全手動軽文量産機

──A.L.M──

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第5話 「鼓動、鳴り響き」


 タルタロスの舳先が波を切り裂き、悠然と海原を突き進む。

 和平の調印式から、既に数日が過ぎた。

 教団で結ばれた条約を機に、俺たちは正式に大地の降下作業を一任され、今も地殻振動停止のために動いている最中だ。

 今から五日程前、シェリダンに戻った俺たちは地殻振動停止のために改造されたタルタロスを渡され、アクゼリュスの崩落孔に向かう事になった。なんでも振動停止装置を取り付けられたこの戦艦を、崩落孔から地殻に突入させて沈める事で、振動停止が可能になるらしい。

 作業における問題としては、時間制限が設けられちまった点が挙げられるだろうな。

 作戦中に瘴気や星の圧力を防ぐため、タルタロスの周囲には譜術障壁が発動されるのだが、これには大変な負荷が掛かるので、130時間程で消滅してしまうらしい。

 地殻からの脱出に関しては、圧力を中和する音機関を取り付けたアルビオールで行われる。タルタロスの甲板には上昇気流を生み出す譜陣が描かれているので、これを補助出力にして飛び立つ訳だ。

 しかし、このアルビオールに搭載される圧力中和装置も、三時間程しか持たないという話だ。

 定められた地殻突入ポイントまで向かい、タルタロスを地殻に沈める。その後甲板に刻まれた譜陣を使いアルビオールで脱出する──これら全てを時間内に行う事が、俺たちには期待されている。なかなか厳しいもんがあるが、まあ、何とかなるだろうと俺は楽観視している。それよりも気になるのはやはり……

「……結局、何の妨害も入らなかったな」

 シェリダンを経った当初は、ヴァン達から何らかの妨害工作が入るかもしれないと、かなり警戒しながら進んでいたのだが、突入ポイントが近づいてきた今になっても、襲撃が行われるような気配は見え無い。

「そうですわね。本来なら歓迎すべき事態なのでしょうけど……」
「なーんか不気味だよね。最近の総長たち、コソコソと動き回ってるだけで、何してるかもよくわかんないし」
「ええ。今回の会談によって、ヴァン達はオラクルから正式に除名されました。しかしモースが言うには、同時にオラクルの半数以上が教団から離脱したそうです」

 暗い表情になって教団の現状を伝えるイオンに、俺たちを重苦しい沈黙が包む。

 ため息を一つ付いて、俺は甲板に視線を転じる。

 視線の先では会話に加わらなかった二人が、それぞれ離れた場所に一人立ち、海を見つめる姿があった。

「……」

 俺は二人に意味ある言葉を掛けられない自分の歯痒さに、拳を握る。




               * * *




 数日前のユリアシティにおいて、和平は型通りの会談の後、両国におけるこれまでの長い対立の歴史が嘘のように、あっさりと結ばれる運びとなった。

 両国の調印がすみ、これで和平が結ばれるという段階になって、突然ガイが声を上げた。

 ──同じような取り決めがホド戦争の直後にもあったよな。今度は守れるのか?

 突然のガイの言葉に、無礼なと高官達が声を荒らげる。それを手で制し伯父さんが口を開く。

 ──ホドの時とは違う。あれは預言による繁栄を我が国にもたらすため……

 ──そんなことの為にホドを消滅させたのかっ! あそこにはキムラスカ人もいたんだ……俺の母親みたいにな

 言葉を絞り出すようにして、ガイがその事実を突きつける。

 ──ユージェニー・セシル、あんたが和平の証としてホドのガルディオス伯爵家に嫁がせた人だ。忘れたとは言わせないぜ。

 言葉を返せなくなるインゴベルト陛下に代わって、オヤジが口を開く。

 ──ガイ、復讐の為に来たのなら、私を刺しなさい。ガルディオス伯爵夫人を手にかけたのは私だ。あの方が……マルクト攻略の手引きをしなかったのでな。

 拳を握りしめながら、ガイが顔を俯ける。

 ──母上はまだいい。何もかもご存知で嫁がれたのだから。だが、ホドを消滅させてまで、他の者を巻き込む必要があったのかっ!?

 突然始まった過去の詰問に、マルクト側の席からピオニーが呼びかける。

 ──仇というなら、こっちのほうかもしれないぞ、ガイラルディア・ガラン。ホドはキムラスカが消滅させた訳ではない。自滅した――いや、我々が消したのだ

 どういうことだと視線を向けるガイに、ピオニーは衝撃の事実を告げる。

 ──前皇帝――俺の父は、ホドごとキムラスカ軍を消滅させる決定をした

 当時、研究所として機能していたホド。そこにキムラスカが攻め込む計画を立てている事実を察したマルクトは、研究情報の引き上げが間に合わないと判断するや──ホドの崩落を決定した。

 これまでキムラスカ側の進攻が切っ掛けとなって崩落したものと思われていたが、それは真実では無かった。自らの属するマルクトに切り捨てられた結果として、ホドは崩落したのだ。

 ──当時、ホドで行われていたのは、フォミクリーを用いた超振動研究。崩落に際しては、当時被験者であった11才の子供を用いて、擬似超振動を発生させることで引き起こされたらしい。被験者の名は……ヴァンデスデルカ・ムスト・フォンデ。

 口にする事自体、罪深いとでも言うかのように、その名前は口に出された。

 そんな、とティアが言葉を無くし、ガイが驚愕に目を見開く。

 其の名が誰を指すのかわからず、二人の反応をいぶかしむ俺に、ピオニーが告げる。

 ───今で言う、ヴァン・グランツ謡将の本名だ。

 明かされた事実に、俺は今度こそ言葉を無くした。




               * * *



「………ホドが、ヴァン自身の手によって、崩落していたとはな」

 伝えられた事実をどう受け止めたらいいのか、俺にはわからなかった。

 自らの手で故郷を崩落させたヴァンが、自身のもたらした結果に何を感じ、世界に対してどのような感情を抱いたのか……俺にはどこか理解できるような気がした。

 アクゼリュスの崩落は、まるでかつてホドで行われた行為の再現だ。

 どちらも預言の後押しを受け、世界そのものが一つの流れに向けて動き導き出された当然の結果だった。手を下す者の意志など何処にも存在しないまま、俺たちは崩落を強制された。

「スコアから人類を解放する……か」

 思わず漏らした俺の言葉に、側に立つ皆が顔を伏せる。

 暗くなった皆の反応を紛らわすように、俺はかぶりを振って気分を切り換える。

「にしてもよ。ヴァンの奴はどうやってスコアから世界を解放しようって言うんだろうな?」
「………和平会談でも、今後のスコアの扱いに関して議題に上がりましたわね」
「ええ。和平を期に、スコアの扱い方に関しても考え直す機会が生まれましたから」

 ナタリアやイオンが言うように、和平会談の席において、スコア自体の扱いに関しても様々な規制が設けられた。今後は徐々に詠まれる機会を減らしていき、最終的にはスコアを放棄することになっている。

「ですが……ヴァン達の求めるものは、そうした事柄には無いのでしょうね」

 かつて自身が経験した崩落すら利用し、暗躍を続けるヴァン。奴のこれまでの行動から考えれば、ただスコアを詠まなくなればそれでいいと思うとは、到底思えなかった。

『──地殻の突入ポイントが見えてきました。皆さん、ブリッジに集まって下さい』

 艦内放送が響き、ジェイドが俺たちに呼びかける。

 俺たちが艦橋に向かうと、全員が揃ったのを確認するやジェイドが口を開く。

「ノエルは既にアルビオールで待機して貰っています。後は地殻に突入し、時間内に脱出するのみです。直ぐに地殻に突入を………」


 ──警報が鳴り響く。


「な、何だっ!?」

 突然の事態に目を白黒させる俺に、事態を把握したティアが視線も鋭く警告を発する。

「侵入者よ!」

 そう言えば、前にタルタロスが襲撃された際もこんな警報が鳴り響いていたっけな。

 随分昔のことのように感じる襲撃事件を思い返す俺の横で、ジェイドがやれやれと首を振る。

「仕方ありません。地核突入後、撃退するしかないでしょうね」
「それでなくても時間が限られていますのに………」

 憤るように頬を紅潮させるナタリアを、まあまあと宥めると、ジェイドが操縦桿を握る。

「──では、地殻に突入します。皆さん、席について下さい」

 俺たちが慌ててシートに身を落ち着けると同時、活性化した障壁がタルタロスの周囲を包む。

 煌々と光を発する譜陣に運ばれるようにして、タルタロスは大瀑布と化したアクゼリュス崩落孔に進む。艦内を間断なく衝撃が襲う。前部モニターに泥の海が大きく映し出され、今にもぶつかるというとき───

 タルタロスは泥の海を突き抜け、地殻に突入した。

 モニターに焼きつくような光が走る。奇妙な石版のようなものが一瞬モニターに浮かび上がったかと思えば、すぐに安定を取り戻した画面に、地殻内部の様子が映し出される。

 奇妙な空間だった。

 周囲を漂うのは溶岩のマグマなどではなく、極小の音素のようなものが蛍のように寄り集まって、淡い光を放っている。

 地殻を進むタルタロスのモニターを呆然と見据えながら、俺達はようやく言葉を絞り出す。

「………着いた、のか?」
「そのようです」

 成功に安堵する俺たちを余所に、一人ガイが顎を抑え、何やら考え込んでいるようだ。

「さっき一瞬見えたあれは………」
「どうかしましたの? 確かに地核に飛び込む直前、何かが光ったみたいでしたけれど」

「………ホドでガキの頃に見た覚えがあるんだ。確かあれは───」
「詮索は後です。こちらは準備が終わりました。急いで脱出しましょう」

 ジェイドの促しに従って、ガイがあいよと返事。俺たちは甲板に向かう。

 突入前に響いた警報から、侵入者を警戒しながら甲板に出る。展開される譜陣に包まれたタルタロス周囲に展開される地殻の様子に一瞬息を飲むが、直ぐに我に返り、俺たちはアルビオールに向かう。

 だが数歩進んだところで、アニスがある事実に気づく。

「あれ……? イエモンさんたちが言ってた譜陣がなくなってるよ?」
「何だって……!?」

 慌てて甲板の一角に視線を向ける。アニスの言うように、そこに描かれていたはずの譜陣が消えている。僅かに譜陣の名残のようなものが薄い光を発しているが、これでは刻まれた効果が発動することは有り得ない。

 動揺する俺たちに、その声は届いた。

「──ここにあった譜陣なら、僕が消してやったよ」

 艦の上部デッキから甲板に降り立つ影。ゆっくりと振り返る相手の顔は、仮面に覆い隠されている。

「烈風のシンク……!」
「侵入者は、お前だったのか」

 六神将の登場に身構える俺たちに、シンクが嘲るような笑みを浮かべる。

「そんな悠長に構えてていいのかな? 譜陣を書き直すにしても時間はあまり無いんじゃないの?」

 言葉に詰まる俺たちに、シンクはこちらの殺気を宥めるようにゆっくりと言葉を続ける。

「今回は別に戦闘を仕掛けに来た訳じゃないんだ。目的のものを引き渡してくれるなら、直ぐにでも引き上げようじゃないか」
「目的のものだと……?」
「マルクトの皇城から持ち出した剣を、こっちに渡してもらおうか」

 ──惑星譜術の触媒、聖剣ロストセレスティ。

「最後の奏器候補だ。僕らとしても、皇帝の寝室にあるものをどう入手したものか、手を出しあぐねていた所だったからね。それをあんた達がわざわざ外に持ち出してくれたんだ。感謝してもいいぐらいだ」

 考える時間はあまり無いよ、と選択を突きつけるシンク。相手の言葉に少し引っ掛かりを覚えないでもないが、今はそうした疑問を押しとどめ、俺は相手の突きつけた選択の矛盾を指摘する。

「……いいのかよ、時間が経って、逃げ場が無くなるのはお前も一緒だろ?」
「さぁ、どうだろうね?」

 余裕そうに受け流すシンクに、ザオ遺跡で見せたラルゴが転送される姿が思い出される。

「ちっ……転送か」

 俺の言葉に、ジェイド以外の皆が怪訝そうな顔になる。

「どういうことです……?」
「……以前ザオ遺跡で襲撃しかけてきたラルゴは、退却する際に転送陣と思しきもの用いて離脱しました。おそらくは今回の襲撃も、いつでも退却できると判断した上で行われたものなのでしょうね」

 ジェイドの推測を証明するように、シンクが仮面の下で口端を引き上げる。

「で、どうするんだい?」

 俺は皆に視線を巡らし──その事実を確認する。何も問わずにただ頷き返す皆に従って、俺は一歩前に出る。事態を察したイオンが小動物二匹を引き連れ甲板の入り口まで後退していく。

 俺はシンクに顔を戻し、腰から引き抜いた剣を突きつける。

「時間が問題だって話だが──そもそもお前を即行で倒せば、何の問題も無い話だよな?」
「ふん。そう言うと思ったよ」

 手を覆うグローブを引き締めながら、シンクが身構える。

 応じるように陣形を組む俺たちから視線を外し、シンクが口を開く。

「だから僕は言っただろ? 少し痛めつけてやらないと、こいつらはわからないってさ」

 誰かに呼びかけるように、シンクが首を巡らせる。

「──そのようだな」

 シンクの背後から、その声は響いた。一瞬にして甲板に降り立った人物が、硬い表情を向ける。後ろで括られた金髪が揺れ、意志の強さを伺わせる瞳が俺たちの中の一人を映す。

「リグレット教官!?」
「いつまでそのような連中と行動を共にするというのだ、ティア。和平会談に立ち会ったというなら、お前も知ったはず」

 ホド崩落の真実。預言を政争に利用し、権力を行使する国家の上層部。

「──それでもこの世界に救うに値するような価値が存在すると、本気で思っているのか?」
「………確かに、兄の言っていた通りでした。預言に踊らされ、預言を私利私欲に利用する為政者達………」

 自らの知った事実に顔を俯けるティアに、リグレットが促すように手を突き出す。

「なら、こちらに来なさい。総長はおまえと、もう一人のホドの生き残り……そして、協力するというなら、其処のレプリカすら迎え入れる用意があると言っている」

 露骨に嫌悪の滲み出た視線を俺に向けるリグレットに、俺は苛立ちを覚える。だがまずはティアの応えを待つのが筋だろうと自分を抑える。

「………何度でも言います。私は行けません」

 リグレットを正面から見つめ返し、ティアは毅然と言葉を紡ぐ。

「スコアから人類を解放するというなら、教団にスコアを詠ませなくすればいい。崩落を引き起し、世界を混乱に導いてまで、居るどうかも定かではないローレライに拘る理由が……私には、どうしてもわかりません」

 未だ判明しないヴァン達の行動理由の不可解さを正確に指摘するティアに、リグレットがゆっくりと首を左右に振る。

「……それでは駄目だ。スコアが詠まれなくなった所で、それはスコアの内容が知覚できなくなるだけに過ぎない。スコアから受ける影響は残り、この世界は続いて行くだろう」

 地殻に遮られた空を見上げながら、リグレットがどこか畏怖するように小さな声音で呟く。

「観測者の見い出せし流れのまま、いつまでも……」
「──リグレット、お喋りは其処までだ」

 シンクの制止に、リグレットがはっと我に返ったように、僅かに目を開く。

「そうだな。……ティア、今はまだお前の返答は保留しておこう」

 リグレットが背中に手を伸ばし、何かを取り出す。

 引き抜かれたのは奇妙な形状をした武器だった。いや、俺にも譜銃であることはわかる。わかるのだが、それはあまりに異様だった。

 まず銃身から上下に翼のようなものが伸び、生き物がその身を捩るようにして時折揺れ動く。遠見には一見弓のようにも見える形状をしており、そう見た場合、矢を番える部分に当たるだろう箇所に銃身が組み込まれている。

 そして何よりも、其の武器が放つ存在感に、俺は覚えが在った。

「でも覚えておきなさい。総長の敵になるというなら、私はそれを殲滅するのみ……」

 リグレットが銃身を片手で持ち上げ、俺たちに突きつける。


 凍気が、世界を染め上げる。


 甲板を異様なまでの冷気が包み込み、リグレットを中心に甲板を霜が走る。手に握られた譜銃は蒼一色に染まり上がる。空間に浮かぶダイヤモンドダストがリグレットの金髪を彩り、豪華絢爛な輝きを放つ。

「第四奏器──《水弓》ケルクアトールの力の前に、ひれ伏しなさい」

 冷えきった眼差しに宿る色は、ただ目の前に立ちふさがる敵を見据える無機質なものだ。

 触媒武器かっ!

 リグレットから大きく距離を離し、俺たちは大仰なまでの警戒を露にする。そんな俺たちの様子を冷然と見据え、リグレットが引き金を引き絞る。

「その身に受けろ──アイシクルレイン!」

 銃身を中心にして無数の氷柱が虚空に形成される。鋭利な先端が俺たちの方向を向いたかと思えば───刹那の間も置かず、降り注ぐ。無慈悲な氷の銃弾は着弾と同時に、周囲に無数の氷片をまき散らす。散弾のごとき無数の飛礫が、俺たちの身体を貫かんと迫り来る。

「ちっ……──冗談っ!」

 刀身に音素を収束、解き放つ。

 ───魔王絶炎煌!

 振り抜かれた剣を中心に焔が巻き起こる。集束された第五音素が放つ熱気が微細な飛礫を蒸発させる。更なる銃撃を警戒しながら身構える俺の腕に、何かが触れた。

 天地が逆転する。

 訳もわからぬまま、俺は宙を舞っていた。投げ飛ばされたのか、そう認識した瞬間、視界の端に移ったのは深緑の髪と無機質な仮面。

「僕を忘れてもらっちゃ困るね」
「ルークっ! ──このっ!!」

 ガイがシンクに斬りかかるが、相手は易々と身を翻す。ついでアニスも譜術人形を動かし拳を放つが、相手の速度について行けずに、攻撃は虚しく空を打つ。

 後方に飛ばされながら俺は受け身を取って地面に着地する。戦場を全体が視界に映る。シンクが俺たちの陣形に大きく踏み込み、後衛が術を放つのを妨害し、攪乱しているのが見える。

 ついて後方に立つリグレットに視線を転じ、俺はそれに気づく。

「くっ───っ!」

 後方でリグレットが俺に向けて銃口を構えていた。前後に大きく両足を開き、衝撃を受け流すような態勢を取っている。膨大な量の音素が引きずり出され、銃身に収束される。

「凍り尽くせ……」

 鷹のような眼光が俺の全身を射抜く。

「─────ブリジットソロゥ」

 雹雪の嵐が吹き荒れる。放たれた凍てつく空気の塊が直線上に突き進む。途中に存在するあらゆるものを凍り尽くし粉砕しながら、無形の弾丸は戦場を蹂躙する。

「させませんっ! ブラストエッジっ!」

 燃え上がる軌跡を描きながら、焔の矢が真横から凍気の塊を穿つ。だが……

「そんなっ!?」

 一瞬にして凍り尽いた矢が後方に残される。突き進む凍気の弾丸は、僅かにその勢いを衰えさせたようにも見えるが、それでも俺が回避するような間隔は無い。

 一切の反応を許されぬまま、俺の全身は凍気に貫かれた。

「ぐっぁぁぁぁあぁぁあ────っ…………っ……」

 意図せぬ絶叫が俺の口から上がる。焼け付くような凍気が全身を駆け巡る。俺は全身に音素を張り巡らせ、必死に耐える。障壁とやらを張るような事はできないが、気を巡らせて一時的に耐久力を上げるぐらいの事は俺にもできる。しかし僅かな隙間に染み込むように浸透する冷気が俺の体力を急激に奪っていく。

「………ぐっ」

 永遠にも思える凍結地獄が終わる。俺は消耗しきった身体をふらつかせ、その場に崩れ落ちた。

『ルークっ!』

 皆の意識が俺に向く、回復術を掛けようとティアやナタリアが意識を集中する。だが術を放つ瞬間の隙をリグレットが正確に狙い打ち、術の完成を妨げる。

 シンクが動けない俺の傍らに立ち、腰に吊るした聖剣ロストセレスティを奪い取る。

「奏器は回収したよ、リグレット」
「………呆気ないものだな。所詮、劣化レプリカに過ぎないということか」

 リグレットのつぶやきが、妙に鮮明なものとなって、俺の耳に届く。

「その言葉、取り消して!!」

 ティアがキッとまなじりをつり上げ、リグレットを射抜く。だがそれにも魔弾は動じない。

「ティア、お前もいい加減に目を覚ましなさい。奏器行使者に対抗する術などありはしない。私はまだカケラ程の本気も出していない。今、その証拠を見せよう」

 前髪を後ろに流すような動作の後、リグレットが銃身を天に向ける。

 大気が荒れ狂う。

 圧倒的なまでの量の音素が、リグレットの下に急激な収束を始め、凍気をはらんだ風が生み出される。

「……!?」

 あまりに膨大な音素の量に、ティアが絶句する。そんな彼女の反応を瞳に映しながら、リグレットは銃口を前方に戻す。向けられた先には、倒れ伏す俺の姿があった。

「氷雪の欠片よ、敵を穿て………───」

 凍り付いた空気中の水分子がダイヤモンドダストの輝きを放つ。

 くっ……ここまで、なのか………? 俺の中に絶望が過る。凍傷に覆われた身体はピクリとも反応しない。避けることも抗うことも出来ぬまま、全てに終わりがもたらされようとした、そのとき───

「さぁせるかっ! 気高き紅蓮の炎よっ!!」

 ガイが吠える。刀身に納められた剣が生身においては限界に近いまでの音素を収束する。全身から淡い闘気の光を立ち上らせながら、ガイがリグレットに突進する。

《燃え尽くせ──》

 全身から焔を立ち上らせるガイを一瞥すると、リグレットが銃口をガイに移す。

《終わりだ───》

 どこか幻想的な光の乱舞の中心に立ちながら、魔弾は終焉を告げる。

《────プリズムバレット!》

 ガイが紅蓮の焔をその身にまといながら地を蹴り、刀身を振り上げる。

《──────鳳凰天翔駆っ!》

 紅と蒼の膨大な力の奔流が激突する。視界を凄まじいまでの閃光が貫き、放たれる力の余波に、タルタロスが激しく揺れ動く。魔弾の放った銃撃の威力は尋常じゃなかったが、それにガイの一撃が拮抗している。このまま行けばガイが押し切ることもできるかもしれない。そんな期待が一瞬頭を過り、固唾を飲んで見守る俺たちの視線の先で──

 あまりにも呆気なく、均衡は崩れさった。

 紅蓮の焔は、無慈悲な蒼の奔流の前に、一瞬にして塗りつぶされる。

 遥か頭上から、焔の残滓が無数の氷の結晶となって降り注ぎ、地面に当たって砕け散る。

 ────ボトリ………

 まるでゴミ屑のようにボロボロに擦り切れた何かが、ひどく軽い音を立てて地面に堕ちる。

「………ガ、イ………?」

 地に堕ちたガイの身体はピクリとも動かない。

 俺はただ呆然とあいつを見据え続ける。

「……自己犠牲の精神か? だが、それも無駄な行いに過ぎなかったようだな」
「やりすぎだよリグレット。ヴァンからこいつらを殺せって指示は特に受けて無いんだろ?」
「……そうだったな。すまない。少し精神を引きずられたようだ」
「まあ、それなりに立場のある連中は残ってるようだし、問題無いとは思うけどね」

 交わされる言葉も、どこか遠くから聞こえる。

「──でも、こいつはもう駄目かな?」

 全身を霜に覆い尽くされ、ピクリとも動かないガイの身体を、シンクが爪先で蹴り飛ばす。


 ドクンッ──


 耳に煩いほど打ち鳴らされる心音に混じって、〝ソレ〟は鼓動を刻み始める。

 今や担い手の志向は一色に染まり、属性の同調は果たされた。

 すべての条件が此処に揃い──


 ───闇は、目覚めの刻を迎えた。



  1. 2005/07/23(土) 15:25:41|
  2. 【家族ジャングル】  第五章
  3. | コメント:0

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