全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第2話 中篇

 探偵とはひどく地味な仕事だ。

 もちろん、《セブン》のような探偵と聞いて誰もが思い浮かべるような存在なら話は別だろうが、彼らは極端な例に過ぎない。そもそも世界に七人しか存在しない【名探偵】を名乗ることを許された特異な存在を基準に考えるのが間違いであり、その他大勢に当たるほとんどの探偵達は、華々しいスポットの当たる舞台から、遠く離れた位置に居る存在だ。

 それなりの洞察能力と、ある程度の調査技能。

 それらの条件を満たし、どのようなランクでも構わないと言うならば、簡単に《探偵》という職種資格を得ることはできる。

 東堂進も、本々はそんな有り触れた探偵資格保持者に過ぎなかった。

 だが、彼には他の者には無い、『目』があった。

 ――異相知覚技能。

 本来なら、この世界に存在し得ない者。異なる位相より、この世界に顕現し、欺瞞に満ちた仮初の生を得た存在。偽りであるが故に、彼らは其処に存在するだけで、常に世界の理を歪め、侵し続ける。

 そんな異相具象体と呼ばれる存在を、東堂進は知覚することが出来た。

 職業連盟も、当然彼がそうした技能を保持していることは把握していた。ゆえに、申請当初は、東堂に対して、他の適正職種に鞍替えすることを熱心に進めてきた。

 しかし、東堂は己の意思を曲げず、探偵になることを望んだ。

 提出された申請職種に、職連の議長はため息を一つ吐くと、条件付でこの申請を受理することを伝えた。

 ――汝が認識可能な普く存在に対し、依頼を請け負うことを責務とす。

 つまり、異相具象体からも可能な限り依頼を請け負うべし、というお達しだった。東堂としても、その程度の縛りならかまわないと思い、さして考えることなく職連の付けた条件を飲んだ。

 後日、東堂は己の見通しの甘さを激しく悔やむことになる。

 申請職種が通ったことを伝える通達に、記されていた申請職種名を見た瞬間、東堂は絶句した。

 申請職種名、《霊界探偵》。

 かつてセブンの一画を担った、異相知覚持ちの名探偵が、戯れに名乗った在りもしない職種名がそれだった。

 東堂は自分でも名乗った覚えの無い職種名に、ただ呆然と立ち尽くすのだった。



 * * *


「――とまあ、そんな経緯がある訳だよ」

 かなり込み入った複雑な事情を説明し終えた東堂に、しかし返された答えは無常だった。

『ふーん。だから霊界探偵ね。でも、変な職種名』
「……まあ、オレ自身そう思うけどね」

 東道はがくりと首を落とす。公園のベンチに腰掛けながら、東堂は苦い思いとともに缶コーヒーをちびちびと啜る。結局説明した意味は無かったということだ。もの悲しくて涙が出るね。

 缶コーヒーは無糖以外飲めたものじゃないないと思うが、懐事情は常に過酷なものだ。個人的な趣味趣向が入り込む余地など存在するはずもなく、東堂は金が無いという厳然たる現実の前に膝を屈し、せめて無糖を買うことで、缶コーヒーを買うことに対する抵抗感に、折り合いをつけるのだった。

 しばらく現実逃避を続けた後で、そろそろ本題に入ることにする。

「……ともかくだ。公園は一応公共の場だから、夜な夜な叫び声を上げるとか言う迷惑行為は止めてくれよ」
『でも、私は――……』

「君は、運がいい方だ」

 相手の発言を片手を差し向けることで制し、東堂は静かに語りかける。

「本来なら、退魔師が引っ張り出されてもおかしくない。最初にオレに依頼が来たのは運が良い。これは本当。例え其処にどんな理由があろうと、現世に生きる存在に対して害となる行動を取った異相具象体が、どういう扱いを受ける事になるのか……当然、知ってるよな?」
『……』

 苦い顔になって黙り込む幽霊少女の様子から考えるに、どうやら彼女も何も知らなかったわけではないらしい。話が早いと、東堂は言葉を続ける。

「幽霊に人権など存在しないのか?――この問いかけが、何よりも正確に君の現状を表しているだろうね。存在しないわけじゃないが、そのあり方はひどく脆い。その事実を胸に留めておいてくれると、オレとしてもありがたい」

 コーヒーで時折喉を潤しながら、こういう説教とかはやはり自分には合わないものだと内心で肩を竦める。そう柄ではないのだ。こんな訳知り顔で良い諭すような行為は、探偵とは相容れない行為だ。

『わかったわよ……もう公園で騒ぐのは止めるわ』

 見るからに不承不承といった感じで返事をする幽霊少女に、東堂はそうか、と顔をほころばせる。

 景気付けに手にしていた空き缶をゴミ箱に放り投げる。投じられた空き缶が弧を描いて宙を飛び、ものの見事にゴミ箱に突入する。ゴールインってな。

「ともかく、硬っ苦しいやり取りは、ここら辺で終りにしようか」
『え?』

 幽霊少女が戸惑ったような視線を向けてくる。それにかまわず、東堂はベンチから腰を上げ、幽霊少女に向き直る。

「オレに依頼してみないか?」
『どういうこと……?』
「オレがさっきまでやってた仕事は公園で夜な夜な上がる声をどうにかしろってものでね。それに関しては今、本人からもうしないと約束を取り付けた。これでオレは依頼内容を果たした訳だが、運が良い事に次の仕事は入ってない。ようするに、手が空いている。暇ってことだな」

 勢い良くしゃべりだした東堂に、幽霊少女が目を瞬かせる。

「そして偶然にも、オレの目の前には何やら困った様子の女の子が存在している。これを見過ごすのはさすがに人として、何よりも探偵としていかがなものか」
『で、でも私……幽霊よ?』
「忘れたか? オレの申請職種は、まあ、あまり認めたくないものだけど、霊界探偵だからな」

 名前は気に入らないが、請け負う仕事其の物は、東堂もそれなりに気に入っていた。

「それにだ。其処にどんな事情があろうとも、探偵は依頼主の味方だ。オレはあまり頼りになりそうにないかもしれないけど、それでも確実に君の味方になれる。何よりも……」

 言葉を途中で切って、幽霊少女の頭に手を伸ばす。

『あ……』
「あんまり、一人で抱えるもんじゃないぞ」

 ゆっくりと手を動かし、幽霊少女の頭を撫でる。実体として触れることは叶わずとも、誰かと触れ合っているという実感があるだけでも、随分と違うものだ。

 しばらく頭を撫でていると、幽霊少女は顔を俯け、かすれた声を絞り出す。

『……うん』

 うん、と何度も首を頷かせながら、幽霊少女は掛けられた言葉をかみ締めるように瞼を閉じると、東堂の申し出に応じることを伝えた。

 こうして、幽霊少女は東堂のクライアントになった。

 しばらくそのままの体勢で過ごし、ようやく落ち着いた幽霊少女に、東堂は改めて問いかける。

「それじゃまず一番基本的なことだけど、名前を教えてくれないか、お嬢さん」
『……わからないの』

 相手の漏らした言葉に、東堂は眉根を寄せる。

「そいつはいったい……?」
『わからない……何も覚えてないのよ。でも……一つだけ、覚えてる事があるわ』

 俯けていた顔を上げ、少女の瞳が東堂を正面から見据える。

『――私は、まだ死んでない。私の身体を捜して、探偵さん!』

 少女の悲痛な訴えが、公園に響き渡った。



 * * *



 現代においては、幽霊が発生するプロセスも一応解明されている。事故死、殺人などと言った衝撃的な突然の死によって、生前の意識が空間に焼き付き残留した存在――これが一般的に認識される幽霊と言う存在だ。

 しかし、生前の意識構造をどれだけ残していようが、生前の人間と幽霊は全くの別種の存在だ。

 意識の断絶――死とは絶対だ。

 科学・オカルト両面において、劇的な発展を果たした現代においても、未だ決して乗り越えられていない領域なのだ。永遠に意識を持続させる術――不死を目指す者達が、未だ後を絶たない所以でもある。

 一方で、生き霊と呼ばれる存在がいる。

 彼らは一般的に言われるような幽霊とは一線を隠した存在だ。通常の幽霊が意識の残滓に過ぎないとしたら、生き霊とは意識そのものである。発生するプロセスは一般的な幽霊とほとんどの部分で同じだが、唯一異なっている部分が存在する。

 生き霊は死を経験していない。

 この要素がいかなる変化を生むのか、未だ定かではないが、この一点において、生き霊と単なる幽霊の間には絶対的な違いが生まれる。

 通常であれば数日の間に消え去ってしまう意識の残滓――幽霊に対して、未だ基となる身体の存在する生き霊は圧倒的な存在感を誇り、数ヶ月も、数年も、下手をすると数十年もの間、存在し続ける。

 無論、生き霊化する事で、何も問題が発生しないわけではない。

 しかるべき手順を踏み、儀式的な術をもって生き霊化したのならば、問題にならない程度のものだったが、偶発的に生き霊化した存在にとっては正に致命的な問題が発生した。

 生き霊は、自らの身体が認識できない。

 つまり、自らの身体に戻れない状況が、存在するということだ。

「……そうした点を踏まえると、やっぱ身体を捜すしかない訳だが、どうしたものかね」

 東堂進は師匠から聞きかじった知識を思い返しながら、地道な調査活動を続けていた。

 ここ数ヶ月の間に起こった事故に関する新聞記事や、病院に運び込まれた入院患者の情報など、直接的にたずねまわったり、あまり口には出せない類の方法で引き出したりもした。

 その結果わかったのは、生き霊が発生するような事故は、少なくともここ一年ほどの間は、起こっていないという厳然たる事実だった。

『嘘なんかじゃない! 私は本当に……――」』
「いや、大丈夫。君の言ってる事に関しては疑ってないよ。嘘とかつけそうに無いくらい、単純だしね」
『……私、馬鹿にされてる?』
「へ? 何でだ?」

 本気でわからなかったので、正直に尋ね返すと、幽霊少女はどこか呆れたように額を押さえた。

『本気で言ってるし……探偵さん、あなた、ナチュラルに口が悪いとか良く人に言われるでしょ?』
「ん、何でわかったのさ? 確かに良く師匠に言われる。オレには良くわからないんだけどさ。まったくあの変人には困ったもんだよ」
『……自覚はまるで無しってことね』

 どこか納得したように顔を頷かせる幽霊少女が気にならなかったわけじゃないが、今は目の前の作業に集中しようと思い直す。

 ネットワークに端末から接続、何十にも張り巡らされた欺瞞情報を潜り抜け、指定のパスコードを入力、相手の応答を待つ。

『さっきから何をやってるの?』
「ん? まったく情報が集まらなかったんでね。その道の専門家に聞いてみようと思って……っと、繋がったか」

 端末から虚空に画像が展開される。不機嫌そうに腕を組みながら、投影された画像の中で、ガイコツが東堂を睨む。

《何のようだ、ヘボ探偵》
「久しぶりだな、ボーン。このオレがお前に尋ねる用件なんて、一つしか無いだろ? 情報だよ。情報。それ以外にあるはずが無い」
《寝言は寝てから言いやがれ。てめらぇ万屋の関わる案件は物騒なのが多すぎるんだよ》
「またまた、すねちゃって。世界一の情報屋って触れ込みは嘘っぱちか、ボーン?」

 挑発的に言い放った言葉に、ガイコツの落ち窪んだ眼窩の奥に灯る赤い光が一際強い輝きを発する。

 数秒の睨み合いの末に、画面上のガイコツが先に視線をそらした。

《ちっ……しゃぁーねぇな。第四埠頭ビルに行ってみろ。面白いもんが見れるはずだ》
「ん、オレの調べてることが何か知ってるのか?」
《公園。生き霊。身体の在り処》
「あらら……知ってるのね」
《骨を舐めるな、ヘボ探偵。もう二度とその汚ねぇ面見せるんじゃねぇぞ》
「はいはい。それじゃまたな、ボーン」
《ふん。あばよ》

 接続が切れる。同時にこっちの端末もシャットダウン。接続情報が漏洩しないように向こう側から強制的に落としたのだろうが、なんともお節介な事をしてくれると東堂は肩をすくめて見せた。

『今のって……なに?』

 あえて誰では無く、なにと尋ねるところに東堂は共感を覚えた。覚えながらとりあえず、自分の知っている情報を頭の中で整理しつつ、適切な言葉を探す。

「まあ、情報屋ってやつだよ。多分世界一の。刑務所入ってるけどね」
『が、ガイコツが情報屋なの?』

 引きつった顔をで尋ねる相手に、東堂もちょっと考え込んだ後で、頷く。

「ああ。スカル・フェィスって聞いたこと無いか?」
『って、あの史上最大のサイバーテロした【髑髏の紋章】!?』
「多分それ」
『呆れた……いったいどういう繋がりよ?』
「捕まえたのうちの代行屋だから、その繋がりでちょっとね」

 あっさりと答える東堂に、何かが間違ってると幽霊少女が頭を抱えた。ちなみに、子猫の霊は何を気に入ったのか、幽霊少女の腕の中に抱かれている。幽霊同士気があったってことだろうかと、東堂は単純に考えている。

『まあいいわ。それでどうするの? 第四埠頭ビルとか言ってたけど、其処に行くの?』
「ん、そうだな」

 あのボーンが見返りもなしに寄越した情報だ。その点は気がかりだったが、情報其の物の真偽は疑う必要は無い。情報屋の矜持として、求められた情報に嘘はつかないだろう。

 だが、全ての情報を伝えていないという事態は、充分に考えられる。

「……まあ、とりあえず行ってみますか」

 何かがある事はわかっている。ならば、自分としても望むところだろう。

 東堂は髑髏に導かれるまま、第四埠頭ビルに向かった。



 * * *



 第四埠頭付近は再開発指定地区になって久しい。だが一時期の乱開発が祟ってか、所有者の細分化した土地を行政が介入して再開発しようにも、交渉相手を見つけるところから始めなければならず、遅々として作業は進んでいないのが現状だった。

 スラム然とした廃ビルの続く大通りを進んでいると、潮の臭いが鼻に付つき出す。

 そもそも海が近いこともあって、第四埠頭は輸送の拠点となることを期待され、かなり多額の投資がなされていたわけだが、烏丸地区においてかなりの力を誇る複合企業体――SETOが第五埠頭への主要な工場の移転を発表してから、一気に寂れてしまった。

「……つわものどもが夢の後ってとこかね」
『諸行無常の響きってよりも、金の亡者のうめき声って感じよね』

 幽霊少女の言葉に、東堂も肩を竦めて応じる。

「それで目的地のビルはここか。君はとりあえず……」
『私もついて行くわよ』
「……さいですか」

 一応危険が無いか確認してからにしたかったのが東堂の正直なところだったが、意気込む少女の姿を見て、あきらめる。何事も妥協が必要なのが人生だ。もちろん引き下がってはいけない場面もあるが、今は違う。

「なら、オレの後を着いて来てくれ。そしてあんまりフラフラしない事。それだけ守ってくれればいいよ」
『わかったわ』

 幽霊少女に抱かれた子猫がにゃーと同意するように鳴いた。

 緊張感が抜け落ちていくのを感じながら、最低限度の準備を整え、ビルの入り口に向き直る。

「さて、行きますか」

 破棄されたビルに照明などあるはずもなく、手元にある懐中電灯をもって進行方向を照らし出す。だが崩れ落ちた外壁や壁に走ったひび割れなどからも日の光が差し込んで、それなりに廃ビル内は明るいものだった。

 それなりに利く視界に、多少安堵するものを感じながら、先を進む。

 一階には特にこれと言って目立ったものは見つからなかった。

 そう――何一つ。

 廃ビルであるにも関わらず、崩れ落ちた外壁の欠片一つとして、見当たらなかった。

「……これは、誰か出入りしてるって事か?」

 つぶやいてみるが、それで答えが見つかる訳でもない。このまま立ち止まって考え込んでいても何も解決しないので、東堂はとりあず二階に進む事を決めた。

 二階へ続く階段を上り終え、無数の部屋のある区画に続く通路に足を踏み出す。

 ――血臭が、なによりも強く、鼻に届く。

 一瞬強張った身体を無理やり動かして、東堂は通路を進む。一番近い位置にある部屋の一つに顔を覗かせて、中に展開された光景に息を呑む。

 紅い。

 天井を、床を、壁面を、ありとあらゆる部位を鮮烈な紅が塗りつぶしている。

『な、何よ……これ……』

 床に転がった無数の断片から、未だ暖かいものが滴り落ちる。

 四肢を、胴体を、頭部を……全身をバラバラに斬り裂かれた、かつて人間だった肉の塊が部屋中に転がっていた。

『うっ……』
「大丈夫か?」
『生身だったら吐いてたかも……』
「だろうな。正直……オレも今にも吐きそうな気分だよ」

 死体を見る限り、この惨劇が行なわれてから、さして時間は経っていないだろう。

 それに思い立った瞬間、東堂はその場に縫い付けられたかのように動きを止める。

 ――背筋が、泡立つ。

「ぐっ……」
『ど、どうしたの? 探偵さん、大丈夫? 顔、真っ青よ』

 心配そうに言ってくる幽霊少女に片手を上げて応じながら、東堂は悟る。

 ――危険。

 基本的に東堂が備える技能に、他人に誇れるほどに抜きん出た技能は存在しない。唯一他人より勝っていると言えるものがあるとしたら、それは第六感――中でもとりわけ、死の危険を察知する能力だった。

「ここから……」

 逃げるぞ、と口にする間もなく、状況は動き出す。

 殺気が、吹き付ける。

『な、何……うっ……』
「……遅かったか」

 リィ―――――ィィン――――……

 鈴音が、鳴り響く。

 鮮血に沈む部屋の奥まった部分、先に続く扉が、ゆっくりと開け放たれる。ドプリと開け放たれた扉の向こうから、更なる鮮血がこの部屋に流れ込み、血の海をより深いものにする。

 鮮血に沈んだ真紅の海に立つ、一人の女の姿があった。

 白袴の上に羽織った着流しから、サラシを巻いた片腕が見える。腰に刺された大太刀が、異様なまでの存在感を周囲に撒き散らす。

 女の顔は見えない。

 顔の上端部分を鬼面が覆い隠し、非現実的な目の前の光景をより一層際立たせる。

 わずかに覗いた口元の部分が、笑みを形取る。

 東堂の背中を言いようの無い怖気が走る。

「逃げろっ!」

 懐に片手を入れながら、東堂は幽霊少女に向けて衝動的に叫ぶ。同時に鬼面の女の手に握られた刀身が、ゆっくりと持ち上げられる。

 それと認識した瞬間、目の前に鬼面の女が立っていた。

 言葉を発することは出来ない。
 身体を動かすこともできない。
 意識を働かせる余地など無い。


 何一つ意味ある行動を取れぬ東堂に向けて――――


 斬戟は無慈悲に、放たれた。



 ……つづく
  1. 2006/10/08(日) 19:49:35|
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