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──A.L.M──

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第4話 「避け得ぬ饗宴」


「――本当に、あれで引き下がってよかったのか?」

 バチカルに無数に存在する宿の一つ。

 ロビーに集まった俺達を前に、ガイが納得いかないと言葉を漏らす。

「1日間を置く事で、兵を伏せられたらどうする?」
「陛下の中でもう答えは出ているでしょう。認めるためには少しの後押しが必要であり、これはそのために作った猶予です。そう悪い結果にはならないでしょう」
「後押しか……そう上手く行くかね」

 どうでしょうねぇ、とあっさり肩を竦めるジェイドに、ガイは渋い顔で腕を組む。
 シェリダンを発った俺達が城を訪れてから、既にかなりの時間が経とうとしている。
 どこか落ち着かなげな皆の様子を見据えながら、俺は城でされた遣り取りを思い出す。




                * * *




 バチカルに戻った俺達を迎えたのは、やはり、到底好意的とは言い難い対応だった。

 伯父さんに面会したいと告げた俺達に向けて兵士達は――どこか躊躇いながらではあったが――武器を突きつけてきた。

 突きつけられる武器を前に、最終的にイオンが導師としての権威を用いて、強引に城の中に乗り込む事になった。

 そのまま伯父さんの居る部屋まで一直線に突き進み、部屋に続く扉を開け放つと、そこには伯父さんの他にも、どこか見覚えるの高官達の姿もあった。おそらく今回の事態にどう対応すべきか、会議を開いていたのだろう。

 どうして戻ってきたと憤る伯父さん達を前に、俺達は怯むこと無く、真っ向から和平の必要性を訴えた。だが戦場が崩落した件で、既にスコアが当てにならなくなりつつあると知りながら、それでも城の誰もが帝国と和平を結ぶことだけは、頑なに認めようとしなかった。

 いつまでも議論は平行線のまま続き、このまま同意は得られないのか思われたとき、状況を動かしたのは、ナタリアの漏らした一言だった。

 ――私を罪人と仰るなら、それもいいでしょう。ですが……

 ―─どうかこれ以上マルクトと争うのはおやめ下さい、お父様……いえ、陛下。

 ナタリアの決意を前に、伯父さんは言葉を無くし、何かを考え込むように額を押さえた。同時に状況の変化を見て取ったジェイドが間に入り、俺達の立てた計画や世界の状況をまとめた書状を捧げ渡すとともに、明日改めて場を設け、答えを出すことを提案した。

 ――これを読んだ上で明日、謁見の間にて改めて話をする。それでよいな?

 どこか憔悴しきった表情で告げられた伯父さんの言葉によって、全ては明日に持ち越されることが決定したのだった。




                * * *




 こうして城を出た俺達は、そのままバチカルの宿屋に身を落ち着け、明日が来るのを待っているという訳だ。

 明日の謁見がどうなるか、言葉を交わす俺達の中で、ガイがしきりに問いかける。

「ジェイドの言ってることはわかってるつもりだ。だが、それでもだ。それでも明日、インゴベルト陛下が強攻策に出てきたら……いったい、どうするつもりだ?」

 あくまで懸念を捨てきれないガイの言葉に、俺達も改めてそうした状況に陥った場合に考えを巡らせる。ガイの過去を考えれば、こうした反応も仕方の無い事だろうし、俺達の置かれた状況から見ても正しい判断だろう。

 だが、諦めるつもりは無い。

 真剣な表情で問いかけるガイの瞳を正面から見返し、俺もまた真剣に答える。

「それでも説得するさ。なんとしても、な」
「……陛下が、そう簡単に納得するかな」

 僅かに視線を逸らすガイに、ナタリアが立ち上がり宣言する。

「その時は私が城に残ってでも、説得します。この命をかけて……──」

 ナタリアの決意を前に、誰もが口を閉じる。

「愚かでしたわ、私。アクゼリュスや戦争の前線へ行き、苦しんでいる人々を助けることが私の仕事だと思っていました。でも……」

 それは違いましたのね、とナタリアはゆっくりと首を振る。

「お父様のお傍で、お父様が誤った道に進むのを諌める──それが、私の為すべき事だったのですわ」

 自らの過ちを認め、尚も前を向き、歩いていこうとするナタリアの決意に、ティアが優しい瞳を向ける。

「ナタリア。やっぱりあなたはこの国の王女なのね」
「そうありたい……と思いますわ。心から。私は、この国が大好きですから」

 深い想いの込められた言葉に、俺もどこか暖かい気持ちが湧き上がるのを感じながら、ナタリアを見据える。きっと伯父さんにも、ナタリアの思いは届いているだろう。

「ま、今は信じてみましょう。ランバルディア王家の器量をね」
「……そうだな。結局それ以外に無い、か」

 未だ完全に納得したとは言い難かったが、それでもガイもまた俺達の決断を尊重してくれた。

 それぞれ異なる想いを胸に抱きながら、それても俺達は全てを明日にかけ、いつになく長い夜を迎える。


 そして、誰もが寝静まった、深夜過ぎ……


 俺は一人宿を抜け出し、ある場所に向かっていた。

 夕食を取った際、食事を運んできた使用人が、俺に人知れず渡した一枚の紙片。

 そこには一人の差出人の名前とともに、メッセージが記されていた。


 ──闘技場で待つ


 差出人の名はファブレ公爵──かつて、俺がオヤジと呼んだ人の名が、其処には記されていた。

「……」

 俺は一人宿を抜け出し、闘技場へと向かう。無人の街路を進み行き、大仰な造りの門を潜り抜け、闘技場に足を踏み入れる。

 音素灯に照らし出される闘技場の中心から、低い声が掛かる。

「……来たか」
「ああ、来たぜ」

 大剣を地面に付きたて、オヤジは一人、そこに佇んでいた。

「真夜中とは言え、よくもまあ、ここを貸し切れたもんだな」
「……昔の伝手があったからな。それなりに腕のあるものに、ここのオーナーは寛大だ」
「なるほどね」

 無人の観客席を見渡しながら、当たり障りの無い言葉を交わす。

 だが、こうして無意味な会話をするために、ここまで来た訳ではない。

「……少し付き合ってもらおうか」
「ああ、こっちこそ望むところだぜ」

 大剣を軽々と片手で持ち上げると、オヤジが構えを取る。

 対峙する俺もまた、腰から剣を抜き放ち構える。

 愚直なまでのバカさ加減においては、俺に通じる所が多いファブレ公爵の考えが、俺には手に取るように理解できた。

 明日、伯父さんがどのような答えを出そうと、オヤジが俺を切り捨てた事実に変わりは無い。

 なら、オヤジは考えるはずだ。

 そう──自分もケジメをつけなければならないと。

 その為には、ファブレ公爵は陛下が答えを出す前に、俺と向き合わなければならない。

 国としての意向など関係無しに、自らの答えを出さなければならないと。

 だが、どう向き合ったら良いのかは、未だわからない。

 だから定まらない答えを見出すべく、どこまでもバカな俺達は──

『はぁぁぁぁぁ―――――――っ!!』

 ただ、ぶつかり合う事を選んだ。




                * * *




 オヤジの振るう剣は、豪快の一言に尽きる。

 途中に地面があろうがお構いなしに突き進み、障害物ごと抉り抜きながら大剣が薙ぎ払われる。振るわれる武器に殺気がこもっていないのはお互い様だが、一瞬でも気を抜けば、それだけで楽に死ねるぐらいの威力は込められていた。

 向けられた視線の先で、オヤジが大剣を振り上げる度に、苛烈な詰問を発する。

「何故だっ! 何故、今更バチカルに戻ったっ!」
「崩落した後まで戦争を続けられたら、堪ったもんじゃねぇからなっ!」

 怒涛のごとく押し寄せる大剣の乱舞を、俺はひたすら正面から受け流す。

「何故だっ! 何故、スコアに抗おうとするっ!」
「戦場は崩落したっ! 狂った予言に従う道理はねぇだろがぁっ!!」

 剣戟の合間を縫うように身を滑り込ませ、一歩一歩、間合いを詰める。

「何故だ! 何故だっ! 何故――お前を切り捨てた国のために、そうも動けるのだっ!」

 放たれた言葉に、俺は一瞬間を置いた後で、一息に答える。

「あんたが真剣にこの国に仕えてた事を、一番近くで見てた俺は知ってるからだよっ!」

 大剣が振り上げられた瞬間、俺は相手の懐に飛び込み、剣を振り上げる。

「そうだろ――――オヤジっ!!」

 俺が吼えると同時、一瞬、オヤジの動きが止まる。

 渾身の力を込めた一撃に、大剣が弾かれ、オヤジの身体が吹き飛ばされる。

「ぐっ……!」

 闘技場の壁面に身体を強かに打ちつけながら、オヤジがゆっくりと身体を起こす。肩で息をしながら、尚も冷め遣らぬ闘志を湛えた瞳が俺を睨み据える。

「……陛下は、お前達の申し出を受ける心算だろう」

 闘技場の壁に背を預けながら、オヤジは低く言葉を漏らす。

 だが、その瞳はどこまでも苛烈な感情が燃え上がり、振り上げられた腕が闘技場の壁を強かに打ちつける。

「この私に息子を切り捨てさせておいて……いざ自らの娘がその対象となったら、スコアを信用するなと諭されるや否や、踏みにじるだとっ!? ならば、私の覚悟はっ! かつて抱いた決意とはっ! いったい何だったと言うのだっ!!」

 オヤジは誰に対するでもなく――この世界その物に向けて、自らの憤りを吐き捨てる。

 初めて耳にする親父の胸の内に、俺は一度瞼を閉じた後で、改めて視線を合わせる。

「……さっきも言ったよな。スコアは狂っちまったんだよ。あんたが息子を切り捨ててまで成し遂げようとした、スコアに詠まれたキムラスカの繁栄はもう訪れねぇ。変わっちまった状況で、ぐだぐだと過ぎた事を抜かそうが何の意味もねぇだろうがっ!!」
「わかっているっ! そんな事は、わかっているのだっ!!」

 伯父さんと同じように、いや、それ以上にスコアから外れることを畏れるオヤジ。そこに込められた思いは、自らの為した決意が、何の意味も無かったと認めることに対する――底知れぬ恐怖だった。

 明日、叔父さんがマルクトとの和平を決めようが、俺がかつて切り捨てられた事実は消えない。それと同じように、切り捨てた側であるオヤジの負い目も、絶対に消えないのだろう。

 頭では理解できるが、感情は納得できない。今のオヤジの状態が、それだった。

 このまま伯父さんの決定で、無し崩し的に家に戻る事を許された所で、俺とオヤジは今までのような関係に戻ることは、決して出来ないだろう。

 オヤジの抱く憤りは、俺の抱く感情と同じものだから。このまま流されるまま、和解することなど許せないし、許すものかと自身を攻める。

 だから、俺はそんなオヤジに告げる。

「――なら、あんたが納得できるまで付き合ってやるよ」

 燃え上がるような深紅の長髪を見据えながら、俺は自らの思いの丈を言葉に込める。

「何を……?」
「俺はレプリカだろうが、切捨てられたルークだろうが、あんたの息子であることに違いはねぇんだ」

 積み重ねた七年という年月は短いものかもしれないが、それでも俺はここに居る。

「だから、俺が受け止めてやるよ。あんたの頑固に凝り固まった考えを、全てここで吐き出しちまえよ」

 剣を突き付け、一息に告げる。

「俺はあんたの息子の一人として、その馬鹿げた考えに凝り固まった頭を矯正してやるって言ってるんだよ――くそオヤジ」

 かつて屋敷で行なわれた喧嘩のように、乱雑な言葉でもって、俺はオヤジに啖呵を叩きつけた。

 オヤジはひたすら呆然と、俺の言葉を聴いていた。まるで耳に入る言葉が信じられないといった様子だ。惚けたように口を開き、剣を突きつける俺を見つめていたかと思えば、次の瞬間、あまりにも突拍子もない行動を取った。

 オヤジは――大声で笑い出したのだ。

 予想外の反応に、俺は大口開けてカカっと笑い声を上げるオヤジの顔を睨み据える。

「……あん? 何がおかしいよ?」
「くくっ……まさか、お前のようなチンピラに諭されるとはな。私としたことが、とんでもない恥を晒したものだと思ってな。思わず笑ってしまったよ」

 何とも癪に障る言葉だったが、しかしオヤジの瞳はどこか優しげな色を宿していた。

 地面に転がる大剣を拾い上げ、オヤジは再び構えを取る。

 そこには先ほどまで漂っていたような、どこまでも張り詰めた鬼気はすっかり抜け落ちている。

 大剣を肩の上に担ぎ上げながら、オヤジは不敵に告げる。

「お前から申し出たのだ。存分に付き合ってもらうぞ」
「へっ、言ってやがれ」

 互いに構えた剣を突きつけながら、俺とオヤジは笑う。

「行くぞ――バカ息子っ!」
「来やがれ――クソおやじっ!」

 吼えると同時、二人の間合いは一瞬で消失し――

 交錯した二つの影は、ほぼ同時に、地面に沈むのだった。




               * * *




 何処からか、鳥の鳴き声が耳に届く。

 チュンチュンとうるさい鳥の声に、俺は寝返りをうって耳を塞ぐ。だが、今度は鳴き声だけではなく、身体がゆすられているような感覚が俺を襲う。更には頬を舐めるざらついた舌の感触や、みゅうみゅうと周囲をぐるぐると回る生き物の鳴き声まで聞こえてくる。

「――い、ルーク! いい加減起きろよ」

 うっすらと開いた視界に映った金髪に、いつ俺は屋敷に帰ったんだっけか、と朦朧とした意識のまま口が勝手に開く。

「……んーガイか? 男に起こされるのは御免だって言ったよな? いつもみたいに他の可愛いメイドを呼んで優しく起こしてくれや。そんじゃ、おやすみー……」

 一方的に言い捨て、俺は再び眠りに落ちるのだった。ぐー。

 どこか遠い場所から、尚も話声は続く。

「ちょっ、ティア、何を!?」
「……お望み通りの起こし方をしてあげるのよ」
「いや、さすがにそれはまずいだろっ!?」
「……いいのよ」
「いや、よくないだろ! る、ルーク、早く起きろ!」
「みゅみゅ! ご、ご主人様、危ないですの!」

 うーん。うるさいなぁ……

 直ぐ耳元で交わされる騒々しいやり取りに、俺は寝ぼけ眼のまま上体を起き上がらせる。

 耳元を掠める轟音が、一瞬遅れで響く。

「…………」

 ギギギ、と錆び付いた歯車のように緩慢な動作で、俺は音源に視線を据える。

 起き上がる直前まで、俺の頭が在った位置に、メイスが振り下ろされていた。陥没した地面が、振り降ろされた一撃の本気具合を訴える。

「……目は覚めたみたいね」

 ダラダラと背中を滴り落ちる嫌な汗を感じながら、俺は訳もわからぬまま口を開く。

「あ、う、おはよう。……ええと、何で俺はこんな地面に寝てるんでしょうか?」

 確か昨日は……と必死に頭を働かせる。

 急激に意識が覚醒する。何よりも忘れてはならない用事を思い出す。

「――伯父さんとの謁見! って太陽は真上!? や、やばっ!?」

 身体を起こし、立ち上がりざま駆け出そうとした俺の背中に、あっさりと声が掛かる。

「謁見なら、もう終わったわ」
「今はナタリアと陛下が今後のことについて、二人で話し合ってるぞ」
「へ……?」

 未だ事態の掴めない俺に、ティアがもう一度わかりやすい言葉で説明する。

「インゴベルト陛下は帝国と和平を結ぶことに合意したのよ」
「同時に、ナタリアと陛下も無事和解したってことだな」

 しばらく硬直したまま、俺は告げられた言葉の意味を考える。

 えーと、ナタリアと伯父さんが二人で今後の事について話してて、謁見は既に終了。和平を結ぶことには同意してて、二人は和解した。

 ……つまり、俺って肝心なときに居なかったってことか?

「……俺って、いったい……」

 ズーンと膝を抱えて落ち込む俺を見据えながら、二人が呆れたように額を押さえる。

「公爵からお前を寝かしておいてくれって言われたんだよ。あんま気にするなって」
「あなたが闘技場に居ると教えて下さったのも、あなたのお父様よ」
「……そういうことかよ」

 二人の言葉に、俺もなんとなく事態がつかめてくる。

 つまり、一夜明けても目を覚まさない俺を見て、オヤジがお節介にも放っておけと、皆に告げたと。そのせいで俺が寝ぼけてる間に、あっさりと和解がなされたと。

「くっ……あのクソおやじめっ! ……ってか、オヤジはどうしてるんだ?」
「公爵は城だ。和平に向けた細々とした草案作りに議会を召集するとか言ってたぞ」

 答えながら、ガイが痛快と言った感じで俺の肩を叩く。

「公爵と正面からぶつかったんだって?」
「あー……まあな。俺もオヤジも頑固だからよ。何となくこういう事になった」

 最後に激突した瞬間を思い出す。

 互いに思いの限りを詰め込んだ、渾身の一撃だった。最終的にどっちも力を使い果たして、ぶっ倒れちまったってことだが、俺よりも先に意識を取り戻すとはね。さすがオヤジって事か? ……くっ、何か認めがたいもんを感じるぜ。

「ったく、服とかもボロボロだな」

 言葉に出来ない悔しさを感じて、八つ当たり気味に吐き捨てた俺の言葉に、ガイが両手をポンと叩く。

「あ、そうだ。公爵がこれをお前に渡してくれってさ」
「オヤジが俺に……?」

 かなり不審に思いながら、ガイから渡されたものを受け取る。

「これって……服か?」

 ガイから渡されたのは、一着のコートだった。目にも鮮やかなに深紅に染められた外套が、俺の腕の中でその存在を訴える。

「何でも昔公爵が闘技場で暴れ回って《ベルセルク》とか言う二つ名で呼ばれてたときに着てた服がそれだって話だ。お前に着て欲しいんだってよ」

 俺はガイの説明を耳にしながら、マジマジとコートを見据える。思い返してみると、そう言えばオヤジから直接ものを譲り受けたのは、これが始めてかもしれない。

「ふ、ふん。まったく、オヤジの奴め。し、仕方ねぇからもらってやるとするか」

 口元が自然ににやけてしまうのを必死に抑えながら、乱暴に外套を扱う俺を見据え、ガイが肩を竦める。

「素直じゃないな」
「……まったくね」

 俺は言葉に詰まって、あうあうと口を開けては閉じるを繰り返す。

「と、ところで、これからどうする予定になってんだ?」

 かなり強引な話題転換だったが、二人とも苦笑を浮かべながら答えてくれた。

「この後はマルクトに向かうことになってるわ」
「キムラスカが了承したんだ。あとはピオニー陛下に報告する番だってことだ」
「そっか。とうとう和平が……」

 現実味を帯び始めた和平成立に、俺も感慨深いものを感じる。

 思えば俺がイオンと合流してから、バチカルに向けて動いていた頃の目的も、和平の成立だったんだ。それが今になってようやく実現しようとしているんだ。多少は感慨に耽っても罰は当たらないよな?

「そろそろナタリアの話も終わる頃だな。行こうぜ、ルーク」
「ああ、わかった」

 闘技場の外に向けて歩き始めたガイの後に続きながら、俺はオヤジから譲り受けた深紅のコートをしばし見据える。

「どうしたの……?」

 不思議そうに問いかけるティアに、俺はどう言ったものかと考えながら口を開く。

「あー……なんだか、オヤジから貰ったって考えると、ちょっと照れくさくてな」
「ルークのお父様が、あなたに着て欲しいと思って渡したものよ。なにも恥ずかしいと思う事は無いわ」

 真摯な表情を向けるティアに、俺も改めて手の中にある外套に視線を落とす。

 少し躊躇った後で、俺はいつでも脱げるように、袖は通さぬまま外套を背中に羽織る事にする。風に煽られふわりと広がったコートが、ゆっくりと俺の背中に落ち着く。

「……似合ってると思うわ」
「へへっ。ありがとな」

 俺はティアの言葉に多少の気恥ずかしさを覚えながら、鼻の頭を掻いた。

 深紅の外套がファブレ家の赤毛と相まって、かなり鮮烈な印象を見る者に与えるだろう。オヤジから譲り受けたコートに、どこか暖かいものを感じながら、俺は闘技場を後にした。


 こうして俺達は故郷を取り戻し、和平を実現すべく、帝都グランコクマに向かう。

 一度は失われたかと思われた絆だったが、それでも俺達は再び手にする事が出来た。

 もちろん再び手に出来たとは言っても、かつてと全く同じものは戻らないだろう。

 だがそれでも、言葉を交わすこともせずに、逃げ出すようなことだけは二度としない。

 そう――信じられた。




                * * *




 グランコクマに着いた俺達は、大佐がピオニー陛下に面会する手続きを取り終えるまでの間、少し時間に猶予が出来た。

 折角帝都まで来たのだからと、そのまま無為に過ごすよりも、一時的に解散して街を観光することになった。

 それぞれが思い思いに街の散策に歩き出して行く中、俺はティアを呼び止める。

「ティア、ちょっと俺に付き合ってくれねぇか?」

 ぶしつけな俺の申し出に、最初ティアはどこか困惑した様子だった。しかし躊躇いがちではあったが、最終的に頷いてくれた。

「別にかまわないけど……」
「そっかそっか。それじゃ、ちょっと着いて来てくれ」

 怪訝そうに向けられるティアの視線を感じながら、彼女を引き連れ歩き出す。当然小動物二匹も一緒だったが、こればっかりは仕方ないと諦める。

 俺は無意味に街をぶらつくでもなく、明確な目的を持って、帝都に立ち並ぶ一軒の店を訪れる。

 カランカラン……

 いらっしゃいませ、と店内から声がかかる。

「いったいどうしたの、ルーク? この店に何があるの?」
「ん、もうちょっと待ってくれ」
「?」

 小首を傾げるティアを脇において、俺は店員の一人に尋ねる。少々お待ちくださいと言葉を残し、店の奥に引っ込んでいく店員を見送る。

 しばらくすると、店の奥の方から目的の人物が出てくるのが見える。

「お呼びでしょうか、お客様」
「少し前に、辻馬車の馭者からペンダントを買いとったそうだな。3カラットくらいのスターサファイアがはめこまれてる、かなりの値打ちもんなんだが……」
「ああ……あれですか。確かに私が以前買い取らせていただきました。大変いい仕事をしていました」
「あれを買い戻させてくれ。元々彼女のものなんでな」

 ルーク、とティアが驚きに目を見開く。

「あちらの品は少々お値段が張りまして、10万ガルドになりますが如何でしょうか?」
「構わない。持ってきてくれ」

 即座に応じる俺に、ティアが我に返って、猛然と声を上げる。

「ルーク、いいわ! 無理に買い戻さなくても……」
「あー……こっちは気にしないで、持ってきてくれ」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 さっさと商人は店の奥に引っ込んでいった。商売人としても、せっかく捕まえた上客を逃したくないってところだろうな。

「ルークどういうこと! 10万ガルドなんて大金……」
「そっちはあんま気にするな。バチカルに戻ったときに、昔闘技場で稼いだあぶく銭を回収しといたからな。だから金に関しては全然気にする必要はないぜ」

 本々降って沸いたような金だからな、と俺はおどけて見せた。

「で、でも、あれを渡したのは私だから、やっぱりルークが無理する必要は……」

 なおもティア渋っていたが、そうこうするうちに商人が戻ってきた。

「こちらの品でございますね?」
「ああ、これだ。んじゃ、精算よろしく」
「ご利用ありがとうございました」

 ホクホク顔で会計を済ませる商人の顔を複雑そうに見据えるティアに、俺は買い戻したペンダントを手渡す。

「ほら、大事なものだったんだろ?」
「でも……」
「いいっていって。俺が勝手に買い戻しただけだ。ほら、受け取ってくれよ」

 多少強引だったが、俺は彼女の手にペンダントを握らせる。少しの間躊躇っていたようだが、ティアも最終的に受け取ってくれた。

「……ありがとう、ルーク……本当に……良かった」

 胸にペンダントを抱きしめ、瞳を閉じて思いのこもった言葉を漏らす。

 しばらくティアが落ち着くのを待った後で、俺は少し躊躇いながら問いかける。

「……どういう謂れのあるものなのか、聞いてもいいか?」
「母の……形見なの」

 優しい表情でペンダントを見据えるティアに、俺は何てこったと額を押さえる。

「あーもうティア! お前、人良すぎ! 出会ったばっかのチンピラ送り届けるために、そんな大事なもん手放してどうするよ!!」
「で、でも、私が巻き込んでしまったから……」
「親の形見手放すまで思いつめなくてもいいだろうによ……まったく」

 あまりの生真面目さに呆れる俺に、ティアが不意打ちを放つ。

「でもルーク……本当にありがとう」

 ティアの笑顔を目にした瞬間、とんでもない勢いで頭に血が上るのを感じる。

「べ、別にそんな礼を言われるような事してねぇって。そ、それより俺はもう行くぜ!」

 あまりの笑顔の眩しさに、俺は耐え切れなくなって、ティアに背を向け慌てて退散する。

「ご主人様、照れてるですの! やっぱりご主人様は優しいですの!」
「……ええ、そうね。……ルーク……」

 だから、背後で交わされた二人の言葉が俺の耳に届くことは無く、ティアが最後に漏らした呟きもまた、誰に聞かれる事も無く、虚空に消えるのだった。




                * * *




 面会許可が下りたことを伝えてきた兵士に連れられるまま、俺達はピオニー陛下の私室に案内された。謁見の間じゃなかったのは、これが非公式な訪問だからだろう。

「――そうか。ようやくキムラスカが会談をする気になったか」

 ジェイドやナタリアから状況を改めて聞かされていた陛下が、感慨深げに頷く。

「ここはルグニカ平野戦の終戦会議という名目にしておくとしてだ。どこで会談する?」
「本来ならダアトなのでしょうが……」

 言葉を濁すイオンの後をジェイドが引き継ぎ、懸念を述べる。

「ダアトは六神将にとっても慣れ親しんだ場所。万一の場合を考えると、警備的な側面から、あまりお勧めできないでしょうね」

 確かにな。こうして和平が現実味を帯びてきたのだ。これまで動かなかったヴァンが腰をあげる可能性は打ち消せない。

 しばらくの間どうしたものかと考えているうちに、俺はふと思いつく。

「そうだ。ユリアシティはどうだ、ティア?」
「え、でも魔界よ? それでもいいの?」
「むしろ魔界の状況を知ってもらった方がいいだろ? 外殻降ろす先は魔界なんだしさ」

 俺の提案に、皆の間にも納得したような空気が流れる。

「……悪くないですね。では陛下、魔界の街へご足労いただきますよ」
「ケテルブルクに軟禁されてたことを考えりゃ、どこも天国だぜ。行ってやるよ」

 あっさりと放たれた言葉に、俺はなんとも聞きなれたフレーズを耳にする。

「軟禁?」
「ええ。陛下は皇位継承関係のゴタゴタで、軟禁されていた時期があったのです」
「はぁ……そういうのって、俺だけじゃなかったんだなぁ」

 思わずつぶやいた感想に、ピオニー陛下の瞳がキラリと光る。

「ほほう、お前さんもそうなのか、ルーク」
「ああ。行動範囲が限定されてるのって意外とキツイよなぁ」

 ゲンナリとかつての生活を思い出してぼやく俺に、ピオニーが楽しそうに相槌をうつ。

「お、話がわかるねぇ。最初のうちは本とか読んで退屈紛らわすこともできんだが」
「そのうち全部頭に内容入っちまって、新鮮味がなくなっちまうと」
「それで外に抜け出すことになるわけだな」
「そうそう。ホント……今じゃあれもある意味懐かしいぜ」
「だな……軟禁ライフの思い出は一生もんだからな」

 俺とピオニーは、かつて過ごした日々に思い馳せながら、遠くを見据えるのだった。

 次々と余人にはまるで共感を抱かせない話題を展開する二人を遠巻きに眺め、ジェイドが眼鏡を押し上げる。

「……まさか、これほどまでに陛下と気が合うとは思いませんでしたね」
「結構経歴とかも似てるもんがあるみたいだしなぁ」
「軟禁ライフって、共感を呼ぶものなの……?」
「キムラスカとマルクトの間に新たな架け橋が結ばれた……素晴らしい事ですわ」
「ええ。教団としても歓迎すべき事態ですね」
「……ちょーっと方向性がズレてる気がしますよ、ナタリア、イオン様も」

 何だか色々と言われてるような気がしないでもないが、俺は何も聞こえ無い。聞こえないったら聞こえない。

「それにしても、よくこれだけの武器集めたな」
「ははは。武器マニアだって評判聞きつけて、ご機嫌伺いに謙譲されたのが殆どだけどな」

 そうして意気投合する内に、話がピオニーの部屋に転がった無数の武器に飛ぶ。

「なんか欲しいのがあったら、一本やるぞ」
「お、気前がいいな」
「なぁに、かつて軟禁ライフ送った同志なんだ。気にするな」

 俺とピオニーは、今この瞬間、二人の間に篤い友情が結ばれるのを感じるのだった。

「い、いいのか、あれ?」
「……まあ、陛下が良いとおっしゃるなら、良いのでしょう」

 やれやれと肩を竦めるジェイドを尻目に、俺は壁に掛けられた大量の武器に近づく。どれを手に取ったものかと視線を彷徨わせると同時――奇妙な音が、鳴り響く。

「ん……?」
「……あの、何か音がしませんか?」
「ええ……これは音素の干渉音のようですが……」
「第一音素と第六音素の干渉ですの~」

 そうして話し合ってる間にも、音は止むことなく鳴り響き続ける。

 失礼、とジェイドが俺の前に立って、壁に掛けられた武器を検分する。

「どうやら、これが音源のようですね」

 床に並べられた武器の内、翼のような刀身をした一本の剣を拾い上げる。

「……どうやらルークの持つ闇の杖と反応しているようです。譜術封印で音素の動きを一時的に止めておきましょう」

 剣に向けてかざされた腕を中心に音素の光が放たれる。

 音が収まるのを確認すると、ジェイドがピオニーに視線を向ける。

「……陛下、この剣はいったい?」
「ああ。確かそれはマクガヴァンの爺さんが退役するときに残していったものだ」

 懐かしいなぁーと思い出にふけるピオニーを横目に、俺たちは緊張に身体を強張らせる。

 マクガヴァン元帥の持ってた武器だと……?

 俺たちの緊張を感じ取ってか、ピオニー陛下も少し表情を引き締めながら問いかける。

「様子が変だな。その剣には何かあるのか、ジェイド?」
「……おそらくこれは惑星譜術の触媒と呼ばれるものです。ヴァンの一味が収集しているもので、マクガヴァン邸はディストに襲撃され、家宝とされていた槍を奪われています」

 話の内容がかなり深刻なものだと悟ってか、ピオニーも考え深げに腕を組む。

「そうか……俺も少し軍に探らせておく。何か情報が入ったらお前の執務室に置かせる」
「助かります、陛下。……それとこの剣に関してですが」
「ああ持って行け。ルークに一本やる話の流れになってたからな、ちょうどいいだろう」
「感謝します」

 ジェイドとのやり取りが終わった後で、ピオニーが大きく伸びをしながら首を鳴らす。

「さてと。早速議会を召集して和平に関する事項を確認しておくとするか」

 議会の召集に向かうべく歩き出しながら、ピオニーが最後に俺達を振り返る。

「んじゃ、魔界で会おうぜ」

 またなーと気安く言葉を掛けながら、ピオニーは去っていた。

 何ともマルクトの皇帝も、意外と気さくで良い奴だったよな。

 うんうんと腕を組んで何度も首を頷かせる俺を横目に、ガイやジェイドがヒソヒソと言葉を交わす。

「……王族ってのは皆、ああなのかね?」
「……どうでしょうねぇ。どちらもかなり特殊な例ですから、私の口からは何とも」
「……アニスちゃんも、最近貴族って人たちに、ちょっと幻滅気味~」

 王族に関する性格傾向に疑問を抱く3人だったが、当然、答えが出るはずも無い。

 3人は王族皆変人疑惑に頭を悩ませ、小声で囁き合うのだった。




                * * *




 和平を明日に控え、俺達は一足先に魔界に沈んだ都市――ケセドニアを訪れていた。

 各国の代表をどう輸送するかについて、最初はユリアロードを考えていたが、最終的にはアルビオールを使うという結論に落ち着いた。輸送手段としてもアルビオールはかなりの速さを誇る上に、途中で上空から魔界の状態を確認して貰うこともできるという、一石二鳥の手段だったからだ。

 宿屋のロビーで交わされる話題も、明日の会談に関することが殆どだった。

 部屋の中央で話を交わす皆から少し離れた位置に腰掛け、俺は一人思考に沈んでいた。

 ピオニーから譲り受けた、翼のような形状をした剣――聖剣ロストセレスティを片手に握りながら、俺はもう一方の手にディストの落とした杖――刻まれた銘はケイオスハートというらしい――を握り、二つの武器を見比べていた。

 どちらも惑星譜術の触媒らしいってことだが、どうにも同じものだとは思えない。

 ケイオスハートは禍々しいぐらいの存在感を放ってるのだが、対するロストセレスティはあっさりとしたものだ。確かに音素を引き付けているのはわかるのだが、ケイオスハートと比べれば、あまり大したものだとは思えない。

 思えば、ヴァンの杖やラルゴの槍もそうだったが、俺の目にした惑星譜術の触媒は、どれも圧倒的な存在感を誇っていた。

 パッセージリングに突き刺される惑星譜術の触媒は、周囲から異常なまでの音素を引き寄せ、取り込み、ヴァンの告げた如く――喰らい尽くしていた。

 あれが何を意味しているかはわからないが、この存在感の違いにも、何らかの影響を及ぼしているのかもしれない。

「……触媒が気になりますか?」

 いつのまにか俺の傍らに佇んでいたジェイドが、触媒を見据えながら静かに問いかける。

「さすがに2本も手に入るとな。意識しない訳にも行かないだろ?」
「ええ……出来ることなら、今すぐにでもケテルブルクに向かい、触媒の研究を行なっていたという……今は亡き教団員の研究内容を確認するべきなのでしょうがね」

 どこか感情の伺わせない表情になって、ジェイドがどこか悔やむような言葉を漏らす。

「そりゃ仕方ないだろ?」

 まず崩落に対処しない事には、どうしようも無い。だが外郭大地を降下させるには、その前に和平を結ぶ必要がある。惑星譜術の触媒が気になるのは確かだが、そうした事柄を放り出してまで行くわけには行かないだろう。

「まあ、私もわかってはいるのですがね。それでも故郷には少し思う所があるので……」
「ふーん……ジェイドが自分の事を話すなんて、珍しいこともあったもんだな」
「……ええ。本当ですねぇ」

 苦笑を浮かべると、ジェイドは仕切りなおすようにメガネを押し上げる。一瞬流れた気まずい空気をごまかすように、俺は話題を変える。

「それにしても、崩落がこんな小さな武器が切欠で起きてるとは誰も思わねぇだろうな」
「六神将がパッセージリングに触媒をもって干渉する事で、結果として外郭大地の崩落が引き起こされているのは確実でしょう。スピノザが私達に渡した資料から考えるに、触媒を用いて地殻から記憶粒子を引き出す過程で、バイパスの役目を果たすパッセージリングに負荷が発生――動作不能に陥り、大地を支えきれなくなるのでしょうね」

 地殻からパッセージリングを介し、大量の記憶粒子を引き出す研究か。

「でもさ、今は既にパッセージリング自体に暴走が起こってるだろ? それなら、もう放っておいても外郭大地は崩落していく訳だ」
「まあ、そうなりますね」
「なら、何で六神将の奴らはイオンをさらって、ダアト式封呪を解かせたんだろうな? それって結局、まだパッセージリングに用があるって言ってるようなもんだろ?」

 六神将の不可解な行動に頭を捻る俺に、ジェイドが静かに頷き返す。

「外郭大地の崩落はスコアに詠まれている……ベルケンドでヴァン謡将の言っていた言葉です。私達の行動を放置したことからも、大地の崩落其の物はさして重要視していないのでしょうね」
「うーん……記憶粒子を引き出すのが目的なのか?」

 それで惑星譜術が復活させるとか? いや……だがダアトでトリトハイムの言っていた事から考えるに、確かに強力そうな譜術だとは思うが、そうまでして復活させる意味があるとは思えない。

「ローレライを消滅させて、スコアから人類を開放するってのが目的だってのはベルケンドで聞いたけどよ。結局どうやってそれをするつもりなのかわからねぇーんだよなぁ。惑星譜術が何か関係してるのか?」

 だが、仮に惑星譜術を使ってローレライを消滅させようとしているとしてもだ。そもそもローレライの存在自体が確認されていないのが現状だ。何処に居るかもわからないやつを、どうやって消滅させるつもりなんだろうな。

「だあ――っ! ……もう全然わからねぇーぜ」

 頭を掻き毟って叫ぶ俺に、ジェイドが意味深な言葉を漏らす。

「さて、どうでしょうね。しかし、仮に地殻への干渉、それ自体が何か意味を持っているとしたら……」
「したら……?」
「――ま、和平がなったら、もう少し情報が入るでしょう。今は明日に備えるのが重要ですねぇ」

 続く言葉を待つ俺からあっさり身体を離し、ジェイドは肩を竦めて見せた。

 って、そこまで言っといて、普通話を終わらせるかっ!?

「なんつぅーか……話が核心に近づくと、いつもそれだよな、ジェイドは」

 半眼になって見据える俺に、ジェイドがメガネを押し上げる。

「不確かな段階でいくら議論を重ねたところで、何の意味もありません。独善的な思い込みの上に立つ行為程、怖いものはありませんからねぇ」

 どこか自嘲するような言葉を残し、ジェイドは宿の部屋に引き上げていった。

「……訳わかんねぇーよ」

 ロビーに残された俺は小さくつぶやきながら、手にした武器に視線を戻す。

 ケイオスハートとロストセレスティ。
 ヴァンの奴らが集めている響奏器の一種。
 オールドラントの力を解放すると言われし惑星譜術の触媒。

「ローレライの消滅……か」

 ベルケンドでヴァンの告げた言葉を思い出しながら、俺は手にした武器を見据えた。


 長きに渡り闘争を繰り広げてきたキムラスカ・ランバルディア王国と、マルクト帝国の間に和平が結ばれる――そんな歴史的瞬間を明日に控えた日の事だった。



  1. 2005/07/25(月) 15:23:16|
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