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──A.L.M──

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第2話 「予期せぬ再会」


 まず視界に飛び込んだのは、緑の広がる大地。
 一瞬の浮遊感の後、俺の身体は湧き水の中心に出現した。


「──って、いきなり水の中かよっ!!」


 濡れるっ、と悲鳴を上げる俺に、ティアが落ちついた声音で告げる。

「大丈夫。セフィロトが吹き上げる力で水を弾くから、濡れることはないわ」

 言われて見れば、湧き水の中心に突っ立っているというのに、全然水に濡れたような感じはしない。セフィロトの摩訶不思議な効果に感心しながら、俺は湧き水から外に出る。

 湧き水の漏れ出す場所を中心に、周囲は崖のようなものに囲まれている。教団が長い間秘匿していただけあって、一般人がこの道に気付くのは至難の業だろうなぁ。

「なんにしろ、ここが……あらめの湧水洞か?」
「アラミス湧水洞」

 俺がうろ覚えのまま口にした単語を、ティアが冷静に訂正する。

「ぐっ……ちょ、ちょっと言い間違っただけだ」
「もう誤魔化さないんじゃなかったの?」

 さらりとした口調で、正確無比に俺の急所を射抜く。

 これには俺も頭を掻きむしって叫び返すしかない。

「だぁー! 俺が忘れてましたよ! ……これでいいかよ?」
「それはあなたの決めることでしょう?」
「……ホントお前、相変わらずキッツイよな」

 半眼を向ける俺に、彼女は軽く肩を竦めて見せた。

 ……というか、むしろこれまで以上にズケズケものを言われるようになった気がしてならない。これは気のせいじゃないはずだ。やはり、あの誓いのせいなんだろうか?

 ……早まったか、俺?

 少し本気で考え始めた俺を無視して、ティアが先を歩く。
 動かない俺を振り返って、彼女は口の端に微かな笑みを浮かべて問いかける。

「どうしたの? 行きましょう」

 その笑みに一瞬呆気にとられる。だが、すぐに俺も理解する。

 ……そういうことかい。

 がくりと肩を落とし、俺はうなだれる。ようするに、俺は彼女にからかわれていたわけだ。

「ご主人さま、行かないですの?」
「わかってるっつーの!」
「みゅ、みゅ、みゅ~っ!」

 俺はミュウの身体を抱き上げて、乱暴に耳を撫でまくる。すぐ隣にいたコライガびっくりしたように耳を逆立て、おろおろと俺の回りを彷徨う。

「やれやれ……とりあえず、がんばろ」

 いろいろな面で、俺は気持ちも新たに一歩踏み出すのであった。




              * * *




 洞窟内は魔物が出るとは言っても、それほど手こずるような相手はいなかった。そこそこ気楽に進み行き、俺は久しぶりに味わうのんびりした空気を満喫していた。

「……ルーク、少し気を抜きすぎよ」
「ん、そうか?」

 頭の後ろに腕を組んだまま俺は振り返る。視線の先でティアが腰に両手を当てて、俺を睨んでいた。

 そうよ、と短く答える彼女に、俺は少しの気まずさを感じながら、頬をかく。

「ま……言われてみればそうかもな。あのときから考えれば、ようやく落ち着けたようなもんだし」
「……ごめんなさい。私、無神経だったわね」
「あー……いや、そこまで気にする必要はねぇよ。ちょっと、これからのこと考えてただけだって」

 責任感の強い相手の言葉に苦笑しながら、俺は否定を返す。

 ティアは少しいろんなもんを気負いすぎる傾向がある。気が利くのはいいことだが、それでも常に神経を張りつめていたら、身体が持たないだろう。
 ……まあ、アクゼリュスを壊滅させた俺なんかが言えた義理じゃないけどな。

 それよりも、外に出る前に聞いておきたいことがある。

「港に着いたら、とりあえずどうする? ティアはなんか考えあるか?」
「そうね……まず大佐達と合流するのが先決だと思うわ」

 うん。やっぱりティアもそう思うか。

「やっぱそうだよな。ヴァンの動向を探るにしても、アッシュと先行してる大佐達が、なんか情報仕入れてる可能性が高い。できることなら相手の場所を確認とかしときたいが連絡する手段は無いし……現状で一番皆が居る可能性が高いのは、マルクトのグランコクマってところかね?」

 いつもは頭の中で一人グダグダ考え込んでるような事を口に出して、相手の意見を求める。

 そんな俺の問い掛けに、ティアが驚きに目を瞬かせている。

「……驚いたわ。意外と考えていたのね」
「僕も驚いたですの~」

 ミュウまで同意しやがった。もう、なんか、勝手に言ってくれって感じだよな。

「あー……そうかいそうかい。そうですかい」

 引っかかるものが無かったわけじゃないが、今までの自分の様子を考えればこんなもんか。

 コーラル城前でガイに注意されてから気をつけてはいたんだが、それでもほとんどの場合、一人頭の中で考え込むだけ考え込んで、結局は訳のわからん袋小路に陥って思考を放棄するのが常だった。

 誰かに自分の考えを口に出して伝えるようなことは、全くしていなかったもんなぁ……。

「一応言っておくと、これまでも考えるだけは考えてたんだぜ? まあ、それでも大して意味は無かったわけだが……。これからは積極的に、口に出して皆の意見とか聞くようにするよ」
「良いことだと思うわ」

 真剣な表情で頷いてくれるティアに、俺は気恥ずかしくなって顔を背ける。

「──ああ。随分と成長したな、ルーク」

 不意に、俺にとってよく聞き慣れたあいつの声が響く。

 ぎょっとしながら声の届いた方に顔を向けると、そこにそいつは立っていた。

「よっ、待ちくたびれたぜ、ルーク」
「ガイ……」

 気軽に手を上げて応えて見せる親友の登場に、俺はうれしさよりも困惑が先に立つ。大佐達と地上に戻ったと聞いていたのに、どうしてガイがこんなところに居るんだ?

「へー、髪を切ったのか。いいじゃん。さっぱりしててさ。……あん? どうした?」

 黙り込んだままの俺を不可解そうに見据えるガイに、俺もようやく口を開く。

「いや……お前、どうしてここに?」
「やれやれ。ここは普通、感動する場面だろ?」

 おどけた仕種で肩を竦めて見せるガイに、俺は混乱した頭のまま、ともかくその理由を尋ねる。

「いや……そんな冗談はともかく。なんで、お前ここに? アッシュと地上に戻ったって……」
「ヴァン謡将に関してある程度情報が集まったから、大佐達とは別れたんだ。ユリアシティから地上に戻るにはここを通るはずだって、アッシュのやつに聞いてな。お前達が来るのを待ってたってわけだ」
「アッシュが……?」

 あいつがそんな情報を洩らすとは……正直思いもしなかった。

 そんな俺の考えを察してか、ガイが苦笑を浮かべる。

「アッシュも複雑そうな奴だからな。ま、ルークもいろいろ思うところはあるだろうが、今回に関しては素直に感謝しとけ。おかげで俺と行き違いにならずに済んだんだからな」

 ガイと会話を続けるうちに、俺は気付く。再会してから一度も気負った様子も見せず、ガイはごく自然に俺の名前を呼んでいる。

「まだ俺を……ルークって呼んでくれるんだな」

 思わず洩らした言葉に、ガイが俺の頭をはたく。

「って! いきなりなにしやがる、ガイ!」
「あー!! もう、そんな自虐じみた言葉はお前には似合わない! とっとといつものように、アホっぽく、俺は俺だって胸張ってろ! 俺が親友になったのは、そんなお前だよ、ルーク!」

 捲くし立てられた言葉の内容に、俺は一瞬胸をつかれたように息を飲んでしまう。

「ガイ……こいつめっ!」
「ぐわっ! てっ、いきなりなにするよ!? 今、本気で殴ったろ!?」

 振りかぶった俺の拳に殴り飛ばされたガイが、顎を押さえながら声を張り上げる。

「うるせぇっ! この人タラシっ! なんか、思わず感動しちまっただろうがっ! 」

 怒鳴り返した俺の言葉を耳にして、ガイがぽかんと口を開く。

「……ルーク、ひょっとして、お前照れてるのか?」
「う、うるせえ! 確かに、グダグダ言っててもしょうがねぇよな。もうアホっぽく宣言してやるよ。
 俺は、俺だっ! ガイ……お前と親友になった、ルークだよ!」

 顔を真っ赤にして宣言した俺に向かって、なんとガイのやつは腹を押さえて馬鹿笑いを上げやがった。

「わ、笑うんじゃねぇよ!」
「ははっ、す、すまん。くくっ、もう、お前があんまりにもお前らしい反応を返すもんだから、つい」
「こ、こいつは……っ!」

 笑いの衝動が押さえきれないと言った感じのガイに、俺はふつふつと沸き上がる怒りを感じて両腕をわななかせる。

 そんな俺達のやり取りを、ティアは一歩引いた位置で、どこか微笑ましそうに眺めているのであった。




              * * *




「……ってなことがあったわけさ」

 とりあえず今後どう動くか決めるためにも、ひとまずガイの入手した情報を聞くのが先決だろうと全員一致で同意した。落ち着いて話せる場所を探し出し、これまでガイから話を聞いていたというわけだ。

 そして今、大方の情報を聞き終わった訳だが……

「地核から強制的に記憶粒子が引きずり出されちまうことで……」
「……パッセージリングの暴走と、それに伴う大地の崩落が引き起こされている」

 うーん、とガイから聞かされた情報の深刻さに、俺とティアは唸り声をあげる。

「他の地方が崩落する危険があるって、かなりやばくないか?」
「そうだな。アッシュに聞いた話だと、次はセントビナーが危ないらしい。それを聞いたから、大佐達も一旦帝都まで戻って、皇帝に崩落の危険を示唆して、救助隊を出させるとか言ってたな」
「……もう着いてる頃かしら?」
「いや……どうだろうな。途中タルタロスの修理で、ケテルブルクに寄ることになるかもしれないとも言っていたからな……。
 直接グランコクマに向かうなら、俺達がこれから後を追っても十分合流できると思うぞ」
「そう……」

 二人の会話に耳を傾けながら、俺はひとまずの決断を下す。

「……よし。一先ずグランコクマに行こう」

 二人の視線が俺に集中する。理由を尋ねる視線に、自分の考えを述べる。

「一応の理由としては、実際に崩落するにしろ、俺達だけじゃどうしょうもないってことがある」

 皆に言葉が浸透するのを待ってから、その先を続ける。

「次に崩落するかもしれない土地がマルクト領だってこともある。これはかなりデカイと俺は考えた。なんせ、ここに居るのは帝国側にはさして後ろ楯もない人間ばっかりだからな」

 それに……俺には少し気になっていることがある。それが解決しない限り、バチカルになんの備えもないまま戻る気にはなれなかった。

「確か……イオンも大佐に同行してるんだろ?」
「あ、ああ。そうだ」
「なら、やっぱりグランコクマに行くのが一番いいと俺は思うんだけど……って、どうした?」

 突然目尻を拭い始めたガイの奇行に、俺はぎょっとして言葉が止まる。
 ガイが俺の肩をポンポン叩く。

「いや、ルーク。お前、ほんと立派になったな」
「……馬鹿にされてるようにしか感じないのは、俺の気のせいか?」

 一人納得行かない俺と大げさに感動した素振りを見せるガイのやり取りに、ティアが微笑を浮かべる。

「彼、変わるんですって」
「……そうか」

 込められた意味を察してか、ガイが表情を少し引き締める。からかい混じりだった視線にも、今は真剣なものが混じっているのがわかる。……俺としては、むしろ冗談まじりの方がまだマシだったけどな。

 軽く首を回した後、俺は自分がどう変わろうと思ったか、ガイにも言っておくことした。

「償いの意味とかは……やっぱ俺にはまだよくわからねぇ。それでも、思考を放棄するのはもう止める。……コーラル城で折角ガイが忠告してくれてたのに、結局俺はこうなるまでわからなかったけどな」

 以前、突っ走った俺を諫めてくれたガイの言葉を思い出し、俺は少し顔を曇らせる。

「それでもわかったなら、まだ遅くないだろ? とりあえず、今はそれでいいんじゃないか?」

 俺の気を紛らわせようとしてくれるガイに、すまないと俺は小さく呟く。

 なんにせよ、落ち込んでてもなんも変わらんよな。俺は顔を上げて、気を取り直す。

「ともかく、やっぱグランコクマに行くのが一番いいと思うんだが……それで大丈夫そうか?」
「ええ」「異論はないぞ」

 間髪入れずに返って来た二人の答えに、俺も一先ず安堵する。

「それじゃ方針も決まったことだし、そろそろ外に出るか。ここら辺の港ってダアト港だったか?」
「ああ、そうだな。ここを抜けて、すぐにある」
「分かった。行こうぜ」

 こうして、俺達はアラミス湧水洞を抜けて、ダアト港に向かうのであった。




              * * *




「……なんか、空気がおかしいな」

 ダアト港についたところで俺は違和感を覚える。

 周囲を見渡すと、港の所々に人々が寄り集まって、ヒソヒソと言葉を交わしている。

「……崩落を理由に、キムラスカが戦争の準備を始めたとか……」
「……それにマルクトも警戒を強めて、近々港が封鎖されるそうだよ……」
「……おっかない世の中になったもんだねぇ。いったい預言ではどう詠まれているのやら……」

 耳をすませてみると、どうも戦争が起きるらしいとかいう噂が熱心に囁かれているようだ。

「……随分と物騒な噂だな」
「やっぱアクゼリュスの崩落で、社会的な不安が高まってるせいか?」
「……それだけじゃないかもしれない」

 ティアが暗い表情で顔を伏せる。ガイが怪訝そうに首を捻るが、俺にはその理由がわかった。

「そっか……スコアか」

 俺の洩らした言葉に、ティアが無言で頷いた。

「どういうことだ?」
「ガイにはまだ話してなかったけど、アクゼリュスの崩落は……預言に詠まれていたんだとよ」

 胸の内でくすぶる苛立ちが押さえきれなくなって、思わず言葉尻が荒くなる。

「なっ! それは……?」
「キムラスカとマルクトの戦争も預言に詠まれてるらしいわ。ローレライ教団は、預言を遂行するための道具だって、お祖父さま……テオドーロ市長は言っていた。大詠師モースが動いていたのも、戦争という預言を成就するため……」
「ヴァンが俺にアクゼリュスを崩落させたのも、同じ理由だ」

 言葉を無くすガイに、ティアと俺は淡々と告げた。

「……さすがに、俺も言葉が無いな」

「ああ。俺もそうだったよ。でも俺の方はまだいいとして、問題なのは戦争だ。俺達は今死んだことになってるけど……十分、開戦の口実になり得るんだよな、俺らのメンツって」

 重要人物勢ぞろいの仲間達の顔を思い浮かべる。特に、キムラスカ側からすれば、マルクトからの要請で送った王位継承者の親善大使を失ったことになる。宣戦布告するには、十分な理由だろう。

「……グランコクマには大佐が向かってるわ。それなら、私達が王国に向かうというのも一つの手よ」
「今からバチカルに戻って、説得か? うーん。ナタリアは居ないが、ルークの生存を知らせるだけでも、十分意味はあるかな? ファブレ公爵ならそれなりに影響力を持ってるけど……どうだろうな」

 ティアの提案に、ガイが難しい顔で腕を組む。二人の意見はどっちももっともだと思う。しかし、俺にはそれ以前の段階で、どうしても気になっていることがあった。

「……オヤジ達は、どこまで知ってたんだろうな」

 俺の言葉に、二人がはっと息を飲む。

「ずっと考えてたんだ。……俺が親善大使に選ばれた理由は、スコアに詠まれてたからだ。それって、どこまでを指してたんだろうな? アクゼリュスに赴いて……崩落して……戦争が起こって……キムラスカが栄える。一連の預言の流れは、テオドーロ市長の言葉から考えるとそんなもんだ。ひょっとして、オヤジ達は、すべてわかってた上で、俺をアクゼリュスに寄越したんじゃないかって……」

「……否定してあげたいけど、その可能性も否定できないわ」

 どこか痛ましげに瞳を伏せるティアに、俺もそのまま言葉を続ける。

「それに……うちのオヤジは公私を完全に切り換える。仮に、自分の息子の命が、王国全体の利益にとって効果的な切り札になりうるなら、あっさりと使うだろうな。そして、もし今回がそうだったなら、俺の帰還は決して喜ばれない。戦争を起こすための理由そのものが消えちまうことになるんだ。下手したら……」

「お前が生き残ったという事実そのものが……無かったことにされるかもしれないってか?」

 ガイの怒りを滲ませた瞳に、俺は笑みを浮かべて見せる。

「まあ、本当は全然そんなことなくて、心配してるかもしれないけどな」

 自分でも全く信じていない言葉を口にして、ひとまずこの話題は終わりだと意思表示する。

「……もしルークの推測が当たっているなら、やはり大佐達と……イオン様と合流するのが一番かもしれない。導師の言葉は一国の指導者であっても、そう無視できるものではないから……」

 少なくとも話を聞いてくれないということはないと、どこか言いにくそうにティアは締め括った。

 俺の答えを待つ二人に、俺も顔を上げて応える。

「とりあえず王都に戻るのは後回し。先に大佐達と合流して、帝国にはセントビナーの崩落に備えて貰う。戦争阻止に関しては、それから動く。……そんなとこでいいか?」

 俺の確認に、二人も頷いてくれた。

「じゃ、早いところ向かおうぜ、帝都グランコクマにさ」

 なるべく気楽に聞こえるように呼びかけたつもりだったのだが、それでも皆の表情は晴れなかった。




              * * *




 こうして俺達は定期便に乗って旅立ったわけだが、問題が無かったわけではない。俺達の乗った船は、なんとグランコクマに停泊できなかったのだ。なんでも非常時は要塞化されるらしく、現在帝都の出入りは制限されているらしい。俺達は船頭に相談して、ひとまずローテルロー橋付近で降ろさせて貰った。

 陸路で帝都に向かうにはテオルの森と呼ばれる半ば要塞化された森を通って行かにゃならんという話だ。そこでガイが大佐に認識票を貰っているから、これを見せれば通してくれるはずだと主張した。それなら試してみようと森まで進み、森の守備隊に認識票を提示した。

 それが、ついさっきの話だ。

「……それで、こりゃいったい、どういう状況だ?」
「はははっ。こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」

 額の汗を拭うガイに、俺とティアの冷たい視線が突き刺さる。

 現在、俺達は怪しい奴らだと見なされて、砦の一角に拘留されていたりする。

 それでも一応大佐の認識票が効いたのか、装備とかは没収されていないし、牢屋とかに閉じ込められてもいない。連行された部屋もそこそこ快適で、簡易取調室と言ったところだろうか。

「まあ、大佐の名刺がどうにかしてくれることを祈るしかないな」
「って、結局人頼みかよ! これでどうにもならなかったらどうすんだっつーの!」
「お、落ち着けルーク! く、首はやばい~!」

 無責任なことを抜かすガイを吊り上げて、激しく前後に揺すりまくる。

『あ~もう! さっきからそこ、うるさすぎっ!! 今度うるさくしたら……潰すよ?』

 隣の部屋からガンガン壁を殴る音と一緒に、やさぐれた発言内容の割には随分と可愛らしい声が届く。

 ……しかし、なんか聞き覚えのある声のような気がする。

「なあ、ちょっと隣、見て来ないか?」
「え? どうして?」
「いや、なんか妙に気になるというか……」
「喧嘩売るとかは、止めてくれよ」
「そんなことしねぇよっ!」

 ともかく、俺も理由はよくわからんまま、第六感の訴えに従って隣の部屋へと赴く。

 数度のノックの後、扉の内側から苛立たしげな声が返る。少し気まずさを感じながら、扉を開け放つ。

「って、アニス? それにイオンもかよ!? どうしたんだ、こんなところで?」

 扉を開けてみると、そこには見慣れた連中の姿があった。

 一番手前に居たアニスが、口元を押さえながら目を見開く。

「はわぁ。アッシュ? ……って、ルークか。髪切ったの? なんでチンピラがここに?」
「……なんか、アニス。お前変わったというか……むしろ地が出てねぇか?」
「え~? なんのこと? アニスちゃんわかんな~い」
「……」

 ま、まあ、もとからこういう奴だってのはわかってたから、別にいいけどな。

 完全に猫かぶり止めたアニスに顔を引きつらせていると、イオンが一歩前に出る。

「またあなたに会えてうれしいです、ルーク。どうやら……立ち直れたようですね」
「イオン……へへっ。まあ、いつまでも立ち止まっているわけには行かない……そうだったろ?」
「はい。これからもよろしくお願いします」

 言い笑顔を浮かべて、うれしいこと言ってくれるイオンの頭をポンポン撫でる。

「ルーク……ですの」

 部屋の一番奥に、ナタリアが立っていた。

「ナタリア……久しぶりだな」

 ナタリアとの顔合わせに、俺もぎこちなく片手を上げて応える。

 少しの沈黙の後、俺は頭を下げた。

「──ナタリア、すまねぇ!」
「──ルーク、ごめんなさい」

 俺達は同時に頭を下げていた。

『え……?』

 互いの行動の理由がわからず、俺達は顔を見合わせる。

「えーと、俺は……そのだ。自分は約束した相手じゃなかったわけで、それについてはナタリアに一度謝っとかなきゃいけないと思ったまでで……」
「私は……ずっとあなた自身を見ずに、記憶を取り戻させようとしていたことを謝らなければいけないと思って……」

 俺達は相手が思っていたことに、それ以上の言葉を無くす。

「なになに、結局どっちも自分が悪いって思い込でた、直情径行の似た者同士ってやつ?」

 アニスの揶揄に、俺達はむっとしてアニスの顔を睨む。直ぐに両手を上げて降参するアニスに、俺達は馬鹿らしさを覚えて苦笑する。

 少し和んだ空気の中で、今度はナタリアと自然に視線を合わせることができた。

「まあ、俺はレプリカだったわけだけど……これからも、よろしくな」
「そんな……あなたが私の幼馴染みであることに、変わりはありません、ルーク」

 どこかナタリアの表情には無理が見て取れたが、それでも必死に俺のことを考えてくれた上での答えだってことがわかった。
 だから、俺は今も自分をルークと呼んでくれるナタリアに、笑みを返す。

「……ありがとな、ナタリア」

 そんな感動的な再会を演じている俺達を余所に、ガイが気になっていてしょうがないといった感じでイオンに尋ねる。

「再会を喜ぶのもいいんだが、それよりイオン様。大佐は一緒じゃないのか?」
「それが……」
「聞いてよ聞いてよ! ひどいんだから!」

 暗い表情になってなにかを言いかけたイオンの言葉を遮り、アニスが憤慨したと地団太を踏む。

「な、なんだぁ?」
「それが………」

 どうもアニスの話を聞くに、一応大佐もアクゼリュスで死んだことになってたらしく、事の真偽を確かめるために一人先行したらしい。
 そんな待ち時間の間に、マルクト兵が殺されているのを発見。
 慌てて通報したものの、とりあえずお前達も怪しいぞと拘束されてしまって今に至るのだそうな。

「はぁ……なんか、厄介なときに俺達も来ちまったってことか」
「見張りが殺されたねぇ……教団兵か?」
「とりあえず、大佐が戻るのを待つしかなさそうね。幸い、一方的に犯人扱いされてるわけでもなさそうだし、もう少し我慢しましょう」
「う~」

 ティアのもっともな言葉に、アニスが口を尖らせる。


 その後、俺達は折角合流したことだしと、いろいろと互いの目新しい情報を交換しあった。
 しかし、それが終われば後は退屈な待ち時間があるばかりなわけで……。

「それにしても、まだかなー……」
「ただ待つのも結構大変ですわね」
「だよなぁ。マルクトの連中もけち臭いこと言わないで通してくれればいいのによ」
「けち臭いって……」

 俺の言葉にガイが呆れたように額を押さえる。しかしアニスは激しく同意と身を乗りだしてきた。

「だよね~。まったく、こんなに可愛いアニスちゃんのどこが怪しいって言うのよ。マルクト兵士の目は節穴かっちゅーの。ま……どっかの劇のやられ役染みたチンピラ相手ならまだわかるけどね~」

 俺に向けて意味深な視線を送ってくるアニスに、俺は頬が引きつるのを感じる。このケンカ、買った。

「自分で可愛いって言ってりゃ、世話ないな」
「何よ~。アニスちゃんは可愛くないとでも言う訳!?」
「やられ役のチンピラに何言われたって気にすることねーだろ? ミュウ並みに色気なしのくせによ」

 チラリとアニスのまっ平らな胸元に視線を投げ掛け、へっと鼻で笑ってやる。

「んなっ! ミュウ並みとはなによ! あたしだって成長したら、ティアみたいにでっかくなるんだから!」
「ハッ。ばーか。お前があんなメロンになる訳ねーだろっ! ……あ」

 勢いに任せて言ってしまった後で、俺は自分がなにを言ったのか悟る。
 恐る恐る視線を向けると、メロンの持ち主が怒りに肩をプルプル震わせているのが視界に入る。

「メ、メ、メロンって何なのよっ! あなたたち馬鹿!? 少しは静かになさいっ!」

 顔を真っ赤にさせて怒鳴り声をあげるティアに、俺達は小さく縮こまって部屋の隅に移動する。

 ……そんなに怒らなくてもいいのに……

 俺とアニスの視線が交差する。俺達は互いの認識を確認し合い、仲直りをするのであった。
 ティアは怒り冷めやらぬ様子で部屋の中央に仁王立ちして、目尻を涙ぐませながら息を荒らげている。
 そんな彼女の下に歩み寄ると、ナタリアはティアの肩に手を置いて、神妙な声音で訴えかける。

「……ティア。それでも持たざるものの気持ちも、わかって下さいませ」
「……そ、そういう問題かしら……?」

 本気で戸惑いに首を傾げるティアに、ナタリアが真剣な表情でそうですわ、と力強い頷きを返す。

「それにしても、入口のマルクト兵。僕達が森に入ろうとしたら『罠かもしれない』と、随分警戒していましたね。ティア達が拘束されたのも同じ理由ですか?」

 話の収拾がつかなくなったのを感じてか、イオンが唐突に全く関係ない話題を振ってきた。

「え、ええ……。でも、それだけマルクトとキムラスカの関係が悪化しているということね」

 躊躇いながらも話題に応じたティアを見て、俺とアニスもさっきの件を誤魔化すべく一斉に口を開く。

「だよな。やっぱ状況がよっぽど悪ぃんだろうなぁ」
「だよね~。まったく、イオン様も居たのにさ」
「申し訳ありません、僕の力不足で……」

 今度はアニスがイオンの地雷を踏んだようだ。顔を伏せて暗い顔になってしまったイオンに、アニスが両手をわたわたと動かしながら、慌ててフォローする。

「違いますよぅ! そういうことじゃないんですぅ!」
「何にせよ、結構やばいところまで来てるってことだよな。このままじゃ本当に戦争が起きちまう」

 厄介なものだと首をふるガイに、俺達は改めて示された状況の難しさに、ため息をつく。

『──うわぁあああ!!』

 部屋の外から、悲鳴が届く。

「今のは……!?」
「行ってみましょう!」

 外に駆けつけると、そこには見張りの兵士が地面に倒れ伏していた。

「大丈夫──っ!」

 駆け寄ろうとした瞬間、俺の背筋が泡立つ。
 咄嗟に後ろに飛び退くと同時──俺のうなじを掠めて薙ぎ払いの一撃が通りすぎた。
 俺は素早く獲物を握り、抜き払いの一撃を背後に叩きつける。

「むっ──!」

 獲物を弾かれた巨漢の体勢が崩れる。

「そこですわっ!」

 裂声と共に、ナタリアが弓を射る。しかし、その一撃を相手は素手で受け止めた。

「お姫様にしてはいい反応だな」

 ニヤリと笑って、受け止めた矢を二つにへし折る。

「お前は砂漠で会った……ラルゴ!」
「覚えていたか」

 尚も弓を構えるナタリアに対しても、ラルゴはまるで怯む様子も見せず豪快に笑って見せた
 崩落から初めて対峙する六神将相手に、俺は押し殺した声で詰問する。

「ヴァンは……いったい何を考えている」
「無論、預言からの解放だ。あの方ならば、必ずやり遂げるだろう」

 笑みを消し去って応じたラルゴの顔に、どこか面白がるような表情が浮かぶ。

「それよりも、前ばかり気にしていていいのか、小僧?」

 突然構えを崩したラルゴが鎌を肩に載せる。不可解な相手の行動に戸惑い、俺はそれに気付くのが一瞬遅れた。
 視界の端に映ったのは、ラルゴに弓を構えるナタリアに向けて、振り降ろされる剣の切っ先──。

「──アブねぇっ!?」
「きゃ──!」

 ナタリアを突き飛ばして位置を入れ代わる。振り降ろされた斬撃を受け止め、俺は武器を振り降ろした相手の名を叫ぶ。

「ガイ!? どうしたっ!? 止めろ!」

 俺の呼び掛けに、ガイは武器を握る両手を震わせながら、苦しそうにうめき声をあげる。

「ちょっとちょっと、どうしちゃったの!?」
「これは……カースロット!? いったい……いえ、それよりも、おそらくどこかに術者がいるはずです……!」

 アニスの後ろに庇われたイオンが術者を探して下さいと叫ぶ。

 しかし、そんなことを言われても……この体勢だと俺は動きようがない。
 俺が少しでも隙を見せれば、ガイはナタリアに切りかかるだろう。
 純粋な前衛のガイに襲いかかられたら、ナタリアじゃ対処しきれないはずだ。

 膠着状態に陥った俺に向けて、ラルゴが鎌を構える。

「おっと、俺を忘れる──むんっ!」

 言葉の途中で放たれた矢がラルゴの額を掠める。

「させませんわ! ガイをもとに戻しなさい!」
「ふ、ふははははははっ! やってくれるな、姫!」

 怒りを滲ませるナタリアの一喝に、ラルゴは面白そうに破顔した。

 それぞれが動き出せない状況のまま、一人自由に動けるティアが周囲の気配を探っている。
 ガイを引き止めるのも、そろそろ限界に近づいた、そのとき──大地を振動が貫いた。

「きゃっ、また地震!」

 悲鳴をあげるアニスに関わらず、冷静に周囲の気配を探っていたティアが視線を一点に集中する。

「そこっ!」

 右上に生える木に向けてナイフが放たれる。虚空を突き進む白刃が木の葉を切り裂き──木立の中に潜んでいた相手に弾かれる。

 舌打ちとともに木から降り立った男が地面に片膝をつく。同時にガイの肩を中心に、禍々しい譜陣が一瞬虚空に浮かび上がって消えた。

「……地震で気配を消しきれなかったか」

 気絶したガイを見据え、仮面の男──シンクが苦笑を浮かべた、

「やっぱりイオンを狙ってやがるのか! それとも……別の目的か?」
「大詠師モースの命令? それともやっぱ、主席総長?」

 武器を構える俺達に、ラルゴがまったく揺るぎのない声を返す。

「どちらでも同じことよ。俺たちは導師イオンを必要としているのだからな」
「それにしてもアクゼリュスと一緒に消滅したと思っていたが……大した生命力だね」

 嘲笑うシンクに、潔癖なナタリアが我慢ならないと叫ぶ。

「ぬけぬけと……! 街一つを消滅させておいて、よくもそんな……!」
「ふっ。はき違えるな。消滅させたのは、そこのレプリカだ」

 鎌で俺を指し示しながら告げられた言葉に、俺の中で憎悪が燃え上がる。

 ──それをさせたのは、いったい、どこの誰だと思っていやがる……っ!

 じりじりと高まり行く緊張感に、今にも戦端が開かれようとした──そのとき。

「何の騒ぎだ!」
「地震の影響か? だが戦闘音が聞こえたぞ」
「ともかく、急行するぞ」

 遠くからマルクト兵の声が届くと同時に、シンクが大きく背後に飛び退り、間合いを離す。

「ラルゴ、いったん退くよ!」
「……やむを得んか」

 武器を構える俺達を警戒しながら、ラルゴが鎌を地面に突きたてる。
 突然の行動に一瞬眉をしかめるが、すぐに俺はこの攻撃が見覚えるのあるものだと気付く。
 これはダオ遺跡で見た……

「やばい、伏せろっ!」

 俺は咄嗟に地面に倒れ伏すガイを肩に担ぎ上げ、ラルゴから距離をとる。

「ふんっ──地龍吼破っ!」

 鎌が薙ぎ払われると同時、大地に亀裂が走り、鎌の一振りに巻き込まれた無数の岩石が俺達に押し寄せる。
 俺は自分に直撃しそうなものだけに狙いを絞り、片手に握った剣で弾き返す。

 舞い上がった粉塵に視界が覆い隠される中、急速に遠ざかる二人分の気配を感じる。
 ようやく土煙が収まった頃には、六神将の姿は消え失せていた。周囲を見回すと、全員が頷きを返す。

 どうやら全員無事なようだな。

 なんとか収まった状況に、思わず安堵の吐息が漏れちまう。
 しかし、安堵するにはまだ少し早かった。駆けつけてきたマルクト兵達が、この場の惨状に息を飲む。

「な、何だお前たちは! これはいったい?」

 いち早く冷静さを取り戻したティアが、軍人口調で大まかな状況を説明する。

「カーティス大佐をお待ちしていましたが、不審な人影を発見し、ここに駆けつけました」
「不審な人影? ……ああ、先程逃げた連中のことか?」
「神託の盾騎士団の者です。彼らと戦闘になって、仲間が倒れました」

 俺の肩に担がれたガイに視線が集まる。しかし、兵士達の視線が直ぐにイオンやアニスに移る。

「だが、お前たちの中にも神託の盾騎士団がいるな。……怪しい奴らだ。連行するぞ」

 捲くれ上がった地面に、倒れ伏すマルクト兵に、満身創痍の俺達。
 こんな光景見せられたら、そりゃ警戒するなって方が無理な話しだよな。
 俺はガイを肩に担ぎ上げながら、厄介なことになったと空を仰ぐ。


「やっぱ……抵抗しない方がいいよな」
「もう……当たり前でしょう」

 俺の一応の確認に、ティアが心底呆れたように深くため息をついた。
 まあ、一応聞いてみただけだったんだぜ? 嘘じゃない。

 ……いや、本当にな。



  1. 2005/08/29(月) 19:34:39|
  2. 【家族ジャングル】  第四章
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