全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第1話 「ルークの誓い」


「──────っいて!」

 どこか階段を踏み外したとき感じるような浮遊感の後、全身を少なくない衝撃が貫いた。俺は鈍痛を訴える腰をさすりながら、定まらない意識のまま顔を上げて、周囲を見渡す。

 見覚えの無い部屋に自分は居た。あまり飾り気のない簡素な様相だったが、その中にもどこか温かい雰囲気を感じさせる。

 視線を彷徨わせる内に、俺は自分が部屋に唯一置かれたベッドから転げ落ちたことを理解した。

「ご主人さま!」

 意外と派手に音が響いていたのか、ミュウとコライガが俺のところに一目散に駆け寄って来る。かなり近い位置にいるのにその勢いは止まらない……って、危なっ!

「ぐお──っ!?」
「ご主人さまご主人さま。心配したですの~!」

 胸の中にタックルしてきやがった小動物二匹の抱擁に、俺は激しく咳き込みながら辛うじてぶっ倒れるのを防ぐ。

 なんというか、一日中寝てたときみたいに頭がボッとしてうまく思考が回らない。なんで、こいつらはこんなに感動してるのかと記憶をあれこれ探る内に──……思い出す。

 ああ、そうか。
 俺、レプリカだったんだな。

 俺は涙ぐみながら縋り付いてくる二匹に視線を移し、背中をゆっくりと撫でてやる。確かに、あんな衝撃発言聞かされた後でぶっ倒れりゃあ、心配もするわな。

 しばらく撫でていると、二匹もようやく落ち着いたのか、俺から離れた。

「……皆は、どうしてるかわかるか?」

 俺の問い掛けに、ミュウは目に見えた狼狽を浮かべた。

「……別にどうなってようが気にしねぇよ。いいから、教えてくれないか?」
「みゅうぅぅ……。皆さんは、あのアッシュとかいう人とタルタロスで地上に戻ったですの」
「そっか……」

 まあ、妥当な判断ってところか。イオンが言ってたように、奴がアクゼリュスの崩落だけを狙ってたって保証はどこにもないんだ。こんな忙しいときに、錯乱したあげく寝込んじまったような奴を置いていくのは、当然の措置だろう。

「そんで、ここはどこだ? ユリアシティの宿屋か?」
「ここはティアさんのお家で、ティアさんがご主人さまを診てくれてたんですの」
「へ……あいつは、残ってるのか?」

 かなり呆気にとられた俺の問いかけに、ミュウは頷いてみせた。

「迷惑かけちまったか……ほんと、ティアには世話になりっぱなしだな」

 屋敷から飛ばされたときも、彼女は俺の面倒をみてくれた。王都に帰るまでの間も、俺を気づかっていた。そして俺がアクゼリュスを崩落させた後も……。

 額を押さえて、俺はため息をつく。

 いろいろと割り切って進もうとは思ったが、その大前提が崩れちまった。

 俺って……結局何なんだろうな? 

 レプリカで、模造品で、でき損ないの……人造人間ってやつか?

 自分に似てるだけの別人が、自分に成り代わってるのを見たら、そりゃ誰だって腹も立つだろう。アッシュの奴がいやに俺に敵意を振りまいていやがった理由も……まあ、理解できる。しかもその成り代わってるのが、俺みたいなバカと来たもんだ。家庭教師連中の嘆きよう見る限り、あいつの頭は良さそうだしなぁ。

 それに……ナタリアのこともある。自分の想い人が紛い物と一緒に居るんだ……激昂も、するよな。

 やばいな……かなり参ってるな……俺……。

 どんどん後ろ向きな考えが沸いてくるのに耐えられなくなって、俺は部屋の外に出てみることにする。

 すぐ目の前にある扉を潜って、顔を上げ──その先に広がる光景に、息を飲む。

 淡い光を宿した花が中庭を包み込んでいる。どこか仄暗いクリフォトの大地にあって、花々の放つ淡い光であってさえも、どこまでも優しい光となって、周囲を照らす。

 そんな幻想的な花畑の中心に、彼女は佇んでいた。

「気付いたのね……ルーク」

 俺に気付いて振り返ったティアの呼び掛けに、俺はぎこちなく手を上げて応える。

「あ、ああ……。ここ……花畑か?」

 なんだか自分の調子が狂わされるのを感じながら、俺はなぜか熱くなった顔を逸らして、なにかを誤魔化すように、咄嗟に頭に浮かんだ問い掛けを放っていた。

「ええ。セレニアの花よ。魔界で育つのは夜に咲くこの花ぐらい……ここは外殻大地が天を覆ってるからほとんど日が差し込まないの……」

 どこか遠くを見据えるティアの瞳に、俺も花畑に視線を移す。

 日が射し込まない大地に咲く花か……。

 淡い光を宿したセレニアの花を眺めるうちに、どこかで見た覚えのあることに気付く。どこだったか思い出そうと頭を捻るうちに、初めて俺が海を見た場所の光景が鮮やかに蘇る。

「そうか……あそこで見たのか。見覚えあるのも当然だよな……」
「……なんのこと?」

 首を傾げる彼女に視線を合わせて、俺はあの場所のことを告げる。

「セレニアの花って、タタル渓谷で咲いてた花と一緒だろ?」
「あ……そうね。あそこに咲いていたのも、確かにセレニアの花よ」
「俺が初めて見た外の光景だったからな。今も印象に残ってるぜ」

 俺は僅かに目を閉じて、あの夜見た景色を思い描く。

「……夜に咲く花ぐらいしか育たないって言っても、俺にはセレニアも十分綺麗に見えるけどな」
「私には……この花の有り様が、どこか寂しげに見えてしまうの。夜にしか咲けないセレニアの花は、どこかこの都市で生きる人々に重なるわ。誰にも顧みられることのない存在として……」

 ティアが魔界出身だということはタルタロスで既に聞いている。魔界に唯一の街がここだということも。

「ティアは……この街出身だったのか?」
「正確には違うわ。育ったのはここだけど……私の故郷はホドよ」

 ホドっていうと……確か十六年前のキムラスカとマルクトの戦争で……最終的には消滅したと言われる島だ。

「ホド戦争で……消滅した島か」
「ええ。ホドはアクゼリュスと同じように魔界に崩落したわ。その時、兄さんと私を身ごもった母さんも、魔界に落ちた。多分兄さんも譜歌を詠ったのね。……兄さんはいつも言っていたわ。ホドを見捨てた世界を許さないって……」
「師匠……ヴァンが、そんなことを……」

 戦争によって、自らの生まれ育った故郷を奪われた……。アクゼリュスの崩落も、そうした憎悪の行き着いた先だったんだろうか? 俺の前では常に悠然と微笑んでいたヴァンがそんな嘆きを抱えていたなんて、考えもしなかった。

 俺は七年間も一緒に居ながら、結局奴について、なにも知らなかった。知ろうとしなかったのだ。

「俺って、やっぱりバカだよな……」

 思わず洩らした俺の言葉に、ティアが先を促すように静かな視線を向ける。

「俺はさ、結局自分からいろいろなことを知ろうとしてなかったんだよ。自分がバカだからって言い訳して、ほんの少し頭使えば理解できるようなことまで、無理だって決めつけて知ろうとしなかったんだ。俺は確かにバカだけど、それ以上に……バカでもできることすら、投げ出してたんだな」

 もし、俺が自分のバカさ加減を言い訳にせず、いろいろなものに目を向けて頭を使っていたら、なにかがわかったのかもしれない。

「俺は確かにルーク・フォン・ファブレじゃなかったかもしれないけど、バチカルで七年間を過ごしたのは他の誰でも無い俺自身で、その間いろいろな事を投げ出してきた当然の結果として、アクゼリュスは……崩落しちまったんだな。もし、俺がもっと知ろうとしていれば……なにか変わったのかな」

 かつて助けられなかった彼も、なにも告げずバチカルを去ったあいつも、そして憎しみを抱えていたヴァンも……。もう少しでいいから、俺が自ら知ろうと動いていたなら、なにかが変わったのかもしれない。

「仮定に意味が無いのもわかってる。だからこそ……もう二度と繰り返したくない。俺は前に進みたい。
 俺は──変わりたい」

 自然と外へ溢れ出した俺の願いに、それまで静かに耳を傾けていたティアがその口を開く。

「本気で変わりたいと思うなら……変われるかも知れないわ。でも、あなたが変わったところでアクゼリュスは元に戻らない……何千人という人たちが亡くなった事実も。あなたは超振動を放ち……私は兄を止められなかった。私達の背負った罪は、何一つ変わらない」

 ゆっくりと紡がれた彼女の言葉の重みを受け止め、俺も真剣に頷きを返す。

「ああ。今更取り返しのつかないことだってのは、俺もわかってるつもりだよ。……ティア。確かナイフ持ってたよな?」
「ええ、持ってるけど……」
「ちょっと貸してくれないか?」

 戸惑いながら手渡されたナイフを手に握り、もう片方の手で髪を束ねる。

「背負った罪は変わらない……それでもある種の区切りは必要だ。だから、これは俺なりのケジメだ」

 ナイフを振り降ろし、束ねた長髪を切り裂く。

「ルーク──?」

 風が吹く。断ち切られた赤毛がふわりと舞い上がり、緩やかに虚空に消える。

 俺の行動に目を見開くティアに向き直る。彼女の顔を正面から見据え、いつのまにか俺の中で誰よりも大きな存在になっていた彼女に、誓いの言葉を告げる。

「俺を見ていてくれ、ティア。俺はもう、自分にできることを誤魔化さない。俺はバカだから、すぐには上手くいかねぇと思う。当然、何度も間違えるとも思う。それでも、もう自分の頭の悪さにすべての責任を押しつけるのは止めだ。俺は──変わってみせる」

 見据える俺の瞳から顔を逸らさず、ティアは少し間を置いた後で、深く頷きを返してくれた。

「……ええ。見ているわ。この日変わることを誓った、あなたのことを──……」

 静かに俺を見据えるティアの瞳が光の加減で揺らめく中、彼女は続けてその口を開く。

「あなたは強い。私とは違って……それは見せ掛けの強さじゃない」
「そうか? 俺なんかよりも、ティアの方が強い気がするけどな」

 少し気恥ずかしくなって返した言葉に、彼女は静かに首を振る。

「いいえ。私は……そうあろうとしているだけよ。でも、あなたはそれが自然体になっている。兄を止められなかったことは確かに悔やむべきことだけど、ただ嘆いていても取り返しはつかない。立ち止まっていても、なにも変わらない……。
 それなら──私も前を向かないとね」

 そう言って微笑を浮かべた彼女の表情に、俺は見とれてしまう。

「この過ちを繰り返さないために、私も前を向いて歩くわ、ルーク」

 彼女からの思いがけない宣言に、俺は最初驚きに目を開いたが──すぐに破顔する。

「わかったぜ。これからもよろしくな、ティア」
「ええ。これからもよろしく、ルーク」

 俺とティアの視線が交錯する。俺達は互いの決意に敬意を表し、最後に微笑を浮かべあった。

「──さて。それじゃさっそく、俺達も動き出すとするか。一人勝ちしてやがるヴァンの横っ面に拳を叩きつけてやろうぜ。とりあえず、外郭大地に戻るのが先か?」

 拳を掲げ大げさな表現を使う俺に、ティアが苦笑を浮かべる。

「そうね。でもその前に市長……お祖父さまにセフィロトについて、少し聞いておきましょう。兄がなにを企んでいるとしても、無駄にはならないと思うわ。今は執務室に居ると思う」
「よっし! 行くか」

 こうして──俺達はいつものように他愛もない言葉を交わしながら、再び動き始める。
 突然すべてを変えることはできないだろうが、それでも俺は変わることを誓い、前へと進む
 この誓いがたとえ言葉だけのものに終わろうとも──俺はこの日、この瞬間のことを、決して忘れることはないだろう。




             * * *




 執務室とやらに続く扉の前に立って、俺は大きく深呼吸をする。

 これから俺は初めて、仲間以外の──俺がアクゼリュスを崩落させたことを知っている人間と会うわけだ。十分な心構えと、なにを言われても向き合えるように準備をしておく必要がある。

 緊張した俺の様子に、少し顔を曇らせながら、ティアが扉を叩く。

 数度のノックの後、中から少ししゃがれた声で、入りなさいと答えが返る。

 踏み込んだ室内には書類が溢れていた。積み重ねられた書類の中に、辛うじて埋もれていない机が部屋の奥に見える。その机に腰掛けた、書類を手にしていた老人が顔を上げる。

「ティアか。そちらは、確か……」

 額を押さえ名前を思い出そうとする相手に、俺は一歩前に出て深く頭を下げる。

「……はじめまして。ルークです」
「ミュウですの」
「ぐるぅぅる」

 一瞬、なんとも言えぬ空気が室内を包み込む。

「……おまえらは黙ってろ。いいな?」

 素早く二匹の背中を掴み上げ、耳元で小さい声で恫喝。続けて俺は二匹を背後に押しやり、改めて市長と向き直る。

「アクゼリュスを崩落させてしまったこと……今更言っても、償いようのないことだって言うのはわかっています……。それでも……これだけは言わせて下さい……すみません、でした……っ!」

 自然と声が震えるのを押さえきれぬまま、俺は頭を下げた。
 顔を上げられない俺の頭に、市長の興味深そうな視線が注がれているのがわかる。

「きみがルークレプリカか。なるほど……よく似ている」
「お祖父様!」

 市長の何気ない言葉に、なぜかティアが鋭く反応し、非難するような言葉を放つ。
 市長は大して気にした様子も見せず、わずかに苦笑して見せた。

「これは失礼。しかし、ルーク。アクゼリュスのことは我らに謝罪していただく必要はありませんよ」

 返された言葉は、俺の理解を超えていた。なにか聞き間違ったのかと思いながら、俺は顔を上げて相手と視線を合わせる。

「……どういうことですか?」
「アクゼリュスの崩落は、ユリアの預言に詠まれていた。起こるべくして起きたのです」

 預言に……詠まれていただと?

 耳にした情報に、俺の意識が殴りつけられたような衝撃が走る。なんだ、それは……それじゃあ、まるで、奴がセフィロトで言ってた言葉のようだ。

 ──彼は死ぬべくして、死んだのだ……──

 絶句する俺の横で、ティアもまた初耳だったのか、表情を強張らせながら市長に食ってかかる。

「どういうこと、お祖父様! 私……そんなこと聞いていません! それじゃあホドと同じだわ!」
「これは秘預言──クローズド・スコア。ローレライ教団の詠師職以上の者しか知らぬ預言だ」

 クローズド・スコアだかなんだか知らないが、こうなることを知っていながら動かなかった……そう言っているのか?

「預言でわかってたなら、どうして止めようとしなかったっ!」

 今にも理性のたがが外れ、相手に掴みかかりそうになるのを必死に押さえる。全身から沸き上がる憤激を叫び声に込める。

 そんな俺の詰問に、しかし市長はわずかに咎めるような視線を向けてきた。

「ルーク。外殻大地の住人とは思えない言葉ですね。預言は遵守されるもの。預言を守り穏やかに生きることがローレライ教団の教えです。それをお忘れになったか?」
「そ、それとこれは別問題……」
「いいえ、違いません。誕生日に何故預言を詠むか? それは今後一年間の未来を知りその可能性を受け止める為だ。定められた未来を変えようとすることではありません」

 ローレライ教団の教えは申し訳程度には理解している。それでも、この相手が言っている言葉を認めるわけには行かなかった。

「なら……どうして、アクゼリュスの消滅を世界に知らせなかったの?」
「そうだ! それを知らせていたら死ななくてすむ人だっていたはずだろ?」

 俺達の言葉に、市長は初めてどこか困ったように眉を寄せた。

「それが問題なのです。死の預言を前にすると人は穏やかではいられなくなる。時には錯乱のあまり、定められた可能性から逸脱しようとさえする」

 まるで癇癪を起こした園児を評するような口調で、死に抗おうとする人間の行動を語った。

「そんなの、当たり前だろっ! 誰だって死にたいはずがない……っ!」
「それでは困るのですよ。ユリアは七つの預言でこのオールドラントの繁栄を詠んだ。その通りに歴史を動かさねば、きたるべき繁栄も失われてしまう。我らはユリアの預言を元に外殻大地を繁栄に導く監視者。ローレライ教団はそのための道具なのです」

 まるでそれが普遍の真理のように、揺るぎなき言葉が市長の口から紡がれた。俺は自分でも気付かぬうちに、一歩気押されたように後退っていた。

 この相手の思考方法は、根本的に自分とは異質だ。

「……だから大詠師モースは導師イオンを軟禁して戦争を起こそうとした……?」

 ティアのつぶやきに、俺の頭も動き出す。アクゼリュスに親善大使として送られた理由を思い出せ。俺はなぜ親善大使に選ばれた? 

 ──すべては預言に詠まれていたことだ……──

「ヴァンも預言を知っていて、俺にアクゼリュスを……?」
「その通り」

 ようやく理解の追いついた俺達を、市長は出来の悪い生徒を見守るような優しげな瞳で見据えている。

「……お祖父様は言ったわね。ホド消滅はマルクトもキムラスカも聞く耳を持たなかったって! あれは嘘なの!?」
「……すまない。幼いおまえに真実を告げられなかったのだ。」

 そこではじめて申し訳なさそうに瞳を揺らした市長は、しかし真実を告げなかったことには申し訳なさを抱いていても、ホドを見殺しにしたことに対しては何ら痛痒を感じていないようだ。

「……兄さんは、ホドのことも知っていたの?」
「ヴァンは真実を知っている。あれもホドのことで預言を憎んでいた時期もあったが、今では監視者として立派に働いている。結構なことではないか」

 相手の言葉に、俺はもう我慢できなかった。

「……立派? アクゼリュスを見殺しにしたことが立派かよっ!? おまらおかしいぜっ! イカレちまってるよっ!!」

 もはや敵意を隠そうともせず怒鳴り散らす俺に、しかし市長はすべてを悠然と受け流し、静かに言葉を返す。

「そんなことはない。ユリアは第六譜石の最後でこう預言を詠んでいる。ルグニカの大地は戦乱に包まれマルクトは領土を失うだろう。結果キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の繁栄の第一歩となる……と。未曾有の繁栄を外殻大地にもたらすため、我らは監視を続けていたのだ。たとえそこに至るまでの流れに死の預言が含まれていようとも、我等はそれを真摯に受け止めなければならない」

「……じゃあやっぱり兄さんは世界に復讐するつもりなんだわ。兄さんは言ってたもの。預言に縛られた大地など消滅すればいいって!」

「ティア。先程も言ったように、ヴァンが世界を滅亡させようとしているというのは、おまえの誤解だ。それに……仮にそうだったとしてもなんら問題はない。何しろ、預言には何も詠まれていないのだからね」

 何度言い聞かせてもわかってくれない子供をあやすように、市長はそう言葉を締め括った。

 さらになにか言い返そうと口を開いた瞬間、まるで見計らったようなタイミングで外から扉をノックする音が響く。

「……テオドーロ市長。そろそろ閣議の時間です」
「今行く。ふむ……困ったものだ。二人とも、そんなに心配ならユリアロードで外殻大地へ行ってみなさい。預言により確定された事象以外に、起きることなどなにもないとわかるだろう。
 おまえたちの心配は杞憂なのだよ。すべては確定された事象のままに流れ行く」

 それでは失礼すると、市長は取るに足らぬ議論を交わしたといった態度で、この部屋を後にした。

 残された俺達は、明かされた事実に呆然と立ち尽くす。
 俺はかぶりを振って、とりあえず今後の行動を考える。

「……ティア、外殻大地へ戻ろう。あいつらは……駄目だ。ここにいても、埒があかない」
「ええ……そうね。でも、まさか……こんなことが……」

 自らの生まれ育った街の真実に、ティアも少なからぬ衝撃を受けているようだ。表情には動揺が浮かび、いつもの冷静な様子は影をひそめている。

「……大丈夫か?」
「ええ……私は大丈夫。行きましょう」

 先を歩き始めた彼女の背中を見据えながら、俺は思わず発しかけた言葉をぐっと飲み込んだ。

 ……たとえそれが虚勢であっても、大丈夫だと答えた相手にグダグダと慰めの言葉をかけることに意味はない。それよりも今は行動で示すことの方が重要だろう。

 俺は気合を込めるべく、顔を両手で叩き、彼女の後に続いた。


 それから慌ただしく旅立ちの準備をすませ、俺達は地上に続く通路たるユリアロードを前にしている。


 柔らかい光を放つ譜陣を前にして、俺はこれから取るべき行動を考える。

 ……やっぱり、皆と合流するのが先か。

 アクゼリュスが崩落した現在、俺達は死人のようなものだ。一度でも故郷に顔を見せようものなら、アクゼリュスでなにが起きたのか散々情報を搾り取られた挙げ句、もう二度とそんな危険な行動はするなと拘束されるのが関の山だろう。生存情報を伝えておく必要はあるだろうが、直接顔を見せるのは止めておきたいところだ。

 いろんな意味で……重要人物ばっか、揃ってたからなぁ。

 仲間の顔を思い浮かべながら、それぞれの背景を考える。そんな俺達の中で、唯一、直接姿を見せて生き残っていたのを証明した後でも、そのまま前線で動き回れそうなのは……やっぱ、帝国の軍人であるジェイドの奴ぐらいだろうか。となると、向かうとしたらグランコクマか……。

「ルーク、少しいいかしら?」

 そんな風に物思いに耽っていた俺に、突然ティアが声をかけてきた。

「ん。なんだ?」

 振り返った俺に、ティアは一冊の本を渡してきた。

「こいつは……?」

 パラパラと中身を捲る俺に対して、ティアが説明を口にする。

「音素学の本よ。あなたに必要だと思ったから。超振動も第七音素で発生するから、この本がきっと役に立つはず。もう繰り返さないためにも……あなたは超振動を制御する術を学ぶべきよ」
「……そうだな。ありがとな、ティア」

 本を掲げて礼を言う俺に、彼女は大したことではないと首を振って見せた。

 ……なんというか、いろいろと良く気がつくというか。俺の方もしっかりしないとなぁ。

 交わした約束のためにも、俺はこいつと対等で居られるようにならなければならない。

 一人気を引き締めることを誓う俺を余所に、譜陣に近づいたティアが俺達に確認する。

「この道を開くとダアト北西のアラミス湧水洞に繋がる。あそこは魔物の巣窟だけど、準備はいい?」
「ああ、いいぜ」
「ボク、ドキドキするですの」
「大丈夫よ、ミュウ。──さあ、道を開くわ」

 譜陣の中心に立ったティアが杖を掲げる。

 光が譜陣を中心に集束し──俺達の姿は、その場から消え去った。



  1. 2005/08/30(火) 14:47:15|
  2. 【家族ジャングル】  第四章
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