全手動軽文量産機

──A.L.M──

書庫へ戻る |  日記過去ログ |  アビス総合目次 |  ジャンク作品目次 |  お勧め一次創作 |  お勧め二次創作 |  掲示板 |  注意書き |

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

第三話 「激闘、トリステイン防衛戦」


              【1】


○ アンスールの月、ヘイムダルの週、ユルの曜日。トリステイン王都近郊、王軍駐屯地



「おお、姫様! 御身のご帰還、お待ちしておりましたぞ!」
「どうにか王都まで戻れましたわ、マザリーニ」

 馴れない行軍でややくたびれた感じのするアンリエッタだったが、混乱する宮廷内の舵を取っていた枢機卿マザリーニは彼女の無事な姿に安堵の声をあげた。

「国内の情勢はどうなっていますの?」
「情けないことに、南西部より端を発した反乱軍の勢いはとどまる所を知りません。宣戦布告の文言には主立ったものでも、もとより中央に反抗的だった勢力がほぼ全て名を連ねておりました」

 王軍の主立った将軍や大臣が集められ、日夜対策会議が開かれていたが、いまだ明確な方針は定まっていなかった。
 あまりに突然の事態に、会議は紛糾を続けるばかり。

 ようやく帰還したアンリエッタを歓迎するマザリーニだったが、ふと、姫の脇に立つ近衛の部隊長に対して、護衛の引き継ぎを行う公爵の姿に気付く。

「ヴァリエール公爵、此度の尽力、幾ら感謝を申し上げても足りませぬ」
「いえ、このような亡国の危機ともなれば、私も動かざるを得ないでしょう」

 最上級の礼を取るマザリーニ。一瞬、公爵は苦い顔を見せるが、直ぐに感情を覆い隠す。

「それよりも、現状についてお聞きしたい」
「現状で王軍が集められた兵力は五千程。継続して兵を募っていますが……それでも七千行くかどうか」
「我等ヴァリエール家もゲルマニアを監視する人員も裂かねばならなかったため、アルビオンからある程度の兵力の打診はありましたが、それでも領内から率いてこられた数は二千ほどでしかありません」

 合計で一万弱の軍勢、それが王軍が現状で動かせる総兵力。そこから更に王都へ続く各街道へ展開する兵数が抜けていく。王都の直接的な防衛を担う兵数は最終的に四千行けばいい方だろう。

 対ずる新生レコン・キスタを名乗る反乱軍側も、蜂起に向け周到な準備を重ねていたのか、既に一万を優に越す大兵力を多方面に展開し、各地へ侵攻を続けている。

「しかし、防衛線そのものの構築が間に合ったのは僥倖でしたな」

 反乱軍側は各地の制圧を第一に考えてか、兵力を多方面に分散させている。
 これにより王軍は主要街道へ集中的に兵力を配備することで、防衛線にかかる圧力をいくらか軽減することができていた。

 防衛線が保たれる間は、王都へ直接的に大兵力をもって侵攻される危険は少ないと考えていいだろう。
 現状でも王都近郊では、せいぜい各街道に展開する防衛線を抜けてきた、小規模の兵力を相手する程度で済んでいる。
 各地で諸侯がいまだ奮戦してることも考えれば、戦況は完全に膠着した状態にあると言えた。

 ヴァリエール公爵を迎え、改めて今後の戦略を詰める一同。そんな彼らを見据えながら、アンリエッタは言い知れぬ不安を感じていた。

 アルビオンですら事前に入念な準備に準備を重ねた上でなお、あれほどの損害を被った相手。
 かつて伝え聞いたアルビオン内乱の残党、聖地奪還を掲げる狂信者の輩──

「……新生、レコン・キスタ」



              【2】


○ アンスールの月、ヘイムダルの週、マンの曜日。アルビオン王都行政府


「新生レコン・キスタ、か」


 パリーの報告を受け、急遽アルビオンで開催された対策会議。集められたアルビオンの中央スタッフは誰もが深刻な表情を浮かべ、互いにその渋面を突き合わせていた。

「つまり、トリステインの反乱軍はそう名乗ってる。そういうことか」

 ウェールズの問い掛けに答えは返らない。今更答えるまでもない確認に過ぎなかったからだ。
 よもやトリステインで蜂起するとは。会議の場に座す者たちは誰もが苦虫をかみつぶしたような顔で呻きを上げる。
 すべては想定の埒外にあった。

(結局は……自国内から叩き出せた時点で、油断しきってたってことなんだろうな)

 相手はあの狂王だと言うのに、あまりに油断が過ぎた。ウェールズはわずかに目線を下げ、肩を動かす。するとゴキリと嫌な音が響いた。どうにも疲労が肩に来ているようだ。思わず溜め息が口をついて出る。

 もちろん、隣国の管理態勢の不備からきた危機にまで、いちいちアルビオン側が配慮してやる義理はない。ないのだが、貿易を稼ぎ頭とするアルビオンにとって、隣国トリステインが狂信者共の手に落ちることは自国にも深刻な影響をもたらす。否応でも意識せざるを得ない事態だった。

 嫌な沈黙が支配する会議の席上を見回す。
 現状の認識が十分浸透したことを確認すると、ウェールズは顎先で組んだ腕を外し話を切り出す。

「こちらとしては、もう国境線ギリギリなど超えた先、直接戦場に援軍送りたいところなんだが……」

 ウェールズはこれまでトリステインに直接的な援軍を差し向けることが何より重要だと主張してきた。
 トリステインが落ちた場合の危険性は誰もが認識するところである。直ぐに認められ、父王からも必要な動員の権限を与えられ、今回の対策会議の開催へと到ったのが現状だ。
 しかし、

「現場の担当官曰く、トリステイン側の一部高官がかなり渋ってるそうですからねぇ」

 いやはやどうしたものか。情報部門を統括するバーノンが呆れ顔で肩を竦めてみせる。だが、その瞳は確かな苛立ちを発していた。

「内政干渉に当たる、か」

 自国内の戦力だけで押し返せると踏んでいるのだろうが、はたしてそれはどうかな。ウェールズ自身もトリステイン側の対応は疑問だった。

 確かに、内乱で他国の戦力を当てにするのは失格と言える。だが、アルビオン側にとってトリステイン王軍が敗れた場合のリスクは計り知れないものとなる。それは当事者たるトリステインにとっても言うまでもないこと。

「だからこそ、ここはさっさと援軍派遣して戦局を覆すのが一番なんだがな……」

 利用できるものなら、何であれ利用すればいいものを。そうした認識を一致させる者たちばかりが揃う場だ。自然、会議に隣席する者たちも苛立ちを隠せない。

 ウェールズは父王に申し出て、今回の件に関して全面的な裁量権を獲得している。外務卿に対してはトリステインにありとあらゆる経路を使って援軍の申し出を受けさせろと指示を下していたが、既に述べた通り、トリステイン側の反応はいつまでも鈍いままだった。

 これに業を煮やしたウェールズは半ば強引に援軍派遣の件を押し進め、既に国境付近に送り出した艦隊群だけでも王軍と合流させるべく、マザリーニ枢機卿らトリステイン首脳陣に何度となく打診を繰り返していた。

 だが、この援軍合流の申し出すらもが、ケンモホロロに退けられた。

 トリステインの高官の一人が内政干渉に当たるとして、意固地なまでの態度で申し出を拒絶してのけたのだ。そうした動きの中心となり、周囲へ働きかけた者の名も判明している。その人物の名は、リッシュモン。トリステインにおいて高等法院長を努める宮廷内の有力者。

 原作においては、レコン・キスタに与して情報を流していた人物である。

「ふっ……こんなことならマザリーニ卿にちくって粛清して貰っとけば良かったよ……」
「まあ、内通者と知りながら情報ルートを把握するため放置して、さんざん利用してきた私らが言えた義理じゃないでしょうけどねぇ」

 バーノンがぼそりと真理を呟いた。これにウェールズは聞こえない聞こえないとあさっての方向に顔を背けた。

「ゴホン、あー、それよりもだ。現状の問題は、もはやこんな小物の動きと関係ない地平にあると言える」
「王軍の対応が思いのほか迅速だった点ですね」
「ああ、そうだ。防衛線が構築できてしまっている点だよ」

 そう、真の問題は、今のところトリステイン王軍だけで、まがりなりにも戦線を維持できてしまっている部分にあった。
 これではトリステイン側としても、アルビオンの援軍なしに内乱を鎮圧したくもなるだろう。そんな微妙な戦線が展開されていた。

「これは、かなり厄介だな」
「ええ。おそらくトリステイン王軍の司令官は、このままでも勝てると踏んでいるのでしょう。しかし、連中の蜂起の裏側まで知る我等からすると、かなり危うげに見える」

 以前のレコン・キスタの裏にガリアの暗躍があった事はアルビオン内では公然の秘密となっている。
 だが、周辺諸国にそのような認識はない。

 今回の新生レコン・キスタはトリステインの西部地方を拠点にしている。
 きな臭いことに、その更に後方はガリアへ繋がる。

 現状では一見するとトリステイン王軍側に流れがあるようにも見えるが、連中がそう偽装しているとしたら?
 西部地方に引き込まれた王軍に対して、ガリアの両用艦隊が側面から攻勢を仕掛けた場合、王軍は呆気なく壊滅するだろう。

「……そこまで思い切り良くあの狂王が表舞台に上がるか、怪しいところではあるがな」
「しかし、懸念は懸念。十分にあり得る事態かと」

「不幸中の幸いとしては、タルブ地方が策源地とされる前段階で、偶然かの地を訪れていた魔法学院の生徒達から、反乱軍蜂起の情報が中央に伝えられたことぐらいか」
「おかげでアルビオンとしても、ヴァリエール公の編制した諸侯軍にいくらか兵力を託せましたしね」
「だがその情報の結果、現状があるとも言える」

 沈痛な沈黙が会議室に降りる。

「指輪が確保できなかったのも痛いですね」

 クロムウェルの遺体から指輪が回収される事はついになかった。おそらくは、今回の争乱の裏にも暗躍する影。そいつがレコン・キスタ壊滅寸前に回収でもしていたのだろう。風石などと同様に、水の精霊の力を秘めた道具だ。いずれ打ち止めになるだろうが、今回の一戦程度なら、余裕で活用することもできるだろう。


 結局、会議は何ら進展を見せることなく閉会した。


 自らの執務室に戻ったウェールズは、今後の展開を想い溜め息をはく。

「なかなかどうして、そう上手くはいかないものだよな」
「ですな。まさかこのような手を打って来るとは」
「トリステインを狙うか……油断が過ぎたようだ」

 トリステインはアルビオンの友好国の一つであり、最も盛んな交易相手でもある。
 ゲルマニアとも取引はしているが、長年の付き合いから国民が親しみを抱くのはトリステイン側になる。
 反乱軍がレコン・キスタを継ぐものである以上、トリステインを飲み込み体制が整えば、直ぐさま次はこちらを狙ってくることはわかりきっている。

「ところで殿下、一つ宜しいでしょうか」
「ん、なんだよバーノン?」

 不意に上がった問い掛けに、ウェールズは思索を中断して視線を部下に戻す。

「一つだけ、どうにも意図が掴めない指示があったもので。できれば殿下の真意をお聞きしておきたいなぁと」
「お前にしては珍しく直球な問い掛けだな。まあ別にいいけど、それで?」
「トリステインでは希少な『連絡会』の構成員を動員してまで行った指示の一つ、『ヴァリエール家の三女とその使い魔の少年の動向に注目せよ』。あれはいったい如何なる意図があったのでしょう? ヴァリエール家の方はまだわかりますが、なぜ、平民の少年を?」

 さして目を集めるものもないかと思われますが。心底不思議そうに尋ねるバーノン。
 これにああそのことかと、ウェールズはわずかに目を瞑る。どう答えるべきか。考えた末出てきたのは、簡潔な一言だった。

「……伝説、だからな」
「は?」

 呆気にとられたように目を見開く側近に、ウェールズは話はそれで終りだと首を振る。

 アンリエッタと交わした文通で、トリステイン側にもなにを意味するかは別にして、王家における始祖の祈祷書と指輪の重要性だけは伝えてある。最悪の場合は、ヴァリエール公爵家の三女に秘宝を託せとも。

 上手く行けば始祖の秘宝を反乱軍に確保されるという、最悪の事態だけは防げるだろう。だが、その分、王軍そのものへの追求もまた激しいものになるだろう。

 もはや認めざるを得なかった。これまでウェールズが行ってきた強引な施策が上手く行っていたのも、それが国内であったという要素が強い。他国への干渉ともなれば、やはりそれ相応の手順が必要となり、そうした分野に関する経験が、いまの自分では浅過ぎると。

「なにかも一人でやれる、なんて絵空事は考えちゃいないつもりだったが……それでも、歯痒いな」
「それが王たる者の向き合うべき重責、というものなのでしょうな」
「お前の言うことはいつも正しいよ。ああ、正しすぎるほどにな、バーノン」

 トリステインに送り出した援軍を合流させる見通しも立たぬまま、戦局は更に動き続ける。

 何ら有効な対策をうてない現状の歯がゆさに、ウェールズは額を押さえ低く呻いた。




              【3】


○ アンスールの月、ヘイムダルの週、ラーグの曜日。トリステイン王軍防衛線、ヴェル・エル街道方面軍。


「しかし、酷ぇ状況になったもんだ」

 多数の離脱者を出したおかげで、この防衛線において実質的なトップを急遽務める形となったギンヌメールは、いまだ急拵えの陣地を見て回る。彼の姿を見た兵士達が次々と敬礼を捧げた。

 反乱軍側が積極的な攻勢に出ず周辺の取り込みに回っている現状、王都へ続く大街道は死守すべき要衝となっている。
 蜂起の情報が事前に王都へ伝わり、それなりに対応の時間が取れたため、ギンヌメールの目から見ても、急拵えのわりに陣地はそれなりに見れたものになっていた。

 もちろん完全とまでは言えず、軍としては無視していい程度、小規模な兵数が後方に抜けることはあった。
 だが、それも王都に展開する部隊で対応できる程度の数でしかない。

「腐れ反乱軍の野郎どもが糞面白くもない事態を目論んでくれたおかげでこちとら糞安眠もできやしねぇ」
「確かにそうですが……ギンヌメール将軍、それは口が悪すぎるかと」
「そんなの知ったことかよ」

 呆れ果てたと副官が冷めた眼差しを向けるが、ギンヌメールの腹の虫は治まらない。

「戦況はそれなりに均衡してるようだが、今後のことを考えれば頭が痛い」

 何しろ事が内乱だ。いくら憂国の士を名乗ろうが、やつらは視野が狭すぎる。
 トリステイン一国のみで国が立つならそれもいいだろうが、いつ他国が干渉するかわかったものではない。
 聖地奪還だとかいう大義名分にしたところで、怪しいものだ。

「腐れ反乱軍を率いてやがるポワチェの野郎は、元帥になりたくて仕方ないガキみたいに権勢欲の強いやつだったからな」
「向こうでは戦後の空手形がさぞ連発されてるのでしょうな」
「ふん。そんなところだろうな」

 忌ま忌ましい話だ。どれだけ空手形を乱発されたところで、内乱で消耗したトリステインの戦後など自分は考えたくもない。
 どうにか王軍側の勝利に終われば体裁もつくだろうが、仮に反乱軍側が勝利したところで周辺国が黙っていまい。
 なにしろ名前が神聖レコン・キスタ。苦い経験のあるアルビオンなど、あちらが勝利でもしたら、それこそ直ぐさま目の色変えて攻め込んで来てもおかしくない。

「ん?」
「どうかしましたか?」
「いや……」

 それぐらいのことは連中もわかっているはずだ。なら、何かしらの当てがあるということか? 連中がこれだけの準備が出来たのは、まあ、今のトリステインの内情を鑑みれば理解できなくもない。だが、はたしてそれだけか? 王軍の物資を横流して貯め込んだにしても限界はある。

 ギンヌメールが参謀の意見も交え、本格的にこの懸念を詰めようか。そう考え始めたそのとき、兵士の一人が慌てて駆け寄ってくるのが視界に写る。確かあれは偵察に出した飛竜部隊の一人だったはずだが。

「ギンヌメール将軍!」
「今度はいったい何だ?」

 あまり後方で慌ただしくされるのは好ましくないんだがな。そう考えながら、顔には一切出さず報告を促す。

「ヴェル・エル街道南西、シュルピス駐留軍が全滅しました!」
「くそっ、またか、、、 !」

 ギンヌメールは額を押さえ天を仰ぐ。

 街道の要衝に関して言えば、防衛線はほぼ完全に近い形で維持されている。それは良い。
 だが、そこから僅か一歩でも前進すれば話は一変する。

 主要街道から前進させた部隊が、敵勢にのまれた領地を確保する。ここまでは変わらず問題ない。
 問題は確保が終った後。領地を維持する部隊を選び、さらに先へ部隊を侵攻させた段階だ。

 主要街道の先、確保した領地を任された駐留部隊。彼らは一定の間隔で『謎の襲撃』を受けていた。
 『謎の部隊』など腹を抱えて笑いたくなるネーミングだが、そうとしか言いようがないのだから仕方ない。

 なにしろ襲撃を受けた部隊は、ただ一つの例外もなく全滅しているからだ。それも一般的な意味で、生存者0の全滅。
 もちろん襲撃を受けないこともあるが、襲撃を受けたならばそれ以外に結果は存在しない。

「連中、いったい何を考えてやがる?」

 そもそも街道に展開する防衛線の維持や、領地の確保そのものを任せている大部隊に関して言えば、それなりに抵抗を受けはするものの、そこまで攻撃力のある部隊と遭遇することなく、敵勢を打ち払うことに成功している。

 あまりにも不可解な動きだったが、防衛線の維持という大前提が成功している以上、全体から考えれば無視しても問題ないとも言えるかもしれない。
 だが、長く戦場に立つギンヌメールのカンは、そこに見逃すべきでない不吉さを感じていた。




              【4】


○ アンスールの月、ヘイムダルの週、ラーグの曜日。ヴェル・エル街道南西、シュルピス駐留軍駐屯陣地


 突如として陣内に突撃したゴーレムが腕を振りかぶる。悲鳴を上げる間もなく兵士が潰れ挽き肉となる。
 周囲の陣地から火線が集中されゴーレムを狙うが、撃破するには至らない。
 荒れ狂うゴーレムの猛攻に、兵士が次々と殴り、潰され、引き千切られ、無残な屍を晒していく。

「っ隊列を維持して脇腹を狙え!」

 降り注ぐマジックミサイルの雨、大砲の弾幕が一層に厚みを増す。だが相手はゴーレムとは思えぬ驚異的な身軽さを発揮。まるで人間のようにジグザクと巧みに動きを変え射線を外す。

「動きがっ、速過ぎる……っ」
「ありゃいったい何なんだっ!?」

 新たな陣地にゴーレムが走る速度を維持したまま突っ込んだ。振り上げられる拳。ついで沸き上がる悲鳴。ぐちゃりと肉の潰される嫌な音が、戦場に立つ兵士たちの耳に残る。

「ちくしょうっひでぇっ! こりゃ第七陣地の奴らが喰われるのも時間の問題だぞっ!」
「くっ、第七陣地を放棄! 止むを得ん、陣地ごと攻撃しろ!」

 動きの止まったゴレームの存在する陣地に向けて魔法と砲撃が降り注ぐ。
 あまりに集中された火線の凄まじさに一時的に視界が効かなくなる。
 数峻の間、戦場を覆う土煙が晴れた。そこには無残に崩れ落ちたゴーレムの残骸があった。

 強敵の撃破に戦場を安堵が包む。

 だが、それも束の間。

「なっ!?」

 新たに現れた総数6体、、、、 にも及ぶ新型ゴーレムが、それぞれ砲撃を加えた陣地に突進する。

 それが、この部隊の兵士たちが立った、最後の戦場になった。

 ヴェル・エル街道南西部、シュルピス駐留軍の展開陣地は血に染まった。



              * * *



「そう、目撃者は残らず殲滅できたのね。ええ、わかったわ。後の指示は追って出す」

 一時的な待機を命じスキルニルとの接続を切る。シェフィールドは各地で手足となる傭兵達から送られた情報を統合し、派遣された新型ゴーレムの上げた目覚ましい戦渦に微笑んだ。

「ヨルムンガントの運用法もだいぶ確立できたようね」

 平野部においては、一部砲兵の集中された弾幕によって撃破されたものが出たという報告もある。
 だがシェフィールドは、撃墜されたことそのものはさして問題視していなかった。

「やはりヨルムンガントの機動性がもっとも活かせるのは、起伏のある地形における運用かしら」

 むしろ僅かばかりの犠牲で今後の運用上における問題点が洗い出せた方が大きいとすら考えていた。

 所詮は、今回のトリステイン内乱とて戯れの一つ。盤上の指し手達へ、自分たちの存在を知らしめる宣戦布告の場にして、いずれ巻き起こる更なる争乱を見据えた新兵器の実験場に過ぎない。

 だがそんな戯れ一つですら、トリステインはこのありさまだ。仮にいまだ現状を覆しうるものが居たとしても、もはや手遅れの一歩手前まで来ていると考えていい。

「さて、どうするトリステイン? もはや、後がないわよ」

 嗜虐的な興奮に頬を染めながら、戦場の全てを握る者は一人、艶然と微笑んだ。



              【5】


○ アンスールの月、ヘイムダルの週、ダエグの曜日。トリステイン王都近郊、王軍駐屯地



 ヴァリエール公爵家率いる諸侯軍も合流し、再編されたトリステイン正統政府率いる王軍駐屯地。
 艦隊総指令にはラ・ラメー伯爵が、トリステイン艦隊旗艦『メルカトール』号艦長には歴戦の提督フェヴィスが任命された。
 地上軍においても、王族たるアンリエッタ自らが最高司令官として陣頭に立ち指揮を取ることを名乗り上げ、王軍全体の士気を鼓舞している。

 だが、首脳部の現状認識は暗澹たるものだった。

「敵の狙いは、各防衛線に分散した王軍の隙間をぬって浸透した兵力を使い、直接王都を落とすこと……」

 青ざめた顔でアンリエッタが敵の狙いを理解する。

「くっ、ヴェル・エル街道に派遣された兵力も戻せない。戻せば、街道を今もなお攻め立てる奴らをみすみす呼び込むようなもの。しかし、このままぶつかったところでこちらも……」

 アンリエッタの脇に控える近衛軍マンティコア隊隊長ド・ゼッサールが呻く。

「……目に見える戦果に惑わされたか」

 マザリーニ枢機卿が静かに額を押さえた。

 トリスタニアに通じる街道に派遣された将軍達。彼らは大過なく任務をこなしていると言えた。
 だが、街道に詰める彼らにも、街道の完全な遮断は望めない。それこそ軍としては無視していい程度の兵力なら、王都側にも対応可能と見逃すのも仕方なかった。

 王都に陣を構える王軍側とて、ただ座して浸透する敵勢を見守っていた訳ではない。
 当初は王都へ浸透した勢力など、それこそ簡単に蹴散らせる程度のものでしかなかったのだ。ここに至るまで少なくない数の兵数を討ち取っている。

 だが、その程度の損耗は折り込み済みであったということだろう。

 討ち取っても、討ち取っても、流れ込む。集結する。浸透する。兵力は増える。増え続ける。

 各主要街道、それぞれの防衛線から見れば、見過ごして問題ないと考えられる程度の兵力が、絶えることなく道筋を変え、各方面から流れ込む。

 ようやく何かがおかしいと気づいた頃には、流れ込む兵力は王都に展開する王軍の対応限界を超えて膨れ上がり、王都近郊に王軍と直接対峙することすら可能な反乱軍の陣地が構築されていた。

 慌てて王都上空に控える艦隊を動かそうとしたが、僅かに遅かった。
 艦隊の動きを察するや、王都に展開する艦隊と同数の航空戦力までもが戦線に加わっていた。
 あまりに機を見た動きに、おそらくこれら艦隊は今回の挙兵前から、あらかじめ防衛線内のどこかしらの領地に伏せられていたものだろうと分析されている。

 集結する反乱軍の動きに何一つ対応出来ぬまま、改めて現状を理解したトリステイン王軍首脳陣は絶句した。

 もはや王軍側は不利を承知ながら、敵勢力のこれ以上の浸透を許す前に、一刻も早い決戦を相手に挑まざるを得ない状況が、いつのまにか構築されていたのだ。

 各街道に派遣された将軍が現状に気づき、今から取って返したところで、もはや戦場の決定的な場面には間に合わない。
 更に言えば、いまだ各街道を攻め立てる反乱軍とて消えていない以上、そもそも動くことすら期待できないだろう。

 兵士の犠牲すら折り込んだ非情の策。
 だが、戦略的な数の利を押さえられた王軍に対しては、あまりにも有効で、悪魔的な策だった。



              * * *



 両軍が互いに睨み合う平原。期せずして決戦前夜となった王軍側の大天幕の下、盛大な夜会が開かれていた。
 そんな人々が杯を交わし合う会場の片隅に、アンリエッタとルイズの姿はあった。

 アンリエッタはそっとルイズの手を取り、始祖の祈祷書と指輪を預け渡す。

「姫さま、これは……?」
「ルイズ、あなたもまた王家の血を引く公爵家の人間。もし私が敗れたなら、アルビオンの支援を受け、公爵家が立ちなさい」
「そんな……っ!?」
「貴方に対して、王位継承第三位を授けます。既に宮廷への根回しは済み、これはマザリーニも同意したことです。ルイズ、あなたには力がある」
「そんなこと、そんなこと……」

 事態の急変について行けないルイズの手を両手で包み込み、アンリエッタは最後の別れを告げる。

「いまは信じられないかもしれません。それでも、私はあなたを信じていますよ。ああ、ルイズ。私のお友達。どうかウェールズさまには、アンリエッタは最後まで諦めることなく戦ったと、そう伝えてね」

 そう言い含めると、アンリエッタはルイズに背を向ける。
 最後の一戦を前に、開かれた夜会は盛大に進み行く。
 おそらく、明日の戦場を共にする方々の激励に向かったのだろう。

「どうして……どうしてよ……」
「ルイズ……」

 血の滲む拳を握りながら、俯いて震えるルイズ。ひどく小さな身体だった。
 才人は掛けるべき言葉を迷いながら、口を開く。

「お前、姫さんとは幼馴染みなんだよな」
「ええ、そうよ。おそれ多くも私を友と呼んで下さった。それなのに……っ! なんで……どうして私は……姫さまの力になれないの……っ!?」

 瞳に涙を滲ませ、才人の胸を拳で叩きながら、絞り出すような慟哭は響く。

「なんで、私は……っ、ゼロなのよ……っ!!」
「ルイズ……」

 サイトはルイズの震える肩に手を回し、そっと抱きしめた。


 夜会は続く。


  1. 2007/07/18(水) 00:30:00|
  2. ジャンク作品
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:27

コメント

続きにwktk
  1. 2010/07/03(土) 14:55:38 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

1ゲット!?
更新お待ちしておりました~
まさかのここでヨルムンガンド投入
ガリアが本気すぎるwww
  1. 2010/07/03(土) 21:08:16 |
  2. URL |
  3. もくじん #mQop/nM.
  4. [ 編集]

リッシュモンかー
確かに、残っていれば、物凄く厄介な存在ですね
というか、それがいたとしても、アルビオンの援助を得る決断を下せなかったトリステイン首脳部が一番悪いんだけど

しかし、原作ではアルビオンに侵攻したポワチエがな…
これで勝ったとしても、トリステインは最初の始祖由来の王族を殺したとして、相当な事になるだろうし
ヴァリエール公爵家が後を受け継いだら、アルビオンやゲルマニアの援助も得るだろうし…
むしろ、ここで雑魚滅んだ方がいいのかも
  1. 2010/07/04(日) 00:04:13 |
  2. URL |
  3. 雷帝 #M51o6Fmk
  4. [ 編集]

\(^o^)/更新おめでとうございます。待ってました。
原作のアルビオン来襲の時よりずっと良い状況なのに、あっさりやられてる王軍。正直、脆すぎる。
ていうか、これはひょっとするとアンリエッタに死亡フラグ?
そして、ルイズが王になるのだろうか?
いずれにせよ、次回楽しみにしてます。
  1. 2010/07/04(日) 00:56:05 |
  2. URL |
  3. きしめん #-
  4. [ 編集]

更新ktkr!!
この時期に更新とか某えるしおんの感想でファンであるという感想を読んでやる気出したとしか思えないwww
  1. 2010/07/04(日) 20:24:51 |
  2. URL |
  3. iko #z8Ev11P6
  4. [ 編集]

更新キターーーーー!!!!
ゼロ魔SSはここのが一番好きなんです、自分。
  1. 2010/07/04(日) 21:02:50 |
  2. URL |
  3. shirokuma #OPKFkzkg
  4. [ 編集]

更新キターーーーー!!!
ゼロ魔系のSSの中でもお気に入りなのでうれしいです。
トリスティン側は見事に戦略的敗北をしましたか。ジョゼフがアルビオンでの「敗北」を教訓にしたのか本気を出してきたようですね。
うん。何回読んでも見事なトリスティン滅亡フラグです、本当にありがとうございました。いや、ルイズの手に始祖の祈祷書と指輪が渡ったということは、まさかの逆転フラグかも・・・
原作が完全に崩壊し、まったく先が読めないだけに次の更新が楽しみです。
  1. 2010/07/05(月) 12:28:36 |
  2. URL |
  3. オカムー #-
  4. [ 編集]

更新乙でした!
ってヨルムンガントで浸透強襲ですか
シェフィールドのスキルが気になります
  1. 2010/07/06(火) 00:26:11 |
  2. URL |
  3. 名無しさん #-
  4. [ 編集]

更新きたーーーーーーーー!!!
待ってました!
やっぱりゼロ魔ではここのが一番面白いですね!
続きも楽しみにしてます!!!!
  1. 2010/07/06(火) 09:45:45 |
  2. URL |
  3. #ehYc0iXc
  4. [ 編集]

アンリエッタはウェールズ争奪戦に入って欲しいので
是非とも生き残って欲しいw
  1. 2010/07/07(水) 07:12:54 |
  2. URL |
  3. ピロシキ #BbTkef3A
  4. [ 編集]

うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ続き更新きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

超面白かったです
続き期待してます

個人的に、ルイズがアルビオンで貴族になる話しとかだと面白そうだと読んでて思いました
そうなったら、やっぱり親心からルイズ以外のカトレアやらエレオノールだっけ?
ほかの姉妹もそのまま移ってくるんでしょうか

いやぜひアルビオンに来て欲しいですね

しかしフラグを回避したと思ったら、
レコンキスタの国が原作と違う場所で出来たってだけかーって何ってる主人公と

アルビオンで貴族になったルイズ達とが親しくなり、いっしょに戦う主人公
ナイスな展開ですね

サイトがアルビオンに来たら,日本食やら日本の調味料に歓喜しそうだww
そういう番外編とかも期待できそうだし


つづきが1年後に何っても待ってるぜ
と言いたい所だけど、前話よりもつづきが気になるだけに
できれば近いうちにつづきが読みたい

とはいえ無理せず、マイペースに頑張って下さい
無理して更新凍結、閉鎖とか悲しすぎるんで

では失礼します
  1. 2010/07/08(木) 06:56:13 |
  2. URL |
  3. ボイス #7G.FTnRs
  4. [ 編集]

更新乙です

待っておりました。
来る日も来る日も、更新チェックを欠かさずにいた自分へのご褒美だと思い、喜んでいます。
神様、いや、作者様、ありがとう。
  1. 2010/07/09(金) 23:09:33 |
  2. URL |
  3. Cocco #WCSj23LI
  4. [ 編集]

ゼロ魔SS屈指の深み

 まさかまさかの展開…。虚無と秘宝を集めて、イギリス正教会的な流れになるのかなあ? さらに、エルフとの親交も行い、異端判定を受けるのか……。

 しかし、やっぱりこの世界の主人公はルイズなんですね。なんて劇的なんだろう。番外でワルドの裏切りと虚無の目覚め辺りは詳しく書いて欲しいな。
  1. 2010/07/10(土) 16:06:26 |
  2. URL |
  3. 凡士 #.eQIPYcs
  4. [ 編集]

ださふぁ

まさかウェールズとアリエッタの立ち位置が逆になるとは・・・・・。
しかしここからウェールズ主導三行逆転が始まるハズ・・・・!?
  1. 2010/07/13(火) 13:19:24 |
  2. URL |
  3. fda #E6kBkVdo
  4. [ 編集]

ども

どうも、初めまして
いつも楽しみながら読ませてもらっています。

今回は一つ質問みたいなのがありまして。
ルイズがアンリエッタを「アンリエッタさま」と呼ぶのに違和感を感じたのは自分だけですかね?
いつも「姫さま」って呼んでた気がしまして。
間違ってたらすいません
  1. 2010/08/12(木) 00:25:25 |
  2. URL |
  3. ノボー #-
  4. [ 編集]

うわっ

原作じゃサイコロに従ってた狂王がライバルを自覚して本気を出したって事ですかねぇ
狂気に満ちた天才ってやっぱ手に負えないや
  1. 2010/08/14(土) 20:57:47 |
  2. URL |
  3. #uZ4ICUpk
  4. [ 編集]

ここの作品を思い出せなくて、
「みそ アルビオン」
と検索したら、トップで見つかった。

エルフの手のものの仕業か!?
  1. 2010/08/18(水) 00:51:25 |
  2. URL |
  3. 竹相 #0Kfz8eJg
  4. [ 編集]

イヤッッホォォォオオォオウ!!更新きてたあああああああ!!
お待ちしておりました…などと三ヶ月遅れで言ってみる。
いやー、今回の話も面白かったです!次も楽しみに待っています。
  1. 2010/10/03(日) 02:12:20 |
  2. URL |
  3. たま #heXlhr0E
  4. [ 編集]

うおおおおおおおお

更新!更新だぁ!

ここのSSは深みがあるので大好きです!
これからも楽しみにして待っております、何年でも待っております
  1. 2010/11/21(日) 21:12:34 |
  2. URL |
  3. 爆散ゴロー #/2xhchfw
  4. [ 編集]

ら・らめええええええええええwwww
  1. 2010/12/26(日) 01:02:07 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

ここまで一気に読ませていただきました。次回の更新、楽しみにしております。
  1. 2011/03/22(火) 00:49:37 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

更新再開をお待ちしてます。
  1. 2012/05/20(日) 19:40:48 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

続きまだかなー
  1. 2012/10/23(火) 22:12:00 |
  2. URL |
  3. #pwutJTUc
  4. [ 編集]

つづき (;_;)/**
  1. 2013/02/06(水) 00:22:24 |
  2. URL |
  3. ばるさん #PF.ZDgLQ
  4. [ 編集]

読み終わったー
次話の更新を楽しみにして待ってます!
  1. 2013/05/19(日) 05:03:13 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです
  1. 2015/04/01(水) 18:47:13 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです
  1. 2015/08/21(金) 09:32:37 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可(誤字・脱字等の報告を下さる場合は、チェックして頂けると幸いです)

トラックバック

トラックバックURL
http://suimin5088.blog58.fc2.com/tb.php/348-8c192c87
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
書庫へ戻る |  日記過去ログ |  ジャンク作品目次 |  アビス一覧目次 |  お勧め一次創作 |  お勧め二次創作 |  掲示板 |

FC2Ad


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。