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──A.L.M──

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第8話 「紅蓮の焔 ─クインテット─」


「燃えろぉぉ──っ!」

 ラルゴの雄叫びとともに、焔を帯びた槍が振り下ろされた。
 渦を巻く熱波が槍の穂先を中心に凝縮され、形成されし灼熱の刃が巨大な切っ先となって視界を染め上げる。

 目を逸らす事すらできず、俺達は熱波に飲み込まれた。


 吹き付ける熱風が全身を焼く。膨大な熱量を伴った一撃に、俺は吹き飛ばされる。
数度地面を転がり衝撃を逃すも、完全に技の威力を消すことはできなかったようだ。

 ぐっ……なんて威力だよ。俺は片膝をついて呻き声を上げる。

「癒しの力よ──ファーストエイド!」

 詠唱と同時に、俺の身体を治癒の譜術特有の柔らかい音素の光が包み込む。
 失われた体力が回復するのを感じながら、俺は立ち上がって言葉短く感謝の言葉を告げる。

「……すまねぇな、ティア」
「大丈夫、ルーク? ……それにしても、なんて威力なの……」

 ラルゴを見据え、ティアが畏怖の呻きを洩らした。

 逆巻く焔を全身にまとわせたラルゴが槍を振り回す。
 それに対して、ガイが刀身に風を纏わせながら、辛うじて熱波の到来を防ぎ、ラルゴの猛攻をしのぎ続けている。

 合間合間でアニスが巨大化させた人形から拳をくり出し、ナタリアの弓が二人の入れ代わる際に出来る隙を上手い事補っている。
 相手に反撃のすきを与えない三人の連係は俺から見ても完璧だった。
 これが普通の相手なら、三人に圧倒され、討ち取られるしか無いだろう。


 しかし、この相手は普通ではなかった。


 ラルゴの全身を覆い尽くす焔が陽炎のように揺らめく。
 三人の攻撃はラルゴの身体に直撃する寸前で、すべて焔に弾き返された。

「……いったい、なんなんだ、ありゃ?」

 あまりにも常軌を逸した光景に、俺は戦闘中だと言うことも忘れ、目の前の光景に見入られたように立ち尽くしちまう。

「第五音素……確か、そう言っていたわね」

 ティアが呟きながら、大佐に視線を移す。
 それにジェイドが頷きを返し、高速で詠唱を始める。

 ぶつかり合う武器が火花を散らす。
 ガイとアニスが絶望的な攻防を繰り広げる中、大佐が二人に短く呼び掛ける。


「アニス、ガイっ!」


 小さく頷き返し、二人が大きく後方に飛び退くと同時に──大佐の詠唱が完成する。

「荒れ狂う流れよ──スプラッシュッ!」

 大地より噴き出した四本の水の柱が、荒れ狂う激流となり、ラルゴを押しつぶそうと迫る。

 ガイ達二人に気を取られていたラルゴは、意識の間隙をつかれた形となった。
 硬直した身体を動かすこともできず、譜術がラルゴに直撃──――

「――小賢しいわっ!」

 ラルゴが槍を片手で回転させ刺突の構えを取る。焔を巻き上げながら、槍は回転の勢いもそのままに、無造作に振り抜かれた。

 槍の穂先と譜術がぶつかり合い──空間が爆砕する。

 ジュウゥ…………────

 視界に蒸気が立ち込め、一瞬で蒸発した水と焔の激突に、発生した衝撃波が俺達を打つ。
 荒れ狂う熱風に一瞬瞳が閉じられ、再び開いた視界の先に映ったのは──――

 何事も無かったかのように、悠然と佇む、黒獅子の姿だった。


「……対となる属性に目をつけたのは、さすがと言っておこう。だが、その程度の水芸でやられてやるつもりは無いぞ?」

 コキコキと首を鳴らし、ラルゴは口元を吊り上げ──笑った。

 ゾッとする。

 あらゆる戦闘の狂気を是としながら、理性的に人を殺す術を磨き上げた〝怪物〟がそこに居た。


「今度はこちらから行かせて貰おうか──本気で行くぞっ!」


 ラルゴが槍を構え、大きく腰を落とす。
 ラルゴの周囲を渦巻く焔が、高まる闘気に引きずられるようにして、凄まじい勢いで燃え上がる。
 あまりにも圧倒的な熱量に耐えかねて、空間が膨張したかのように視界が揺らぐ。


「業火に飲まれろっ!」
「まずい──これはっ! 障壁を──」


 大佐の警告も虚しく、ラルゴの手に握られた槍が真紅の輝きに染まり上がる。


《──紅蓮》


 ラルゴの雄叫びが俺達の耳をうち、槍が、振り抜かれる。


《────旋・衝・嵐っ!!》




 紅蓮の焔が、すべてを喰らい尽くした。






                * * *




 朦朧とする意識の中で、俺はなんとか身体を引き起こす。

 って、ぐぉぉお……せ、背中がヤバイぐらい痛む。
 引きつったような痛みを絶え間なく訴える背中に、俺は両手をわななかせながらプルプルと全身を震わせる。

 こりゃ……ズタズタだな。まったく、しくったぜ。

 首を巡らせて見やった背中は、焔に炙られ見るも無残な状態だった。
 やっぱり、咄嗟に一番近くにいたティアとか、ミュウやコライガを庇っちまったせいだろうな。

 俺は腕の中で気絶している彼女と二匹の小動物達に視線を落とす。
 まあ、咄嗟の判断だっとは言え、ティアがなんとか無事なようだから、まだマシな状況だろう。
 そう楽観的な判断を下す。回復役がいなくなったら、もう本気でどうしょうもなくなるからな。

 腕の中で気絶しているティアと小動物二匹をそっと地面に横たえる。
 俺は現在の状況を判断しようと、周囲に視線を巡らせる。


 くっ……やっぱり、最悪な状況だな。


 咄嗟に障壁を張ったジェイド以外の皆が、それぞれ床に倒れ伏し、気絶しているのがわかった。
 この惨状を作り出したラルゴは、槍を振り抜いた体勢のまま、哄笑を上げている。


「ふはははっ! 凄まじい! 凄まじいぞ、この力はっ!! 残るはお前か、ネクロマンサーッ!!」


 叫びと共に、轟と唸りを上げる焔の渦が、ラルゴを中心に荒れ狂う。


「くっ……仕方ありません。こちらも本気で行きますよ!」


 ジェイドが其の手に握る槍に音素を集束させ、打ち掛かるラルゴの槍を弾き返す。
 打ち合う二人の武器が接触するたびに、衝撃と閃光が視界を染め上げる。
 ジェイドの握られた槍には第三音素が集束されているのか、ラルゴの槍とぶつかり合う度に、周囲に雷鳴が轟く。

 焔と雷の乱舞に、俺は息を飲んで目を奪われる。
 普段前衛は俺達に任せて、後衛に回りがちだったが……ジェイドのやつ、こんなに強かったのかよ。


「面白い! 奏器に抗するかっ! もっとだ! もっと俺を楽しませろっ! ネクロマンサーッ!!」
「あなたを楽しませるなど、御免被ります──ねっ!!」

 哄笑するラルゴに、ジェイドが苦々しげに答える。凄まじい速度で槍がぶつかり合う。


「……いったい、どうする?」

 ジェイドの様子を見る限り、あの状態を維持するのもそう長く続かなそうだ。
 何らかの策を打つ必要があるんだが……俺にできるのか?
 いつもは冷静に戦局を見据え、打開策を打ち出すのはジェイドの役目だった。
 しかし、今の大佐はラルゴの執拗な攻めを受け、それに対処するので手一杯だ。
 策を考えるような余裕はさすがに無いだろう。

 そして、残された俺も先程の喰らった攻撃のおかげで、瀕死の一歩手前の状態だ。
 こんな状況をひっくり返せるような策が、本当にあるっていうのか……?

「うっ……」

 目まぐるしく打開策を考え続けていると、意識を取り戻したティアが微かにうめき声を洩らした。

「ルーク? 戦況は、どうなってるの……?」
「気付いたか、ティア……」

 上体を起こす彼女に、俺はジェイドとラルゴの二人を指し示す。

 ジェイドが凄まじい速度で詠唱を詠み上げながら、槍をさばき続ける。
 紫電をまとった大佐の槍はラルゴの放つ焔になんとか対抗しているようだが、僅かに息を上がらせ始めた大佐に対して、ラルゴは一切疲労した様子も見せず、猛り狂う焔を操り、攻め続けている。

「……なんとかジェイドが対抗してるが、あのままじゃ、やばいだろうな」

 フォン・スロットに音素を取り込み、譜による制御を通して音素を操っているジェイドに対して、ラルゴのやつはなんとも呆れ果てたことに、ただ武器を振るうだけで焔を呼び起こしている。持久戦になったら、圧倒的量の音素を無尽蔵に行使するラルゴに対して、ジェイドに勝ち目は薄い。

 だが加勢しようにも、ガイもアニスもナタリアも、さっきの一撃で気絶しちまってる。まだ俺とティアが居ることには居るが、一撃でも攻撃が掠めればお陀仏しかねない状態だ。

「……ルーク、私に一つ考えがあるわ」

 厳しい顔で黙り込んだ俺に向けて、起き上がったティアが杖を構える。

「今から一つ試してみる。実戦で使うのは初めてだけど、成功すれば……」

 言葉の先を飲み込み、ティアが深く深く息を吸い込む。

 ──ヴァ──レィ──ズェ──トゥエ──ネゥ──

 美しい旋律が、周囲に響く。

 ティアを中心に淡い光を放つ音素が寄り集まり、譜陣が足元に展開される。

 ──トゥエ──リョ──トゥエ──クロァ──

 そして譜歌が完成した。

 ティアの足元に展開された譜陣が、急速に拡大し──戦場を駆け抜ける。

「これは……っ!」
「ぬっ……!?」

 ラルゴと大佐が目の前の光景に息を飲む。

 深緑の音素の光が、譜陣の駆け抜けた後を舞い上がる。幻想的な光景が広がる中、虚空に躍り出た音素が俺達の身体に吸い込まれて行く。

「力が……?」

 瀕死一歩手前にあったはずの身体に力が満ちる。いや、むしろこれは、普段よりも確実に身体能力が向上している……?

「壮麗たる天使の歌声……ホーリーソングと呼ばれる、第三譜歌の力よ」

 杖に寄り掛かったティアが、息を切らせながら小さくつぶやき、身体をよろめかせた。

「って、おいっ!? ……大丈夫か?」
「……少し、動けそうにないわ。ごめんなさい……私、情けないわね」
「いや、これだけでも十分過ぎるぐらいだぜ。後は俺達に任せて、休んでてくれ」

 安心しろと笑いかけると、ティアは小さく頷き、その場に膝を落として気絶した。

 まったく、無理しやがって……本当に、頭が下がるよ。

 だが、この機を絶対に無駄にはしねぇぜ!

 俺はラルゴに向き直り、剣を構える。深く腰を落とし、フォン・スロットに音素を取り込む。集束させた音素を刀身にまとわせ、気合を高める。

 しかし、まだだ。まだ、飛び掛かるな。まだ、俺は見い出せていない。

 視線の先で、焔が燃え盛る。ラルゴを中心に荒れ狂う焔の渦は、障壁としての役割も果たしているのか、大佐の振るう槍の一撃をすべて弾き返している。デタラメが過ぎるまでに凶悪な力だが──それも完璧ではない。

 向上した身体能力のためか、今の俺には視界の端に映る微細な火の粉に至るまで全てが、鮮明に見通せる。だから、今の俺なら〝それ〟を見抜くのことも可能なはずだ。

 ラルゴを覆う焔の渦に目を凝らせ。意識を集中させろ。僅かに、しかし確実に存在する焔の隙を見い出せ。

 ジェイドがラルゴの猛攻を前にして、ついに体勢を崩す。

「先程の譜陣が何を意味していたのかは知らんが──これで、終わりだぁっ!」

 ラルゴの槍が振り上げられる。槍の穂先に焔が集束し──全身を覆う焔が、僅かに勢いを弱める。

 ──今だっ!!

 俺は戦場を駆け抜ける。限界を超えた速度で疾走する俺の姿を、ラルゴは決して捉えられない。背中の傷が凄まじいまでの痛みを訴えるが、今はすべての痛覚を切り捨て、見い出した隙に集中する。

「──砕け散れっ!」

 一瞬でラルゴの背後に回り込む。相手に反応を許す間すら与えず──拳を放つ。

 《──絶破っ!》

 突き出された腕の先から放たれた凍気が、ラルゴの焔に喰らいつく。

 《────烈氷撃ぃっ!》

 撒き散らされる凍気と焔のぶつかり合いに──ラルゴの身体が吹き飛ばされた。戦闘が始まってから初めて受けた一撃に、ラルゴが自分でも信じられないのか、大きく目を見開くのがわかる。

「ジェイド!」

 俺の呼びかけの意味を察してか、ジェイドが小さく頷き返し、大きく後方に退く。厳かな声音が大佐の口から紡ぎ出され、これまで聞いた事も無いような複雑な詠唱が始まる。

 ジェイドの様子を確認するのはそこで打ち切り、俺はラルゴに向き直る。

「はっ、いつまで調子に乗るなよ、黒豚野郎がっ! 今度は、俺が相手になるぜっ!」

 啖呵を切る俺に向けて、呆然と膝をついていたラルゴが憤怒にその表情を歪める。

「貴様こそ調子に乗るなよ──小僧がっ!」

 焔がさらに勢いを増し燃え上がり、炎を帯びた槍が突き出された。
 俺は今にも腰が退けそうになる弱気を必死に捩じ伏せ、相手を静かに見据える。
 迫り来る槍を見据える。半身をずらし一歩を踏み込む。
 身体をラルゴの脇に捩じり込ませ剣を地面に突き立てる。

「凍り尽くせ!」

 耳元を掠める炎槍から、押し寄せる熱波を感じながら、俺は集束させた音素を──解き放つ。

《──守護》

 突きたてた剣を中心に展開された譜陣が、どこまでも澄みきった蒼一色に染まる。

《────氷槍陣!》

 譜陣を中心に荒れ狂う氷槍の乱舞に、ラルゴの全身が飲み込まれた。

「くっ……おのれ……っ!」

 ラルゴの全身を覆う焔に阻まれ、氷槍は後一歩という所で相手の身体に届かなかった。
 だが、俺の攻撃はこれでいい。すべてはこの後の布石にすぎない。

「ルークっ!」

 ジェイドが短く俺に呼び掛けた。

 これを待っていた! 俺は剣をその場に突き刺したままバックステップ、氷に阻まれ動けないラルゴを見据え、あばよと別れを告げるように、口元を吊り上げる。

「慈悲深き氷霊にて、清冽なる棺に眠れ──」

 ラルゴを中心に猛り狂っていた焔は、俺の一撃を受けた事でその勢いを大きく衰えさせている。
 おまけに、地面から突き出した氷槍に阻まれ、ラルゴは譜術を避けようにも避けられない。
 俺が時間を稼いでいた間、絶えず詠唱され続けていたジェイドの譜術が今こそ解き放たれる。

「──ブリジットコフィン!」

 冷気が、世界を支配する。

 ラルゴを中心に前後左右──あらゆる角度から生み出された氷刃がラルゴの身体を貫き通し、刃に射抜かれ動きを止めたラルゴに向けて、凍気を吹き荒れる。地面がビキビキと音を上げ凍り尽き、急激に霜が広がって行く。


「ぐぁあぁぁあっぁあぁ────…………っ!!」


 全てが終わったとき、視線の先には、四肢を貫かれた状態で凍りついたラルゴの氷像が残されていた。
 しばらくの間、俺達は相手がどんな動きを見せようとも対応できるよう身構え、警戒を続ける。

 額を流れ落ちる汗が地面に雫を作り、数分の時が流れる。


 相手に、もはや動きは無かった。


「ふぅ……やれやれ。いささか疲れましたねぇ」

 ジェイドがようやく警戒を解いて、安堵の息をつく。

「な、何とかなったか……はあ、今度はマジで死ぬかと思ったわぁ」

 ティアの譜歌の後押しが無かったら、正直どうなっていたかわからねぇな、こりゃ。
 全身を覆う疲労感に、俺はそのまま倒れ込みたくなる衝動を必死に堪え、周囲に倒れ伏している仲間達の姿を見やる。

「……なんか、ほぼ全滅に近いもんがあるよな」
「そうですねぇ。しかし、あの猛攻を受けて、一人も死んでいないのですから、私達の悪運も相当なものですよ」
「ま、確かに悪運だけは強いんだろーな」

 裏を返せば、そもそも強敵に遭遇しないですむような幸運に関しては、絶望的だって意味だがな。

 残された俺達は顔を見合せ、苦笑し合った。

「さて、そろそろ皆さんを起こしましょうか」

 ジェイドの声に頷き返し、俺達は重くなった身体を動かす。まだパッセージリングの操作があることを思い出しながら、やれやれと一歩踏み出した──そのときだ。


 ピシリッ────…………


 氷が、砕け散る。


「────舐ぁめるなぁっ!!」

 焔が噴き上がる。氷片が一瞬で蒸発する中、全身から淡い闘気の光を漂わせたラルゴが膨大なまでの音素をその手に握った槍から引きずり出すのがわかる。握られた槍が引き上げられ、その身に取り込まれた音素が──解放される。

「烈火ぁ──衝閃っ!!」

 爆発的な勢いで膨張した焔の塊が俺達を包み込む。油断しきって居た俺達に、その一撃を避けることなどできるはずもなく、俺とジェイドは全身を焔に包まれ、焼きつくされた。

「くっ……」

 ブスブスと全身から煙を立ち上らせ膝を着く俺達二人に、ラルゴがギロリと血走った眼を向ける。

「はぁはぁ……なかなか手こずらせてくれたな。だが、これで終わりだ……」

 槍が持ち上げられる。煌々と燃え上がる焔が俺達を焼き尽くさんとこれまで以上に猛り狂う。

「業火に飲まれろっ!!」

 思わず瞼を閉じる。

《──紅蓮!》

 目の前に迫り来る死の予感に拳を握り、俺は息を詰め衝撃に備える。




 衝撃は、来なかった。




 ……なぶるつもりなのか? 一瞬訝しむが、武人であるラルゴの性格を考える限りその可能性は低い。

 不審に思いながら顔を上げると、そこには槍を突き出した体勢で動きを止めたラルゴの姿があった。

 あれほど荒れ狂っていた焔は、すっかり消え失せている。

 状況が理解できない今、迂闊に動くこともできずに固まる俺達の目の前で、ラルゴが突然その場に崩れ落ちる。

「がはっ……っ!」

 ビシャリと、ラルゴの口から大量の血塊が吐き出された。

 同時に、ラルゴの手に握られた槍から大量の焔が生み出され──ラルゴの全身を包む。

「ぐぉおおおおおおおおおお────っ!!」

 焔に包まれたラルゴが絶叫する。先程までラルゴを守る盾の役割を果たしていた焔が、ラルゴに牙を剥いている。いったいなにが、起こっていやがる……?

「未だ……抵抗するか……っ! 意識の断片如きがぁ──ええぇい、静まれぃっ!!」

 槍が地面に突きたてられた。地面が大きく陥没し、叩きつけられた槍から吹き出る焔が消え失せる。

 ふぅふぅ……──

 ラルゴの荒く息をつく音だけが場に響く中、黒獅子が俺達に一瞥をくれる。

「不覚っ……あと少しという所で……」

 悔しげに呻くラルゴの手で、槍が鼓動を発する。

 ──この場は引くがいい、ラルゴ。やはり調律が必要なようだ──

 響いた声に、ラルゴは忌ま忌ましげに俺達を睨む。

「……承知しました、総長。〝道〟の解放を、願います」

 槍を掲げラルゴが虚空に呼び掛ける。紅い燐光を放ちながら槍が鼓動する。

 ──わかった──

 響いた声と同時、ラルゴの足元を中心に、複雑な譜陣が展開される。

「この場で拾った命、いずれ訪れる最後の時まで、せいぜい有効に使うのだな──……」

 一瞬、ラルゴの視線が倒れ伏したナタリアの方を向いたような気がしたが、それを確かめる間もなく、ラルゴの全身は光に飲み込まれ──この場から消え失せた。

「……今のは?」

 どこかで見た覚えのある現象に首を捻る俺に、大佐が眉をしかめながら答える。

「……おそらく、転送陣の一種でしょう。確かユリアシティに似たようなものがあったはずです」

 ああ、なるほど。確かに見覚えがあるはずだ。ユリアロードと似たような陣ってことか。

「しかし……なんつぅーか、なんでもありだな、連中。あれで奇襲されたら防ぎようがないぜ?」
「さて、ダアトやユリアシティにあるものも、原理が未だ解明しきれていないため、譜術として再現することが絶望視されているわけですが……現時点でも、一応転送する際に、最低限必要となるものはわかっていますからね。奇襲に関しては、あまり心配する必要はないでしょう」

「……何でそんな事が言い切れるんだ?」

「まず転送を媒介する道具が二つの地点に必要となります。そして、何よりこれが重要なのですが──転送先・転送元、双方の合意が必要なんですよ」

 あぁ……なるほどね。つまり、転送しようにも目印がなけりゃあ無理で、仮にあったとしてもこっちが合意しなければ無理だってことか。

「そいつは朗報だよな……ホント、唯一に等しいけどよ……」

 ラルゴの振るった力を思い起こし、俺は引きつった笑いを上げた。

「つつつっ、かぁ……全身がイテェ……」
「ええ、ま、私もさすがに、今回ばかりは限界ですね」

 肩を竦めてまだまだ余裕がありそうな大佐に呆れながら、俺はその場にドサリと腰を下ろす。

「しかし、いったい何なんだろうな、六神将の集めてる響奏器とか言ったか? 厄介な武器だぜ」

 集合意識体を使役するとか言ったか? まあ、あれだけの威力を見れば集めたくなるのもわかるがな。

 俺が内心で考えてることを読み取ってか、大佐が口を開く。

「ええ……集合意識体を利用して放たれる譜術はどれも威力の桁が違う。ラルゴの振るった力も、確かに驚異的なものでしたが……どうも少し引っかかるものを感じますね……」
「第五音素は……イフリートとか言ったか? やっぱ、ラルゴはそれを操ってたのかね?」

 第五音素の集合意識体の名前を口にする俺に、しかしジェイドは首を捻る。

「いえ……その可能性は低いでしょうね。イフリートを使役した割には、焔の威力が低過ぎる」

 ……えーと、今、大佐、なんて言いました?

「……俺の耳が腐ってるのかね。今、威力が低いとか言わなかったか?」
「ええ、言いましたとも」

 あっさりと頷く大佐に、俺は目尻から涙を滲ませながら叫ぶ。

「なんじゃそりゃ──!?」

 だって、そうだろ!? あんな一歩的に押されまくったのに、威力が低いってなんじゃそりゃ!?

 涙目になって叫ぶ俺に、ジェイドが苦笑を浮かべる。

「まあ落ち着いて下さい。あなたの気持ちもわかりますよ。ですが、これは事実です。私が覚えている限りでも……そう、集合意識体を使役して放たれた焔が、山一つ消し飛ばしたという話がありましたね」
「や、山一つって……マジかよ?」
「マジです」

 至極真面目に頷くジェイドに、今度こそ俺は言葉を失くす。

「集合意識体を戦争に用いることが、現代では国際協定で禁じられている所以です。まあ、そもそも使役に必要となる触媒事態、現代にはあまり残って居ないはずだったのですがね。まだまだ似たような話は幾らでもありますし、それらと比較して考えれば……やはり威力が低いと言う他ないでしょう」

 ぐっ……あれで、威力が低いのか。しかし、そうなると余計に理解できんことが増える。

「な、ならよ、ラルゴのあの武器の威力はなんだったんだ? マジでこんがらがって訳わからねぇぜ」

 意識体を使役せずにあの威力だってのか? それこそゾッとしねぇぞ。冷や汗を掻きながら頭を抱える俺に、ジェイドは何かを考え深げに沈黙して見せた。

「そうですね……確かに、ただ第五音素を集めたにしては、あの無尽蔵とも言える音素の量、譜も用いずに放たれる焔など一連の効果の説明がつきません。……意識の断片……か」

 小さくつぶやかれた最後の言葉に、俺は顔を上げてジェイドを見やる。しかし大佐はそれ以上続けるでも無く、被りを振って見せた。

「ともあれ、考えるべきことは多そうですが、とりあえず、今やるべきことは……」
「やるべきことは……?」
「ナタリアかティアを起こして、治癒をお願いしましょうか」
「……確かに、そりゃごもっとも」

 俺は周囲を見回す。

 死屍累々と言った感じで、目を回して気絶した仲間達の姿に、俺達はため息をつくのであった。

 ま、全員生き残れただけでも万々歳だけどな。




                * * *




 その後、ティアとナタリアを起こし、全員の治療を終えた俺達はパッセージリングに向かった。

 再生したばかりの皮膚が、時折引きつったような痛みを訴える。

「な、なんか、今の俺達って、全員ボロボロだよなぁ」
「ううっ……ラルゴも、もうちょっとぐらい手加減してくれてもいいのにぃ……」

 ガイとアニスが呻き、ぎくしゃくと身体を動かす。

「みゅうぅ……ラルゴさん、とっても怖かったですの」

 ブルブルと耳を震わせるミュウに、コライガが同意とばかりにうめき声を上げる。ミュウは随分とラルゴにぶるっちまってるようだ。まあ、一番重症だったのがミュウだったりしたから、当然かもしれないがな。

 コンガリといい匂い発していた、ついさっきのミュウの姿を思い浮かべる。

 それにしても……いい匂いだったなぁ。って、いかんいかん!

「ま、まあ、落ち着けって」

 口元に溢れた涎を拭いながら、俺はミュウの背中をポンポンと撫でた。

「しかし、ラルゴの奴が何かしたわりには、パッセージリングから流れる音素は停まっていないよな」

 シュレーの丘のパッセージリングは完全に動作を停止していた。それを思い返しながら、どういうことだと俺は首を捻る。

「確かにそうですわね。いったい、どういうことなのでしょう?」
「……さて。とりあえず、今はユリア式封咒の解除をお願いします。戦場の崩落が心配です。シュレーの丘と同期させて、先に降下を終えてしまいましょう」
「……あ、確かにそうだな。わかったぜ」

 杖を取り出したところで、ちょっと困る。杖を抱えたままパッセージリングに集中するのはやっぱキツイよなぁ……。

 動きを止めた俺の様子を見て、理由に気付いたティアが俺に声を掛ける。

「……杖を貸して、ルーク。私が解除するから、あなたは超振動の制御に集中して」
「今回もすまねぇな、ティア」

 いいのよ、とティアは頷き、杖を制御盤に突き付ける。同時にパッセージリング上に文字が浮かび上がり、パッセージリングの操作画面が起動する。

 制御盤に近づいた大佐が、いろいろと弄り回して確認を終える。

「ふむ、やはり特に暗号は施されていないようですね。いったい何を狙っているのか」

 ややこしいことです、と肩を竦めると、ついで俺に指示を下す。

「ルーク、では手始めに、光の真上に上向きの矢印を彫り込んで下さい」
「了解っと」

 意識を集中させて、空中の文字に干渉する。

 前回よりも俺の制御能力が向上しているのか、思ったよりもこなれてきた超振動制御で、それなりに円滑に作業を終える。

「よし、終わったぜ」
「では続いて降下指示を出して下さい。古代イスパニア語は……」
「へへへっ……俺が、使えると思うか?」
「まあ、でしょうね。それでは、今使っているフォニック言語でお願いします。文法構成もほぼ同じですから、大丈夫でしょう。……たぶん」
「そう言われるといろいろと不安が残るが……まあ、しゃーないか。そんで、なんて書くんだ?」
「ツリー上昇。速度三倍。固定」
「はいよっと」

 再び意識を集中させ、文字を刻み込む。呆気なく指示された作業が終わる。

「……これで、うまくいったのかね?」
「ええ……うまく行ったはずです。しかし……ん?」

 いろいろと確認していた大佐が、なにやら腕を組んで、顔を顰めてしまった。

「ん? どうしたんだ?」
「どうやら……このセフィロトツリーも既に危険な領域にあるようです」

 パッセージリングを見上げ、表示された文字を詠み上げる。

「ツリーの暴走と出ています……これは、今の段階で降下させて置いた方が良さそうだ」

 難しい顔になって呻く大佐に、俺達も仕方がないと大佐の提案を受け入れる。

「やっぱり、ラルゴのやつのせいなんかね……?」
「私達は間に合わなかったということね……」

 シュレーの丘の降下作業成功に沸いていた場が、一気に暗くなる。

「まあ、対処できるだけマシでしょう。どうせですから、シュレーの丘と同調させてしまいましょう。ルーク、まず第三セフィロトから第四セフィロトに線を延ばして下さい」
「そう考えるしかないか……線を延ばすっと」

 意識を集中し、線を刻み込む。

「後は第四セフィロトに先程と同じ命令を書き込んで下さい」
「第四セフィロトってのがここなんだよな? ほいさっと」
 
 線をつなぎ合わせると同時に、ずん、と振動がその場を襲う。ジリジリと何かがずり落ちるような音がそこら中から響きわたる中、大佐が小さくつぶやく。

「……こちらの降下も始まったようですね。念のため降下が終了するまでパッセージリングの傍で待機していましょうか」
「わかった……しかし、うまく行くといいけどなぁ」

 ジェイドの提案に、俺達は固唾を飲んで降下の行く末を見守るのであった。



 振動が響き続ける中、かなり時間が経った後で、ようやく振動が止む。



「……完全に降下したようです」

 短く状況を現した後で、ジェイドは続いてパッセージリングに視線を向ける。

「パッセージリングにも異常はない。どうやら、成功したようですね」

 やれやれと肩を竦めながら保証する大佐の言葉に、俺達の中から歓声が沸き起こる。

「大成功ですのー!」
「やりましたわね、ルーク」
「そうだな! ……しかし、ああ、どっと疲れた」

 やれやれと俺は肩を回す。ご苦労さんと、ガイが苦笑を浮かべ俺を労う。

「これで、泥の海に飲まれることもないはずです。しかし……」

 ほっと息をつく俺達の中で、一人大佐はなにやら考え込んでいる様子だ。

「どうしたんだ、大佐?」
「いえ……ラルゴの行動について考えていました」
「……というと?」
「以前から考えていたことですが、はたして六神将は外郭大地の崩落を狙いっているのか、という疑問です」

 降下を終えたパッセージリングを見上げながら、大佐は続ける。

「今回のセフィロト。これには暗号が仕掛けられていませんでした。ヴァンでなければ複雑な操作は不可能と言うことかもしれませんが……それなら、何故ヴァン自ら動かなかったのか? シュレーの丘には暗号まで施し操作を禁じていたいというのに……非常に気になるところですねぇ」

 肩を竦めるジェイドに、俺もむむっと眉間に皺を寄せて考える。

「ですが、大陸の崩落を兄が狙っていたことも、確かな事実です」

 ティアが苦しげに戦場の崩落を理由に否定する。それにジェイドも瞼を閉じ、静かに頷き返す。

「ええ。ですがそれに関しては、キムラスカとマルクト両国の軍備に打撃を与えることで、自分達が動き易くするためとも考えられます。まあ、実際の真意は彼らにしかわからないでしょうけどねぇ」

 さして自分の意見に拘るでもなく、大佐は肩を竦めて見せた。

「それに……あの資料に記されていた耐用年数……ひょっとすると崩落は……」

 小さくつぶやいた後で、大佐はその先に続く言葉を止めた。

「いえ、ひとまず外に出ましょう。ノエルとはケセドニアで合流することになっています」
「ま、そんじゃ、外に出ますか」

 俺達は大佐に促されるまま、外に向かうのだった。




                * * *




 ケセドニアに戻ったところ、やはりと言うべきか、街は混乱の坩堝にあった。これはさすがにまずいということになり、事実上ケセドニアの顔であるアスターと面会し、魔界に関するアレコレを伝え、住民の動揺を極力押さえてくれるようお願いした。

 まあ、いきなり魔界に落っこちたら、混乱するなって方が無理な話だろうけどさ。

「しかし、エンゲーブの避難がうまくいってよかったよな」

 ケセドニアで合流したノエルに、俺はお疲れさまと声をかけた。

「皆さんも御無事でなによりです」

 にっこり微笑みながら答えるノエルに、皆もエンゲーブの住民が無事避難できたことを喜ぶ。

 そんな俺達の中で、一人浮かない顔をしていたジェイドがノエルに声を掛ける。

「少し確認したいことがあるので、魔界の空を飛んでみたいのですが、よろしいですか?」
「もちろんです。アルビオールはこちらです」

 先導するノエルの後に続きながら、俺はジェイドの言葉の意味を考える。

 確認したいことがあるね……。

 それ以上説明する気は無いのか、ジェイドは沈黙を保っている。

「何かわかったんなら、そのうち俺らにも説明してくれよ、大佐さんよ」
「そうですよ! すっごい気になりますよ~」

 呼び掛けるガイとアニスの二人にも、ジェイドは眼鏡を押し上げ答えない。

「うぅ~大佐のいけず~」
「落ち込まないで下さい、アニス。大佐にも何か考えがあるということでしょう」
「うぅ~」

 不満そうに唸るアニスをナタリアが宥めている。

 ……やれやれ、いったい何を思いついたんだろうな。

 俺達はジェイドの考えに疑問を抱きながら、ひとまずアルビオールに乗り込んだ。


 飛び立ったアルビオールが大佐の指示で魔界の空を駆ける中、ぼけっと突っ立ち、ブリッジから外を見上げていた俺は、不意にその奇妙な現象に気がついた。

「うおっ! あのセフィロトツリーおかしくないか?」
「眩しくなったかと思ったら消えかかったり……。切れかけの音素灯みたい」

 見上げた先で、セフィロトツリーが不可解な動きを見せていた。点滅を繰り返し、今にも消え去りそうだ。

「やはり他のセフィロトも暴走していますか……」
「へ? やはりって、どういうことだ?」

 なにか予想できていたのか? 問いかける俺に、ジェイドは難しい顔になって答える。

「パッセージリングに限界が近づいているということは、ベルケンドで入手した資料にも記されていたことです。おそらくヴァン謡将達の行動で、ただでさえ限界だったパッセージリングの寿命が速まり、ツリーが機能不全に陥っているのでしょう」

 最近地震が多いのも崩落のせいだけではなかったんですね、と大佐が眼鏡を押し上げた。それにティアが目を見開き、告げられた言葉の意味するところを正確に捉える。

「待って下さい、それじゃ外殻大地はまさか……」
「他の大陸も、いずれ崩落する可能性が高いでしょうね」

 あっさりと答えた大佐に、アニスが驚愕の声を上げる。

「えっ!? それじゃあ、総長達の行動を阻止しても結局、崩落を止めることはできないってことですか!?」
「残念ですが……そうなりますねぇ」

 困ったものだと肩を竦める大佐に、俺達も事態の深刻さを悟る。

「げっ、マジかよ!? ……ユリアシティの奴らは、このことを知ってるのか?」
「お祖父様は、これ以上外殻は落ちないって言っていた……知らないんだわ」

 ティアの言葉通り、確かにセントビナー崩落の折も、預言に詠まれていない事象とは恐ろしいとか呟いていたしな。ほんとうに知らないんだろう。こりゃ、とんでもない事態になったな。

 そのとき、一人腕を組んで考え込んでいたガイが、大佐に確認する。

「……なあ。ケセドニアやルグニカ平野もセフィロトの力で液状化した大地の上に浮いてるんだよな? なら、パッセージリングが壊れたら……」
「泥の海に飲み込まれますね」

 最悪の未来図を断言するジェイドの言葉に、今度こそ俺達は押し黙る。

 しかし、本当に情報が無いのか?

「なあ、確かに預言にはセフィロトが暴走するとは詠まれてなかったかもしれないけどよ、暴走するにしろ、それには何か理由かあるはずだろ? なら、当時のパッセージリングを作ったヤツラが、こういう事態を想定して、なんか対処法とか残してるんじゃないか?」
「そうね……でも仮に残されているとしても、お祖父様じゃ閲覧できない機密情報じゃないかしら」

 また機密か。本当に、教団は秘密主義が徹底してるよな。

 頭を抱えてしまった俺達の中で、アニスが声を上げる。

「……イオン様なら」

 ポツリとつぶやかれたアニスの言葉に、皆の視線が集中する。

「イオン様なら……ユリアシティの最高機密を調べることが出来ると思う……」
「イオンが……?」

 確かにイオンなら……いけるか? 考え込む俺に、アニスが力強く頷き返す。

「うん。だって導師だし」
「なら、ダアトへ向かうしかないか。何か対処方法があるかもしれねぇ……それでいいよな?」

 俺の確認に、皆が頷きを返した

 こうして、俺達は慌ただしくダアトに向かうことが決定した。外郭大地へと戻るアルビオールの機体が激しく揺れ動く中、俺は一人自らの考えに沈んでいた。

 とうとう、ダアトに行くことになったか……。

 かつてなにも言わずバチカルを去ったおっさんの姿が、一瞬俺の脳裏を掠めて消えた。

 ……まったく、未練たらしいったら、ありゃしないよな。俺は額を押さえ、目を閉じる。

 今更おっさんに合わせる顔なんか無いって言うのに……俺は何を期待しているんだかね。

 自嘲の笑みを洩らし、俺は魔界に降下した大地を見下ろす。

 暗く沈んだ魔界の光景を視界に納めながら、俺はダアトの何処かに居るだろう相手のことを考える。

 もはや過ぎ去って久しい、かつての日々に、想いを馳せた。


/第二部目次/
  1. 2005/08/23(火) 15:42:04|
  2. 【家族ジャングル】  第四章
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