ」

 どこか軽い掛けやり取りの間も、男に微塵の油断もない。ゆっくりと目の前に掌を掲げ、ギシリと五指を握りしめる。
 金属同士を擦り合わせたような高音が響く。強大な力の胎動に大気が渦を巻き、風が吹き上がる。

【──降臨陣保全に伴う全行動制限を解除、行動を開始する】

「はっ! 上等だっ!!」





                 * * *




 薄暗い室内。唯一映し出されたモニターを前に、怒声を上げる男が一人。


「ふざけるな! まさか真理執行者が乗り込んでくるなんて聞いてないぞ!!」
『おや、妙なことを言う。不確定要素の存在は、そちらも折り込み済みのはずだったのではないかね?』

 無数のノイズが走るモニターから、妙に甲高い声が返った。
 何らかの処理が施されているのか、画面に走る無数のノイズによって、相手の顔は確認できない。
 機械的な装置で変声を掛けられているようで、性別の判別すらも不可能。

「くっ──ともかく、私はもう手を引かせて貰う!!」
『そこらの判断はどうぞご随意に。まあ、もっとも』

 モニターから唯一窺い知れる口元が、緩やかな弧を描く。それは嘲りの笑み。

『君如きが逃げ延びることができるならば、という条件が付くだろうがね』
「───くそっ!!」

 男は通信を叩き切ると同時、室内に警報が鳴り響く。

「こ、今度はなんだ!?」

 人工的な音声が告げるアラートに混ざって、暗い室内に施設内の状況解析がリアルタイムで投影された。

「なっ!? もう、ここをかぎつけたとでもいうのか……? くそ! くそくそくそっ! 公安の犬に補足されてたまるか!」

 警備システムが次々と陥落していく中、焦燥感に駆られながら、男は一刻でも早くその場を離れるべく、手早く必要な荷物をまとめ立ち上がる。

「ん、どこ行くつもりだい?」
「!?」

 背後から声が掛かった。全身がガクガクと震え上がるのを自覚しながら、ゆっくりと振り変える。
 だが、振り返った先には、誰の姿も存在しない。
 どういうことだ? まあ、いい。幻聴なら今はここを離れることが先決───

「こいつは端末か? さっきまで通信してたみたいだけど……あー、やっぱダメだな。こういうのは私の専門じゃないんだよ。後処理はセイジの奴に任せるとするかね」

 男が先程まで向き合っていたモニターの前で、端末を乱暴に弄る女の姿があった。
 どこか場違いな白袴に、細身の体躯。アンバランスなまでに長い腰に挿された大太刀が、女の背の低さと相まって、場の異常な空気をより一層際立たせる。

 そして何よりも目に付くのは、女が片手で弄んでいる鬼の面。身の丈を超える大太刀と白袴に、鬼の面。
 全ての装束に見覚えがあった。男は女の正体に気づき、絶望する。

「き、貴様は、こ、香坂家の人間狂器っ!?」
「うん。それで合ってるぞ」
「ひっーーー!?」

 悲鳴を上げながら腰を抜かす男を前に、女──香坂シズルはゆったりした動作で、腰に挿した大太刀に手を添えた。その動作を目にした瞬間、男の中で何かが切れた。

「うっ、うぅぅわぁあぁああああああ!!!」


《──理法発動。空理式展開、術式選択は溶解》


 懐に仕込んでいた術式が刻まれた札を叩きつける。展開された空理法則が空間を浸食した。溢れ出した硫酸の蒸気が竜種のブレスのように前方を無差別に焼き払う。モニターが一瞬で蒸発し、部屋を轟音が貫いた。

 外から漏れ出る日の光。視界をぶちまけられた硫酸から立ちのぼる霧が占める。
 大穴を穿たれた壁を前に、両膝を地に付いた男は、小さく呻きを漏らす。

「やった……のか? はははっ! やった! やったぞ!! 生き残ったぞ!! 香坂家の化け物を相手に、俺は生き残ったんだっ!!」

「なるほど、空理法則系統の簡易式か。術式は『消化』の応用って所か?」

 なかなか悪くない術式の選択だ。硫酸の蒸気の向こうから、響く声。
 腕を胸の前に組み、無傷のまま硫酸の海に立つ、女の姿がそこにあった。

「し、死にたくない許してくれ殺さないでくれ何でもするだから見逃して───」

 恥も外聞もかなぐり捨てて助命を懇願する男を前に、女は心底不思議そうに小首を傾げた。

「なに言ってんだ、おまえ? 凶器に慈悲があるはずないだろ」
「あ───」

 カチリ。鯉口を切る音が響くと同時、ズルリと、男の半身が左右にズレた。

「がぁああぁ、ぁああああぁぁぁ─────っ!?」
「凶器はただ振るわれるのみ。生殺与奪の是非を請うなら、担い手の方にするんだね」

 鋭利な断面を晒して、二つに裂けた男の身体から、血飛沫が舞い上がる。
 だがそれも僅か一瞬。男の身体は灰色の煙を巻き上げ粉塵を撒き散らすと、直ぐに旋風の中に消え去った。

「……あと最後に一つ。おまえ、もう人間じゃなかったぞ。死人がいつまでも這いずってんじゃない」

 さっさと成仏しな。言い捨てると同時、大太刀が鈴の如き澄んだ音を立て、鞘に収まった。

「まったく……面倒な任務を振ってくれる。だがこれで塵芥は排除した。本命はそっちで勝手にやるんだね、セイジ──いや、ミズシロ職長」

 虚空に向けてつぶやくと、彼女はその場に背を向ける。

 振り返りもしなかった。









仮上げだが、つづけぇ!


  1. 2007/11/23(金) 00:00:00|
  2. オリ長編文章
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