全手動軽文量産機

──A.L.M──

書庫へ戻る |  日記過去ログ |  アビス総合目次 |  ジャンク作品目次 |  お勧め一次創作 |  お勧め二次創作 |  掲示板 |  注意書き |

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

人類は接触しました その二


              【2】



「ふむ。これでお前も調停官か」
「はい」

 ええ。もはや引き籠もりなどとは言わせません。
 国連職員であることを示す蒼の制服に身を包み、誇らしげに胸を張るわたしに、何故か所長は胡乱な視線を向けます。

「返事だけは良いな。まったく、お前は昔からまるで背が伸びないくせに、胸ばかり大きくしおって」
「セクハラは親族でも重罪です、所長」

 人の身体的特徴をあげつらうなど、鬼畜の所業と言わざるを得ません。

「あーわかったわかった。そう睨むな。わたしも今後気をつけるから、お前もその無駄に作った話し言葉を止めろ。どうせ身内しかおらんのだ」
「ですが、おじいさん。折角の初出勤。御同僚となる方々にはきちんとした挨拶をしないと……」

 少しでも心象を良くしようと、にこにこ笑顔のまま室内を見渡します。
 何故か昼間から薄暗い室内に、適当に配置された事務机が三つ。よく使い込まれた机は、おじいさんのものでしょう。
 そこから僅かに離れた位置に、新品のものと僅かに私物の置かれた机が二つ並んでいます。
 パーテーションで区切られたスペースには、応接用のソファセットが一式見えるものの、あとは何もない空間が、ガランと広がるのみ。

 すごく、閑散としています。

 疑問符を浮かべるわたしに、おじいさんはこともなげに付け足します。

「ああ、職員はここに居るものがすべてだ」
「え?」
「だから、現職の調停官は、わたしたちですべてだと言ったんだ」

 またまた、ご冗談を。

 調停官は人類が新たに接触した知性体との間に穏便な関係を形成すべく、《学舎》の中からも選りすぐりの人材が揃えられている訳で、そんな場末の閑職のごとく引退間際の老人といまだ使えもしない新任者のみで職員が構成されるはずが。

「現実を見なさい」
「一から説明を求めます」

 もっともだと、おじいさんは頷きました。

「どう説明したものか……お前は《学舎》の五期生だったか?」
「はい。栄えある選抜コースの一人です」
「ふむ……もう情報すら回していないということか」
「ど、どういう意味でしょうか?」
「なに、一言で足りる」

 おじいさんは大げさに肩を竦めてみせます。

「つまり、お手上げになった訳だ」
「はい?」

 目が点になりました。まったく理解できません。

「まあ、面食らうのも当然か。一から説明するぞ?」

 コクコクを首を頷かせて、わたしは混乱する思考を無理やりおじいさんの話に傾けます。

「確かに彼ら──妖精と呼ばれる知性体の発見は人類にとっても福音となった。当然だな。この広大な宇宙に芽生えた知性の持ち主は人類以外も存在した。そう、我々は孤独ではなかったのだと……」
「ロマンに関連した事柄は省略する方向でお願いします」

 手を上げて先を促すわたしに、おじいさんはあからさまに不服そうに眉をしかめました。

「……ロマンのわからん奴め。つまらん」

 しかし、夢でご飯は喰えないのですよ。

「あーわかったわかった。そう睨むな。ともかく、そうして我々は妖精を隣人とするに到った訳だが」

 曰く、彼らは総じて人類の常識からぶっとんだ存在であったと。

 人類の蓄積した科学技術などなんのその。一夜で機械文明を築き上げたかと思えば、翌日にはブリキおもちゃで遊んでる。単純にいまだ未熟な知性体なのかと思えば、人類側がいまだ読み解けていない高度な数式をあっさりと読み解くなど神掛かった能力を示したりもする。まさしく不条理存在。

「結局、五年でも長く持った方だったな」

 時の流れとは残酷なものです。
 調停官制度が開始されてから、今年で僅か五年目。
 おじいさんは調停官の立ち上げから業務に関わり続けた最古参の一人でした。

 しかし、あらゆる分野のエキスパートが集められて始まった妖精に対する調査は、逆にあらゆる分野の専門家が集められたことが災いして、妖精さん達の不条理な技術力が、彼らの専門分野に対する矜持を、ペンペン草の一本も生えなくなるほどまでに蹂躙する結果を招き──

「先月、ケリーのやつがナヴィエ・ストークス方程式を一般解で示されて吐血しながら入院。そのままリタイアしたのを最後に、調停官は全滅した」

 チームそのものの崩壊をもたらしたのでした。

「補充もしばらく来ないだろうな。まがりなりにも、お前という人材は寄越したわけだから」

 わたしはしばらくの間、呆然と言葉をなくします。

「そ、それほどまでに妖精さん達と付き合うのは、過酷な行為なのでしょうか?」
「……」

 調停官達が全滅するまでの壮絶な経緯を耳にして、少し気押されながら尋ねたわたしに、おじいさんは無言のままデスクに手を差し込むと、なにやら一冊のファイルを差し出しました。

「これは?」
「お前の前任者達が記した業務日誌の中でも、比較的まともな方のものだ。とりあえず、参考にしなさい」

 おじいさんはデスクに腰掛けると、そのまま何処からか取り出した刀剣の手入れを始めてしまいました。

 文明の再編期を迎えた人類は、自給自足体制を新たに再構築する一環として、かつて磨き上げた狩猟技術の再興を目指していたりします。結果として、血気流行った若者たちから隠居を考え始めた老人に至るまで、男性の方々は狩りに使う道具に対して、偏執的なまでの情熱を傾けるようになりました。

 それはおじいさんも例外ではなく、狩りに使う道具の手入れに入った彼を動かす言葉はありません。

 わたしは渡されたファイルを胸に抱え、一人どうしたものかと立ち尽くします。


「おじいさん、最後に一つだけ」
「なんだ?」
「ファイル作成者のご年齢は?」
「ふむ、わたしの五つほど上だったかな」
「……そうですか」


 ちなみに、日誌に記されたタイトルは、次のようなものでした。


 『形而上学的存在に関する業務定例報告』
     ~ようせいさんとぼく~


 すごく、怪しいです。



  1. 2009/09/20(日) 00:45:27|
  2. その他の文章
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可(誤字・脱字等の報告を下さる場合は、チェックして頂けると幸いです)

トラックバック

トラックバックURL
http://suimin5088.blog58.fc2.com/tb.php/311-64b83986
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
書庫へ戻る |  日記過去ログ |  ジャンク作品目次 |  アビス一覧目次 |  お勧め一次創作 |  お勧め二次創作 |  掲示板 |

FC2Ad


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。