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──A.L.M──

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第7話 「猛り狂う焔の宴」


 熱気に満ちたケセドニアの街を歩く。

 戦争の影響か、街を行き交う人々の顔もどこか暗いものだ。
 かつて訪れたときと異なり、異様な緊張感が砂漠の街を包み込んでいる。


「……戦争か」


 封鎖された国境線を見据え、俺は低い声で呟く。

「どうしました、ルーク?」
「いや……中立地帯って言っても、やっぱ戦争の影響は大きそうだって思ってな」
「そうですわね。いくら教団の影響力が強いケセドニアといっても、ここ最近の情勢の不安定さには目をみはるものがあります。私が、お父様を止められればよかったのですけど……」
「……ナタリア。公爵を止められなかったのは、俺も同じだぜ」

 あんまり考え込むなよ、とナタリアの肩をぽんぽんと軽く叩く。

「でもでも、ほんとどうしたらいいんだろうね? ルグニカ平野が崩落したら戦争どころじゃないって言うのに……。これだから戦争馬鹿は困るっちゅーねん!」

 戦争を止めようとしない相手に対する憤りを叫ぶアニスに、イオンが顔を向ける。

「確かにルグニカ平野の崩落は大変な事態です。ですが、出陣している軍の人たちも祖国のためと思うからこそ、戦線に出てきているのです。一概に、非難することもできません。むしろ、非難されるべきは教団です。このようなときにこそ、僕らが停戦に向けて動かなければならないというのに……」
「イオンさま……」

 アニスが泣きそうな顔で、忸怩たる思いを洩らすイオンを見る。イオンは心配ないと微笑んで見せた。

 しかし、本当にどうしたものか。

 戦争もそうだが、今はそれよりもルグニカ平野の崩落の方が差し迫った問題だ。伝わってきた情報を聞く限り、戦場で激突している両軍は膠着状態に陥っており、わずかにキムラスカ側が押しているとも聞く。だが、このまま時間が経てばどちらの軍も崩落で全滅する。

「……こうなった以上、ルグニカ平野の崩落自体をどうにかするしかないかもな」
「崩落をどうにかする……ですか?」
「戦争が停まらない以上、そっちをどうにかするしかないだろ? まあ……方法とかはわからないんだけどな」

 ちょっとだけ落ち込みながら発した俺の思いつきに、イオンが感慨深げな顔になる。

「確かにそうですね……もしかしたら、ジェイドなら何か対策を考えついているかもしれません」
「そうだな。ま、今は合流場所に急ぐとするか」

 俺達はひとまず会話を打ち切って、ジェイド達との合流地点に向かった。
 待ち合わせ場所に居たエンゲーブ組が、近づく俺たちに気づいて、こちらに駆け寄って来る。

「ルーク、無事だったのね」
「ああ。ティアも、なんとか大丈夫そうだな」

 こうして見る限り、どこも怪我とかしていないようだ。
 エンゲーブ組はいつ戦場になってもおかしくない場所に出向いたんだ。
 いろいろと心配だったが、それもどうやら杞憂に終わったみたいだな。

 一人ほっと胸をなで下ろしていると、大佐とイオンがお互いの情報を交換しているのが視界に入る。

「そうですか。ノエルがアルビオールで住民を……」
「ええ。残りの人たちは、私達と共にケセドニアまで歩いて貰いました。これからケセドニア商人ギルドのアスターさんに、住民の受入をお願いしようと思っていたのですが……イオン様は彼と親しかったはずですね? イオン様の方からもその旨をよろしくお願いします」
「わかりました。しかし、戦場を通り抜けるとは、随分と無茶をしましたね、ジェイド」
「ええ。民間人を連れたまま戦場を突っ切るのは、さすがの私も肝を冷やしましたよ」

 苦笑を浮かべ合う二人の会話に、さすがの俺も驚く。戦場を突っ切ったのか? まあ、かなりの無茶だとは思うが、それ以外に手が無かったってことかね。

「そっちも随分と無茶をしたみたいだな」
「そうね。でも、必要な措置だったと思うわ。そのまま残っても、結局は崩落に巻き込まれてしまったでしょうから……」

 沈痛そうに瞳を細めるティアに、俺も差し迫ったルグニカ平野の崩落について、改めて考えさせられ、気分が沈む。

「ところでルークよ。そっちは……どうだった?」

 新たに話に加わったガイが、少し躊躇いがちに問い掛けた。
 俺は少し顔を俯け、頭をがりがりとかき上げる。

「やっぱ思った通り、うまくいかなかったぜ。まったく嫌になるよな……ほんとにさ」
「……そうか」

 俺達の様子に失敗を感じとっていたのか、二人とも特に驚いた様子も無く、その答えを受け入れた。
 別れる直前話していた俺の予測について、実際の王都側の反応がどうだったのか、いろいろと気になってはいるのだろう。
 しかし俺の気持ちを慮ってか、二人ともそれ以上尋ねるのを躊躇っている様子だ。

「しかし、ルークよ。なんか、ナタリアのやつも、元気無くないか?」

 ガイが話を逸らそうとしてか、俺の脇を突つきながら、小声で囁き掛けてきた。

「……まあな。ナタリアもいろいろあったんだよ」

 王都で起きたことが思い出されて、俺は更に気分が沈み込むのを感じた。

「なにがあったの? ナタリアにバチカルで手を出せる人がそうそう居るとは思えないけど……?」
「あー……」

 俺から話してもいいものか躊躇っていると、それに気付いたナタリアが静かに息を吸い込み、皆の前に進み出る。

「ルーク。いいのです。私の方から、皆さんに話しますわ」
「ナタリア……」
「私は大丈夫です、ルーク」


 気丈にも、王都で突き付けられた出来事を、自らの口で皆に打ち明けていく彼女の姿に、俺は自分には無い強さを眩しく思うと同時に──言いようの無い、物哀しさを感じていた。


「……まさか、そんなことがあったとはね」
「二人の様子がおかしかったのは……そのせいでだったのね」

 話を聞き終えたエンゲーブ組が、打ち明けられた事態の深刻さに表情を曇らせる。

「……しかし、これでバチカル側から停戦するのは絶望的になりましたね。どうやら本気で、戦場の崩落そのものをどうにかするしかなさそうだ」

 メガネを押し上げ表情を覆い隠すジェイドの言葉に、皆の視線が集中する。

「そんなことできるんですか、大佐?」
「どうでしょうね……確かに難しいとは思いますが、何も考えが無いわけではありません」

 どういうことだ? 疑問符を浮かべる俺達に、大佐はゆっくりと皆の反応を伺いながら、自身の策を語る。

「ルークがシュレーの丘でパッセージリングを操作した際に気付いたことなのですが……」

 なんでもジェイドの推測によると、超振動を用いた操作ならば、セフィロトツリーに対してかなり無茶な部分まで干渉が可能らしい。
 俺が実際にやったのは、暗号消したり、文字を上書きするぐらいだったんだが、そんなに大層なことをしてたんだろうか?

 首を捻っていると、それに気付いたジェイドが苦笑して続ける。

「確かに超振動に関してはまだまだ未知数な部分はあります。しかし、セントビナーを泥の大地に浮かせる操作ができたのです。ルグニカ平野を支えるツリーは再生できなくても、セフィロトが吹き上げる力はまだ生きているはず。それを利用して、戦場をそのまま昇降機のように降ろすことは出来ないかと……そう私は考えています」

 どうでしょうか、と肩を竦めて見せる大佐に、俺たちも感心して口を開く。

「昇降機のように降下させるかぁ……」
「はわぁ……さすが大佐。考えることも一味違いますねぇ」
「確かに凡人の考えつくような発想じゃないよなぁ」
「さすがです、カーティス大佐」
「それが可能なら、他の大地の崩落に関しても対策がとれそうですね、ジェイド」

 次々と称賛や称賛だかは微妙な評価などを口にする俺達に、大佐が苦笑を深める。

「まだ推測にすぎませんよ。あまりこの策に期待されすぎても、実際にやってみて失敗だったなんて事態になったら目も当てられませんからね。まあ、アスターさんとの会合が終わったら、できるだけ急いでシュレーの丘に向かった方がいいでしょう」

「確かに……それ以外にないか。なら、さっさと済ませちまおうぜ」

 なんとか突破口が見出せたことに、気分が昂るのを感じながら皆を促す。

 現金な俺の態度に皆が苦笑するのがわかるが、俺が単純なのは今更の話だ。全然気にならんね。しかしこのままシュレーの丘に行って間に合うだろうか? いろいろと心配だが、最悪崩落が始まってもセントビナーみたいに完全に落ちるまでには時間がかかるだろうし、それまでになんとかするしかないか。

 今後の行動に想いを巡らせ、歩きだそうとした──そのとき。


「──探しましたぞ、導師イオン」


 俺達の背中に向けて、その声は届いた。




               * * *




「お探ししておりましたぞ、イオン様。あまり教団の者に心配を掛けさせないで欲しいものですな」
「大詠師……モース」

 両脇にオラクルを従えた教団の実質上の権力者、大詠師モースがイオンに向けて、その軽挙を諫めるような言葉を発した。表面上は導師を上に立てているように見えるが、その裏で何を考えているのかはわかったもんじゃない。

 皆と目配せし、俺達は何気ない動作で、イオンを庇うように陣形を整える。

「モース。僕は……まだ教団に帰ることはできません。ルグニカ平野の崩落はスコアにも詠まれていない事態。これは教団にとっても見過ごすことのできない事態のはずです」

「なるほど……どうやら、ユリアシティの者達から、戦争に関するスコアについては既に聞いているようですな」

 二人は静かに会話しているだけなのだが、周囲には張りつめた空気が充満して行く。

「崩落に関しては厄介な事態であると、私共も認識しております。まったく、ヴァンのやつめは何を考えているのか。アクゼリュス以外に、崩落させる必要がある場所などないだろうに……」

 アクゼリュスの崩落は当然だ。

 そんな考えが、露骨に浮き出た言葉に、俺は反射的に口を開く。

「あれだけの住民が、死んだってのに……てめぇは、何も思わねぇって言うのか?」

 殺気を滲ませながらの問い掛けに、モースが初めて俺の存在に気付いたといった様子で眉を上げる。

「おや、ルーク様ではないですか。お久しぶりです。どうやら、アクゼリュスで起きた事が、随分と置きに召さなかった様子ですな。御無事だったようで、なによりです。しかし、ナタリア元殿下の方も、おかわり無いようで安心しましたよ。あれだけ王族として頑張っていたのですから──そうで無くなった今、いったいどうなさっているのか、私めも心配でなりませんでしたよ」

 慇懃な態度で俺達に礼を取ると、ついでナタリアに視線を向け──嘲笑った。

 頭に、血が昇る。

「──っ!」
「ルーク、よせ」
「落ちついて、ルーク」
「放せっ! こいつはっ! こいつだけはっ!!」

 暴れ出る俺を押さえつけ、ティアとガイが必死に制止する。

 こいつは……こいつだけは、我慢ならねぇ。俺だけならいざ知らず、ナタリアのやつまで、こいつは馬鹿にしたんだ。あいつがどれだけ頑張っていたのかも知らねぇ癖に、こいつは……っ!!

 暴れる俺の姿を一瞥し、ふんと鼻を鳴らし視線を外すと、モースは再びイオンに向き直る。

「イオン様、あなたも外に出てわかったはずです。人々には道標が必要なのですよ。スコアという絶対の方針があればこそ、人々は日々の営みを安心して過ごせるのです。私はなにか間違ったことを言っているでしょうか?」

「……いいえ。しかし、崩落などという、明らかに人々の命を奪うとわかっているような事態にまで、預言を絶対視するばかりに対策を講じようともせず、はては詠み上げられた惨事を積極的に引き起こそうとするような行為は、間違っていないと言うのですか?」

 毅然と教団の行動を非難するイオンに、モースが瞳を閉じる。

「さて……どうでしょうな。私個人の考えといたしましては、たとえ奔流を外れた流れが起ころうとも、行き着く先は変わらないものと考えております。しかし、この答えでは教団の方針を、導師も納得できないでしょう。なので、逆にひとつお尋ね申しましょう。仮に、教団がそうした事態に対応したとして……イオン様、その先は、いったい、どうされるおつもりなのでしょうか?」

「その先……ですか?」

「ええ。仮に、崩落が阻止され、死ぬべき人達が生き残ったとしましょう。しかし、世界には他にも死の預言を詠まれている人たちは大勢存在します。彼らは当然思うはずです。彼らが助かったのだから、当然自分達の死の預言も回避されてしかるべきだと」

「……それは」

「そうなってしまえば、後はもうどうにもなりません。人々は真摯にスコアを受け止めるものではなく、利用するものだなどという不遜な考えに取りつかれ、自らの思うがままに振る舞うようになるでしょう。そしてその果てに待つものは……考えたくもありませんな。あなたの標榜せし、スコアを人々が幸せになるための道具と見なす世界とは、そんな世界のことなのではないでしょうか?」

 斬り込むようにたたみかけられた言葉に、イオンが一瞬言葉に詰まる。

「僕は……僕はそれでも、死に行く人々をただ座して見過ごしているような行為が正しいとも思えません」

 モースの発する気配に気押されてか、イオンの返した言葉も、どこか力のないものだった。同時に、俺もまたモースの語る世界の可能性について考えさせられ、さっきまで抱いていた怒りが煙に撒かれたように、行き場を無くし、急速に立ち消えていくのを感じる。

 納得はしていないながらも、押し黙るしかなくなった俺達に、モースが息をはく。

「……ともかく、これ以上の議論は無意味ですな。正史とのズレが大きくなってきている今、教団が少なからず世界に介入することもまた、必要な措置なのです。スコアとは……彼の者と同様に……この世界が存続していくために、必要な存在なのですから……」

 後半は口元で囁くように、小さい言葉を洩らすモース。その表情に、俺は少し違和感を得る。

「……いえ、忘れて下さい」

 しかしその原因に思い至るよりも先に、モースが我に返った。なにかを誤魔化すように数度咳払いをすると、ついでイオンに向き直る。

「ともあれ、イオン様。この後に及んでまだ……停戦に向けて動くおつもりですか?」

 どうするつもりかと、本当にイオンの答えを待っているかのように、モースは静かに問いかけた。

 少しの沈黙を挟んだ後、イオンが口を開く。

「わかりました。教団に戻りましょう」

「おい、イオン!?」
「イオン様!?」

 予想外の答えに、動揺する俺達に向けて、イオンは大丈夫ですと笑いかける。

「で、でも、教団に戻ったら総長に誘拐されて、またセフィロトの扉を開かされちゃうかもしれないんですよ!?」

 アニスの上げた危惧に、モースが忌ま忌ましそうな表情になって答える。

「ヴァンに関してはこちらとしても対処しよう。導師イオンは未だそう簡単には代わりの効かぬ存在であるからな」

 モースが気に食わない理由ではあったが、どうにかすると答えた。しかし、アニスはそれでも心配そうにイオンを見据えている。

「アニス、大丈夫ですよ。それに、もしそうなったら、アニスが助けに来てくれますよね?」
「え? イオン様?」
「──唱師アニス・タトリン。ただ今をもって、あなたを導師守護役から解任します」
「ええっ!?」

 突然申し渡された決定が信じられないのか、目を見開いてアニスは硬直した。

「ちょっ、ちょっと待って下さい! そんなの困りますぅ!」

 動揺するアニスに、イオンがこっそりと耳打ちする。

「ルークから片時も離れずお守りし、伝え聞いたことは後日必ず僕に報告して下さい」
「えええっ!?」

「それとジェイド、エンゲーブの民に関しては、僕がアスターに話を通して置きます。皆さんはシュレーの丘に急いで下さい」
「い、イオン様ぁ……」

 ようやく我に返って、言葉を発しようとしたアニスを振り切り、導師イオンは大詠師モースに告げる。

「では行きましょう、モース」
「御意のままに……」

 臣下の礼をとって、先を行くイオンの後にモースが続く。

 去り際、なぜかモースのやつが俺の方をじっと凝視していることに気付いた。いったい、なんだ? 苛立ち混じりに睨み返してやると、すぐにふいっと視線を逸らして、モースはそのまま去って行った。

 いったい、なんだったんだろうな……?

 理解できない展開に立ち尽くす俺達の中で、やはり誰よりも早く立ち直ったのはジェイドだった。

「──さて、このまま立ち止まっていても仕方がありません。早く行動に移るとしましょうか」

「イオンのやつは、いいのか?」

「アニスを残したということは、いずれ戻るつもりがあるということなのでしょうが……今は、イオン様の真意を考えいても仕方がありません。崩落に対処することが先決でしょうね」

 確かにジェイドの行ってることは正論なんだが……そう簡単に割り切れるもんでもないと俺は思うぞ。

 半眼でジェイドを見やるも、まるで微動だにせず大佐はにっこり笑ってやがる。やれやれ、だな。確かにこのまま固まっていてもしゃーないか。俺はため息をついて、ひとまず動きだそうと顔を上げる。

 そこで、アニスの様子に気付く。

「うわぁっ……」

 ボロ雑巾のように地面に転がるピンク色の物体が視界に飛び込んだ。よくよく目を凝らしてみると、それは地面に崩れ落ちたアニスの姿だった。

「……な、なんつぅーか、頭から煙がでるぐらい落ち込んでるな、アニスのやつ」
「そ、そうね。大丈夫かしら……?」

 煤けた顔でうなだれ落ちたアニスに、俺とティアはひそひそと言葉を交わし合った。

 いや、なにを大げさなと思うかもしれないが、実際問題、目の前で本気で燃え尽きたように地面に倒れ伏す人間を目にしたら、誰だって動揺するはずだ。

 しかし、なんだか可哀相なのを通りすぎて、むしろ滑稽な領域にまで片足を突っ込んでいるような気がしてならない。

「まあ……そのうち立ち直るか」

 あっさりと割り切って、歩きだそうとした俺に向けて、ガイが引きつった顔で呻く。

「け、結構アニスに対してキツイな、ルーク」
「ん、そうかぁ?」

 ガイの指摘は本気で意外だった。俺は腕を組んで、少し考えてみることにする。

 確かにちょっと扱いがおざなりだったような気がしないでもないが、立ち直れるかどうかは結局の所本人次第だと俺は考えるわけで、慰めの言葉が必要なようなら幾らでもかけてやるが、俺の回りにはそんなやわな連中居なかった。そんなわけで、他の連中に対しても同じ態度を取ることになるわけだ。

 しかし、やっぱアニスの年齢を考えると、もうちょっと労ってやるべきだったのだろうかね?

 ちょっと反省しながら、さらに考えを深める。しかし、それを言い出すと俺なんてまだ七歳なんだ、が……って、うっ。嫌な事実に気付いたな。もしかして、このパーティで最年少って、俺なのか? 

 なんか、激しくショックだ……。

 巡り巡って行き着いた考えに、アニス同様落ち込み始めた俺の様子に、皆が不可解そうな視線向ける。

 俺は慌てて立ち上がって、ぶんぶん頭を振って気分を切り換える。

「ま、まあ、ともかくさっさと移動し」

 脳髄が、掻き乱される。

 いたい。

「がぁ、あぁ、あっ──……!?」

 いたいいたいいたいいたいっ。

 頭を押さえ転げ回る。地面に指を突きたて掻きむしる。途切れ途切れ漏れ出た叫びがさらに痛みを助長する。尋常でない俺の様子に、皆が慌てて駆け寄り、言葉を掛ける。

「──」
「────っ」

 しかし痛みに意識を取られた俺には、誰の言葉も耳に入らない。ひたすら頭を押さえ、頭痛に耐える。

 くそ、がぁっ! なんっ……なんだっ、今回の、痛みはっ!? 尋……常じゃ、ねぇぞっ!!

 転げ回ると同時に、地面に荷物がばらまかれる。俺は荷物の中に倒れ伏し、両手を掻き乱しながら、痛みに耐える。永遠に止むことなく、この痛みが続くのかと思われた──そのとき。

 ──……いっ……。……える……か。聞こえるか、能無し!

 ノイズ混じりの声が頭の中に響いた。同時に、痛みが嘘のように引いていくのがわかる。

「あ……アッシュ、なの、か?」

 徐々に意識が正常に戻る。頭を振りながら、俺はなんとか呼び掛けに応じることができた。

 ──……。今回は届いたか。どういうことだ……? まあいい。これからオアシスまで来い。

「って、待てよ! おいっ! それだけかよっ!?」

 一方的に言い放つと、アッシュの意識は既に消えているのがわかった。

 な、なんて勝手なっ! 人がどんだけの苦痛に襲われたと思って居やがるよ!? 

 一人憤慨していると、皆が心配そうに俺の様子を伺っていることに気付く。

 ……あ、そうか。あいつの声は俺にしか聞こえないんだったか。

 ちょっとバツが悪いのを感じながら、俺は口を開く。

「あー……あれだ、アッシュから伝言だった」

「アッシュからですって!? アッシュは、アッシュはいったいなんと?」

 焦燥した様子で詰め寄ってくるナタリアの剣幕に、俺は少し複雑な気持ちを抱きながら答える。

「オアシスで待つってさ。用件も言わずに、それだけ言って切りやがった。いったいなんだってんだろな?」

 わけがわからんと、俺は頭を掻こうと腕を上げた所で、自分が腕になにかを握っていることに気付く。どうやら痛みに耐えかねて転げ回っている内に、無意識のまま掴んでいたようだな。

 俺は苦笑しながら、腕の先に視線を向ける。

 杖が、静かに鼓動していた。

「……」

 なにか、言いようの無い不安が俺の胸を過る。なぜ、この杖が俺の手の中にある。確かに、地面にあれだけ荷物が散乱していれば、痛みに耐えかねた俺が偶然この杖を手にとることもあるかもしれない。

 ──本当に、偶然?

 無言のまま顔を強張らせている俺に、ガイのやつがちょいちょいと俺の腕を引っ張って来る。

 うるさいなぁと思いながらガイに視線を合わせると、なぜか青い顔したガイが周囲を示し、ちょっと見てみろと必死に促している。

 なんだなんだ? 怪訝に思いながら顔を上げ──気付く。

 周囲に、幾人ものケセドニアの人たちが集まって、コワゴワと俺の様子を遠巻きに見つめていました。呆気に取られながら周囲に視線を巡らせてみると、俺と視線があった人たちがひっと呻いて一斉に後退る。

 ……さて、俺のした行動を、よくよく思い返してみようか。

 突然、頭を押さえて絶叫。転げ回って、七転八倒。地面を掻きむしって、うめき声を上げる。虚空を見据えて、やばい瞳でぶつぶつと呟く。動きを止めて、手の中の杖を凝視。

 なんか、今の俺って……完全に危ない人?

「し、失礼しました──っ!」

 俺とガイは慌てて地面にばらまかれた荷物をかき集めると、その場から逃げ出すのであった。

 ちなみに、ガイ以外の連中は既に退避ずみだったというオチ付きだったりする。

 ミュウとコライガにまで見捨てられて、なにげにショックがデカかった。ううっ……。




               * * *




 なにはともあれ、その後場所を移して、再度皆で検討し合った結果、アッシュの呼び出しが罠である可能性は低いって結論が出た。そんなわけで、ひとまずオアシスまで向かってみることになった。

 途中アニスは随分と落ち込んでる様子だったが、オアシスが近づくにつれ、普段の表情を取り戻し始めた。傍目にもそれが空元気だってのはわかったが、外的な振る舞いに内面もかなりの部分影響されるもんだ。このまま、なんとか立ち直ってくれるといいだけどな。

 時折アニスの様子を伺いながら、俺はそんなことを考えていた。

 ちなみに、ナタリアはどうしたかというと、終始険しい表情で、アッシュと再会することについて、考え込んでいる様子だ。しかし、そこには隠しようのない、ある種の期待も見て取れた。

 ……なんというか俺としても、いろいろと複雑なもんがあるね。

 やれやれと首を回し、砂漠を歩くことに集中する。

 砂漠を強行軍で突き進み、すぐにオアシスまで到着。俺達はそのままアッシュの指定した譜石の突き立った場所に向かい、あいつの姿を目にする。

 そよ風に揺らぐ水面を見下ろしながら、アッシュは一人、その場に佇んでいた。

「……来たか」

 俺達の気配を察して振り返ると、アッシュはナタリアに視線を合わせる。

「……」
「……」

 沈黙が続く。

 無言のまま見つめ合う二人に、なんだかしらんが……こう、イラっと来るもんがあるな。

 苛立ちに耐えること数分、まだ二人は見つめ合っている。イライライラ。

「だぁ──っ!」

 とうとう俺は堪えきれなくなって、叫んだ。

「いつまで熱く見つめ合ってんだよ、二人とも! なんか用件があるならさっさと言え、アッシュ!」

「だ、誰がいつ、熱く見つめ合った!? 俺が視線を向けてる方向に偶然ナタリアが居ただけだっ!」

 ……なんか、とんでもないこと口走ってやがるよ。

「うわぁ……ほんきで言ってるのかな、アッシュ」
「さすがに、そいつは苦しいだろう……」
「どうにもルークと酷似した反応ですね。ルークのオリジナルとは言え、育った環境が異なれば性格も異なるはずなのですが。なかなか興味深い」

 次々と論評する周囲の言葉に耐えかねてか、アッシュが乱暴に告げる。

「と、ともかくだ。能無し」
「……あんだよ?」

 なんだかアホらしくなりながら顔を上げた俺に、アッシュが真剣な表情になって低い声でつぶやく。

「……王都での一件は、俺も聞いている」

 アッシュの言葉に、ナタリアがびくりと反応するのがわかった。

「……そうか」

 話題が話題なだけに、俺も気を引き締めて相手に臨む。

 身構えた俺に向けて、続けてアッシュが告げる。

「ナタリアに何かあったら、殺すぞ」

 一瞬、場をなんとも言えぬ微妙な空気が席巻する。

 俺は片手で額を押さえながら、もう一方の手で顔を扇ぐ。

「……あーはいはい。言われなくてもわかってますよ。まったくお熱いことで結構だな」
「なっ!? ち、違うっ!」

 狼狽するアッシュ。ぼっと全身を赤く染めるナタリア。そんな二人の様子を見ていると、ナタリアをどうやって慰めたらいいものか、ケセドニアまでの道中ずっと考え込んでいたのが馬鹿らしくなってくるよなぁ……。

 もう、用事があるならあるで、さっさとすましてくれや。

 かなり本気でそんなことを思いながら、アッシュが落ち着くのを待って、投げやりに用件を尋ねる。

「そんで、他には何かあんのか?」
「……声は聞こえるか?」
「いや、やっぱりアクゼリュス以降、なんもないぜ」
「そうか」
「って、おいおい! どこ行くよ?」

 お決まりとなったやり取りの後、即座に身を翻し去っていこうとするアッシュを慌てて呼び止める。

 不愉快そうに立ち止まったアッシュに、ジェイドも少し呆れ顔で肩を竦めてみせる。

「やれやれ。私達もいろいろと忙しいのですがね。本当にそれしか用事は無かったのですか?」

 皮肉げに尋ねた大佐に、アッシュが苛立たしげに表情をしかめ、大佐の顔を睨み付ける。

 火花を散らす二人に、俺はげんなりと視線を向ける。なんだかなぁ……この二人って、けっこう相性悪いのか? 俺はいろいろと疲れるのを感じながら二人の様子を観察する。今にも剣を抜き放ちそうなアッシュに対して、大佐は余裕そのものといった感じだ。

 ん? 剣……あ、忘れてた。俺はアッシュに尋ねようと思っていた質問があったのを思い出す。

「アッシュ、お前が持ってるその剣って、ローレライの鍵じゃないのか?」

 ぴくりと眉を上げ、アッシュが意外そうな面持ちで振り返る。

「……どこで知った?」
「ってことは、やっぱそうだったのか。ユリアシティでテオドーロ市長から鍵について聞いたぜ。セフィロトを自在に操る力があるとかって言ってたけど、実際の所はどうなんだ?」

 後半は真剣な表情で問いかける俺に、アッシュが剣を抜き放ち、虚空に掲げる。

「仮にそうした力を秘めているにしろ、今は無理だろうな。奴の声はもはや一切聞こえない」
「奴の声? それって……前も気にかけてた、あの頭痛をばらまきやがる声のことだよな? いったいあの声って、結局何なんだ? 何か知ってるのか、アッシュ?」

 長い間、俺を悩ませてきた声について、何かわかるかもしれない。期待に思わず矢継ぎ早に質問を重ねてしまう。そんな俺に対して、アッシュは少し沈黙を挟んだ後で、口を開く。

「俺も半信半疑だが……あの声は、自分がローレライだと名乗っていた」

『っ!?』

 驚愕の事実に、皆が言葉を無くす。必死にその意味するところを理解しようとつとめる。そんな周囲の反応を伺い、アッシュがさらに言葉を続ける。

「ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す……この一節を覚えているか?」
「……ああ。確か、俺達について詠まれたスコアだったか?」
「そうだ。あれは俺達がローレライの完全同位体であることを指しているらしい」

 もっとも俺も半信半疑ではあるがな、とアッシュは最後に付け加えた。

「ローレライの声とは驚きましたね……しかし、第七音素の集合意識体の存在は未だ確認されていないはずでしたが……」
「俺にも真偽の程はわからん。あいつに確認しようにも、アクゼリュスの崩落以降、まったく声が届かなくなったからな」

 忌ま忌ましそうに吐き捨てるアッシュの言葉で、俺はアッシュのやつがどうして声の存在をあれ程までに気にしていたのか、ようやく理解できた。ローレライなんていう切り札になり得る存在が、突然なんの反応も返さなくなったんだ。確かに、気にするなって方が無理な話だよな。

「なるほどな。……しかし、やっぱ鍵を使うのは無理そうか。ならジェイドの案を試してみるしかないかね」
「そうですね。鍵の効力をこの目にできないのは残念ですが、致し方ありません」
「なんの話だ?」

 俺達の会話に、アッシュが不可解そうな視線を向けた。俺は皆を見回して、とりあえずアッシュには知らせておいても大丈夫だろうか確認する。皆も特に止める様子はなかったので、俺と大佐は今後俺達がどう動くつもりか、アッシュに伝えておくことにする。

「実は致命的な崩落を防ぐ方策を探しててな。一個はローレライの鍵に行き着いたんだけど、そっちは無理だって話だろ? だから、ジェイドが一つ対策を考えたんだ。セフィロトの吹き上げを利用して、戦場を安全に降下させられないだろうかってな」

「……」

 終始無言のまま話を聞いていたアッシュだったが、俺が説明を終えた後も何の反応も無い。聞き終わった後ぐらいは何か反応を返して欲しいもんだがね。

「ただ、シュレーの丘まで戻るのが間に合うかどうか、少し微妙なところですがね」

 ジェイドがアッシュの反応にやれやれと肩を竦めながら付け加えると同時に、アッシュが口を開く。

「なら、ザオ遺跡に向かえばいい」

 へ? なんで、そこでザオ遺跡が出てくるんだ?

 理解できない話の展開に、俺達は顔を見合せた。大佐が代表になってアッシュに尋ねる。

「どういうことです?」
「そもそもセフィロトは星の内部で繋がっているからな。当然、パッセージリング同士も繋がっている。リングは普段、休眠しているが、起動さえさせれば、遠くのリングから別のリングを操作できる。お前達が既にシュレーの丘のパッセージリングを起動させているなら、ザオ遺跡からも操作可能なはずだ」

 淡々と語るアッシュの言葉に、嘘を言ってるような気配は無い。

「これは……なるほど。確かにパッセージリングの性質上、ありそうな話ですね。思いついてもよさそうだったというのに……いささか私も焦っていたようです」

 ジェイドが迂闊だったと呻いた後で、すぐに怪訝そうな表情になる。

「しかし、いったいどこでそんな知識を……?」
「……ヴァンの奴が言っていたことだ」

 わずかに顔をしかめ吐き捨てると、アッシュは忌ま忌ましそうに舌打ちした。

「ともかく、それならザオ遺跡に向かえ。本来なら俺が向かう予定だったが、貴様らに任せておけば大丈夫だろう」
「向かう予定だったってどういうことだ?」

 俺の問い掛けにアッシュは表情を引き締める。

「……六神将の一人が、ザオ遺跡に向かったという情報を耳にした」
「六神将が……ザオ遺跡に? いったいまたなんで?」
「ふん。俺が知るかよ。ともかく、お前らは降下作業に専念するんだな」

 あくまで俺に対しては硬い態度を返すアッシュに、俺は少し躊躇いがちに尋ねる。

「アッシュ……お前も、一緒に来ないか?」

 ナタリアの傍に居てやってくれないか。言下に示した意味を察してか、アッシュが不愉快そうに顔を歪める。

「……お前らと馴れ合うつもりは無い」

 硬い声音で俺の申し出を切って捨てると、アッシュは俺達に背を向け歩きだす。

「アッシュ! どこへ行くのですか」

「俺はヴァンの動向を探る。奴が次にどこを落とすつもりなのか、知っておく必要があるだろう。……ま、お前たちが大陸を上手く降ろせないようなら、それも意味が無くなるかもしれないがな」

 皮肉げに放たれた言葉にも、ナタリアは真摯な表情で頷き返す。

「約束しますわ。ちゃんと降ろす……そう誓いますわ」
「指切りでもするのか? ……馬鹿馬鹿しいな」

 ナタリアから顔を背けると、アッシュはどこか遠くを見据えた。

「世の中に、絶対なんて無い。だから俺はあのときも……」
「アッシュ……」

 言葉を途中で飲み込み、アッシュはナタリアに視線を止めた。交錯する視線はしばしの逡巡の後、アッシュの方から一方的に断ち切られた。

「……俺は行くぞ。お前らもグズグズするな」

 再び背を向け歩きだしたアッシュの背中を、ナタリアはいつまでも見つめている。

 ……やっぱ、アッシュが好きなんだな。

 俺は密かにため息をついた。ずっと俺の一番近く居た女の子が、真にその気持ちを向ける相手が誰だったのか改めて思い知らされ、気分が自分でも知らぬうちに沈むのを感じる。

 しかし、そんな俺をティアが複雑そうな面持ちで見据えていることには、まったく気付かなかった。

「……なんだか、いろいろと複雑な事になってるなぁ」
「……ですね。いやぁ、若いっていいですね」
「……なんて言うかぁ~、わたし達三人だけ、蚊帳の外って感じ?」

 ひそひそと言葉を交わしながら、三人は俺達に生暖かい視線を送るのだった。




               * * *




「パッセ~ジリング~♪ パッセ~ジリング~♪」

 はな歌を口ずさみながらアニスがスキップしている。

「まったく……緊張感が皆無ですわね」
「はは、いいじゃないか。元気があってさ」
「アニスらしいっちゃらしいけど……ありゃさすがにないよな」

 一度通った道ということで、全体的に緊張感に欠けたままザオ遺跡を進む。

 最初はティアやガイ達が罠の可能性もあるんじゃないかと心配していたが、ナタリアがそれを否定した。最終的には、大佐が渡された情報の信憑性が高いと保証し、罠なら六神将が居る可能性を諭したりはしないだろうと締めくくり、結局ザオ遺跡に向かうことで落ち着いた。

「しかし、六神将か。奴らいったい、何をしてるんだろうな?」
「そうね……考えられそうなのは、やはりケセドニアの崩落かしら」

 ティアの推測に、俺はさらに気分が暗くなる。
 確かに六神将がパッセージリングへ向かったと聞けば、今までの経緯を考える限り、崩落以外に考えられないか。

「ほんと、やっかいな事態になっちゃいましたね~」
「だな。だが考えようによっては、むしろよかったのかもな。アッシュから情報が入らなかったら、そのままケセドニアの崩落を見過ごしてたかもしれない」
「確かにそうですわね。六神将がなにを企んでいるのかわかりませんけど、絶対に阻止しましょう」

 俺達は少し気分が急かされるのを感じながら、幾分早足で遺跡を進む。
 かつてイオンを救出したセフィロト前の空間まで行き着いたところで、俺達は異様な光景を目にする。

「こいつは……?」

 巨大な蠍のような魔物の死骸がそこにあった。

「……一撃で殺されています。音素乖離を起こしていない以上、これをなした相手も、そう離れた位置にはいないでしょうね」

 直ぐ其処に六神将が居る。

 俺達は顔を見合せ、気を引き締める。
 いつでも戦闘に移れる体制のまま、俺達はセフィロト内部に足を踏み入れた。

 当時の最新技術をもって建設されたセフィロトを歩く。
 徐々に口数も少なくなって行く。それぞれが予感していた。この先に待ち受ける闘争を──


 そのままさらに進み、とうとうパッセージリングと上下に交錯した通路にまで行き着いた。
 高架のような不安定な足場から見下ろす先に、緩やかな音素の光を立ち昇らせるパッセージリングが存在する。

 パッセージリングに歩み寄る巨漢の姿があった。

「……六神将、ラルゴ」

 見下ろす俺達の存在には気付いていないのか、ラルゴはそのままパッセージリングに悠然と歩み寄る。
 その腕には血に濡れたような紅い刀身をギラつかせる槍が握られていた。

「あれは……マクガヴァン邸でディストが奪っていった槍か?」
「そのようですね……いったいなにを……?」

 不審そうに俺達が見下ろす先で、ラルゴは手にした槍を掲げ上げると──

 パッセージリングに、突き刺した。

『なっ!?』

 息を飲む仲間達の中で、俺を一際強い動揺が襲う。

 あれは……アクゼリュスで、ヴァンのやつがやっていたのと同じ行動だ。

 そう思い至ると同時──再びあの絶叫が、俺の脳髄を掻き乱す。


 ──ぐぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっ……──


 額を押さえ頭痛に耐えながら、俺は地面に倒れ伏しそうになるのを必死で堪える。

 くっ……本気で何なんだ、この声は……っ!

 少しの間耐えていると、やはり以前のように、頭痛はすぐに収まった。視界の端で、ラルゴがパッセージリングから槍を抜き放つのが見える。

 ラルゴの視線が、俺達を射抜く。

 やや驚いたように目を見開くと、次いで口元をわずかに吊り上げ、ラルゴは槍の穂先をパッセージリングに至る直前の部屋に向けた。
 俺達に顎先で促すと、その巨躯を揺らしながら、悠然とその先に消える。

 この先の部屋で待つってことか? 

「どうやら、戦闘は避けられそうにないですね。しかし、あれがイオン様の言っていた……?」
「……ああ。アクゼリュスで、ヴァンがパッセージリングにやってたことと全く同じ行為だ」

 しかし、どういうことだ? 六神将がパッセージリングに干渉してるのか? ヴァン師匠だけじゃなかったのか?

 無数の疑問が沸き立つ。解答を求めるがそれらしいものは見えて来ない
 。唯一浮び上がったのは、こじつけとも取れる強引なものだった。
 ガイ達が以前、ベルケンドの研究所で手に入れた情報。
 地核から過剰なまでの量の記憶粒子を抽出するとか言っていたか……。

 六神将の意図を測りかね、黙り込んでしまった俺に向けて、ティアもまた同じ事に思い至ってか、静かに先を促す。

「……急ぎましょう。パッセージリングに、なにか影響があるかもしれない」
「だな。しかし、相手はラルゴ一人だ。今回も何とかなるだろ。なぁルークよ」
「ん? まあ、確かにな。以前もシンクとラルゴの二人を相手にしても、なんとか勝てたし」
「だよねぇ♪ もしかして、けっこう楽勝?」

 気楽に言葉を交わし合う俺達の様子を横目に、大佐が渋い顔になってつぶやく。

「……はたして、そう上手く行きますかね」
「ん? なにを心配してるんだ、大佐さんよ?」

 ジェイドの危惧がよく理解できないと尋ねるガイに、ジェイドが重々しく口を開く。

「いえ……ただ、ラルゴが一人でありながら、ああも挑発的な態度を取ったのです。今回は相応の自信があるものと見ていいでしょう。私達も、少し気を引き締めて臨んだ方がいい」

 眼鏡を押し上げ、表情を覆い隠しながらジェイドは俺達を諫めた。

 む。確かに、ちょっと軽率だったか。

 大佐の言葉に諭され、俺達は少し気を引き締めて、顔を見合わせる。

「まあ、だからといって尻込みしてても仕方ない。さっさと行こうぜ」

 なるべく気楽な感じを装って、皆に声を掛ける。
 こうして俺達は六神将が一人、黒獅子ラルゴの待ち構える場所へ向けて、その足を踏み出した。




               * * *




 セフィロト特有の仄かな光を放つ壁に囲まれた部屋の中心。そこにラルゴは佇んでいた。
 地面に槍を突きたて、両腕を組んだ体勢のまま、一人瞑目している。

「……よもやこの地で、再びお前達とまみえる事になるとはな」

 戦闘の予感に武人としての本能が刺激されてか、ラルゴの声は低く抑えられながも、確かな喜悦が滲み出てでいた。

「だが、それも今は感謝しよう。ここであれば天井が抜ける心配は無い。この俺も全力でお前達と──死合えるというものだ」

 肌が、泡立つ。

 放たれた闘気が物理的な圧迫感を持って俺達を射抜き、空気が打ち震える。

 ようやく、俺達も大佐の危惧を理解できた。目の前に立つ相手は、これまでと比べ物にならない程、その存在感を増している。あのまま浮ついた気分でこの闘気に晒されたら、気押されていただろう。

「……ラルゴ、お前はここで何をしてたんだ?」

 戦闘に突入する前に、これが最後の機会と思って、俺は一応問いかけてみる。

 昂る気持ちに水を挿されたと思ってか、ラルゴが不快そうに一瞬表情をしかめた。しかし、すぐに神妙な顔になって顎を押さえる。

「ふん。何も知らぬ身でありながら、ここに辿り着いたか。……いや、それもまた世界の定めというやつか……忌ま忌ましい……」
「は? どういう意味だ?」
「……お前らには所詮、理解できぬ理だ。そして、知る必要も無い」

 煩わしそうに俺の問い掛けを拒絶すると、虚空に槍を掲げる。

「──総長、あまりに手応えが無いようなら、そのまま仕留めてしまってもよろしいですな?」

 ……なにを言ってるんだ? 不可解なラルゴの言動に困惑する俺達の脳裏に──その声は届いた。


 ────許可しよう────


 虚空から届いた声は、俺達の脳裏に直接囁かれた。
 同時に俺の背中に吊るされた道具袋の中で、杖が一瞬鼓動を刻むのを感じる。

 理解できない現象にぎょっとする俺達を余所に、ラルゴが壮絶な笑みを浮かべる。

「ふ、ふはははっ! 許しは出た。ならば存分に死合おうぞ。俺は六神将が一角、黒獅子ラルゴ──」

 高らかに名乗り上げると同時に、握られた槍が一閃される。




 焔が、視界を染め上げる。




 無造作に振るわれた槍の軌跡を灼熱の息吹が蹂躙する。
 放たれた熱波が空気を嘗め尽くし、圧倒的な熱量が一瞬で遺跡内部を支配する。
 猛り狂う焔の存在に息を飲む俺達に向けて、ラルゴは口元を吊り上げた。


「第五音素が権能を簒奪せし響奏器──火槍ブラッドペインが力、お前らで試させて貰おうか」


 暴虐なる焔の担い手は壮絶な笑みを浮かべると───

 紅蓮に染まりし槍を、俺達に向け振り下ろした。




  1. 2005/08/24(水) 22:57:48|
  2. 【家族ジャングル】  第四章
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