全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第1話 中編

 会議とは焼き肉に似ている。

 目の前で焼き上がるときを、ただひたすら待つ。その間、無言が場を支配しようとも、既に戦いは始まっている。視線による牽制、野菜による自己領域の確保、ダーティな技になると、使用済みの箸をもって肉をひっくり返す。なかなか小癪な一撃だ。

 しかし、すべては肉の確保という一点に向けて集約され、あらゆる行為が許される。

 水城征治は目の前で繰り広げられる、脂ぎった政治闘争を見据え、そのようなことを思った。

「──では、基本的な予算は継続ということでよろしいですね?」

 議長である生徒会長が、場をまとめる発言をする。

 周囲には不満の空気が渦巻いていたが、彼女の言葉にわざわざ逆らうような物好きは居ない。生徒会とはそういうものだ。代行職において統治種にあたる適正職種を持つ者のみが所属することを許される、政治闘争の魔窟。ましてや、相手はその頂点に君臨する生徒会長。

 面白い小話がある。ある生徒が生徒会選挙に不正があったらしいなんていう、よくある噂を囁いた。次の日、その生徒は転校した。何の前触れも無く、その痕跡すら残さず、綺麗さっぱり、消え失せた。理由は言わなくても、わかるよな? そんな小話だ。

 事実かどうかは、言うまでもない。そんな小話が流布するほど、生徒会とはその権威をもって、その権力を行使する。そうした機関である。その認識があればいい。

「それでは、次の議題へ移りましょう」

 会長の言葉に、脇に座る副会長が用紙を片手に立ち上がる。

「新入生の勧誘に関することです。この学園が常に優秀な学生を求めていることは、皆さんもご承知のことと思います。そんな皆さんが代行屋に所属し、技能の研鑽を積むことは、学園にとっても好ましいことです。しかし、代行屋への所属は義務ではありません。強引な勧誘は、学園としても好ましいものではないことを、皆さん念頭において下さい。なにごとも無く、この春を乗り切ってくれることを、生徒会は期待します」

 水城征治はわずかに眉を寄せた。

 新入生の勧誘が苛烈なものになるのは毎年恒例のことだ。このような訓示を述べられるのもまた、いつものことと言っていいだろう。会議の終盤ということもあり、蓄積された疲労から大多数のものはこの訓示を聞き流している。だが、水城征治は見逃せない、微かな違和感を得た。

 会議参加者のうち目端の効く者は、水城と同じように顔をしかめている。

 訓示に違和感を得なかった者も、室内の異様な空気を察してか、落ち着かなさげに身体を揺すっている。

「──それでは、本日の会議は終了ということで、よろしいですね」

 生徒会長が言葉を引き継ぎ、もの問いたげな参加者たちを尻目に、会議の終わりを告げる。

 わずかに弛緩した空気の中、会議の終了と共に、ざわめきが戻る。

「そうそう──一つ、忘れていました」

 今にも席を立とうとしていた誰もが引き止められる。そんな絶妙な間をもって、その声は放たれた。

 会議参加者の視線を、その一身に集め、彼女は明日の献立を話すかのように、軽やかな調子で、付け足しのように、その言葉を放った。

「今年の新入生の中には、特級資格保持者が居るとのことです」

 教室がざわめく。

 水城もまた、たいしたものだと、胸中で思う。

 特級資格とは、数ある代行職種の中でも、その資格取得が際立って困難だとされる資格のことを指す。試験の超絶的な困難さから、学園内においても両手で数えられるほどの人数しか、その存在を確認されていない。水城は純粋に、その新入生の力量に感心し、感嘆の念を抱いた。

 しかし、周囲の人間は異なる想いを抱いたようだ。なんとなれば、特級資格保持者を有する代行屋は、いずれも学園有数の人数を誇る大手団体であるからだ。

 特級資格とは、それだけ、人を引きつける。

「私の話は、以上です。皆さん、くれぐれも、節度ある勧誘をお願いします」

 会議参加者のうち、情報に分類される代行屋の職長たちが、会議室から足早に去っていった。さらなる情報を求めるべく、学園中を駆けずり回るのだろう。おそらくは一両日中には、どの生徒がその特級資格保持者であるか判明し、学園中にその情報が飛び交っているはずだ。

 水城はその生徒に同情した。

 特級資格保持者といっても、新入生である。入学そうそう、学園中を巻き込むようなお祭り騒ぎに参加させられることになるのだ。

 しかし、可哀相ではあるが、仕方がないとも思う。所詮は人事である。対岸の火事を眺めるのは、さして苦痛ではない。

 かぶりを振って、席を立とうとした瞬間──背筋が泡立つ。

 感覚の発信源に視線を向ける。

 生徒会長が婉然と微笑みながら、水城に向けて、流し目を送っていた。

 こちらが視線に気付いたことを確認すると、満足したように一度頷き、生徒会メンバーを引き連れ、会議室を歩み去った。

 すべての人間が会議室を去った後も、水城は一人、その場に佇み、考える。

 生徒会長の真意はわからずとも、その意図は理解できた。

 ようするに、彼女はこう言いたかったのだろう。

 ──あなた達は既に関係者である、と。

 厄介な話だ。

 水城征治──万代行屋職長は、額を押さえながらため息を吐いた。


 * * *


「──で、あんたはこの馬鹿の弟子になりたいと?」

「その通りだ」

 疑念に満ちた問いかけに対して、一ノ瀬結唯が端的に答える。

「うむ、それは考え直した方がいい。ヨルと知り合いであるというだけでも厄介だというのに、こともあろうに弟子とはねぇ。あまりに予想だにしなかった事態に、僕は卒倒する寸前だ」
「果てし無く気にいらんが、私もそう思う。あんたはまだ若い。人生捨てるには早すぎるよ」

 シルクハット被った男子生徒が頭を抱えて叫び声を上げ、腰に長物を指した女生徒が真剣な表情で言い諭す。

「……あんたら、そこまで言うか」

 全身を包帯でぐるぐるまきにしたミイラ男こと──黒河慎夜は半眼で吐き捨てる。

「年がら年中シルクハット被ってる変人代表の春日井怪奇とか、なんでもかんでも刀で解決しようとする人間凶器の香坂静流とかに、言われる筋合はないと思う、が……」

 包帯がハラリと解け落ちる。

 首の皮一枚のところに突きつけられた刀が、もうちょっとだけ食い込みたいなぁ、と自己主張する。眉間に突きたてられたステッキの柄が、頭蓋骨砕いちゃうよ、と訴える。

 額を滴り落ちる汗が、濁流のごとく流れ落ちる。

「僕が……何だと言ったかなぁ?」
「万代行屋が誇る希代の奇術師、春日井怪奇さまデス」

「私がどうだって?」
「万代行屋が誇る見目麗しき令嬢、香坂静流さまデス」

 答えに両者は満足げな笑みを浮かべると、その凶器を引いた。

 いつか見ていろこの変人どもが! 慎夜は胸の内で口には出せない罵倒を叫ぶ。だって声に出す勇気はないからだ。いや、力量を省みない行為は勇気でなく、蛮行と呼ばれるものだ。だから、この選択は正しいのだ。きっと。おそらく。たぶん。

 慎夜は自らの精神状態を安定させるべく詭弁を組み立てるも、内心では虚しい風が吹き荒れて止まらない。ああ、俺ってチキン。

「しかし、なんだって、よりにもよって、ヨルの弟子になりたいのだね?」

 さっぱりわからんと、春日井が首を傾げる。

「学園に申請されてるこいつの職種って、アレだよ」
「そう。アレであろう。無職とかわらん職種であろうにな」
「──無職言うなぁっ!」

 慎夜は机を叩き、椅子を蹴飛ばして立ち上がる。

 そう、これだけは、黙って居られない。己の職種を悪しざまに言われて立ち上がらぬ物など、人ではない。埃無き人は人ではなく、豚なのだ。

「俺は、無職じゃないし、学園への申請も受理されてんだ! 職連も認定してくれたし、今更どうこう言われる筋合いはねぇぞ! ことに、これだけはたとえお前らだろうが、何にも言わせねぇぞ!!」

 猛り狂う慎夜に対して、春日井と香坂は気まずそうに視線を合わせる。

「とはいえ……なぁ」
「だって……ねぇ」

 二人は口を揃えて、その職種の名称を告げた。

『正義のヒーローって、どうよ』

「可哀相な人を見るような視線を向けんじゃねぇ!」

 そうなのである。

 黒河慎夜。

 所属代行屋は万屋。

 申請職種は学園開校以来──というか、代行職制度が実施されて以来、存在しなかった職種であり、申請した者もまた皆無の職業。

 申請職種の名は《救い手》──誰かの危機に駆けつける、そんなお伽話に語られるような、所謂一つのヒーローだった。

 黒河慎夜の名が学園中に広まった所以の一つだ。

 鼻息も荒く抗議する慎夜に対して、二人は彼の肩をポンポン叩いて応じる。

「わかった。わかった。お前は正義の味方だよ」
「うむうむ。わかっているよ、僕たちは。だから落ち着きたまえ、えーと、ヒーロ?」
「くっ……屈辱だっ!」

 慎夜は歯をぎしりと噛みしめ、浴びせられる生暖かい視線に耐えた。

 しかし、急に不安になる。

「ええと、さ。一ノ瀬。ほんとに、その、俺なんかの弟子になりたいの? この通りさ、会うやつ会うやつ、馬鹿にするようなのばっかりだ。俺は自分が心底やりたくて選んだ道だからいいけど、なんでこんなやつの弟子になりたいわけ?」 

 こんなやつと、自分自身を指して尋ねる。

 春日井と香坂が深く深く頷いたのが腹立たしいが、とりあえず今は無視して、一ノ瀬の答えを待つ。

 向けられる三対の瞳に、一ノ瀬はもっともな疑問だ、と口を開く。

「それは──」

 微かな振動が、机を揺らす。ピタリと口を噤む一ノ瀬。

 それを感じ取ると同時に、四人は一瞬にして、四者四様の行動を取った。

 春日井怪奇はシルクハットに手を突っ込むと、引き出した黒布を扉に向けて大きく開く。
 香坂静流は深く腰を落とすと、扉とは反対方向の壁に向け、日本刀を一閃する。
 黒河慎夜は一閃された壁を見据えながら、他の三人を抱え込むべく両手を伸ばす。
 一ノ瀬結唯はどこか疲れたような表情を浮かべると、言葉を続けるべく、その口を開く。

 そして、そのときが来る。

 扉の向こうから飛来した無数の弾丸が春日井の広げた黒布に叩き込まれる。
 扉の対面に位置する壁が、香坂静流の一閃に切り抜かれ、瓦礫とかして崩れ落ちる。
 自分以外の三人を抱え込んだ黒河慎夜は、作り出された逃走経路に向け──飛び込んだ。

 襲撃者は不明。
 状況は不可解。
 理解に至るには、あらゆる情報が不足している。

 ただ、一ノ瀬結唯の呟きが、当面の指針となった。

 彼女が自分を頼った理由、それは──

 ──私が、悪の組織に狙われているからだ。

 轟、と吹きつける風が、慎夜のまとう漆黒の外套をはためかせる。

 眼下に広がる競技場に向け、四人は一瞬も躊躇うことなく、校舎の三階から飛び下りた。

 このときをもって、後に学園史上トップテンに入る被害総額を出すことになる《災禍の昼下がり》の幕は上がった。

 同時に、この事件は、この先起こることになる一連の騒動の前触れでしかなかったのだが──

 今はまだ、それを知る者は居ない。

  1. 2006/09/04(月) 16:17:24|
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