全手動軽文量産機

──A.L.M──

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人類は接触しました その六


              【6】



 ふわふわとした雲がどこまでも広がる白の王国。
 周囲から降り注ぐ熱い視線を背に受けながら、わたしは最後の作業を終えました。


「ふぅ、出来ました。これで完成です」
『おおおおおおおおーーーーっ!』


 妖精さんたちが歓声を上げ、雲海の中心に立つわたしを取り囲んではしゃぎ回ります。
 その様子はあたかも旧暦に鉄器を手にした古代人の如く、まさに大興奮の渦。
 彼らの夢が現実ものとして成ったことを、本当に喜んでいるのがよくわかります。

 そう、わたしの提供した砂糖や蜂蜜を核にして、妖精さんたちが裏技を駆使して作り出した甘い雲──すなわち、『あまぐも』さんがついに完成したのです!

 なお裏技が何かといった細かい突っ込みは、ここでは不要です。
 妖精さんは人知を超越した存在であるという大前提に目を向け、些細な疑問はばっさり切り捨てましょう。
 人類が彼らと円滑な関係を保つ為にも、ときに必要ない情報は無視することも必要なのですよ。

「に、にんげんさん」「ぼくら、しんぼうたまらんです」「おかしのゆめ、ここにたんじょう」
「ゆめ、はかないもの」「ゆめはおっても、りそうはおうな」「しびあだー」

 モジモジと甘い雲の周囲を取り囲みながら、どこかギラついた視線を向ける妖精さん一同。
 作業途中で手を出されてはたまりませんでしたが、もはやなにも遠慮する必要はありません。

「ええ。さあ、たんと召し上がれ」
『ピーーーーーーー!!!』

 一斉に飛び付く妖精さん。もはやそこには至福のお菓子を前にした

 あまりの甘味にひたすら我を忘れて群がる妖精さん。一部にはもよおしてしまった方々も見受けられます。
 わたし自身が大きく完成に寄与したものであることも考えると、感慨深さもひとしおです。

 ああ、なんだかちょっと快感。



 こうして誕生した『あまぐも』でしたが、そこは甘いもの好きな妖精さん。
 時を追うにつれ、あまぐもの生産量が爆発的な勢いで増えていくことになるのは、娯楽嗜好にはとことん拘る妖精さんたちにとっての必然だったのでしょう。
 ですが、まさかそれがあんな事態に繋がるとは……求める心というものは、かくも業が深いものかと実感させられたものです。




 あれから数日が経過……したような気がします。

 なんだか時間感覚が曖昧になってきているようにも感じますが、気にしたら怖いことになりそうなので、いまは気付かない振りです。なにごとも割り切りというものが人生には必要な要素となると、どこか諦観した《学舎》の友人はよく、そんな年寄りじみたことを言っていたものです。


 その間、食べるものは、ひたすらくも。くも。くも!
 霞を食べて生きる。そんな言葉を妖精さんの一人がどこかで言っていましたが、まさに今のわたしはそんな状態です。
 途切れることなく生産されるくもは、なにやら摩訶不思議な栄養価を備えているようで、体調はすこぶる良好なのは僥倖ですが。


 いま、わたしの周囲には無数のレンズのような雲が浮かんでいます。

 普通にお空を見上げれば目に入るような綿雲のミニチュアサイズ版。
 その名の通り綿菓子のような形をしており、上部はモコモコしていて雲底は平たいです。
 午後にはむくむくと成長し、たいていは夕方近くになると消えてしまうのが特徴と言えますね。


 しかしたとえ一時的に消えたとしても、雲の数を増やすのは簡単。
 ふわふわと浮いている雲の下の方から、掌やウチワなどでそっと扇いであげる。
 ただそれだけで、拡散された空気が雲を押し上げ、雲はより大きなものへと成長していきます。

 手拭いを巻いた額に汗を浮かべながら、背中に『祭』と大きく書かれた衣を羽織り、必死になってウチワをふって風を起こす妖精さん。
 彼らの一人に近づくと、わたしは雲海の上に並べられたウチワの一つを手に取ります。


「協力しますね」
「あ、どーもどーも」「おれおれえんごですな」「ありがたやーありがたやー」「きょしんへい、しゅつじんす」「これでかつるー!」


 妖精さんたちと比べて、身体の大きい存在であるわたしなら、わずかに腕を動かすだけで急激に雲は発達します。
 そう、身体の大きいわたしなら! いつも小さい小さい他人から言われていた、このわたしが、大きいと!

「えいやー!」
「にんげんさん、のりにのっておりますなー」「いいことです」「ぎゅっとしてどかーん」「かりすまか」

 妖精さんたちからの賛辞を背に受け、ますます調子に乗って大きく下から仰ぐこと数分後。
 むくむくと成長していく綿雲。妖精さんたちもまた、更なるあま雲の生産を求めて仰ぎ続けます。


 しかし、何事も限度というものがありました。

「あら?」

 気付けば綿雲はとてつもない大きさに成長していました。
 周囲には白いペンキを伸ばしたような、細いすじ状の形の雲が出現しています。
 中心で最高部から最低部まで貫く巨大な雲は、なにやらゴロゴロと不穏な音を立てながら、稲光を発していました。


「こ、これは……?」

 凄まじい勢いで降り注ぐ雨粒。止む事なき豪雨は雲海をみるみる浸水していきます。
 ついで雲から伸びる無数の竜巻がうねりを上げ、妖精さんたちを次から次へと空へ巻き上げていきました。


「あーれー」「すーぱーせーるー」「めそさいくおろろんー」「どっぴらーれーだー」
「ああ、妖精さん!?」


 とっさに手を伸ばしますが、荒れ狂う暴風に遮られ、誰にも届くことはありませんでした。
 かくいうわたしも、降り注ぐ雨が雲海の上を洪水のようにうねりを上げ押し寄せ、身体ごと流されていくのを感じます。


「あうあうあう」


 轟々と横殴りに降り注ぐ雨と、激しい勢いで流れ行く河川の氾濫は、あたかも聖書に記された大洪水のように。
 水に呑まれ意識を失う寸前、飛沫を上げる雨の甘い香りが、不思議と口の中に残りました。




              ■ ■ ■




「なにをしておるんだ、お前?」


 翌朝、わたしは事務所の前に流され、びしょ濡れで倒れているところを、おじいさんに発見されました。

 怪訝そうに見下ろすおじいさんに、わたしは最後の力を振り絞って、端的な事実を伝えます。


「山脈での、突発的な、豪雨には、注意が必要」
「は?」

「かゆ、うま、なのです」
「まったくわけわからんな」


 ……もう、放っておいて下さい。


  1. 2009/09/20(日) 00:25:46|
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