全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第2話 前編

 道端で段ボール箱に入れられた子猫が雨に打たれているのを見かけた男が哀れに思って子猫を連れ帰りミルクを与えたとしよう。

 子猫は男に与えられたミルクをチロチロと舌を出して舐め上げながらうなぁーと鳴くかもしれない。

 どこまでも子猫らしい動作に男は僅かばかりの暖かさを感じて飼う事を決めるだろう。


 結局の所、翌日、子猫は弱り切っていた体力を使い果たして死んだ訳だが。


「……まいった」

 出先から戻ってきた東道進は、永遠に覚めない眠りについた子猫の存在を見据え、心底参ったと額を押さえる。

 死んでしまって悲しいというのもあるが、現実的な側面から言っても、死んでしまった動物の扱いというものはなかなか処理に困るのだ。確か公園に死体を埋めるのも区の条例違反だとか聞いた事がある。

 確かに自分の記憶を探るに、さようならぴいちゃんと呼び掛けながらペットを埋葬する子供に、ずかずかと近づいてきた区の職員が、困るんだよねぇこんな所に死体埋められちゃぁ、などと心ない言葉で注意し、うわーんと子供が涙ながらに走り去っていく光景を眼にしたことがある。

 わびしい世の中になったものだと、自分が小学生だった頃を思い返す。そう言えば祭りの翌日には公園に金魚の墓が乱立して一種のホラーとして語られていたたなぁと感慨に耽る。

「……いや、現実逃避してる場合じゃないか」

 東道はまだ少し温かい子猫の身体を抱き上げ、どうしたものかと考える。

 条令違反とは言っても、見つからなければいい訳だ。見回りの来ない人気のない時間帯にでも公園へ向かって子猫のお墓を造るとしよう。見つかって掘り返されても行けないので、墓標は植えられた木にその役割を果たして貰うしかない。

 時間帯的にもちょどいい、と言うのはさすがに間違ってるような気がするが、深夜に近いこの時間まで見回っているような職員も居ないだろう。折り畳み式の傘を取り出し、外へ出る。

 ざぁざぁと振り注ぐ雨が、傘の脇から吹き込む風に運ばれ、水滴を頬に飛ばす。

 外へ行って穴を堀り、子猫を埋めて、手を合わせる。

 どうか成仏して下さい。

 一仕事終えた事に一瞬充足感を感じるが、すぐに結局子猫を助けられ無かった事実に思い至り、気分が沈む。そのまま暗い気分で部屋に戻り、子猫の入れられていた段ボール箱を片づける。昨日まで確かに存在した相手がいなくなってしまった事実に少し寂しさを覚える。

 チリン、と鈴の鳴る音が耳に届く。

 そう言えば、あの子猫には鈴付きの首輪がつけられていたなぁと思い出しながら、音源に視線を移す。

 宙に浮かんだ子猫がうなぁーと甘えるようにして、鳴き声を上げる。

 ごろごろと喉を鳴らして擦り寄ってくる半透明の子猫を見据え、やっぱこうなるかと東道は頭を抱えた。



 * * *



「それで子猫の幽霊に憑かれたと?」

 東道は自分の対面に位置する男の言葉に、ひたすらうなだれた。肩に乗った半透明の子猫が東道の動作に反応して、怪訝そうに小首を傾げる。

「まあ……そういうことです」
「相変わらずバカだね、君は」
「面目無いです……」

 ここは烏丸学園第十三食堂だ。不吉な其の番号と相まって、出てくる料理もマトモなものが一切無いと巷で評判の店だ。そうした噂のせいか常に閑古鳥が鳴いており、ちょっとした会話をするには都合の良い場所だった。

「君が憑かれやすい人間だってのは、随分と教え諭したはずなんだけどねぇ。まったくもって呆れ果てるよ」

 対面に位置するのは、室内であるというのにシルクハットを目深にかぶった、ちょっと変態入ってる学生服の男だ。アンニョイな服装センスにお近づきにはなりたくない人物だが、東道はそうも言ってられなかった。

「マジで申し訳ないです、ハル師匠」
「違う違う。そこはマスター・ハルと呼びたまえ、シン」

 東道にとってあまり認めたくない事実だが、目の前の変態、春日井怪奇は自分にとって唯一と言ってもいい、こうした案件で頼れる人物だ。そうそう無下には扱えない。

「まあ師匠の冗談は地球圏外に置いとくとして……どんな感じですか?」
「流されたっ!? しかも圏外って遠すぎっ!? ま、まあ、いいのだけどね……」

 不満そうにしながらも、春日井がシルクハットの端を持ち上げ、東道の肩に憑いた子猫を見据える。僅かに青白い光を発する瞳に射抜かれ、子猫がびくりっと全身の毛を震わせ、慌てて東道の背後に隠れる。

「見た限りさして害は無いね。数日中に消えるであろう」
「そうですか、ありがとうございます、師匠」

 ほっと胸をなで下ろす。こちらの反応に春日井が不気味な笑い声を洩らす。

「くくくっ。そんなものを引き連れて居ては仕事にならないだろうからね。心配するのもわかるよ、シン」
「邪悪に笑わないで下さい師匠。邪神が復活して世界が破壊されかねません」
「それってどんな笑い方っ!?」

 何故かショックを受けたようにうなだれる師匠を怪訝に思いながら、東道は首を捻る。

「まあ……君はそういう奴だったね。ともかく、ただでさえ引き寄せやすい体質なんだ。子猫一匹とは言っても、憑かれた状態である事には変わりない。更に性質の悪いものを引き寄せ兼ねないのだから、もう少し身の回りには気を付けるつけることを薦めるよ」
「……すいません、師匠」

 気にするなと手を振ってくる師匠に、東道は恐縮する。実際、真面目なことを話しているときの春日井は東道にとっても尊敬するのにやぶさかではない人物となる。こういうとき、彼に迷惑を掛けるしかない自分の体質が疎ましく感じてしようがない。

「異相知覚持ちの苦労は僕もわかってるつもりだよ。君がその気なら殺霊技能の訓練を課してもいいのだけどね」
「それは……まあ、ちょっと」

 遠回しに否定すると、それは残念、と春日井があっさりと引き下がる。

「実際、そっち方面の適正を持っていながら、何でまた──探偵なんだい?」

 泥水のような凄まじい味わいのコーヒーを口元に運び、東道は問い掛けられた言葉を考える。

 そう──東道進が目指す代行職種は探偵だ。

 探偵とはそれなりに知られた職業だ。物事の本質を探ったり、殺人事件を解決したり、浮気現場の情報を集めたりと、こなす仕事の幅が広い職種でもある。

 まあ、そんな無数に存在する探偵像の中でも、東道進の目指す探偵はいささか他の探偵とは毛色の変わったものではあるのだが。

「うーん。幽霊だから妖怪だからってだけで、むやみやたらと切り捨て殺す、退魔の業が気に入らないっていうのが一番の理由ですかね」
「……まあ、僕は少しオカルトに通じているだけの奇術師だ。頭の硬い退魔師じゃないから、否定も肯定もしないよ」

 虚空から取り出したステッキを一本の花に変え、子猫の前に付き出す。左右に揺れる花に、東道の背中で警戒していた子猫が我慢できなくなって前足を伸ばす。

「少し所の話じゃないと自分は思いますけど……」

 何食わぬ顔で子猫と遊ぶ師匠を見据えながら、東道はあきれ顔でつぶやく。

 実際の所、師匠と呼んではいるが、この相手は中々得体の知れない人物だ。もともと自分が所属する代行屋の先輩で、東道が異相知覚技能を持ってると聞きつけ向こうから近づいて来た。さして詳しい背景は東道も知らなかった。

 わかっているのは、そうした方面に関する知識に飛び抜けたものがあり、下手すると学園講師なども完全には理解していないような事柄を、茶飲み話であっさり口にしたりする人物であるということぐらいだ。

「さぁて……どうだろうね? ああ……ところで、相談事はそれで終わりかい?」
「え、あ、はい。そうですね」
「なら新しい仕事が入ってたよ。職長が君に渡してくれって」

 渡されたファイルに、かなり詳細な内容が記されている。

「水城さんも大変ですよねぇ」
「まあ、彼が苦労人なのは確かだが、あれほどの人物は中々居ないだろうね」

 しみじみと万代行屋をまとめあげる職長の凄さに想いを馳せる。

 万屋は数ある弱小代行職者を集め設立された代行屋だ。しかし同じ一つの代行屋に属するとはいっても、設立の経緯からもわかるように、それぞれの保持する技能や職種は異なっている。そのぶん多種多様な仕事の依頼が飛び込む万屋だったが、任せる相手を一つ間違えば、大惨事になりかねない類の依頼もそれなりに存在する。

 すべては各人の適正に合った仕事を見抜き、割り当てる職長の腕一つに掛かっているといっても過言ではない。そして、実際にそれをこなせてしまうところが、《万代行屋》職長、水城征治の水城征治たる所以と言えるだろう。

「そう言えば、最近また新しい人物が入ったそうですね。真昼の校舎襲撃事件とかも聞きましたよ」
「ん? さすがに情報が早いね。そうした代行職を目指すだけのことはあると褒めておこう」
「……ぶっちゃけ学園内で、知らない人の方が少ないと思いますけどね」

 冷めた視線を向ける東道に、春日井が素知らぬ顔であさっての方向を向く。

「どんな感じの人なんですか?」
「うむ。かなり面白い人物だよ。なかなか裏が有りそうで、少しの間、退屈せずにすみそうだ。くくくっ」
「うわぁ……やっぱ邪悪だよ、この人」

 半眼でつぶやくが、春日井はまるで聞こえないといった様子でこちらに顔を向ける。

「そうだ、ついでだから頼まれてくれないか? ここ最近派手に動いている組織があったら、リストアップしておいてくれたまえ」
「別にいいですけど……組織ですか?」

 関係性のわからない頼みごとに、東道は首を傾げる。

「うむ。なんでも件の新入生は《悪の組織》に狙われているらしいからね」

 一瞬、理解が遅れた。

「……冗談じゃなくて、マジですか、それ?」
「まじりっけなしの本当だよ」
「まあ、確かに万屋にはヨルの奴が居ますからね、頼りたくなるのもわかる気はしますけど……」

 申請職種のあまりの特殊さと、前例の無い特異な保持技能で、学園のみならず全国的にも有名な、同じ万代行屋所属の同級生にして友達──と言うか類友の一人に、思考を飛ばす。

「でもあいつの解決した事件、発生した二次的な被害総額も学園で三本の指に入るんですけどね」

 基本的にそうした被害の損害賠償に関しては、事件が解決した場合に限り、依頼人が責を負う事になっている。故に、絶対に依頼された内容だけは達成するぜっと本人がかなりテンパりながら叫んでいるのを東道は聞いた事がある。そうした情報を知りながら依頼したのなら、なかなか肝の据わった人物と言えるだろう。

「僕としては面白ければそれでいいのだよ。探っておいてくれ、くくくっ」
「ははは。最低ですね、師匠」
「いやいや、そう褒めるな。照れるではないか」
「カケラほども褒めてないですよ、師匠」

 意思疎通が不可能なことを悟り、東道はこれ以上の指摘を諦める。

「ともかく、まあ、暇ができたときにでもよろしく頼むよ。仕事の方を優先してくれたまえ」
「まあ、わかりました」

 話は終わりだと去っていくシルクハットの変人を見送り、東道は手にしたファイルに改めて視線を落とす。肩の上に浮かぶ子猫が構って頂戴とファイルの前に鼻先を突き出すが、なんとか隙間を探して詠み上げる。

 水城職長の仕事はいつも正確であり、仕事内容がわかりやすいように見出しの言葉が付けられている。東道はいつものように見出し部分に書かれた文字を読み上げ、依頼内容を確認し、口の中で繰り返す。

「夜な夜な公園で響く少女の声……?」

 なんともスタンダードな心霊現象だなぁと、このときの東道は深く考えるでも無く、そんな感想を抱くのだった。



 * * *



 ……とんでもない間違いだった。

 東道は目の前に展開される光景を見据え、乾いた笑いを洩らす。

『だぁ──かぁ──らぁ──っ!! 私の話を聞けって言ってるでしょう!!』

 うがぁーっと耳を貫く大音声に、近隣の住民が窓を空けて一斉にうるせぇーっと叫び返す。

 開け放たれた窓の一つから空き缶を投じられ、声の持ち主に激突する。

『イタっ!? ちょっと、誰よ今空き缶なんて投げたの!! 私に当たったわよ!? なによ、幽霊には人権が無いとでも言うつもり!? ふざけんじゃないわよ!!』

 公園に響きわたる声は、当然肉声では有り得ない。

 物質と接触が可能なまでのレベルで、こっち側へと顕現しているらしい異相具象体の一種──俗に言う幽霊が一般的に保持する力、念話の一種によるテレパシーの声だ。

 念話は頭の中に直接声が響くだけに、耳を塞ぐだけでは声を遮断できない。そのため、肉声の叫び声よりも始末におえない部分があった。

 依頼内容を改めて確かめてみると、見出しの下に記された仕事の分類には、心霊事件に対処せよでは無く、騒音公害に対処せよ、とあった。

 ……色々と間違ってるような気がしてならないが、まあ、自分に適正がある仕事と言えば仕事だろう。

 職長に対するこれまで抱いていた尊敬の念が少し陰るのを感じながら、東道はこのまま佇んでいるわけにもいかないと思い直し、いやいや騒音の主に近づく。

「あー……ちょっといいかい?」

 声を掛けられたことに驚いてか、騒音の主が長髪をふわりと浮び上がらせながらこちらを振り向く。

『え……なに? あんた、私が見えるの?』

 物質との接触可能なレベルで顕現しているとは言っても、異相具象体を知覚可能な能力を持たない人間にとっては、幽霊などはただ声が聞こえるだけの迷惑な存在にすぎない。

 誰からも無視される内に、陰の気が溜まり澱む事で、狂いが生じて悪霊化し──人に害を成す存在に堕ちる。そうした霊に対しては退魔師の出番と相成るわけだが、この霊はまだ正気のようで、安心した。

『はっ……もしかして、私を殺しに来た退魔師……? こ、こっちに来るんじゃないわよ──っ!!』

 つり上がったまなじりが一瞬にして敵意に満ち溢れ、東道の全身を貫く。

「ぐっ……」

 霊的存在の視線はそれだけで精神的に来るものがある。そこに敵意が込められていれば尚更だった。視線の圧力に耐えながら、東道は辛うじて口を開こうとするが、相手はこちらの話を聞く耳を持たないようだ。さすがに、これはちょっと、やばいな。

『こ、来ないでよ──っ!! 私はまだ死んでる訳じゃない!! 退治されてたまるか──!!』

「ち、違……」

 少女の霊から放たれる気配が〝澱み〟を含み始める。やばい。この兆候は危険だ。これ以上感情を乱すと本気で退治しないと行けない事態になりかねない。だがこちらの声を聞いてくれる気配もない。くそっ手詰まりか……──

 チリン──

 涼やかな鈴音が、場に優しく響き渡った。

『え……子猫?』

 東道の肩から顔を覗かせた子猫の霊が、少女の霊にふわりと浮び上がって近づく。少女の長い髪に向けて前足を伸ばして、他愛の無い動作でじゃれつく。

 子猫の存在に気勢を削がれてか、少女から発せられていた圧迫感も止んでいる。

「ふぅ……ええっとだな、そもそも自分は退魔師とかじゃなくて……──」

 この隙を見逃すものかと東道は口を開き、自分の代行職種を相手にどう伝えたものかと考えながら、一番使いたくない表現をせざるを得ない事実に気付き、愕然とする。

「ああー……もうこの表現は使いたく無いけど、もう仕方ないや。自分は幽霊とか妖怪専門で仕事を代行してる学生で申請職種は……」
『申請職種は……?』

 小首を傾げながら続く発言を待つ幽霊少女に、東道は内心ダラダラと汗を流しながら覚悟を決める。

「霊界探偵なんだ」

 一瞬、なんとも言えない空気が場にただよう。

『……え、なに、それって本気? 漫画の見過ぎとかじゃ無くて?』

 グサリと、東道進は言葉のナイフが胸に突き刺さるのを感じ、その場に膝をついた。

 だから、嫌なんだ……この安直な申請職種名は……うぅぅっ……

 東道は心ない幽霊少女の発言に、心の中で、さめざめと涙を流した。



 ともあれ、これが子猫と少女と探偵が、初めて顔を合わせた瞬間だった。



……続く?
  1. 2006/10/08(日) 19:49:46|
  2. オリ長編文章
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